「ハニーボーイ」は、2020年の映画。アメリカの俳優、シャイアラブーフの自伝映画であり、本人が脚本を務めている。
ラブーフの青年時代と、幼少時代が交差し、彼のPTSDの原因を探っていくヒューマンドラマ。
ラブーフ自身がアルコール依存症の治療の一環として書いた脚本を友人のルーカス・ヘッジズが映画化した。
父親との確執を単純な社会問題の提起として捉えるわけではなく、子供の想い、父親の想いが詰まったエモーショナルな映画だった。
78点
「ハニーボーイ」映画情報
タイトル | ハニーボーイ |
公開年 | 2020.8.7 |
上映時間 | 95分 |
ジャンル | ヒューマンドラマ |
監督 | アルマ・ハレル |
「ハニーボーイ」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
オーティス | ルーカス・ヘッジズ |
オーティス(子供時代) | ノア・ジュープ |
ジェームズ | シャイア・ラブーフ |
シャイガール | FKAツイッグス |
トム | クリフトン・コリンズ・Jr |
「ハニーボーイ」あらすじ
ハリウッドで人気子役として活躍する12歳のオーティスは、いつも突然感情を爆発させる前科者で無職の“ステージパパ”ジェームズに振り回される日々を送っていた。そんなオーティスを心配してくれる保護観察員、安らぎを与えてくれる隣人の少女、共演する俳優たちとの交流の中で成長していくオーティスは、新たな世界へと踏み出すのだが──。
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「ハニーボーイ」ネタバレ感想・解説・考察
ただのネグレクト映画ではない
父親は、自分の息子が仕事をして、そのお金と息子経由でもらえる仕事で生活をしていた。
酒に溺れ、クスリをやり、前科まで経験している、まぁいわゆるロクデナシの存在だ。
子どもの意見を聞かずに、自分の意見を押しつけ、ときには激しく罵り、暴力までふるう。
これだけ聞けば、いかにイカれた父親なんだと思うだろう。ネグレクトをテーマにした社会派の映画だと。その環境下で育ってしまったオーティスが半グレして酒に溺れて施設に入ることになったのだと。
しかし「ハニーボーイ」は少し違う。社会問題を提起するでもなく、ありのままの家族を描いているだけだ。
これはそもそも主人公の元となるシャイア・ラブーフがアルコール依存症克服のために書いた脚本であり、映画化する予定がなかったからだろう。だからこそ、人の日記を読んでるみたいにエモーショナルな気分にさせてくれるんだ。
虐待なんておぞましく、憎むべき行為だけれど、そんなことをこの映画では伝えない。憎悪も愛情もすべて人間の中にある感情のひとつであり、それを現実として描いてる。
父親に悪意を向ける映画でもない
父親だって単に子どものお金が目的なのではない。彼もまた人生につまづいて苦しみながら、自分の子供に劣等感を感じながら、プライドばかり高くて素直になられないのに、それでも子供を愛したいと思っている。
それでも、心の中に芽生える怒りの感情を抑えきれずにいつも何かに腹を立てている。
映画の中のようにはっきりと自分の感情をストレートに伝えることができない不器用な人間だ。
「そんなことで虐待を肯定することはできない」、「同情を引こうとするな」という意見はもっともだし、映画内でも父親の行為は肯定されていない。
ある日は優しく、ある日は暴力を振るうのは、虐待する人間の典型的な行動だ。
でも父親の行動を見ると少し気持ちが分かる気もする。
あなたは本当に「ハニーボーイ」の父親と違うと言えるのか?
私にも子どもがいる。自分の子どものことを、殴るなんてことはしないけれど、当然叱ることはある。つい言い過ぎてしまうこともある。叱るのではなく怒ってしまうことだってある。
怒りの感情が治まる頃には自責の念に駆られることもしばしばだ。
ムダなプライドで素直になれない時だってあるし、圧倒的な力を持つ父親という存在に、プレッシャーを感じることもある。そしてその力が子どもの意見を踏み潰している気さえする。
私自身がそう思ってなくても、子どもがそう感じることだってあるかもしれない。そしてそれはまだ、世界を知らない子どもたちには父親が真実であり、正義であるから強大な力を前にしてどうすることもできないのだ。
客観的に見たら父親の行為は許しがたいけれど、本当に私はオーティスの父親と違うとはっきりと言えるのか?
どんなに邪険に扱っても、子どもは親の愛情を欲する。何を言っても慕ってくる子どもを見て自分は正しいと思い込んでいないか?子どもが何を思っているのか考えているのか?
映画にそう言われている気がした。
しかし、一時的に優しい心を持てたとしても、これもまた父親と同じなんだ。
今反省しいても怒りはどこからかまたやってきて自分の心に巣食うのだ。
人間はそのバランスの中に生きていることを忘れてはいけない。
誰だって腹なんて立てたくないのにね。
「ハニーボーイ」の結末
ラストシーン、父親が仕事で使っていたニワトリを見つけて追っていく。するとオーティスが昔住んでいた家に到着し、そこでピエロに扮した父親を見つける。
PTSDの原因である父親との確執に向き会い、怒りの感情と向き合う。
父親だって腹を立てたくない。そう思っていた。でもどうしようもなく腹を立ててしまうことを知る。
全てを受け入れてオーティスは前に進んでいく。
この父親は映画の中では幻影として扱われているけれど、この映画が公開された後、シャイア・ラブーフは絶縁していた父親と再会したらしい。
子どもを愛し、尊重する気持ちを忘れないように、また子どももまた愛を欲していることを再確認するように定期的に見たい映画だ。
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子は愛を求め、父は夢を追う。その関係性も見える映画
シャイア・ラブーフが出演している「ピーナッツ・バター・ファルコン」。
ダウン症の青年と兄を亡くした男が、憧れのレスラーに会いにジョージア州サバンナの沿岸を旅しながら仲良くなっていくロードムービー。
人間関係に疲れたときにちょうどいい。心温まる映画。
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