映画「スーパーノヴァ」は2021年公開のイギリス映画。
今年、アカデミー賞を受賞したアンソニー・ホプキンスが主演の映画「ファーザー」と同じく認知症を描いたのが「スーパーノヴァ」だ。
「ファーザー」が認知症という病気の深刻さを患者の視点から描いたのに対して、「スーパーノヴァ」は認知症がもたらす深い悲しみと喪失感を表現している。
脳の病気として同じ認知症という括りで語られるが、実は2つの作品はそれぞれ別で症状も結構異なる。
たびたび出てくるイギリスの田舎町風景も新鮮で、アメリカの「ノマドランド」のような壮大さは少ないけれど、美しさは負けていない。
というわけで「スーパーノヴァ」についてネタバレあらすじ・感想を書いていく。
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「スーパーノヴァ」映画情報
タイトル | スーパーノヴァ |
公開年 | 2021.7.1 |
上映時間 | 95分 |
ジャンル | ヒューマンドラマ |
監督 | ハリー・マックイーン |
映画「スーパーノヴァ」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
サム | コリン・ファース |
タスカー | スタンリー・トゥッチ |
ティム | ジェームス・ドレイファス |
リリー | ピッパ・ヘイウッド |
映画「スーパーノヴァ」あらすじ
ピアニストのサムと作家のタスカーは、ユーモアと文化をこよなく愛する20年来のパートナー。ところが、タスカーが抱えた病が、かけがえのないふたりの思い出と、添い遂げるはずの未来を消し去ろうとしていた。大切な愛のために、それぞれが決めた覚悟とは――。
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映画「スーパーノヴァ」ネタバレあらすじ
ピアニストのサムと物書きのタスカーは2人で暮らしていた。2人は恋人であり、キャンピングカーでイングランドの北部を旅していた。サムのピアノコンサートに向かうためだ。
サムが運転し、タスカーがナビを務めていた。タスカーはナビが嫌いだった。代わりにアナログの地図を見ていた。
サムは頭にメガネをつけたことを忘れてメガネを探すタスカーに優しく指摘し、ナビが嫌いなタスカーのために代わりに音楽をかけながら道中を進んだ。
途中で立ち寄ったレストランで、ピアニストのサムに気づいた店員がいた。タスカーは店員に「欲しいならサインをあげるよ」とサムをからかう。
サムはそのことに腹を立てながらも、その会話を楽しんでいた。タスカーは食事をほとんど残していた。
また車を走らせているとしばらくしてタスカーは寝てしまった。しかしサムはナビをつけず、自分で調べながら運転していた。
田舎の風景を進み、寝ているタスカーを置いてコンビニに立ち寄った。
買い物から戻ってくるとタスカーがいなくなっていた。電話を鳴らすも車の中に置きっぱなしになっていてどこに行ったかわからなかった。必死になって辺りを車で探すと、森の中で犬と一緒に佇んでいるタスカーがいた。
彼らの前にはドアの開いた車が止まっていた。彼は車は盗んでここまで来ていたのだ。
キャンピングカーに戻り、サムは食事を作っていた。玉ねぎで涙が出たように見せかけていたが、サムはタスカーの症状に深い悲しみを感じていた。
タスカーは今日の行動について謝るも、気にすることはないとサムは言う。薬を飲むように促すも持ってきていなかった。自分が病気だと思い起こさせる薬を飲みたくないのだという。
タスカーは認知症を患っていた。今後、もっと悪くなるのだろうかと不安を吐露するもサムは何も答えられないままだった。
翌日、サムはナビを使って目的地に向かっていた。そこは深い山の中で、ナビを使っても道がよくわからなくなるような場所だった。道なき道、美しい景色を進んでいくとしばらくしてサムの家族が住む家に到着した。
そこにはサムの妹リリーとその家族がいた。リリーはサムとタスカーのことを知っていて、病気のことも把握していた。
