アシスタントは2023年の洋画。
映画プロデューサーになることを夢見て大手企業で働き始めた女性が、心を打ち砕かれていく日々のある1日を切り取った作品。
「MeToo」運動を覚えているだろうか。アメリカの映画業界をきっかけにはじまり、様々なセクハラを訴えたこの運動は、多くの闇を暴くきっかけにもなった。
そのきっかけとなった事件の内部を描いたのが「アシスタント」である。
ドキュメンタリーのように描かれているが中身はフィクション。その業界の中で働いていた数々の人々や被害者に聞いてできあがったのが主人公のジェーンという存在である。
1極に集中した権力は、外へ拡散しにくい。権力の傘の下で働く人々は一歩出れば、そこがきな臭さで充満していることを知っている。彼らは自分たちの保身と安定のために気づかないフリをするようになる。
#Metooの事件となる暴行事件の発端と、この映画が表現した世界観を解説・考察していく。
アシスタント
(2023)
3.4点
ヒューマンドラマ
キティ・グリーン
ジュリア・ガーナー
- 2017年の#MeToo運動のきっかけとなった映画業界の性暴力事件
- 新人アシスタントのある1日を描く
- なぜ巨大な権力の下では事件が発覚しにくいのか
- 実話ベースのフィクション
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映画「アシスタント」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
ジェーン | ジュリア・ガーナー |
ウィルコック | マシュー・マクファディン |
シエナ | クリスティン・フロセス |
ルビー | マッケンジー・リー |
男性アシスタント | ノア・ロビンス |
ドナ | ダグマーラ・ドミンスク |
チーフ・アシスタント | プルヴァ・ベディ |
映画「アシスタント」ネタバレ考察・解説
実際にあった性的暴行事件の証言から作られた映画
(C)2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved.
「アシスタント」は、実際にあったハリウッド大物プロデュサーの性的暴行事件が題材となっている。
モデルになっているのは、ハーヴェイ・ワインスタイン。
制作会社ミラマックスを経営し、「恋におちたシェイクスピア」「グッド・ウィル・ハンティング」などのアカデミー賞作品を受賞し、数々の映画を成功させてきたハリウッドの大物プロデューサーである。
しかし、2017年にハーヴェイ・ワインスタインは、性暴力の告発を受ける。SNS上でMeTooのハッシュタグをつけてセクハラや性暴力の告発が世界中で巻き起こったのは記憶にも新しい。
同じくこの事件を扱った映画「SHE SAID/シー・セッド」では、スクープを暴露したニューヨーク・タイムズの記者目線になっているが、これは内部にいて実際に被害を受けていたアシスタントの話。
告発者の中にはハーヴェイに近いアシスタントの証言がいくつもあったという。
監督のキティ・グリーンは「アシスタント」を制作するにあたり100人近くの人々にインタビューしている。ハーヴェイの会社で働いていた人や、ミラマックスの各部署にいるアシスタントにも声をかけ、映画に出てくるような話を何度も聞いた。
それらをもとに創られたフィクションが「アシスタント」である。
キティ・グリーン監督は、ドキュメンタリーを得意とする監督であるが、「アシスタント」では数々の証言をもとに創られたモデルをフィクションとして制作された形だ。
ほぼ実体験に基づく主演のジェーンというキャラクターは、ミラマックス内部の実態を表した仮想ドキュメンタリーだ。
新人アシスタントの1日を映し出す
(C)2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved.
映画は、配属されて5週間程度の新人アシスタント・ジェーンのある1日にフォーカスし、会社内部で起きている実態を取り上げる。
ジェーンはまだ日が昇る前に出勤し、誰よりも早く会社に到着する。前日は休日だったが、ジェーンに休みはない。
同僚はしっかりと休みをとるものの新人女性アシスタントは家族や友人と連絡をとる時間もないほどだった。
しかし、多忙なわりに仕事内容はとて残念だった。まだ配属されて5週間とはいえ、おおよそまともな仕事はさせてもらえていない。
- 印刷
- 部屋の掃除
- スケジュール調整
- 電話応答
- 会長の妻の相手
同じ部署には上司と同僚の2人の男がいるものの、特に指示が与えられるわけではない。また、会長の妻からのクレーム電話など、面倒な役割は新人に押しつけられていた。
プロデューサーを夢見たジェーンは、その未来像を描くにはほど遠かった。
休日は友達と会う時間さえなく、親の誕生日を忘れるほど忙しい。
名門大学を卒業した彼女は、親からも誇らしげに扱われる。仕事が忙しく夜が遅いことにも理解を示してくれていたが、ジェーンはその実態を言えないでいた。
その優しい言葉は、刃となってジェーンの心に深く突き刺さっていく。
実際はただの雑用だ。なぜこれほどまでに忙しいのか分からない。食事は会社の給湯室でシリアルを食べる程度。
この仕事内容では、映画業界にいることすら伝わらない。
ここまで雑用が多いのは、新人だからというだけでなく、性別的な差別も多く関係しているという。
センシティブなセクハラ表現があるわけではない。しかし、確実にジェーンの表情からは感情が消えていることがわかる。
絶対的権力の存在の姿が見えない理由
(C)2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved.
