無敵の男「ジョン・ウィック」を観たのはつい最近のこと。
しかし、今回はジョン・ウィック並み、いや、それ以上の強者を観てしまった。「SISU/シス 不死身の男」は2023年公開のフィンランド映画。
舞台は第二次世界大戦末期。ソ連や敗色濃厚のドイツに蹂躙された1944年のフィンランドの地。
老兵アタタミ・コルビは荒野で金塊を見つける。
その金塊を奪おうとするナチスドイツの戦車部隊からフィンランドに伝わるSISUの精神をまとい、無双する話。
ジョン・ウィックも泥臭い戦いを得意としているが、SISU シスもかなり強引。
ツルハシ、短剣、銃、ありとあらゆる武器を使いこなし、ナチスドイツに立ち向かう様は、かっこよさを超えて笑いすら出るほどだ。
ほぼ一本道の道程で、追われるシーンと反撃するシーンを描いたのは「マッドマックス 怒りのデスロード」も彷彿とさせるし、同じようにシリアスコメディのような展開でもある。
戦争という名のアクション映画で90分そこそこなので、時間はあっという間に過ぎる。グロ描写も含まれるので、直接的な表現が苦手な人は要注意。
また、こちらもビクビクして顔を背けたくなる地雷シーンなど、心臓の弱い人にはおすすめできない場面も多々あった。
総じて面白いという感想にはなったが、終盤では思ってたのと違う方向へ向かったのも事実。
ここでは映画「SISU/シス 不死身の男」について、SISUの持つ意味や、フィンランドの歴史観とともに映画の内容をネタバレ含めながら解説・考察していく。
SISU/シス 不死身の男
(2023)
3.7点
戦争、アクション
ヤルマリ・ヘランダー
ヨルマ・トンミラ
- 伝説の兵士がフィンランドでナチスドイツをバッタバッタ倒す
- 第2次世界大戦末期のフィンランドが舞台
- 不死身の老兵が活躍するグロ描写ありのアクション
- 北欧版ジョン・ウィック
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映画「SISU/シス 不死身の男」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
アアタミ・コルビ | ヨルマ・トンミラ |
ブルーノ・ヘルドルフ | アクセル・ヘニー |
映画「SISU/シス 不死身の男」ネタバレ考察・解説
SISU/シスの意味とは?
映画「SISU/シス」は、第二次世界大戦末期のフィンランドを描いた映画。老兵のアアタミの不死身っぷりを堪能するアクション映画である。
タイトルにもなっているSISU/シスとは、フィンランド語。この単語は日本語にしっくり当てはまるものもなく、正確に翻訳することは難しい。
冒頭のナレーションによると
- 緊迫した状況での勇気と想像できないほどの決意
- すべての希望が失われたときにやってくる
と定義されている。
また、人質のフィンランド人女性が以下のようにも言っていた。
- 諦めずに必ず戻って殺しにくる
- 不死身ではなく死ぬつもりがない
映画のタイトルに”不死身”とついているのは、ロシア兵がつけた異名でもある。
しかし、肉体的な強さよりも心の強さ、不死身なのではなく、死ぬことを拒否する精神力、諦めないのではなく行動力など、主に心の内面に向けた言葉である。
これは、フィンランドの代表的な言葉であり、たくましさを表している単語なのだ。
この映画だけ見ると、復讐や憎しみのために対象を根絶やしにするまで、粘りっこく喰らいつく精神力のような印象を受ける。しかし、実際はもっと平和なことにも使われる。
勇気と忍耐を持ち、シンプルに自然体で生きる、そんなフィンランド人の生き方の秘訣がSISUであり、そのSISUを育み、折れない心のつくり方が紹介されています。
よむエラマ
アアタミはシンプルに金塊を換金することを目的とし、途中で出会ったドイツ将兵に対してやられたからやり返しただけである。
そこを過度にフィーチャーされたため、トンデモアクションになっていったのだが、そんな暴力的な話でもないようだ。
現代に置き換えると生き方の考えや精神的な豊かさを指す言葉でもあり、日本でいう禅のような内なる心との対話のような意味を持つ。
誰にも負けない、己を諦めない不屈の精神を持つ男の話なのである。
フィンランドと第二次世界大戦
