「アルプススタンドのはしの方」は、2020年の城定秀夫監督作品。
野球部の夏の地区大会に応援に来た野球を知らない演劇部員と野球を辞めた男子、いつも1人でいる成績優秀女子が、アルプススタンドのはしの方で繰り広げられる地味な青春。
野球をしているのに野球部員の姿を全く映さないのでシュールな印象を受けるのだけれど、展開が進むにつれて青春要素が爆発し、いつの間にか手に汗握る熱い展開が繰り広げられる青春ドラマだった。
大人になるにつれて「しょうがない」とか「あきらめる」をどんどん受け入れてしまいがちだけど、「本当にそれでいいの?」という言葉が胸をつきさしてくる。
この映画では高校生の設定だけれど、大人であっても遅くない。何かに心当たりがある人は一度観て欲しい。
総合評価
80
アルプススタンドのはしの方
4.0
Filmarks
3.9
映画.com
4.1
Yahoo映画
3.5
カラクリシネマ
–
Rotten tomatoes
–
IMDb
- コロナ渦での状況に対するアンサー映画
- 「しょうがない」で諦めてる自分の人生にエールをもらった気がした
- スタンドのすみだけで映画一本出来ちゃうのがすごい
- 伏線の張り方がうまいだけ
- 青春ものはあまり楽しめない
「アルプススタンドのはしの方」映画情報
タイトル | アルプススタンドのはしの方 |
公開年 | 2020.7.31 |
上映時間 | 75分 |
ジャンル | 青春 |
主要キャスト | 小野莉奈 平井亜門 |
監督 | 城定秀夫 |
「アルプススタンドのはしの方」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
安田あすは -演劇部 | 小野莉奈 |
藤野富士夫 -元野球部 | 平井亜門 |
田宮ひかる -演劇部 | 西本まりん |
宮下恵 -秀才 | 中村守里 |
久住智香 -吹奏楽部部長 | 黒木ひかり |
厚木先生 -茶道部顧問 | 目次立樹 |
「アルプススタンドのはしの方」あらすじ
高校野球の応援に来ているがルールも知らない2人の演劇部員・安田と田宮。そこに遅れてやってきた元野球部・藤野。そしてぽつんと一人、帰宅部の成績優秀女子・宮下。安田と田宮は、訳あってお互い妙に気を遣っている。宮下は、吹奏楽部部長に成績で学年一位の座を明け渡してしまったばかりだ。時折やって来てはひたすら応援で声を出せという英語教師の厚木先生に3人が辟易としている。やがて、それぞれの想いを抱えたまま、格上チーム相手で戦況不利な野球の試合が終盤に1点を争うスリリングな展開へと突入してゆくが…。
filmarks
「アルプススタンドのはしの方」予告
「アルプススタンドのはしの方」ネタバレ感想・解説
運動部に感じる劣等感
「アルプススタンドのはしの方」では、演劇部の安田と田宮、元野球部の藤野、成績優秀者の宮下が主軸となり話が展開していく。そこに熱血の厚木先生、吹奏楽部の久住や、一切映さない野球部員のエース園田と万年補欠の矢野も重要な要素として登場する。
映画には学生時代特有のヒエラルキー要素も登場する。運動部、とくに学校でも目立ちやすい野球部に対して一部の人達は「ギラギラしていて、上から目線でヒエラルキーの上位にいる」なんて思いがちだけど、「アルプススタンドのはしの方」では本当は誰がヒエラルキーの頂上にいるのか、それを伝えてくれている。
この映画は原作が高校の演劇部らしいので、実に学校らしい題材だけれども、大人になるとこういう理想的な話をしたい気持ちが良くわかる。
大人たちの都合の良いように聞こえるかもしれないけど、大人たちにも学生時代があったように、学生時代に経験してきたことを子どもたちにもそれを伝えたいだけなんだ。
それぞれの「しょうがない」
演劇部の安田は田宮がインフルエンザにかかり県大会を諦めざるをえなかったとき、周りに「しょうがない」と言われた。藤野はどれだけ練習しても勝てない絶対的なエース園田の存在と比べて野球部を辞めた。
「あきらめる」という行為は、心の中にわだかまりを残す。それを隠すためにやがて自分に嘘をつくようになる。万年補欠の矢野の存在を見つけて、いくらやっても芽の出ない彼よりも自分が正しいと自分を肯定していく。
