「少女は卒業しない」は、2023年に公開された邦画。
卒業を前日に控えた高校で、4人の女生徒にフォーカスを当て、別れを前にそれぞれが抱える想いを形にしていく青春オムニバスストーリー。
人間の心の奥底をえぐっていくのがうまい朝井リョウ原作だが、思いの外ハートフルなストーリーに仕上がっていた。
若者は共感できる部分も多いだろうし、大人でも忘れかけていたあの時の気持ちを思い出してノスタルジーに浸ることもあるだろう。
彼女たちの抱えるマイナス面にフォーカスしながらも優しい雰囲気が現れた作品。
それぞれは独立した話だが、ところどころに繋がりが垣間見えるのもおもしろい。
少女は卒業しない
(2023)
3.5点
青春、ヒューマンドラマ
中川駿
河合優実
- 4人の女生徒による卒業式前の2日間を描く青春オムニバスストーリー
- それぞれの想いと、”別れ”をテーマに描いた作品
- 朝井リョウ原作だがハートフル強め
- 誰かの心を打ち、ノスタルジーにも浸れる優しい青春映画
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映画「少女は卒業しない」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
山城まなみ | 河合優実 |
後藤由貴 | 小野莉菜 |
神田杏子 | 小宮山莉緒 |
作田詩織 | 中井友望 |
佐藤駿 | 窪塚愛流 |
森崎剛士 | 佐藤緋美 |
寺田賢介 | 宇佐卓真 |
坂口優斗 | 藤原季節 |
映画「少女は卒業しない」ネタバレ考察・解説
少女たちの想いとは
(C)朝井リョウ/集英社・2023 映画「少女は卒業しない」製作委員会
4人の少女は、それぞれが内に秘めた想いを抱えている。高校生といえば、中学以上にみんながバラバラになっていくタイミングだ。
地元に残るものもいれば、進学のために長年住み慣れた土地を離れていくものもいる。働き始め、社会に出ていく者もいる。
それぞれの人生が大きく変わり出し、学校という小さな枠の中から外れるタイミングでは、大きな喪失感が生まれる。
良くも悪くも閉鎖的で、小さなムラ社会で生きている若者たちが、そこから飛び立とうとするタイミング。
彼女たちの悩みはもどかしくもあり、しかし、誰しもが通ってきた道ではないだろうか。
彼女たちは卒業しないのではない。心理的に卒業できない理由を抱えている。
作田は、クラスで話す相手もないまま浮いていて、図書室の先生に恋をしていた。ただ、何も気持ちを伝えることなく卒業を迎えようとしていた。
後藤は卒業後、上京しようとしていたが、彼氏の寺田は地元に残るため、離ればなれになってしまう。2人の関係はギクシャクし、そのまま卒業式が近づいてきていた。
神田は、卒業式後の軽音部のコンサートを成功させるための準備に忙しかったが、同時に同じ部の森崎への想いを抱えたままだった。
そして、山城は放課後の調理室で彼氏と仲睦まじく弁当を食べていた。しかし、山城の時折り見せる表情は、どこか寂しげだった。
高校生活は有限である。大人になりつつあるのに選択肢は限りがある。これが単純な卒業であったら、彼女たちの焦りや喪失感は、もう少し和らいでいたのかもしれない。
彼女たちが卒業した高校は、卒業式の翌日には取り壊しが決まっていたのだ。
小さな世界だが、彼女たちのすべてが詰まった学校に、行き場を失った想いを残すわけにはいかなかった。
「少女は卒業しない」は、彼女たちがその想いと向き合い、整理し、どのように決着をつけるかの物語である。
誰もが生きる上で経験する「絶対的な終わり」をいまどう捉えて物語に向き合うか、じっくり自分に問いながら臨みました。
Cinemacafe(河合優実のインタビュー)
卒業という絶対的で逃れようのない別れに向き合う少女たちが、どう自分の中で決着をつけて成長していくか。(中川監督)
neol.jp
原作では7人の生徒にフォーカスをあてるが、映画では4人にしぼりこみ、ストーリーを再構築した。登場人物の性格も変え、原作よりも別れを強調した作りになっている。
また、原作では卒業式の朝、卒業式、卒業式後のフェーズごとに各キャラクターの話が完結しているが、映画版では2日間でそれぞれの少女が想いをカタチにするまでを描いている。
原作の作田は陰キャではなかった
(C)朝井リョウ/集英社・2023 映画「少女は卒業しない」製作委員会
作田は映画の中で友達もいないまま卒業を迎える陰キャだった。しかし、原作ではもっと明るい雰囲気のキャラクターだったという。
この要素を取り入れたのは、学校にあまり馴染めなかった者もいるとした上でのキャラ設定だと中川監督は伝える。
中川監督と初めてお会いして話した時、監督が、この映画を観た人が登場人物の誰かに共感したり、感情移入してほしいと言っていたんです。
引用:装苑
作田は先生と出会うことで学校生活に救われてきた。貸してもらった本を大切にして、何度も読み返していた。
坂口先生の左手には指輪がついていることも知っていた。