第二次世界大戦では、フランスやドイツ、イギリスなどの西ヨーロッパがフォーカスされがちで、北欧にはあまり触れられることはない。
しかし、フィンランドも第二次世界大戦やその少し前から戦争状態にあった国なのだ。
フィンランドは西側がスウェーデン、東側をソ連(現ロシア)に囲まれた国家であり、建国以前はロシア帝国領だった地域。
第二次世界大戦ではソ連と戦争をする中で侵略を防いで独立を維持した国家でもある。
1939年〜1940年 | 冬戦争 |
1941年〜1944年 | 継続戦争 |
また、ドイツとは直接的に戦争をしているわけではない。
しかし、冬戦争でフィンランドがソ連に負けたことにより、ソ連のさらなる侵攻を防ごうとする他の北欧諸国がドイツとの関係を深めたことで、ドイツ軍のフィンランド駐留も許すことになる。
そして、1941年にドイツがソ連に攻撃をしかけたことで、巻き込まれる形で戦争状態になってしまったのだ。
しかし、1944年にはナチスドイツの勢いは失われ、戦線は縮小し敗戦が濃厚になっていった。SISU/シスはその頃の話。
ナチスドイツは、敵国ではないフィンランドの国土を焦土にしつつ後退していったのだ。
不死身の男 アアタミ
SISU/シス 不死身の男は極限の第二次世界大戦下でSISUを体現した男の話だ。
アアタミは冬戦争を戦った男で、戦争により家や家族をロシア兵に殺されている。彼の憎しみはロシア人に向けられ、300名以上のロシア兵を殺した伝説の男だった。
金塊を見つけたアアタミが向かう先で、ナチス兵に出会う。フィンランドの国土を焦土にしつつノルウェーへ後退する最中のナチス兵だ。
アアタミはナチスドイツ兵に目をつけられ、金塊をとられて殺されそうになる。ここでこぶしを握る場面があるのだが、まさにSISU/シスが発動する瞬間だ。
ここからアアタミの無敵状態は最後まで続く。強いのではない。先に説明したように諦めるという言葉がなく、どんな状況下においても屈しないのだ。
戦車の砲撃を食らっても死なず、地雷原をものともせず進み続ける。
ちなみにチャプター2の地雷原では、馬が吹っ飛んだり、ナチスドイツ兵が爆死する瞬間が入る。グロいシーンも多いし、びっくりさせるシーンもあるため、苦手な方にはおすすめしない。
ドイツ兵は、ドイツ軍上層部に、伝説の男に手を出すなと言われていた。
それでもアアタミを追いかけたのは、ドイツが敗色濃厚で、このまま逃げ帰ったとて戦争犯罪人として殺される運命だということがわかっていたからでもある。
逃げるためには金塊が必要なドイツ兵は、逃げ続けるアアタミを追いかける。
しかし、弾丸をどれだけ食らっても死なず、ガソリンで火だるまになっても死なない。銃槍を自分で取り出し、傷をハガネのようなもので縫いつけ復活する。
最初は、物量的に逃げることを選択していたアアタミだったが、ドイツ兵が通った後では建物は破壊され、人々は皆殺しにされている光景を目の当たりにし、次第に怒りをつのらせていく。
中盤ではついにドイツ兵に捕まり、首をくくられる。しかし、傷口に鉄筋を差し込み、首へ力が入るのを避けることでここでも死なない。
そして、ドイツ兵から奪った飛行機で、ついに復讐の刃が向かうことになる。
アアタミは飛行機で先回りし、追いついた彼は一個小隊をものともせず、全員皆殺しにする。
隊長であるブルーノは仲間を犠牲にしながらも飛行機で逃げようとするが、飛行機の底にしがみつき、乗り込んできたアアタミによって爆弾とともに飛行機から落とされて爆死。
冒頭から無茶な展開ではあったが、飛んでいる飛行機にしがみついて乗り込む様はさすがに笑ってしまうほどである。
さらに、飛行機が墜落しても生きながらえたアアタミは金塊を紙幣に換金しようとしてハッピーエンド。
最初は、ギリギリありえなくはない範囲ではあったが、中盤以降で登場する首をくくられても生きているあたりからは、コメディ要素も入ったアクションに変わっていった。
リアルな戦争映画というよりは、「マッドマックス」のような無茶苦茶さが混じったような映画になっているため、トンデモ展開のように感じるところもある。
笑えない戦争映画が、どこかエンタメに昇華されてくところには戸惑いを覚えるものの、楽しめる映画だった。
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