「ハッチング」は2022年のフィンランド映画。SNSで発信するために幸せな家族を演出することに熱を込める母親と、その家族に訪れる悲劇を描く。
母の言うことに逆らえず、言いなりになるしかないストレスと、それでも母の愛情を受けたい子ども心の思春期をホラー調に置き換えて演出。
なんとも言えない物悲しい気持ちになるとともに、ねっとりまとわりつく不快感も得られる映画。
ここでは、ティンヤが孵化させた卵の正体と、ラストの結末について詳しく考察・解説を行う。
ハッチング-孵化-

2022.4.15
86分
フィンランド
ハンナ・ベルイホルム
シーリ・ソラリンナ
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映画「ハッチング-孵化-」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
ティンヤ | シーラ・ソラリンナ |
母親 | ソフィア・ヘイッキラ |
父親 | ヤニ・ボラネン |
テロ | レイノ・ノルディン |
映画「ハッチング-孵化-」あらすじ
北欧フィンランド。12歳の少女ティンヤは、完璧で幸せな自身の家族の動画を世界へ発信することに夢中な母親を喜ばすために全てを我慢し自分を抑え、体操の大会優勝を目指す日々を送っていた。ある夜、ティンヤは森で奇妙な卵を見つける。家族に秘密にしながら、その卵を自分のベッドで温めるティンヤ。やがて卵は大きくなりはじめ、遂には孵化する。卵から生まれた‘それ’は、幸福な家族の仮面を剥ぎ取っていく・・・。
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映画「ハッチング-孵化-」ラストの意味を考察 ネタバレ解説
ティンヤが孵化させた怪物の正体
(C)2021 Silva Mysterium, Hobab, Film i Vast
ティンヤが卵を温めて羽化させた化け物はなんなのか。その答えはティンヤの心の中にある。
母親が想う理想の家族像に応えるために友達とも遊ばず、日々体操に明け暮れる日々。しかし唯一の拠り所であるはずの家族は仮面家族だった。少なくとも母親にとって夫はSNSに必要な存在でしかないし、
母親には不倫関係の男、テロもいて、そちらの方が本命だった。
精神が不安定な状態で、ティンヤが見つけたのが母親が殺したカラスの卵。ティンヤはその卵を持ち帰って孵化させる。
一見するとティンヤが親のような存在感に見えるが、あの怪物は、ティンヤのもう一つの姿である。
はじめは完全なる異形の姿であったものの次第にティンヤそっくりに変化していくのは、養分がティンヤの体内液が混じった嘔吐物や血だからである。
アリーと名付けられた怪物は、ティンヤの一部を食べることで、髪の毛は金髪になり、肌が形成されていく。コピーロボットのように風貌が似ていくのだ。
アリーが危害を加えた理由
(C)2021 Silva Mysterium, Hobab, Film i Vast
アリーが行うすべての攻撃は、ティンヤにとってストレスになることを取り除くと言う目的に基づいている。ティンヤとアリーは一心同体であり、アリーが傷つけばティンヤが傷つくし、アリーが刺されればティンヤにも影響がある。
そしてそれは、ティンヤが受ける心的ストレスも同じである。アリーは夜中に吠える犬を殺したが、アリーがイラついたと言うよりも、ティンヤの苦しみが伝わったからだ。ティンヤの心的ストレスは、そのままアリーにもつながっているのだ。
他にもアリーが攻撃をした対象を見ると興味深いことがわかる。
夜中に吠えていた隣人の犬を殺した
埋めた犬を掘り返した弟に危害を加えようとした
競技会のライバルを再起不能にした
テロの子どもに危害を加えようとした
主な原因のもとはほとんどが母親に対するストレスである。母親にとって家族はSNS映えすることが重要で、ティンヤはその道具にされていると感じている。そこにいる父も弟もすべてにおいて、カメラを通じて愛情を得たニセモノっぽさが漂っている。
仮面家族のような家の中で、ティンヤは母親から受ける愛情が足りていないのだ。
犬の件を母親にチクった弟にも危害を加えようとしたし、ライバルは競技会に出る前に傷つけた。
競技会でレギュラーを勝ち取らなければ母親のSNS映えは完成しない。その期待に応えなければならないストレスがモンスターを生み出したのだ。
しかし、そのキバは母親に向くことはない。ティンヤのストレスからくる行動は、操ろうとしている母親に向けることはなく、その周囲の者に及ぶのである。
ライバルを傷つけたのは母親の期待に応えることを優先した結果であり、テロの赤ん坊に危害を加えようとしたのは、母親が赤ん坊に向ける無償の愛に嫉妬したからである。
弟が無事だったのは、家族としての愛情がまさっていたこともあるだろうが、それ以上に母親の愛情がいかにフェイクであったとしても、ティンヤの方が寵愛を受けていたことを知っているからだ。
ラストでなぜ母親は殺されないのか?アリーはどうなったのか?
(C)2021 Silva Mysterium, Hobab, Film i Vast
ここまでくるとわかる通り、ティンヤは母親に対して負の感情をまだ抱いていない。愛情を欲するがゆえのストレスを抱えているため、それを阻害する原因を取り除こうとする。
アリーが母親と接触したのは2回。寝ている隙に忍び込んだことと、ラストシーン。このとき、母親は足に掴まれたような痕をつけられ、ラストでは爪を深く立てられている。しかし、これは攻撃行動ではなく、愛情を欲するがゆえの行動だ。深く爪を立てたのは傷つけようとしての行為ではない。
ティンヤは母親を恨んでいるのではなく、ただ愛情を必要としているだけなのだ。
ティンヤが周囲を傷つけるアリーを守り続けたのは、アリーが母性本能のような心を持っていたからであろう。
本当の意味で孵化したのは、アリーがティンヤの血を飲むことで、生まれ変わった場面である。
ティンヤにとってアリーは二重人格のようなものである。ティンヤのストレスをアリーという人格が代わりに除こうとしてくれる。
そしてラストでは、主人格が消えてアリーがティンヤに成り代わるのだ。

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