「ムーンライト」は2017年に公開された映画。A24とブラピ率いるプランBがタッグを組んだ映画であり、その年のアカデミー賞三冠をとっている。
ちなみに同じくタッグを組んだ「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」もおすすめ。地価の高騰によりサンフランシスコに住めなくなった黒人の悲しみを叙情的に描いている。
「ムーンライト」はマイアミの貧困地区で暮らす1人の男の半生を、幼少期、少年期、青年期と3つの時期に分け、彼のアイデンティティに迫った映画だ。
貧困とドラッグにまみれた町で生きる男の話にしてはいささか地味である。ではなぜアカデミー賞に選ばれるほどの作品だったのか。
それはこのタイトルの意味に隠されている。
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「ムーンライト」映画情報
タイトル | ムーンライト |
公開年 | 2017.3.31 |
上映時間 | 111分 |
ジャンル | ヒューマンドラマ |
監督 | バリー・ジェンキンス |
映画「ムーンライト」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
シャロン(幼少期) | アレックス・ヒバート |
シャロン(少年期) | アシュトン・サンダース |
シャロン(青年期) | トレヴァンテ・ローズ |
ケヴィン(幼少期) | ジェイデン・パイナー |
ケヴィン(少年期) | ジャレル・ジェローム |
ケヴィン(青年期) | アンドレ・ホランド |
ポーラ | ナオミ・ハリス |
テレサ | ジャネール・モネイ |
フアン | マハーラシャ・アリ |
フアン役のマハーラシャ・アリは2018年のグリーンブックで主演を演じ、これまたアカデミー賞に輝いている。
映画「ムーンライト」あらすじ
名前はシャロン、あだ名はリトル。内気な性格で、学校では“オカマ”とからかわれ、いじめっ子たちか ら標的にされる日々。その言葉の意味すらわからないシャロンにとって、同級生のケヴィンだけが唯一の友達だ った。高校生になっても何も変わらない日常の中、ある日の夜、月明かりが輝く浜辺で、シャロンとケヴィンは初 めてお互いの心に触れることに・・・
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映画「ムーンライト」ネタバレ考察・解説
シャロンの自己肯定の物語
あなたは自分を愛せているか?
この問いに自信を持って「はい」と答えられる人は何も問題ない。そして多分この映画を見ても何も響かないだろう。ただ、こういう人たちがいるということを心に留めてくれればいい。
自信を持って答えられない人。例えば私もその1人だけれど、もしそうなら、じっくりと考えてみて欲しい。この映画が持つ強い想いを。
シャロンは貧しい家庭で育ち、母親は身体を売り、コカインに手を染めていた。気まぐれに愛しているというが、シャロンに親の愛情を受けているという認識はなかった。
母親から受けた「私を見るな」という拒絶の言葉がずっと心に巣食っていて、それはトラウマになっているのだ。
これが自己肯定感が育たない要因の1つ。
自己肯定感というものは家庭だけ育たない。外の環境も重要だ。しかし、シャロンは仲間からいじめを受けていた。(faggot)女っぽいとからかわれ自身のセクシャリティを否定される。
彼は幼少期は自分がゲイだとは認識していなかったけれど、周囲から指摘されることで自分が他の人と違うとなんとなく理解していた。そしてそれは良くないことなのだと考えてしまっていた。
幼少期、少年期は自己否定の塊として描かれていくのだ。
これはシャロンの自己理解の話であり、だからこそ少し地味に映る。それが「ムーンライト」という映画なのだ。
「ムーンライト」とタイトルの意味
一方で彼を肯定してくれる光もあった。ドラッグディーラーのフアンとテレサ、そして同級生のケヴィンだった。それは月の光(ムーンライト)のように儚いけれど、確かな希望だった。
しかし、シャロンはフアンがドラッグディーラーであることを知り、それを母親が買っているという事実を知ってしまう。
追い討ちをかけるようにフアンが亡くなり、彼をかろうじて支えていた肯定感はまた暗闇の中に潜っていく。
それでもまた僅かな光を見せる。高校生になったシャロンは自分のセクシャリティにも気づいていた。ケヴィンと浜辺で話しているとただならぬ雰囲気になり、シャロンとケヴィンはキスを交わし、性的な行為をする。
夜の浜辺で月の光が輝く夜に、またわずかな希望を見出す。
しかし、悪いことにシャロンをいじめていた中心人物はケヴィンに対して、シャロンを殴るように命じる。周りに流されて生きてきたケヴィンはその命令に逆らえず、シャロンを殴る。そして2人の関係は壊れてしまう。
わずかな光を断ち切られたシャロンは憎しみとともに、いじめていた同級生を殴り、少年院に入ってマイアミを、離れることになる。
結末の意味 ケヴィンはシャロンを否定する
大人になり、彼はfaggotとからかわれていた過去を捨てるかのような屈強な男になっていた。
金のネックレス、金歯、豪華な車にフロント部分にはフアンも持っていた王冠を乗せて。ブリンブリンという言葉がよく似合うギャングスタになっていた。そして、過去の自分を彼自身が否定するようにもなっていた。
でも一方で心の中は今もなお、母親の言葉に囚われたままだった。
そしてある日、過去を知る2人の人物と会う。
母親とケヴィンだ。
自己肯定感を持てなかったシャロンが無理矢理自分自身を捨てて虚勢を張りながら生きてきたのに対して、2人はそれを見抜いて否定する。
過去、彼に愛情を注がなかった母親はドラッグから抜け出し施設で更生していた。彼がずっと欲しかった心の底からの「愛している」という言葉。母親はシャロンそのものを肯定するようになっていた。
ケヴィンと再会したシャロンは自分がドラッグディーラーになったことを打ち明ける。けれどもケヴィンもまた否定するのだ。「それはお前じゃない」と。
そして再びシャロンは自分を取り戻していく。彼はケヴィンを愛している男で、女みたいなんて言われていてもそれを含めてシャロンなのだ。人に言われて道を決めるな、自分自身で決めろというフアンの言葉と共に。彼には月の光が当たっている。
ケヴィンが作ったキューバ料理
シェフスペシャル。
ケヴィンがシャロンに作った料理はキューバの料理で、ライム風味の鶏むね肉グリル、ブラックビーンズ、ローズマリーのリゾットで構成されている。
この料理を作るシーン。ここにケヴィンがシャロンのことを大切に想う気持ちがふんだんに現れている。人の心を料理を見るだけでしっかりと伝わる手法も素晴らしいし、だからこそ料理がめちゃくちゃ美味しそうに見える。
映画「ムーンライト」ネタバレ感想
初見では、どういう話か分かりにくく、マイアミという地もあまり日本に馴染みがなくて混乱する部分もあるけれど、じっくり考えてみると日本人とかアメリカ人とか関係ないことがわかるはずだ。そしてシャロンはゲイだったけど、LGBTの人権に関する話でもない。
「ムーンライト」は、もっと大きなアイデンティティ(自己認識)の話だ。
そういう目線で見るとこの映画を深く理解できるようになる。
シャロンが弱かろうが、強かろうが、女みたいだろうが、ゲイだろうが、その全てを構成するのがシャロンであって、そこに他人の偏見や意識は関係ない。自分は自分であり、そこに肯定も否定もないはずなのだ。
でもこの他者からの影響を受けないようにするには自己肯定感がとても大事で揺るぎない信念がないと、簡単に自分を見失う。
ラストで彼は自分自身と向き合うことができたけれど、これから先も迷いながら進むのかも知れない。
この映画を見てもう一度胸に手を当てて聞いてみたい。
「あなたは自分を愛せているか?」と。
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