この日はサムが昔住んでいた部屋に2人で泊まった。1人用のベッドに2人で寝るにはかなり手狭だったが、タスカーの勝手な行動によりサムは巻き込まれることになった。いつものサムの言動に文句を言いながらも仲良く寝た。
翌日、タスカーは着替えようとするも、服のボタンを止めるのに手こずっていた。それを見たサムは優しく着替えを手伝う。
サムとタスカーは森の中を散歩していると、サムが引っ越しの話を切り出した。
それはタスカーがより快適に暮らすことができるように考えた行動だったが、タスカーはその行動が気に入らない様子だった。自分のためにサムが何かをしようとしていることをフェアじゃないと心良く思わなかったが、サムはいつも一緒にいたいという。
家に帰るとたくさんの車が止まっていた。リリーたちがサプライズでパーティを準備してくれていたのだ。
パーティーの夜、タスカーが1人で庭に佇んでいた。最近多くの人間に囲まれているのが我慢できなくなってきたためだ。そこにリリーの旦那がやってきた。
タスカーは自分がいなくなった後のサムのこと心配し、気にかけてくれるようにお願いする。
パーティに戻って、サムたちと一緒に食事を始める。次の本はまだ発売されないのか?と友人に聞かれるも適当にはぐらかしていた。
タスカーはスピーチを皆の前で話そうとするも、文章をうまく読めなくなっていた。代わりにサムが読み始めた。それは家族や友人たちへの感謝の気持ちだった。病気のことも含めて皆に感謝していた。
そしてその手紙はサムへの愛も同時に伝えていた。
その後、リリーとタスカーは他愛もないやりとりを話していたが、次第に病気の話になる。
タスカーは自分だけがサムのことを忘れてしまうことを恐れていた。サムだけがタスカーのことを知っている状態になることを気にしていた。
あなたはまだあなたのままだとフォローするリリーに対して、もう自分そっくりの他人だと話す。
サムはキャンピングカーの中でタスカーが持っていた小箱の中からノートを見つける。
最初のうちはびっしりと文字が書かれていたが、その字はだんだんと雑になり、文字数も少なくなっていた。そしてそれは最後には白紙が続いていた。
さらにその中から薬とテープを見つける。薬は睡眠導入剤だった。一緒に入っていたテープを聞き始めた。
タスカーはリリーの娘と夜空を見上げていた。無数にある夜空の星から私たちは作られたのだと話す。
星は歳をとると爆発して死に、そのかけらが何年もかけて宇宙を旅していく。そして最終的に私たちを作るのだという。
そしてさらに驚くべきことは、耳だけは全く別の星、別の銀河から作られるのだという。
この地上には興味ないことなんて何も存在しないのだ。存在するのはただ、興味のない人だけだと有名な言葉を娘に伝える。
翌日、家族に別れを告げ、次の宿泊場所へと向かう。そこでサムはテープのことについて問い詰める。テープの内容はタスカーの独白だった。彼は自殺を考えていた。サムの重荷になりたくないという彼の本音だった。
その日の夜、そのことを忘れたふりをして全然別の話題を話すサムに対して、タスカーが切り出す。
最初に医者に相談された時、自分をコントロールできなくなるまで生きていたくないと話したが、今すでにその状態になっていると。
サムも毎日そのことに恐怖を抱えていた。どうすればいいのか考えない日はなかった。時には別れたほうが良いのか、たまに会いに来るぐらいがいいのかも考えた。
しかし彼はタスカーの面倒を見る覚悟を決めていた。タスカーが自分が誰か分からなくなったとしても一緒にいたいとのだという。
その状態になりたくないというタスカーに対して、自己中心的だとしても失いたくないし、一人になりたくないと伝える。
タスカーはどこか分からない場所に連れて行かれて、誰も連れ戻せない場所にいる感覚だという。そしてそれは自分でさえも。
自分が誰だったかは覚えておいて欲しいが、自分が別の自分になっていくことを見られたくないと話す。死なせてくれと懇願する。
2人の会話は平行線のまま終わり、2人は不安で悲痛な夜を過ごす。
翌朝、タスカーが起きるとピアノの音が聞こえた。一方の部屋にはタスカーの持っていた小箱、もう一方の部屋にはサムがいた。
