北欧映画の印象は?と問われると何を想像するだろうか。
美しい自然、美しい家具、優しいパステルカラーで彩られ、どのシーンを切り取ってもオシャレ。こう感じる方は多いのではないだろうか。
観ているだけで自分にセンスがあるかのように感じてしまうほどのパワーを持つのが北欧映画。実際にその印象は間違っていない。
しかし、北欧映画にはドン引きするほどの陰湿さを兼ね備えていることも多い。
「シック・オブ・マイセルフ」は、ネット社会において人類が直面している「承認欲求」をテーマに、その欲求を最大限に引き上げた人間の末路を描く。目立つために違法ドラッグに手を出し、悲劇の私を演出。同情とともに愛されている自分を作り出す究極のかまってちゃん。
彼女を観て、誰もが「こうはなりたくない」という感想を抱くだろう。だがしかし、多くの人間が多かれ少なかれ「承認欲求」を持っていて、いつ誰がこうなってもおかしくない状況にあるのが現代社会。
SNSによる個の発信力強化は、埋もれた能力を発掘させるだけでは済まなかった。能力のない人間たちが注目を引くためだけに偽りのストーリーを起こせるようになったのだ。
「何者」にもなれない私たちがナニカになるために、犠牲にするのは果たして何か。
北欧の美しさはそのままに、狂気を取り入れた世界観は北欧映画の本質である。狂っているから日本で上映されるのか、狂った映画が北欧に多いのかはわからない。
ここでは、シグマの本当の病気について語るとともに、承認欲求モンスターの心理状況を考察しながらラストの結末までを解説していく。
シック・オブ・マイセルフ
(2023)
3.6点
ホラー
クリストファー・ボルグリ
クリスティン・クヤトゥ・ソープ
- 承認欲求に取り憑かれた女性の末路
- 究極のかまってちゃん爆誕
- 美しくも本当は怖い北欧映画
シック・オブ・マイセルフを視聴するには
配信サービス | 配信状況 | |
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映画「シック・オブ・マイセルフ」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
シグネ | クリスティン・クヤトゥ・ソープ |
トーマス | エイリック・セザー |
映画「シック・オブ・マイセルフ」ネタバレ考察・解説
シグネの病気は、自己愛性パーソナリティ障害
「シック・オブ・マイセルフ」は、有名になりたい、他人にちやほやされたいという承認欲求が強い人間の行動心理を描いた作品。
主人公のシグネは自己愛が人一倍強いタイプの人間だ。彼氏の成功に嫉妬し、自分に注目を引こうとして違法なドラッグに手を出してしまうほど。
なぜ、シグネはそうまでして注目を集めたいのか。シグネのような人間は自己愛性パーソナリティ障害と診断される。
その特徴をWikipediaから抜粋するとこう書いてある。
・人より優れていると信じている
・権力、成功、自己の魅力について空想を巡らす
・業績や才能を誇張する
・絶え間ない賛美と称賛を期待する
・自分は特別であると信じており、その信念に従って行動する
・人の感情や感覚を認識しそこなう
・人が自分のアイデアや計画に従うことを期待する
・人を利用する
・劣っていると感じた人々に高慢な態度をとる
・嫉妬されていると思い込む
・他人を嫉妬する
・多くの人間関係においてトラブルが見られる
・非現実的な目標を定める
・容易に傷つき、拒否されたと感じる
・脆く崩れやすい自尊心を抱えている
・感傷的にならず、冷淡な人物であるように見える
※Wikipediaより引用
シグネは自己愛(ナルシシズム)が強く、承認欲求の塊のような存在である。注目を浴びるためであればウソも平気でつく。
羨望、尊敬といったポジティブな類の注目だけでなく、心配、同情といったネガティブな感情でも構わない。とにかく人に見られていたい、認知されていたいと考える。
人を引きつけるためには被害者のように振る舞うことすらいとわない。だからシグネは違法な薬物に手を出す。自分の顔が傷つくことは関係ない。なによりも注目を集めることが目的だからだ。
自己肯定感と自己愛の違いとは?
