A24とは、2012年に設立されたアメリカのインディペンデント系の映画の制作や出資、配給を専門とした企業。
2019年までのたった7年間で、A24が手掛けた映画のうち25回もアカデミー賞にノミネートされ、2016年には「ルーム」がアカデミー賞に輝き、「ムーンライト」が作品賞を受賞している。
賞レースだけでなく、アリ・アスター監督の「ミッドサマー」や「ア・ゴースト・ストーリー」など、個性豊かな名作も数多く輩出しているスタジオだ。
手がける映画はおおよそ「怖い」系か「エモい」系に大別される。
今回はそんなA24が手がけた作品の中からジャンル別におすすめ映画をご紹介。
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A24が制作したおすすめ ホラー映画
複製された男(2014)
4点
ミステリー
ドゥニ・ヴィルヌーヴ
ジェイク・ギレンホール、メラニー・ロラン
- 自分に似ている男を見つけたとき、あなたはどうする?
- 初見殺しの難解映画
- 考察していくとおもしろい
- 「メッセージ」のドゥニ・ヴィルヌーブ監督作品
大学講師のジェイク・ギレンホールが、自分と全く同じ顔をした男と出会うミステリー作品。めちゃくちゃ難解な映画なので初見で理解するのはまず無理。けれどもこの真実は隠さないといけない。ストレートに伝えたならば、確実にその身を滅ぼすだろう。
エクス・マキナ(2016)
3.7点
SF、スリラー
アレックス・ガーランド
アリシア・ヴィキャンデル、ドーナル・グリーソン
- 人間と人口知能が繰り広げる駆け引き
- 人工知能と人間は共存できるのか
- テクノロジーと自然と美の融合
- 展開はやや少なめ
A.Iのテストに参加するため、自社の社長の別荘に行った社員が人口知能を搭載した女性ロボットに心を奪われていく話。A.Iという科学的な話を人里離れた緑豊かな別荘地で行うところに視覚的な美しさもあるし、女性のA.Iもまた美しく芸術要素も高めの映画。人工知能は人間と共存できるのかというテーマを元に繰り広げるが、想像していたよりも展開は少ない。
ウィッチ(2017)
3.6点
ホラー
アニャ・テイラー=ジョイ
ロバート・エガース
- 気持ち悪い感覚が漂うホラー
- ヨーロッパの魔女伝説
- アニャ・テイラー=ジョイかわいい
- モヤっとしたラスト
森の近くの荒れ地に住み始め、家族7人で過ごしていると、赤ん坊が突如行方不明になる。犯人は魔女なのか狼なのか。疑心暗鬼に陥った家族は、長女を疑いはじめ、、というホラー映画。びっくりするホラーというよりは気持ち悪さがまとわりつくような感覚。A24が関わる見応えのある映画
イット・カムズ・アット・ナイト(2018)
3.7点
ホラー
ジョエル・エドガートン、クリストファー・アボット
トレイ・エドワード・シュルツ
- 今なら分かる。”それ”がなんなのか
- “それ”の恐怖と戦うホラー映画
- 漂う世界終末感
- モヤっとしたラスト
感染から逃れ、”それ”の侵入を防ぐために山奥でひっそりと暮らすポール一家に起きる恐怖を描く。世界で何が起きているかの描写はほとんどなくポール一家の視点のみで話が展開する。スッキリ感は薄いけれど、人間の生存本能に直接語りかける良質ホラー。
ヘレディタリー継承(2018)
3.1点
ホラー
アリ・アスター
トニ・コレット
- 途中の事故が一番怖い
- アメリカの宗教的なホラー
- 他のホラーと一味違う不気味な演出
- ミッドサマー監督作品
祖母が亡くなった後に次々に家族へ降りかかる不気味なホラー。ドキッとするような表現はあまりなく、じわりとまとわりつくような気持ち悪さを表現するのがうまい。幽霊的な怖さよりも人間的な怖さを感じられる映画。
聖なる鹿殺し(2018)
4.5点
サスペンス
ヨルゴス・ランティモス
コリン・ファレル、ニコール・キッドマン
- 神話の現代版はとってもサイコ
- 普通の話かと思えばだんだん不安になっていく映画
- シュールオブシュール
- 所々に挿入されるアングルに注目
普通の話が展開されていると思いながらも不気味な効果音と不自然なアングル。そして感情が排除された人形ような役者たちの演技に、言いようもない不安に駆られる映画。映画だからこそできる表現が詰まった名作。ギリシャ神話を元ネタにしたサスペンス映画。
ミッドサマー(2020)
3.9点
ホラー
アリ・アスター
フローレンス・ピュー
- ヘレディタリー継承のアリ・アスター監督作品!