改めてサムは、タスカーと一緒に生きたいと伝える。
ピアノコンサートで、タスカーが好きだと言った曲をサムは弾いていた。
映画「スーパーノヴァ」ネタバレ感想・解説
タスカーの病気は前頭側頭型認知症
認知症は世界で7番目に多い死因の1つだ。そしてオーストラリアでは死因の第2位が認知症だという。
認知症の問題が叫ばれてもう長いが、まだ根本的な治療がなく、今もなお人々を苦しめている病気の1つなのだ。
「スーパーノヴァ」では4大認知症のうち、前頭側頭型認知症で、認知症の中でも唯一難病指定を受けている病気だ。
特に言語能力の低下が見られ、認知症で有名なアルツハイマーとは違い、徘徊などの症状はあまりない。意味性認知症とも呼ばれ、モノの意味や理解を行うことに障害が出る。
言葉を成り立たせるための音声・文法・意味のうち、意味だけが消えていく病気だという。
理性を司る前頭葉に問題が発生することから、思考や感情のコントロールも効かなくなる。罪悪感がなくなることで、万引きなどの犯罪行為をしてしまうケースもある。
タスカーが急にいなくなった後に車の前で佇んでいたシーンは、彼が他人の車に乗ってしまったことが原因だ。
「スーパーノヴァ」ではまだ末期にはなっていないが、あのまま進行していくと鬱状態になることも多く、介護側の負担も多い病気だ。
物書きのタスカーにとっては致命的な病気で、自殺を考えるほどに追い込まれている。
他の多くの病気と違って身体的な問題が末期まで現れないのもその1つの要因だろう。自分が自分ではなくなっていく感覚をタスカーはゆっくりと、しかし確実に味わっていくのだ。
タスカーの病気の症状
「スーパーノヴァ」は認知症の映画ではあるが、その描写はパッと見分かりにくい。その異変はとても微々たるものだけど、しかし確実に健常者とは違う動きが現れている。
メガネを頭につけていることを忘れていたり、食が少なかったり、タスカーが服を着るときにもたついたり、パーティのスピーチで自分が書いた文章が読めなくなったり。
なんとなく見ていると見逃してしまいそうな場面だが、確実に様子がおかしい。
大きなところでは、急な失踪と、ノートのメモ書きだろう。
不意に自分をコントロールできなくなり、突如どこかへ行ってしまう。しかも他人の車に盗むことに罪悪という概念すらなくなっている。
ノートは、最初の方はびっしりと書かれていたのに、段々と不明瞭になり文字数が少なくなっていく。そして最後には読めなくなり、それ以降は白紙だ。
ガンなどの病気も大きな苦しみを伴う病気の1つだけれど、認知症に関しては治療法がない不治の病であり、いつ最後が来るのかもわからない。タスカーが絶望に陥るのも無理はない。
男同士だからこその美しさ
この映画はタスカーとサムは男同士であり恋愛感情を持っている。しかし、そこには特に触れることなく物語が進む。
当たり前のことのように誰も何も触れない。腫れ物に触るような感覚ではなく、ここではそれが自然だからだ。
そして私たちもそれを見ていて特に違和感も感じることがない。この映画が男と女の物語であればむしろ違和感になりかねないと思えるほどに自然だ。
コリン・ファース、スタンリー・トゥッチだからこそこのエモーショナルな映画が完成したのだ。
コリン・ファースのさりげない優しさの数々、スタンリー・トゥッチのウィットに富む言葉や、ユーモアのある一言。
光り輝く星のように優しい世界が2人の間にはあるのに、一寸先は果てしなく暗い宇宙が広がっている。彼らの喪失感や虚無感も同時に現れていて、より感情を揺さぶられるのが「スーパーノヴァ」だ。
この先も答えは出ないのかもしれない。そうこうしているうちにタスカーは自分が何者かわからなくなってしまうかもしれない。
タスカーがサムのことを忘れてしまった時、深い喪失感とともに後悔も起きうるのかもしれない。
現実に巣食っている未解決の問題は、映画も同じで救いがないまま終わってしまう。
少しでもこの2人の最後に幸せを感じる瞬間があることを願う。
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