「X エックス」は、2022年のホラー映画。ポルノ映画の撮影のため、老夫婦の住むテキサスの農場にやってきた若者が、恐怖に巻き込まれていくスラッシャームービー。
主演は「EMMA エマ」でアニャ・テイラー=ジョイの友人役として出演したエマ・ゴス。
配給は「ミッドサマー」など、新感覚ホラーを数多く手がけるA24。
クリエイターや批評家たちからも絶賛される「X エックス」。
怖いもの知らずの若者たちが田舎の古い家にやってきて、次々と殺されていく様は、ホラー映画あるあるの王道だ。「X エックス」も基本的には同じ流れで進んでいくので、今さら感は満載なのだが、ただのB級映画とは何かが違う。
なぜここまで「X エックス」が評価されるのかについてタイトルの意味を含めてを説明していく。
「X エックス」
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「X エックス」映画情報
タイトル | X エックス |
公開年 | 2022.7.8 |
上映時間 | 105分 |
ジャンル | ホラー |
監督 | タイ・ウェスト |
映画「X エックス」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
マキシーン | ミア・ゴス |
ロレイン | ジェナ・オルテガ |
ウェイン | マーティン・ヘンダーソン |
ボビー・リン | ブリタニー・スノウ |
RJ | オーウェン・キャンベル |
ハワード | スティーブン・ユーア |
ジャクソン | スコット・メスカディ |
映画「X エックス」あらすじ
1979年、テキサス。女優のマキシーンとそのマネージャーであるウェイン、ブロンド女優のボビー・リンと俳優のジャクソンは自主映画監督の学生RJと、その彼女で録音担当の学生ロレインと映画撮影のために借りた農場へ向かう。映画のタイトルは「農場の娘たち」。この映画でドル箱を狙う――6人の野心はむきだしだ。農場で彼らを待ち受けたのは、みすぼらしい老人ハワード。彼らを宿泊場所として提供した納屋へ案内する。一方、マキシーンは、母屋の窓ガラスからこちらを見つめる老婆と目が合ってしまう……。
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映画「X エックス」ネタバレ感想・解説
1970年代ホラーのオマージュがミックス
(C)2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.
「X エックス」は、1970年代を舞台にしている。70年代は「悪魔のいけにえ」というカルトをテーマにしたスラッシャームービーが製作された時代。数多くのホラー映画のオマージュが随所に見られる。
映画の中でヒッチコックのホラー「サイコ」を会話に出しているのもその一つだ。
冒頭でマクシーンが鏡に向かって自分はスターなのだと語りかける様は70年代のポルノ業界を題材にした映画「ブギーナイツ」をオマージュしている。
監督は2022年のアカデミー賞候補にも選ばれた「リコリスピザ」の監督、ポール・トーマス・アンダーソンだ。
閉じ込められていたロレインが、壊れたドアの隙間から顔を出すのは「シャイニング」を意識している。また、シャイニング原作のスティーブン・キングもこの映画を賞賛している。
シャイニングを製作したキューブリック監督を批判していたスティーブン・キングが絶賛しているのも皮肉がきいている。
1番意識されているのは、映画の舞台と同じ70年代に製作された「悪魔のいけにえ」。低予算であるがその衝撃的な映像は、ホラー映画ファンからの評価が非常に高い。
半世紀近く経ったいまでもスラッシャー映画の代表作としてホラーファンに愛されている。
このようにスラッシャームービーが盛り上がった時代のホラーをまじえながら作り上げたのが「X エックス」だ。
恐怖を煽るためには一人一人丁寧にスラッシャーしていく必要があるため、都合よくメンバーがバラバラになっていく感じも一周回って良い。
老婆はなぜ殺人を犯すのか
(C)2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.
往年の名作を数々オマージュしただけではここまで絶賛されることもないだろうが、「X エックス」では、プラスアルファのテーマがおもしろい。
ポルノ映画もホラー映画もあまりストーリー性を軽視しがちだ。しかし、意識高いRJがポルノへのシナリオのこだわりを語るシーンがあるが、最近ではポルノもホラー映画もストーリー性が含まれるものも少なくない。
殺人の動機がしっかりと含まれているのも「X エックス」の特徴である。
そしてこの映画のテーマは「若さと美」。
冒頭で鏡に向かってつぶやいていたように、美への執着と承認欲求に溢れているのが主人公の特徴である。
そして、今回の犯人役となる老婆のパールも美と若さに対して異常な執着や嫉妬心を持っていた。老婆も昔は美しい顔立ちだったが、戦争が人生を狂わせた。
今もなお性欲が満たされず、夫であるハワードを誘うものの、男側はすでに役に立たない。
その欲求不満が募り、誘いを断ったRJを滅多刺しにしてしまうのだ。パールは若さや美、そしてセクシャルな行為を思うがままに操るRJたちに憧れを抱く一方で、嫉妬による憎しみも抱いていた。
ハワードも妻を愛しているが欲求に応えられないフラストレーションや、ボビーとの話の中で妻の浮気について言及していたことから、嫉妬心がかなり強く、若さに憎しみを抱いている。
そしてこの映画の本当の恐怖は、この老夫婦は普通の老人であること。体力は衰え、特別な能力があるわけでもない。ハワードはセックスを頑張った後、死体がピクリと動いたことでビックリして心臓マヒで死んでしまうほどには弱い老人だ。
そんな2人が男女6人の若者たちを次々と襲う。下手な悪魔や化け物よりもよっぽど怖いのが嫉妬に狂った人間なのだ。
ラストと「X エックス」というタイトルの意味
(C)2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.
映画のラストでは、ハワードとパールがつけていたテレビの中で、マクシーンが映し出される。テレビの中で演説していたのはマクシーンの父親だった。彼は厳格なクリスチャンの娘だという事実が発覚する。
ここにはあまり言及はないがどうやら親の抑圧から逃れ、自由をもとめてポルノスターからハリウッドを目指し、ドラッグに溺れてしまった女性に見てとれる。
そして、映画の中では全く気づかなかったが、マクシーンとパールは同一人物のミア・ゴスが演じている。
ここが映画の本質である。若さは永遠ではない。若きものが老いていくのは、人類の不変なのである。パールはマクシーンに惹かれていたが、彼女に成り代わることはできない。
老いたものが若き肉体を手に入れることは不可能なのだ。
映画のラストでパールの頭を踏み潰したのは、マクシーンがパールに近づいたことを指し示している。
パールは死んだ。そしてマクシーンもいずれパールのように老いていく。
美への執着を持ったままに老いのサイクルからは逃れられない。その交差(X)を表現するために同一人物をキャストにしたのだ。
参考:Readsme
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