- スウェーデンで開かれる祝祭に参加
- 実は夜よりも怖いのが昼
- 幸せとは?
家族を失った女子大生が恋人たちと一緒にスウェーデンの奥地で開かれる祝祭に参加し、恐怖(幸福)を感じる話。明るい恐怖を感じるもよし、グロテスクな表現に気持ち悪さを感じるも良し、サイコパスとはなんなのかを真面目に考察するも良し、のジャンル分け不可能な新感覚ムービー。
ライトハウス(2021)
3点
ホラー
ロバート・エガース
ウィレム・デフォー、ロバート・パティンソン
- ウィレムとパティンソンの顔芸
- 「ウィッチ」監督作品
- 白黒シネマ
- ホラーなのかコメディなのか
白黒かつ昔のシネマと同様の画面サイズで描かれる特殊な環境の作品は、配給元のA24が条件に出す映画館がなく、2017年の映画が2021年にようやく公開されたホラー映画。1890年に実際にあった事実をもとに、小さな島の灯台守を任された2人の男が徐々に狂っていく様を描く狂気のホラームービー。見方によっては「笑ってはいけない」シリーズや「ドキュメンタル」を見ているようで、コメディにもなりうるシュールな映画。
MEN 同じ顔の男たち(2022)
3.0点
ホラー
アレックス・ガーランド
ジェシー・バックリー
- 休暇に訪れた田舎で起こる超常ホラー
- グロく美しい世界観
- 進撃の巨人に影響を受けた作品
- 「エクス・マキナ」のアレックス・ガーランドが監督・脚本
夫の死の瞬間を目の当たりにした女性が、心を癒すために訪れたイギリスの田舎で、不気味な男たちに出会う異質な超常ホラー。「エクス・マキナ」のアレックス・ガーランド監督がA24とタッグを組んで手掛けた映画。イギリスの田舎風景に広がる自然と歴史的な建造物が、「ラピュタの城」で天空の城を訪れたときのような退廃的な美しさを感じさせ、そこに気持ちの悪いエッセンスを加えることでグロく美しい世界観を醸し出す。旧約聖書から続く女性の罰を表現した作品。
X エックス(2021)
3点
ホラー
タイ・ウェスト
ミア・ゴス
- 田舎にポルノ映画撮影にやってきた若者が悲惨な目に遭うスラッシャー映画
- 名作ホラー映画のオマージュも楽しめる
- ただのホラーだけじゃないテーマ性に批評家たちが絶賛
- A24配給作品
ポルノ映画の撮影のため、老夫婦の住むテキサスの農場にやってきた若者が、恐怖に巻き込まれていくスラッシャームービー。怖いもの知らずの若者たちが田舎の古い家にやってきて、次々と殺されていく様は、ホラー映画あるあるの王道だ。「X エックス」も基本的には同じ流れで進んでいくので、今さら感は満載なのだが、ただのB級映画とは何かが違う。ちょっと捻りがある映画。
LAMB ラム(2022)
4点
ホラー
バルディミール・ヨハンソン
ノオミ・ラパス
- 羊から生まれた羊ではないナニカ
- 異様な空気感に垣間みる幸福な生活
- A24の独特なホラー
- 羊が怖かわいい
アイスランドに住み、羊飼いを営んでいる夫婦が異形と出会うホラー。ある日、羊から生まれてきたのは、羊ではなかった。2人はソレを育てようとするが、、という話。あらすじが、ホラーに寄せているので、もっとおぞましい話かと思ったらそうでもない。羊ではないナニカの愛くるしさもあるが、不気味さの中に幸福感を感じる映画。
