「アンモナイトの目覚め」は2021年の映画。
19世紀のイギリスを舞台に過去に世紀の発見をした女性考古学者の生き様をフィクションを交えて描いた映画。
会話が少なくて、背景も多く語られない映画なので、楽しむべきは役者の表情による演技と、間の取り方の美しさだ。
アカデミー賞にもノミネートされた芸術的な映画。
ただ、物語の背景を知らないととても地味な映画に映ってしまう。
この時代の発見がいかにすごいのか、そしてなぜメアリーは貧乏な暮らしを強いられているのか。
しっかりと歴史を知った上で彼女たちの表情を堪能するとより楽しめる。
56点
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「アンモナイトの目覚め」映画情報
タイトル | アンモナイトの目覚め |
公開年 | 2021.4.9 |
上映時間 | 120分 |
ジャンル | 恋愛 |
監督 | フランシス・リー |
映画「アンモナイトの目覚め」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
メアリー・アニング | ケイト・ウィンスレット |
シャーロット・マーチソン | シアーシャ・ローナン |
エリザベス・フィルポット | フィオナ・ショウ |
モリー・アニング | ジェマ・ジョーンズ |
リーバーソン博士 | アレック・セカレアヌ |
映画「アンモナイトの目覚め」あらすじ
時は 1840 年代、舞台はイギリス南西部の海沿いの町ライム・レジス。主人公は、人間嫌いで、世間とのつながりを絶ち暮らす古生物学者メアリー・アニング(ケイト・ウィンスレット)。かつて彼女の発掘した化石は大発見として一世を風靡し、大英博物館に展示されるに至ったが、女性であるメアリーの名はすぐに世の中から忘れ去られ、今は土産物用のアンモナイトを発掘しては細々と生計をたてている。そんな彼女は、ひょんなことから裕福な化石収集家の妻シャーロット(シアーシャ・ローナン)を数週間預かることとなる。美しく可憐、何もかもが正反対のシャーロットに苛立ち、冷たく突き放すメアリー。だが、次第にメアリーは自分とはあまりにかけ離れたシャーロットに惹かれていき――。
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映画「アンモナイトの目覚め」ネタバレ感想・解説
アニングは考古学のパイオニア的存在
まず最初に知っておきたいのは、アニング氏はめちゃくちゃすごい人なのだということ。
映画だけの知識しかないと、子どもが珍しい化石を発見して騒がれたぐらいの印象を受けてしまうけど、19世紀にイクチオサウルスの化石を発見したことがどれほど偉大だったのかは知っておいた方がいい。
アニングの父親は家具職人のかたわらに化石を収集して売ることもしていた。アニングもたびたび父親の化石掘りについて行ってたけれど、彼女が若い時に父親が急死してしまう。
それから、借金を返済するためにアニングは化石発掘を継続した。
そこで発見したのがイクチオサウルスだった。
イクチオサウルスという存在が認知されていない時代の発見だ。新種の恐竜を発見したわけなので世紀の発見だということを頭に入れておく必要がある。
そして1823年には初めてのプレシオサウルスの骨格を明らかにするなど、数々の化石を発見した業績がある人なのだ。
そしてもう1つ、「アンモナイトの目覚め」は、ダーウィンの「種の起源」の半世紀も前の話なのだ。
つまり、まだこの時代は生物が進化を繰り返してきたという進化論は存在せず、神が世界を創ったのだと考えられていた。
化石に関する知識をろくに学校教育も受けられない時代に、アニングは独学で知識を習得し、色々な初の化石を発掘し、生物は進化を繰り返していたのだということを知らせるきっかけになっていたのだ。
ちょっと珍しい化石を発見しただけではないことをお分かりいただけただろうか。
そして映画の中でシャーロットの夫が来たように、アニングは名の知れた存在だった。旅行者がアニングの化石を買いにわざわざ来るほどだ。
ではなぜ、映画の中では貧乏暮らしを強いられて、目立たない存在になっていたのか。
それが性別や階級の問題にかかってくるのだ。
当時のイギリスは階級社会であり、もちろん今でも男女平等が叫ばれているぐらいなので、200年も前の時代は圧倒的に男性優位社会である。
彼女に教えを請いに、何人もの科学者たちが訪れて著書を出版しているけれど、アニングの名はそこに一切載っていない。
だからアニングは名誉を一切手にいられず、ひたすらお金のために化石を集めて売ることを繰り返している。
この報われない苦しさが、彼女と他人との関わりを隔てたきっかけにもなっている。
そしてそんな自分の殻を破ってくれたシャーロットに惹かれると同時に、ラストシーンの確執へと繋がっていくのだ。
今の日本人的価値観でこの映画を見てはいけない。
だって、10人子供を産んだのに2人しか大人になれないなんて、現代日本ではほぼあり得ないことなのだから。
シャーロットはただの上流階級女性ではない
そしてもう1つ。メアリーの心を変化させた重要人物のシャーロット。
上流階級にいるろくに家事もできない女性として映らなかっただろうか。流産しているせいで最初はひどく精神的にダメージを受けているため、とても頼りない人物に見えた。
でも彼女も実は夫の仕事の成功を助けた重要人物だということを知っておくべきだ。
夫の地質学の研究による数々の功績はシャーロットの助けなくしてなし得なかったと言われており、その能力はかなり卓越していたのだ。
しかしこの映画はあくまでアニングとの情事について描かれるので、彼女の情熱的な部分以外は全く見えない。
アニングとシャーロットの関係はフィクション
そして重要なのがこの物語の核となるアニングとシャーロットの関係だが、これは証拠は全くない。
アニングとシャーロットが出会い仲良くなったことは事実だし、一緒に化石を取りに出かけることもあったらしい。けれどもそこに、恋愛関係にまで発展した事実は確認されていない。
「アンモナイトの目覚め」がアニングの偉業の部分にスポットを当てるのではなく、その陰の部分にスポットを当てて当時の階級社会、男性優位社会のリアルを描いたところが生々しい。
これだけの偉業を成し遂げて、なお光の当たらない暮らしを過ごした女性の一生にフォーカスを当て、それを恋愛に昇華させることで、芸術的な映画として、そして社会的メッセージのある映画として成功している。
どれだけすごい発見をして、いかに当時の科学者たちに総スカンされたのかを描くよりも、メアリーの貧困と人に対する劣等感を見せつけることで、私たちに近い1人の人間として魅力ある描き方がされている。
それこそがこの映画の評価される点だ。
ケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナンの表情による演技を堪能するだけでも申し分ないが、やっぱり細かな背景を知ることが、映画への理解をより深め、面白いものにしてくれると信じてこれを記載する。
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