ピンククラウドは2022年公開の映画。
2020年ごろに世界各地で起きたパンデミックが、激しいロックダウンをもたらしたのは記憶に新しい。
映画公開時点では当時に比べれば落ち着きをみせているし、慎重な姿勢をとる日本でもかなり多くの人が外出している。
コロナを予知したかのように製作されたピンク・クラウドは、2017年に脚本が描かれ、2019年に完成したブラジル発の映画。
ビフォーコロナに作られた本作は、現実に起こり得たパラレルワールドとして見応えのあるストーリーになっている。
突如、地球に現れたピンク色をした雲。毒ガスを含むその雲に触れると10秒で人を死に至らしめる。
世界中に現れたピンク色の殺人兵器の登場により、人々は外出不能になる。強制的なロックダウンを余儀なくされた人類たちのストレスや行動を描いている。
大きなドラマ展開はなく、3D映像を駆使したディザスタームービーでもないため、映像の迫力みたいなものはない。
外に出られないというストレスがどのように人に影響を与えていくのかをシンプルに描いたストーリーは、特に2020年ごろの私たちの世界に近しい。
大きな見どころには乏しいが、ありえた未来として一度見ておくことをおすすめする映画である。
ピンク・クラウド(2023)
4.2点
SF、スリラー
イウリ・ジェルバーゼ
ヘナタ・ジ・レリス
- ビフォーコロナに作られたパンデミック映画
- 現実世界と酷似する起こり得た最悪の未来
- ストーリー展開は地味
- ラストは希望か絶望か
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映画「ピンク・クラウド」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
ジョヴァンナ | ヘナタ・ジ・レリス |
ヤーゴ | エドゥアルド・メンドンサ |
リノ | カヤ・ホドリゲス |
サナ | ジルレイ・ブラジウ・パエス |
ジュリア | ヘレナ・ペケル |
映画「ピンク・クラウド」ネタバレ考察・解説
ピンククラウドとは
(C)2019 Luminary Productions, LLC.
冒頭で説明したようにピンククラウドは、人を死に至らしめる毒ガスを発生させる雲のことを指している。
地球全体に広がるピンク色の雲から発せられる致死性ガスにより、人類は外の世界から隔離されてしまう。
このガスを吸うと10秒で死ぬ。即効性のある劇薬が一瞬で世界に広がったことで、その場から離れられなくなり、家族とも離ればなれになってしまう。
物語の主人公であるジョヴァナは、ワンナイトを楽しんだ知らない男、ヤーゴと一緒に過ごすことになったし、彼女の妹は友達の家から出られなくなる。
1人きりになってしまったり、スーパーに閉じ込められるなど、現実のパンデミックよりも急激で過酷なシチュエーションだ。
ここからとても地味で緩やかなロックダウン生活が始まる。大きな衝突があるわけでもなく、思想や宗教の違いによる差別があるわけでもない。
ただただ、みんな誰とも出会えず、その中で暮らし続けるのだ。
ちなみに映画の冒頭で犬を連れた女性が死ぬシーンがあったが、犬だけは無事のようだったので、人間にだけに害のあるガスとみられる。
似たような映画で、外に出るとパニックになり死ぬ「ラストデイズ」という映画もあったが、こちらは地下道を移動するなど他者との交流や抗争があった。
「ピンククラウド」では直接肌が触れ合う交流はない。ネットの世界のみで人々はコミュニケーションを築くことができ、まさに現代のパンデミックを反映した映画となっている。
しかし、「ピンククラウド」は1、2週間のロックダウンではない。ワクチンができるわけでもなく、毒が弱体化することもない。外に出られないまま何年も経過する。
「もしも、人類が外に出られなくなったら」というドラえもんのもしもボックスのような世界がこの映画の中で起きることになる。
ここで起こる出来事は特別なことはなにもない。すべてはわたしたち一般人でも経験しうるような出来事が描かれる。だからこそ少し地味に映るが、その片鱗を経験した身としては妙に生々しい。
その生活の中で、ジョヴァナとヤーゴは子を産み育てることになる。
(C)2019 Luminary Productions, LLC.
他者と触れ合えない世界を悲観して自殺する者もいれば、外での犯罪がなくなったことを幸福と説くものもいる。
ヤーゴは自分の力ではどうしようもないことにストレスを溜めるのではなく、現実を受け入れ、子を産み育て、生きていくことを選択していた。
現実を逃避するジョヴァナとは大きく価値観が違うため、たびたび衝突するわけであるが、ヤーゴも自分の父親と離れ、苦しみを抱えている。
一方で、外に出られないことが当たり前の息子、リノは前向きに生きている。オンラインで彼女を作り勉学に励んでいた。
なぜ文明が保たれているのか
(C)2019 Luminary Productions, LLC.
しかし、この映画には多くのものが抱く疑問が終始つきない。なぜ政府はすぐに食料を配給できるドローンを配備できたのか?
そもそもその食料は誰がどこで作っているのか?映画をみるに数年間のロックダウン生活の中で文明が崩壊しているふしはない。
人々はロックダウンに馴染み、オンラインを通じて他者と交流する。学校生活や心理カウンセラー、助産婦など、職業も存在している。
そもそもインターネットやネットを利用してできるマッチングアプリのサービスなど、インフラそのものを支えるエッセンシャルワーカーや、アプリ開発者はどんな目的で行なっているのか?
情報を提供し続けているニュース番組は?
ロックダウンは急に始まったので、仕事場に取り残された人間たちがいるのは間違いないだろうが、彼らはなぜ積極的に働こうとするのか?
仕事をせずに生きていけるジョヴァナやヤーゴがいる一方で、どのようにして文明を維持しているのか、そして政府はどうやって税金も払えない国民に食料を調達し続けていけるのか。
すべては謎のままであるが、ここに関しては特に言及はない。
この映画が表現しているのは、ある一定の文明を維持したまま、外出ができず、他者とのコミュニケーションを隔絶されると人はどうなるのか。ということなのである。
ラストの意味 ジョヴァンナは生き残ったのか?
(C)2019 Luminary Productions, LLC.
ジョヴァンナは、映画のラストにて意を決して外を出る。それはもう死んでもいいという決意のものだった。
彼女の友人であるサナは、何度電話しても繋がらないことから、おそらく孤独に耐えられず自殺している。
ジョヴァンナの妹は異性と繋がることのできない異常な環境で、友人の父親とセックスをすることを選んだ。
VRの世界に逃げ込んだジョヴァンナだったが、息子のリノに壊されたことで現実世界に引き戻される。彼女にとっては、これ以上この世界の絶望を味わうのは耐えられなかったのだ。
そして、ジョヴァンナはベランダに出た。
10秒で死ぬと言われた外の世界で、10秒を数えきったジョヴァンナにまつのは希望が絶望か。
その答えは明示されないままエンドロール。
最後の映像では気を失う一瞬を捉えたようにも見えるし、喜びに叫ぶ瞬間にも見える。
事態が起きた原因は言及しないし、生活基盤についても理由づけはない。当然、この世界がどうなっているのかということにも重きを置いていない。
ピンク色の毒ガスは、天災のようにも見えるし、なにかしらの陰謀が渦巻いているのかもしれない。
実は外は無害であり、ジョヴァンナたちはナニカに支配されているのかもしれない。
しかし、この映画にとって、その答えは重要ではないのだ。
「今、この場所で外に出られなくなったら、あなたならどうする?」を映像化したシチュエーションスリラーなのである。
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