Pearl パール(2023)
3.3点
ホラー
タイ・ウェスト
ミア・ゴス
- 抑圧された娘がシリアルキラーになるまで
- 「X エックス」の前日譚
- 性と美が交差するスプラッタームービー
- 映像の美しさとグロ描写の対比がエグい
「X エックス」の続編にあたる作品であり、前日譚という位置付け。「X エックス」で登場した狂気の老女パールの若かりし頃を描く。
第一次世界大戦末期、厳しい家庭に育てられたパールがシリアルキラーへと変貌を遂げたきっかけを描いた作品。前作が好きならこれもみておきたい作品だ。
前作を観てないとついていけない部分はないので、「パール」を観た後に「X エックス」に繋げてもおもしろい。むしろその方が老女パールの心理描写の理解に深みが増すだろう。
A24が制作したおすすめヒューマンドラマ映画
ムーンライト(2017)
4.1点
ヒューマンドラマ
バリー・ジェンキンス
トレヴァンテ・ローズ、アンドレ・ホランド
- あなたは自分を愛していますか?
- マイアム貧困地区の男の半生
- 貧困・ドラッグ・LGBT
- ジブリを超える美味しそうな料理
マイアミの貧困地区で暮らす1人の男の半生を、幼少期、少年期、青年期と3つの時期に分け、彼のアイデンティティに迫った映画。貧困とドラッグにまつわる環境の話においてはいささか地味ではあるけれど、自分に自信がなかったり、誇りを持っていない人には確実に響く映画。月の光を暗いと思うか眩しいと思うかは自分次第だ。
スイス・アーミー・マン(2017)
3.5点
ファンタジー
ダン・クワン、ダニエル・スキナード
ダニエル・ラドクリフ、ポール・ダノ
- 死体が10徳ナイフに変わるとき
- ハリーポッター・ダニエルラドクリフ主演
- 死体と森を散歩するロードムービー
- クセになる演出がそこにある
海に打ち上げられた死体と森の中を一緒に冒険するロードムービー。意味が分からないで終わるにはもったいない。どこに魅力があるかというと、一見ふざけた流れに見えるも根底に流れるテーマ性と惹きつけられる音楽、美しい映像の融合にある。途中で投げ出した人はもう一度観て欲しい。クセになるうまみがそこにあるから。
フロリダプロジェクト(2018)
3.9点
家族
ショーン・ベイカー
ブルックリン・プリンス、ウィリアム・デフォー
- 夢の国のそばに潜む貧困
- モーテルでその日暮らしをする貧困層
- ドキュメンタリー調
- 社会の歪みがここにある
フロリダのディズニー・ワールドのすぐそばにある安モーテルで暮らす貧困をテーマに描いた作品。実際のモーテルを使って、そこに住んでいる人々を映し出す様はどこかドキュメンタリーのような印象を受ける。貧困から抜け出せないのは努力不足なのだろうか。アメリカのみならず世界全体で起きている社会の歪みを垣間見る衝撃作。
レディバード(2018)
3.6点
青春、ヒューマンドラマ
グレタ・カーウィグ
シアーシャ・ローナン
- アカデミー賞5部門ノミネート!