モデルとなったハーヴェイであるが、その姿や名前は映画に出てこない。
壁越しに話している声や、電話口の怒鳴り声、たまに後ろ姿が見切れる程度しか出演しないため、どんな図体でどんな恐ろしい顔をしているのかもわからない。
だが、確実にジェーンを追い詰めていくおぞましいパワーが存在する。
空気のように見えない存在であるが、会社全体が不穏な力が働いているのははっきりとわかる。
特に、新人アシスタントのジェーンの背後にかかるプレッシャーはとてつもない。
映画の中ではすべて「彼」で表現される。しかし、彼の名前を出さずとも「あうんの呼吸」で会話が成り立つのは、会社の中での影響力が絶大だからである。
ジェーン自身はセクハラはされていない。代わりに、彼の部屋に見つかるイヤリングや注射器(精力増強剤)などで、ナニカが行われている不穏な空気を表現する。
また、新しく入った新人アシスタントは、元ウェイトレスで声をかけられて入社した。到着するやいなや高級ホテルに招待される。その間、会社に彼の姿は見えない。
状況証拠だけだが十分すぎるほどにハラスメント行為が垣間見える。しかし、そのことをジェーンが相談しても人事は取り合わない。
なぜ犯罪は公になりにくいのか
(C)2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved.
ここまでわかりやすいシチュエーションが揃っているのに、この問題が2017年になるまで公に出てこなかったのは、隠蔽工作をしていただけでなく、社員たちの見て見ぬフリをする行動にある。
ジェーンの先輩や上司は同じオフィスで働いているのだから当然知っているはずだ。しかし、彼らは何も行動しようとしていない。
ジェーンが彼に対して謝罪のメールを入れるときだけアドバイスするのは、自分たちに火の粉がとんでくることを避けたいからである。
それ以外は無関心である。他部署の人間たちも彼の人間性や卑劣な行為を知っていながらも指摘しない。
絶大な権力の中で身を守るため、社員は気づいていないフリをすることにうまくなっていく。
人事は、「会社にいたいのに告発するのか?」と、セクハラの実態を訴えるジェーンに対して信じられないといった表情をする。
それを告発したことは、ジェーンの上司や彼の元にも届く。正しいことをしたはずのジェーンは、厄介者として見られてしまう。
彼らにとって被害を受けている女性は赤の他人だ。
世間では名作を数々と生み出している敏腕プロデューサーの傘の下で、少なからず恩恵を受けている職場の人間たちは積極的にその地位をおびやかすようなことはしない。
気づかないふりをしているのは、安定した生活をしたいが、犯罪には加担したくないという防衛本能によるものである。
犯罪の片棒はかつぎたくない。しかし、会社を告発することはしない。気づかないフリをし続けることで、彼らは自分自身を守っている。だからこそ表沙汰にもなりにくい。
絶対的な権力構造があるとこういう弊害が生まれやすい。
ジェーンは、映画の中で何度かエレベータに乗るが、会社でのジェーンの孤独感を表している。
映画が好きで、それに関わる仕事がしたいと勉学に励み、期待に胸を膨らませて入ったこの世界は想像していたものと全く違っていた。
この映画の中でジェーンが微笑むようなシーンは一切ない。怒りとも悲しみとも違う、完全に無の表情が彼女のストレスを残酷なまでに表現している。
セクハラ・性暴力という強い言葉がフィーチャーされがちであるが、ジェーンのようにセクハラの被害は受けていなくても心は確実に潰されていく。
トップが生み出す負の影響力は社員全体に広がり、新しく入るものを包み込んでいく。暗くて汚いと知っていれば順応も可能だが、ジェーンのような何の準備もない人間は一気に毒され生気を抜かれる。
それらを表現したのが「アシスタント」である。
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