また1つ青春時代を思い出す映画が誕生した。未知の体験に高揚していく気持ちの昂りと、心を押し潰されるような苦しみ。少年時代には決して味わえないような大人の入口を体験できるのは、後にも先にもこのときだけである。
「ファルコン・レイク」は2023年公開のカナダ/フランスが合作した青春映画。
フランスに住む13歳の少年バスティアンが、カナダに住む両親の友人宅を訪れひと夏のバケーションを過ごす。そこで出会った娘のクロエに惹かれていく話。
16歳のクロエは、まだウブなバスティアンに興味を示す。クロエのあけすけな行動は13歳の少年には刺激的で魅力的だった。
ちょうど大人の入口に入ろうとしていたバスティアンと、大人に移り変わりゆく過程で悩み始めるクロエの2人の青春物語。
結果はどうなろうともバスティアンにとって良い経験になるはずだった。しかし、この「ファルコン・レイク」はほっこりするだけでは終わらせてはくれない。
平和なノスタルジーを感じたいだけならおすすめできない。
というわけで、バスティアンとクロエの心情の移り変わりを説明するとともに、ラストで何が起きていたのか。最後のクロエの表情は何を示すのかについてネタバレしながら解説・考察していく。
ファルコン・レイク
(2023)
4.2点
青春
シャルロット・ルボン
ジョセフ・アンジェル、サラ・モンプチ
- 13歳の少年がちょっと大人の16歳に惹かれていく青春物語
- 異性を意識しはじめたウブな少年が大人の階段を登り始める
- 思春期の懐かしみや痛みに浸れる映画
- ノスタルジーを楽しむだけでは終われないラストの展開は好みを選ぶ
ファルコン・レイクを視聴するには?
配信サービス | 配信状況 | |
---|---|---|
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\ 月額880円(税込)/
映画「ファルコン・レイク」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
バスティアン | ジョセフ・アンジェル |
クロエ | サラ・モンプチ |
映画「ファルコン・レイク」ネタバレ考察・解説
バスティアンは思春期の入口にいた
(C)2022 – CINEFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI
バスティアンは親の友人が住むカナダへ夏休みの期間中遊びに来ていた。以前にも訪れているが数年前で、そのときはクロエも思春期ではなく、バスティアンもまだ子供だった。
今は13歳から14歳になろうとしている時期。中学1年から2年にかけて多くの男子が思春期を経験するように、バスティアンもその入口に立とうとしていた。
「aftersun/アフターサン」でも11歳のソフィーが滞在先のトルコで新たな世界を開きはじめているが、この年齢になると少年・少女から男と女へ徐々に変わり始めていく。
男女の違いが大きくなり、異性を意識し始め、性にも興味を持ちはじめる。弟との遊びには興味が持てなくなり、でも父親とミニサッカーを興じる程度にはまだ少年のバスティアン。
そんな彼が、クロエに出会い、新たな扉を開くことで知らない世界が彼の眼前に一気に広がっていくのが「ファルコン・レイク」のストーリーである。
クロエは思春期真っ只中であり、すでに色々な経験をはじめている。それは、バスティアンにとっては未知なる体験で刺激的だった。
少年のときに目を輝かせながら夢中になった宝探しには興味が薄れていた。クロエは代わりに新たな世界を見せつける。お酒を飲み、タバコを吸い、夜は家を抜け出して仲間とパーティに出かける。
この年齢の3歳差はかなり大きい。経験値の全く異なるバスティアンはクロエにだんだんと惹かれていく。
内向的なバスティアンは、クロエのオープンな性格に戸惑いつつ、振り回されながらも喜んでついていく。お酒を飲むと言われれば断らないし、クロエのちょっといじわるな誘いにも乗ろうとする。
女性に対して性的な感情はすでにあったようだが、明確にクロエを意識し始めるたのは、酒を飲んで吐いた後、シャワーを浴びていたときだ。
水着から見える背中のラインを見て、バスティアンは明らかにクロエに対して言葉に表せない感情を抱いている。
バスティアンはクロエに惹かれていたが、恋をしていたかどうかは微妙なところである。この頃の男子にとっては、恋愛感情というよりも性的な欲望の方が勝ることが多い。しかし、男女を意識し、初めての興奮を味わえるのもこのときだけの大事な感情である。
また、独占欲や嫉妬心も芽生え始める。クロエは新たな世界を開いてくれたが、新たな世界には多くの知らない男たちがいた。
連れて行ってくれたにも関わらず、クロエは自分の気になる異性と話し始め、バスティアンを放置する。
不意にぶつかって鼻血を出しても誰もかまってくれないことにムッとして一人で帰ってしまう。「構ってほしい」という感情をうまくコントロールできないのも思春期の入り口ではムリのないことである。
思春期から抜け出していないクロエ
(C)2022 – CINEFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI
クロエは16歳となり、反抗期真っ只中。バスティアンにとっては大人の女性に見えるが、話が進むに連れてまだまだ子供っぽさを見せる。
クロエはバスティアンをたぶらかし、性の経験が豊富そうにみえるが、まだセックスは未経験だということがわかる。クロエにとってもその行為は1つの壁があり、大人になることを恐れている。
以前付き合っていた元カレともためらっていたことでフラれたこともあり、実際には奥手なのだ。
だからこそ、自分よりウブなバスティアンに優越感を感じるとともに安心し、からかい、いじめたくなってしまうのだ。
また、「孤独」や「寂しい」といった感情が出てくるのも大人へ変わっていく頃だ。両親がいればそれで満たされていた少年・少女の時代とは違う。世界が広がり多くの友人や恋人、他人と関わる中で孤独感はより強まる。
両親から離れていく過程で生まれてしまうネガティブな感情をクロエは持っている。
バスティアンは、そんなクロエを慕ってくれる、ある意味で都合の良い存在だった。
ある夜、バスティアンと一緒のベッドで寝たのは、彼が安心できる存在だったからである。まだウブで性的な欲求を求めることができないバスティアンは、クロエの孤独を埋めるには十分な存在だった。
クロエがバスティアンに対して手で行為をするシーンがあるが、それは恋愛感情というよりも母性に近いもののようだ。
だからこそ、バスティアンの裏切り行為に対してクロエは激しく怒ったのだ。
なぜバスティアンは嘘をついたのか?