- アメリカの厨二病
- 日本もアメリカも思春期は同じ
- 都会への憧れも同じ
閉塞感のあるアメリカの片田舎に暮らす女子高校生の思春期を描いた話。高校生ぐらいが観ると主人公の気持ちになって共感し、大学生くらいになると黒歴史と共に思い出し笑いをし、社会人になると愛おしくなり、親になると心配で仕方なくなる現象を「レディバード」という
ア・ゴースト・ストーリー(2018)
4.8点
恋愛、ファンタジー
デヴィッド・ロウリー
ケイシー・アフレック、ルーニー・マーラ
- 幽霊は怖いなんて誰が決めたのだろうか
- 死んだ男がシーツを被って見守る
- 途中に出てくるある男の話は必見
- ラストはめちゃくちゃエモい
突如同棲していた男性が事故死する。霊安室で突如起き上がった男はシーツを被り口も聞けず、恋人にも見えず、ただ見守り続けることしかできないという話。恋愛要素はあるが、全体を通してみると単なる恋愛映画にとどまらない。虚無感に包まれるような絶望感を見せつける一方で、この地に生きる人間が紡いでいく歴史に思いを馳せる感傷的な映画でもある。決して幸せになる映画ではないが、この結末を絶望ととるのか希望ととるのかはあなた次第だ。
フェアウェル(2020)
3.5点
ヒューマンドラマ
ルル・ワン
オークワフィナ
- 死ぬと分かって生きたいか、ある日突然死にたいか
- 東洋vs西洋の価値観
- 告知するべきか黙っておくべきか
- 日本人なら共感できる
アカデミー賞候補と噂されていたけれど、ノミネートされなかった作品。監督のルルワンの実体験に基づいて描かれていて、末期ガンにかかった祖母に告知をするのか否かについて中国とアメリカの価値観から文化の違いを伝えている。東洋と西洋の文化の違いを、どちらも否定することないけれど、中国生まれアメリカ育ちのビリーが抱える葛藤を炙り出す。日本はどちらの文化も影響を受けているので、なんとなく主人公の気持ちが理解できるところもあり、ぜひ見て欲しい作品の1つだ。
mid90’s(2020)
4点
ヒューマンドラマ
ジョナ・ヒル
サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストーン
- 90年代半ばのミュージックとワルへの憧れ
- 90年代を生きた少年の思春期と青春
- ヒップホップ最高
- 悪そうなヤツは大体友達
90年代半ば、シングルマザーで兄と暮らす13歳の少年の思春期を描く。兄に逆らえずに抑圧されていた時期に、ちょっとワルいやつらに感化され、道を踏み出し始め、タバコ、ドラッグ、セックスに手を出してしまう青春ムービー。思春期という大人になる前のストレスは日本もアメリカも同じで、理由もないのにむしゃくしゃしたり、大人が決めたルールに反抗したくなる気持ちはよくわかる。90年代を代表するヒップホップと共にアメリカのワルや貧困層の問題をポップに明るく表現したA24発の映画。
アンカットダイヤモンド(2020)
3.7点
クライム
ベニー・サフディ
アダム・サンドラー
- アダム・サンドラーのクズだけど見捨てられない男の演技に注目!