一方でポジティブなワードとして登場する「自己肯定感」。「自己愛」と「自己肯定感」は響きが似ているが、意味は真逆である。
自己愛は英語にすると「Narcissism(ナルシシズム)」になる。両者の違いを調べてみると全く異なることがわかる。
- 自己肯定感は、自分自身をどれだけポジティブまたはネガティブに見ているかを客観的に把握する
- 高い自己肯定感を持つ人々は、自分の強みと弱みを認識したうえで、自分の能力に自信を持てる
- 高い自己肯定感は、他人の批判や評価に対して適切に対処できる
- 他人の強み弱みも把握して行動できるため、社会的な関係性にプラスの影響を与えやすい
- 自己中心的で自己に対する過剰な執着心をもつ
- 他人よりも自分が優れていると考え、相手から称賛と承認を求める
- 他人に対する共感が欠如し、無関心である
- 強すぎる自己愛は社会的問題や人間関係の問題を引き起こす
自己肯定感は他人に依存せず、自分自身に対して評価を下す。弱みも含めてそれを受け入れた状態なので、周囲の環境に依存しない。
それに対して自己愛は他人と比べ、見下し、嫉妬する。とにかく自分が注目を浴びたいが一番で、自身の弱みも受け入れられないため、不健全な行動をとりがちだ。
自己肯定感が高い人は、自分の存在を肯定するだけではない。弱い部分も知ったうえで自分を受け入れられるので、その心の余裕は他人に対しても寛容になれる。そのため、シグネのように周囲の人間とトラブルになることは少ないし、自然と人が集まってきます。
シグネは典型的な自己愛が強すぎる人間
アルバイト先のカフェで血を流して助けを求める人が現れたとき、シグネは血まみれになって人助けをした。周囲の人間は見ているだけで助けようとしない。他人事のようにスマホで撮影する人さえいた。
その状況を警察に憂いていたシグネだったが、実は狙ってとった行動である。
実際に助けようと近づいた人間はいたが、それをシグネは制止している。こうすることで、SNSに上がる動画には被害者を一所懸命に助ける血まみれのシグネだけがフォーカスされる。
美しい女性が、自分の身を顧みず、献身的に助ける姿が切り取られるのである。
彼女が血だらけになったままの服装で家に帰ったのも注目を浴びたいがためである。
そのエピソードは1つの勲章になった。注目を浴びるため、彼女はいたるところで話し続ける。しかし、1つのエピソードはそう長くは続かない。
彼氏のトーマスがデザイナーとして注目を浴びると、周囲の関心はそちらに移り、シグネは目立たず放置される。そのことに激しく嫉妬したシグネは注目を浴びようとナッツアレルギーを装い、騒ぎ出す。
正しいことをした自分ではなく、かわいそうな自分を演出することでよりカンタンに注目を惹きつけられることに気づき始める。
その気づきは加速していく。リデキソル(架空の薬の名前)という抗不安薬の副作用として皮膚に異常が出ることを知ったシグネは、見た目で分かりやすく人の注目を引きつける手段として、服用する。
皮膚病を故意に作りだしたシグネはまともな治療もせず、センシティブな画像をメディアに売り込む。原因不明の皮膚病を装い、同情を誘い込むことが狙いだったシグネは、VGのトップニュースを飾ることに成功する。
しかし、よりセンシティブな一家心中のニュースに瞬く間にトップの座をとられてしまう。
ノルウェーのニュースメディアで、Verdens Gang(世界の道)の略称。ノルウェー語でニュースを提供する主要なメディアの1つ。
この不健全な負のスパイラルを生み出したのには、トーマスも大きく影響している。トーマスは窃盗の常習犯で、こちらも目立つことに手段をいとわないタイプの人間だからである。
最悪な組み合わせの相乗効果により、シグネは破滅の道へ進むことになる。
妄想と現実の違い
映像の中で、しばしばシグネが頭で妄想していることを描かれるシーンが登場する。テレビに登場して注目を浴びたり、一流の雑誌にのり、シャッターのフラッシュ音と光に囲まれる世界。
これらはすべてシグネの妄想の世界である。「原因不明の奇病にかかってしまったかわいそうな人」が、多様性が重んじられる現代では取り上げられやすいことを知っていた。
その願望が肥大化したような妄想にふける。これも自己性愛パーソナリティ障害の典型的な症状である。
願望を妄想という形で頭の中で思い描いたことは誰しにもあるはずだ。しかし、年を経るごとに自身の能力と現実との折り合いをつけて進んでいく。
自己肯定感が高い人は、自分の強みと弱みを客観視し、よりパフォーマンスが出せる現実世界へ自分をフィットさせていく。
それができないシグネは、皮膚を犠牲にして妄想の一部を無理やり実現する。しかし、一時的なドーピングは妄想を超えることはない。
承認欲求は、モチベーションの1つであるため悪いことではない。しかし、承認を得るために人から評価される必要がある。
突き抜けた承認欲求を実現するためには、突出した能力が必要なのだ。今のSNSには注目させるために必死な人間は多いが、実際に類まれなる能力をもって注目を浴びている人間は少ない。
センシティブな画像や誇張したストーリーを作り出し、デジタル社会の中で虚像を演出しているのが大半である。
能力を持たずして、自己愛だけでイキきったのがシグネである、強すぎる自己愛は周りの誰かが成功したときに、劣等感に変わるのではなく嫉妬へ変わる。
現実と理想のギャップに苦しむシグネは妄想を繰り返すのだ。
ラスト シグネはどうなったのか?
病院にも行かず、まともな診療を受けなかったシグネの身体には激しい負担がかかっていた。飲み物がうまく喉に入らないという症状は悪化し、吐血にいたる。
顔の傷も悪化し、髪の毛が抜け落ちる。多様性を目指しているはずのブランドはその状態のシグネを受け止めきれていない。
多様性という聞こえの良いワードをビジネス化しているブランドは、結局のところ注目を浴びることができる都合の良い人材が欲しいだけなのである。
撮影中に倒れてしまったシグネは、病院に担ぎ込まれる。
トーマスは家具の窃盗で警察に捕まり、1人残されたシグネ。彼女はすべての真相を話すことでさらなる注目を浴びようと妄想する。
原因不明の病気は「自分が故意に作り出したもの」という告白を行い、あろうことかエッセイを出して再起を図ろうとする。しかし、独りよがりの都合は叶わず、その妄想は妄想のまま終わる。
シグネは再び、グループセラピーに参加する。最初に皮膚病で参加したときは、他の人に比べて大したことない症状だと批判されていたが、症状が悪化し、友人関係や恋人の全てを失ったシグネは受け入れられたのだ。
承認欲求の成れの果てで全てを失ったシグネ。後に残ったのは「生きていることに感謝する」というまじないのような文言だけである。
北欧という国は日本ではポジティブに語られることが多い地域であるが、映画の中で描かれる北欧は不気味さを内包することが多い。美しさと不気味さという相対する表現を組み合わせることで、映画としての完成度が高まっている。
しかし、現実社会が抱える闇は日本と同じもしくはそれ以上の何かを抱えているのでは?と思わざるを得ない映画だった。
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