映画の中の作田は、先生への想いだけでなく、学校生活が馴染めなかったことについて劣等感もあった。
先生はその気持ちを汲み取り、作田にクラスメイトに話しかけるように提案する。
作田は最後に勇気を振り絞ってクラスメイトに声をかける。周囲は作田のことを嫌っているわけではなかった。自らが動けば世界はいかようにも変われることを知る。
高校生活は決して楽しいものではなかったかもしれないが、自分の苦手意識に別れを告げ、1つ大人に近づいたのだ。
原作では後藤と寺田はケンカしていない
(C)朝井リョウ/集英社・2023 映画「少女は卒業しない」製作委員会
後藤と寺田は進路が違った。寺田は地元の大学へ、後藤は心理学を学ぶために東京へ行く予定だった。遠距離になってしまう2人はどこかギクシャクしたまま卒業を迎えようとしていた。
しかし、原作ではケンカはしていない。そのまま別れを惜しみ、仲良く学生生活を最後まで満喫しようとする。
遠距離が続けられる保証がないことを2人は理解していた。しかし、それでも最後までお互いを思いやり、相手を傷つけないように別れたのが原作。大人のやり取りに近い雰囲気に仕上がっている。
対して映画では、上京してしまう後藤を受け入れられない寺田が存在する。わざわざ遠くの大学へ行かなくても地元の学校に通えばいい。そのモヤモヤを抱えたまま、しかしはっきりと言えない状況が続きギクシャクする。
先に歩み寄ったのは後藤のほうだった。卒業式までモヤモヤした想いを抱えたままではカタチだけの卒業にしかならない。
意を決して電話したものの、明るく話す後藤に寺田は納得がいかない様子だった。離れていくのは後藤の方だ。という不満と、2人は別々の進路を進み、そのまま離ればなれになってしまうという確信もあった。
その怒りをぶつけてしまうことで、気まずいまま卒業式を迎えてしまったが、卒業式後、寺田の方から歩み寄る。
2人は花火をする。今年の夏は一緒に花火を見にいくことはないのだと2人とも感じていた。
決してハッピーエンドで終わったわけではないが、2人は現実を受け止め、卒業して別々の道を歩むことにした。
森崎の歌声を知っていたのは神田だけではない。
(C)朝井リョウ/集英社・2023 映画「少女は卒業しない」製作委員会
山城と駿が家庭科室にいるとき、駿が歌を口ずさむシーンがある。山城が歌のタイトルを聞くと、「部活をしているときにどこかから流れてきて覚えた」という。
これは森崎が最後に歌った曲であり、神田が独り占めしたかった歌声である。
神田は、中学の頃から森崎のことが好きだった。神田と同じ軽音部に所属していた森崎は、ヘブンズドアというエアバンドを結成していて、厨二病を患っていた。
「私だけが本当の彼を知っている」という点で、神田は密かな優越感に浸っていた。と同時に、森崎の良さを知らない人たちを見返して欲しいという気持ちもあった。
そこで神田は卒業後のライブに使うメイク道具や楽器を隠してしまうことで、森崎に素のままで歌わせることにした。
森崎が歌い始めると、からかっていた生徒の喧騒は消え、みんな本当の森崎を知る。
神田は、森崎に告白したかったのではなく、森崎の良さを届けたいという想いを形にし、独り占めしたい欲望に別れを告げたのだ。
なぜ駿は死んだのか?
(C)朝井リョウ/集英社・2023 映画「少女は卒業しない」製作委員会
山城のストーリーは、実は仕掛けがあったが、すでに駿は死んでいる。
最初に山城が家庭科室にやってきた時はまだ卒業式2日前だった。その証拠に、教室内を見渡すとチラッと大量の国旗が映っている。
そして、その記憶が現実世界と重なって駿が登場する。
この状況は、過去を映し出しているというよりも、その当時の思い出をリアルタイムでトレースしている。
駿は夏服だが、山城は冬服のままなのもそういう理由である。
だから、時折り見せる山城の表情は、決して幸せそうではない。どこにいても駿との思い出が蘇る校舎で大きな喪失感を抱えて生きている。
また、具体的な内容については詳しく語られなかったが、駿の死因は事故死である。窓枠に座っていた駿がバランスを崩したせいで転落したと原作に記述がある。
花火屋の人が「昨年は大変なことが起きた」と言っていたり、作田が「山城さんが、前に進もうとしているのに」と言ったのは、この事故のことを指している。
山城は、高校生活が終わり、校舎が取り壊されてしまったら、そこに駿を置いてけぼりにしてしまう気がしていた。
しかし、駿が口ずさんでいた曲を聴き、卒業式で言えなかった答辞を駿に向けて読む。こうして山城は駿に別れを告げ、先に進む決意をするのだった。
4人がそれぞれの想いに落としどころを見つけながら別れを告げる物語。決して後ろ向きではなく前を向いているのは、子どもから大人へ成長した証である。
映画の撮り方や将来を期待される若手俳優の登場もあって高評価なのも納得できる作品だった。
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