- ギャンブル狂人の話
- ゲス男は死ぬまでゲス男
- ブラッドダイヤモンドとはスケールが全然違う
クライムムービーと言いながら、それほど犯罪臭はなく、 タイトルの「ダイヤモンド」から察するに、どんなに血なまぐさい話なのだろうと期待を膨らませてみれば、ただのギャンブル狂いの話で終始する。とはいえ、自転車操業的にお金集めに奔走するハワードの行動や心情をテンポは良い映像にのせているため、飽きることなく最後まで観られる。「ダイヤモンド」に関わるドロドロの犯罪映画だと思って観ずに、ゲス男は本当にゲス男なんだなと思いながら観ると結構楽しめる。
ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ(2020)
3.3点
ヒューマンドラマ
ジョー・タルボット
ジミー・フェイルズ、ジョナサン・メイジャーズ
- 変わりゆく街で変わることと変わらないこと
- シリコンバレーの発展で住む場所を追われる黒人の話
- 哀愁、郷愁、憎悪、悲哀がこもる
- 面白いけど少し退屈
地価が高騰するサンフランシスコを舞台にそこに住む青年の、ノスタルジックで叙情的に心の内を描く。都市と田舎が混ざり合ったような街並みと、心落ち着く音楽により、哀愁、郷愁、憎悪、悲哀など色々な感情が織り混ざる良き映画。
クリシャ(2021)
3.4点
ヒューマンドラマ
トレイ・エドワード・シュルツ
クリシャ・フェアチャイルド
- 登場人物全員親族
- トレイ監督の親族と撮った映画
- 音の使い方や映像が独特でクール
- アルコール中毒者の話
「WAVES/ウェイブズ」や「イット・カムズ・アット・ナイト」のトレイエドワーズシュルツの初長編作品。日本での公開は2021年だけれど、2016年に公開されていて、短編映画としてSXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)映画祭で撮影賞を受賞している。実際の親族を起用して自らも本人として出演した本作は、薬物、アルコール中毒者のいる家族の実体験をもとに描かれる。音の使い方や映像の撮り方が特徴的で何を見せられているのだろうと思いつつもすっかり虜になってしまう映画だ。
カモン カモン(2022)
4.0点
ヒューマンドラマ
マイク・ミルズ
ホアキン・フェニックス
- 甥っ子と絆を深めるロードムービー
- 寂しさと切なさとちょっぴり心温まるエモい映画
- 白黒映画
ジャーナリストのジョニーが妹の息子ジェシーを預かることになり、だんだんと絆を深めていくハートフルムービー。ニューヨークやロサンゼルスに渡って生活するため、ロードムービー要素も含まれる。モノクロ映画仕立てになっていて大きな盛り上がりどころは少ないが、構図の美しさやインテリアのセンスはよく伝わる。寂しくて、切なくて、でもちょっぴり心を暖めてくれるエモいA24の映画。
グリーン・ナイト(2022)
2.8点
ダークファンタジー
デヴィッド・ロウリー
デブ・パテル
- アーサー王物語の現代版
- 騎士は清く正しく理想的な存在でいられるのか
- A24が贈るダークファンタジー
- 原作を知らないと意味がわからない
中世の騎士道を描いたアーサー王物語を原作とし、そのシリーズの1つである「ガウェイン卿と緑の騎士」を「ゴースト・ストーリー」のデビッド・ロウリー監督がダークファンタジーとして描いた映画。いつものように音楽や映像美はA24らしく素晴らしい出来栄えで、デビッド・ロウリー監督の決してユートピアとは言えないファンタジーの世界も唯一無二。しかし、そのストーリーはわかりづらく、少なくとも原作を知った上でないと何も楽しめない作りになっている。
アフター・ヤン
(2022)
4.8点
ヒューマンドラマ
ダン・クワン、ダニエル・シャイナート
ミシェル・ヨー
- 人型ロボットが一般家庭にまで普及した近未来
- 突如故障したロボットが記憶していたチップの中身
- 少女ミカの喪失感と共に家族の在り方を描く
- 「リリィシュシュのすべて」の楽曲が挿入
舞台は近未来。テクノと呼ばれる人型ロボットが一般家庭にまで普及し、世界はロボットとの共存が当たり前の時代。ロボットネイティブ時代を生きる少女ミカは、兄のように慕っていたロボット、ヤンの故障を目の当たりにする。