田宮は自分がインフルエンザになってしまったことで、安田にずっと引け目を感じていた。安田ともう一度演劇をやりたいと思っていたのだけれど、口に出せないでいた。そこにも「しょうがない、私が悪いのだから」とあきらめが入っている。
宮下は久住に劣等感をもっていた。唯一のとりえだと思っていた勉強でも負けて、密かに想いを寄せていた園田と付き合っていることを知り、吹奏楽部の部長もつとめていて、友だちも多い彼女に嫉妬も感じていた。
でも久住も宮下から見れば羨ましい存在なのかもしれないけれど、彼女自身もヒエラルキーにとらわれていて、自分を真ん中に位置付けている。どこに位置しているかが問題ではなく、そこに上下関係があると感じているところが問題だ。
つまり、ヒエラルキーのトップに君臨している園田とは対等の立場にはなれていないということを指している。
そこに登場するのが、茶道部顧問の厚木先生。彼は喉から血をだすまで、声を枯らして応援し、生徒たちにも押しつける。義務として連れてこられた野球に興味のない学生たちにはうざくて仕方がない存在だ。
でも、結局のところ、熱量を持って今を楽しんだ人が一番輝いている。何をしていようとヒエラルキーのどこにいようと関係なくて、ただ単純に前向きに全力で生きた人が楽しいのだとこの映画は伝えている。
「そんなこと簡単にできるなら誰も苦労しない」って思うだろうか。私もそう思う。でもこれは真理ではないか。どう動くかは結局のところ自分次第なのだから。
ダニング=クルーガー効果
人は何かをするとき、ある傾向があるという。
あなたが何か新しいことを始めたとき、少しかじったような知識と経験で、謎の自信を持つことはないだろうか。
それなのに、知識や経験を身に着ければつけるほど、自分はまだまだだと感じて自身を失っていくアレのこと。
そこから徐々に知識や経験を積んで、自分から見ても他人から見てもすごいという評価に繋がっていくのだけれど、曲線を描くことは共通していても、その期間や能力のマックス値は当然のことなら個人差がある。
藤野は途中で諦めてしまった。対して矢野はずっと諦めずに続けていくことでプロまで上り詰めた。おそらく矢野は野球そのものを楽しんでいたから。誰かと比べることよりも、野球が楽しい方が勝っていたから。
藤野は周囲と比べるばかりで、野球自体を楽しめていなかった。他社と比べる行為は自らの熱量を上げるためには効果的だけれど、それ以外では毒にしかならない。
どれだけやれば他人から認められる存在になるのか分からない。あきらめずに続けたからといって、そこに到達できるという保証もない。ただ少なくとも他人と比べてあきらめたり、大会に出られないから諦めるのとは違う気がする。
厚木先生はうっとうしい存在だけれど、オードリーの若林が至った境地にこんなのがある。
世の中をナナメに見てカッコつけていたら、人生はすぐに終わってしまう。だから、ハロウィーンの仮装、バーベキュー、海外旅行……、そういった誰かが楽しんでいる姿や挑戦している姿を冷笑するのをやめた。
自分が好きなことが分かると、他人が好きなことも尊重できる。「他人への否定的な目線」から“卒業”できた若林が得たものは、人見知りの原因のひとつだった「他人からの否定的な視線への恐怖」からの解放だったのだ。
日刊ゲンダイ
人からどう見られるかではなくて、自分がどうしたいかで行動した人間は強い。それが茶道でも演劇でも勉強でもゲームであったとしても、ヒエラルキーというものが本当に存在するならば、厚木先生は一番上にいるんだ。
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filmarks
高校生のヒエラルキーを描いた映画。中学生、高校生を経ていれば、どれかのキャラに既視感を覚えるだろう。ヒエラルキーの頂点にいる桐島がいなくなると途端に壊れていくピラミッド。誰がどんな影響を受けるのか。すべての人間の心をえぐる超ど級の青春映画。話題になったものの公開時は赤字ギリギリの採算だったというのが日本映画の悲しいところでもある。
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