(C)2022 – CINEFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI
バスティアンは、オリバーに「クロエとセックスをしたのか?」と聞かれたとき「うん」と答えている。
手でしてもらった描写があるが、それはこの会話の後の行為のため、ウソである。
また、クロエは元カレの話をしたときに「行為に及んでもないのにヤッたと言いふらされた」とショックを受けたエピソードを話しをしている。
ではなぜバスティアンはクロエが傷つくであろう回答をしたのであろうか。
これはもう単純な話で、まだまだ小さい器であるバスティアンが自分を少しでも大きく見せようと虚勢をはっただけの話である。負けたくない、恥ずかしいという気持ちが勝ち、強がるのはまだまだ子供だからである。
「どんな子が好きなの?」と聞かれ、あえてクロエと違うタイプの女性を言ってみたりするのも典型的な例だ。
また、クロエの好意がオリバーに向いていたことから、有利な方へ持って行きたいという狙いがあった。バスティアンにとってはオリバーはライバルだったのだ。
しかし、彼の独占欲によってついたちょっとしたウソは、クロエを大きく傷つけることになる。クロエにとってバスティアンは安らぎを与えてくれる存在であった。
幽霊の存在を否定せず、付き合ってくれるのはまだ彼が子供としての側面を持っているためである。
クロエ自身も大人の階段の踊り場で足踏みしていた。バスティアンに対して恋愛感情こそなかったが、家族の代わりのような安心感があった彼が嫌いな男と同じ行動をとったことが許せなかったのだ。
ラストにクロエはバスティアンが見えたのか?
(C)2022 – CINEFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI
青春は痛みをともなうが、時の流れとともに癒され、それは強みになって大人として成長できる大切な経験だ。
どれだけ辛く苦しい体験でもそれはプラスになっていくことが多い。特にバスティアンのような体験であればなおさらだ。
しかし、取り返しのつかない事態だけはなんとしても避けなければならない。それが死である。
タイミングが悪く、ウソがバレたのはバスティアンが帰る前日だった。クロエは一切口を聞かなくなり、夜のパーティに出かけて行った。バスティアンはクロエを追いかけるも、目も合わせようとしないクロエに焦りを感じていた。
その結果、バスティアンは、湖の向こう岸まで泳いでいったクロエたちを追いかけた。一度溺れかけたことのある彼にとって泳ぐことは恐怖だったはずだ。
滞在中、何度もクロエに泳ぐように勧められたが拒否していたバスティアンが、意を決して夜の湖を泳ぎ始めたのは、そうすることでクロエともう一度話す機会を作りたかったからだ。
怖がっていた水を克服することで、自分を認めて許してくれるかも、あるいは話すきっかけになるかもと考えたからである。
シーンが飛び、映し出されるのはバスティアンの家族が帰るシーンだ。そこには両親と弟しか存在しない。バケーションの楽しい雰囲気は一転し、重苦しい空気が支配する。帰路の途中立ち寄った湖には花束が無数に添えられていた。
バスティアンは溺れて死んでしまった。
湖の前に立つ家族を見つめる少年がいた。これは幽霊となったバスティアンである。クロエが幽霊の話の中で「死んだことに気づいていない幽霊もいる」と言っていたが、バスティアンがそうだった。
彼は家族を見つけることで、自分が死んだのだと意識し始める。そして、幽霊の存在を感じるといったクロエの元へ向かう。
桟橋に座ったクロエに向かって名前を呼ぶ。
クロエには声が聞こえたのか。
答えはNoだ。バスティアンの呼びかけに対してクロエは反応していない。クロエはバスティアンの声は聞こえないし見ることもできない。
しかし、存在を感じると言っていたように、そこにバスティアンがいることを感じ取ることができたはずだ。だからクロエは振り返った。バスティアンの意識を後ろに感じたから。
ケンカ別れになっても傷つけあっても大概のことは時間の流れが解決する。
しかし、死は生きている者を永遠に苦しませ続ける。映画「CLOSE クロース」のように、周囲を気にして自分を強く見せようと取った行動が取り返しのつかない事態へ発展してしまうのは、青春だからこそ起きる過ちでもある。
大人への感情の変化を巧みに表現し、多くの共感できる部分もあり感情移入ができるものだった。それだけにラストでもたらされたモヤのかかったような辛い感情は、鑑賞後も晴れないままである。
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