養父母とともに暮らし、血のつながりのない家族。家族の在り方、他者との共存、絆の持つ意味を問うヒューマンドラマである。
作り手がA24だけあって音楽や映像の扱い方は特徴的。ロボットという無機質な存在に、映像では緑豊かな自然を取り入れることで近未来SFの世界観であっても派手なCGはなく、退廃的な要素も少ない。
人間とは、ロボットとは、を超越したヒューマンドラマである。
邦画「リリィシュシュのすべて」の楽曲を取り入れたり、坂本龍一がメインテーマを手がけているなど、日本にも馴染みがある映画である。
エヴリシング・エヴリウェア・オール・アット・ワンス
(2023)
4.8点
ヒューマンドラマ
ダン・クワン、ダニエル・シャイナート
ミシェル・ヨー
- 奇想天外な演出によるカンフーアクション
- 中国系移民の現実と親子愛
- スイス・アーミー・マンの監督による異次元の表現
- 二度、三度と味わってほしい傑作
人間なら誰しも陥りがちな選択による過去の後悔。諦め。もしくはやってよかったと思う肯定。キリのないタラレバの分岐で世界が分かれているとしたら?全ての選択や行動がマルチバースに分かれ、倒産寸前のコインランドリーを経営する中国系アメリカ人エヴリンが、別の世界線からやってきた悪に立ち向かう話。突拍子もない物語だが、中身は壮大な家族ゲンカ。A24得意のエモくてアーティスティックな演出が光る傑作で、二度三度と味わいたくなる中毒性のある映画。
aftersun/アフターサン
(2023)
3.6点
ヒューマンドラマ
シャーロット・ウェルズ
ポール・メスカル、フランキー・コリオ
- 思春期の娘と父親が過ごす一夏のバケーション
- 大人の世界を開きはじめた娘の希望と精神的な問題を抱える父親の絶望の対比
- セリフで語らず、絵のみで表現する映画
- 2023年アカデミー賞主演男優賞ノミネート作品
思春期になりかけの11才の娘ソフィーと、31才の父親カルムが、トルコで一夏のバケーションを過ごす話。
「11才の頃、30才になったら何をしていると思ってた?」
この言葉にドキリとした人も決して少なくないだろう。無垢で純粋な娘から放たれた無情な刃は、今に満足できていない人に容赦なく突き刺さる。
この映画は、鬱を抱える父親と、思春期の近い娘の話。娘にとっては新たな扉を開ける刺激的な体験であった一方で、父親は深い喪失感を抱えていた。
セリフで語らず、絵のみで表現されているため、ぼーっとみていると、ただただ楽しいバケーションを過ごしているように見える。
娘視点が多いためでもあるが、ときおり差し込まれる父親の行動と、サブリミナルのような映像が、観客に不安を与え続ける映画。
CLOSE クロース
(2023)
4.9点
ヒューマンドラマ
ルーカス・ドン
エデン・ダンブリン、グスタフ・ドゥ・ワエル
- 親友だった13歳の2人がちょっとした出来事をきっかけに最悪の結末を引き起こす
- 集団に属することで起きる心理状況を描く
- 誰にも経験しうる青春ドラマ
- A24配給のアカデミー賞国際長編映画賞ノミネート作品
第75回カンヌ国際映画祭(2022)でグランプリを受賞し、第95回アカデミー賞(2023)では国際長編映画賞にノミネートされた注目の作品。
思春期のちょっとした出来事をきっかけに親友と疎遠になってしまったレオ。そのことから取り返しのつかない大きな後悔につながってしまう辛めのヒューマンドラマ。
誰しも経験がありそうな青春時代の心の痛み。集団に属することで起こりうる心理状況を13歳のレオとレミを通じて描く。
多かれ少なかれこんな経験をしたこともある人も少なからずいるはず。クロース(近しい)な親友であるはずなのに他人を気にしてしまった結果の悲劇は言葉に言い表し難い。
マイノリティに耐えられない人、マイノリティでも1人心を許せる人がいれば良い人。多様な社会のなかで苦しみもがいた少年たちの映画である。
「クロース」は、ちょっとした人間の弱さが引き起こした最悪の結末を、エモーショナルな映像にのせて伝えていく、A24が配給した心を握りつぶすようなヒューマンドラマだ。
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