映画「MEN 同じ顔の男たち」ネタバレ考察・解説 進撃の巨人に影響を受けた怪物ホラー

夫の死の瞬間を目の当たりにした女性が、心を癒すために訪れたイギリスの田舎で、不気味な男たちに出会う異質な超常ホラー。

「エクス・マキナ」のアレックス・ガーランド監督がA24とタッグを組んで手掛けた映画は、イギリスの田舎風景に広がる自然と歴史的な建造物が、「ラピュタの城」で天空の城を訪れたときのような退廃的な美しさを感じさせてくれる。

そこに、同じく同監督の「28日後」のような気持ちの悪いエッセンスを加えることでグロく美しい世界観を描き出す。

同じ2022年公開の「TITANE/チタン」のようなグロテスクさと奇妙さをかねそなえた映画である。

「意味がわからない」といった声が聞こえてきそうであるが、この映画が表現しているのは2つ。

冒頭からラストに起きる不可解現象の数々を意味を交えて解説していく。

映画「MEN 同じ顔の男たち」キャスト

登場人物	キャスト
ハーパー	ジェシー・パックリー
ジェフリー	ロリー・キニア
ジェームズ	パーパ・エッシドゥ
ライリー	ゲイル・ランキン

映画「MEN 同じ顔の男たち」ネタバレ考察・解説

ハーパーが見ていたものは、自身のトラウマ

(C)2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

主人公のハーパーがイギリスの片田舎にやってくるきっかけとなった出来事は、夫の死である。

ハーパーは、夫のジェームスが飛び降りる瞬間を目の当たりにした。そのショックで受けた精神的なストレスを癒すため、田舎の家を訪れる。

キレイな自然の風景が広がる辺りを散策していると、裸の男がやってきて、だんだんと狂った世界に突入していくわけであるが、これは現実に起きていることなのだろうか。

劇中では夫の死の瞬間や直前の出来事を思い起こすシーンがたびたび挿入され、その都度、ハーパーの精神は不安定に陥っていく。

やってきた裸の男たちは、まるでハーパーの精神を掻き乱すかのように夫のジェームスを彷彿とさせる。

実際にハーパーが裸の男の手に刺したキズは、ジェームスが転落死により負ったキズと同じであり、カラスやラストで次々と生まれてきた男たちは足を負傷していたのも同様だ。

すべてはハーパーの心の闇に巣食うジェームスに繋がっていく。

これが現実かどうかについては特に触れられていないが、少なくともエンディングでは友人のライリーが壊れた車や血だらけの家を見つけていることから、何かが実際に起きたことは裏付けられている。

また、警察が裸の男を逮捕していることから、すべてが非現実の中で行われたことではないこともわかる。

ハーパーが見たものすべてが現実とは限らないが、裸の男は現実に存在するため、夢か幻か、裸の男とジェームズを混同したのは間違いない。

男たちはなぜハーパーを追いかけるのか？

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ハーパーは、自分の夫が目の前で死んだことで大きくショックを受けていたわけであるが、原因は転落死であり、自殺か事故なのかははっきりとわかっていない。

しかし、ジェームスが自殺を選んだのであれば、追い込んだのは自分の責任ではないかと悩んでいた。

ハーパーはジェームスの死の直前に口論していたのだ。結婚生活がうまくいかないハーパーは、離婚を考えていたが、ジェームスは別れるなら死ぬという卑怯で下劣な脅しをしている。

口論の流れからジェームスがハーパーに暴力を振るったことが決定打となり、ジェームスを部屋から追い出す。

その後、上の階から落ちていくジェームスを目の当たりにするのだ。

その苦しみが具現化した結果、現れたのが裸の男たち。男への憎悪や恐怖、抗うことのできない古からの力関係や因果が内包されている。

また、司祭が「ジェームスが死んだのは、ハーパーが許さなかったからだ」と責め立てたのは、ハーパーの心の中に、旧約聖書から続く「女性は男性に支配される」という罪が遺伝子レベルで染みついていたからである。

つまり、「MEN 同じ顔の男たち」はハーパーの不安定な精神状況や男との関係性を剥き出しにすることで、ハーパー自身の、そして男女差に関する女性側の苦しみや悲壮感を表している。

ちなみに、アレックス・ガーランドのインタビューの中で、進撃の巨人に影響を受けたことを明かしている。

My daughter, she had [gotten] me hooked on Attack on Titan , [which is a] really incredibly impressive anime on so many levels. It impressed me on so many levels.

（娘の影響で進撃の巨人にハマったけれど、とてもすごいアニメだった。進撃の巨人には、色々な点で影響を受けたんだ）

引用：collider

ラストシーンでは次々と異形の怪物が現れるが、これらは進撃の巨人の姿形に影響を受けているという。

旧約聖書アダムとイブとの関係

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「MEN 同じ顔の男たち」では、ハーパーの内面でなく、男女の関係性を描いた映画として、宗教的なイメージも取り入れている。代表的なのが、ハーパーがレンタルハウスにやってきたときに食べたりんごである。

ジェフリーが「禁断の果実」と表現していたように、これは旧約聖書の中で出てくるアダムとイブの原罪のことを指している。

楽園エデンに住んでいたアダムとイブが、ある日禁断の果実であるりんごを食べてしまったことで楽園を追われることとなるという内容だ。

楽園を追われたと同時にアダムとイブには次の苦しみを負わされる。

イブには「これから先、夫によって支配され、子どもを産む苦しみを知るだろう」、アダムには「一生自分の力で大地を耕し働き続けるのだ」と告げたのでした。

引用：ターキッシュ&エアトラベル

ハーパーとジェームスの関係性については詳しく触れられることはなかったが、ハーパーがジェームスに対して嫌気が差しており、それはジェームスの征服欲によるものだと推測される。つまり、夫によって支配される苦しみを受けているのだ。

この罰こそが、ハーパーが苦しみ続けているもととなっている。

そして原罪とは、旧約聖書によると、自分の非を他人に転嫁しようとした点である。

アダムとイブは神様の言いつけを破ったうえ、自分の非を認めず人に責任を押し付けようとしました。これが人類最初の罪とされています。

引用：ターキッシュ&エアトラベル

夫婦間のやりとりにて、お互いの主張が合わない状態であったが、男女間の価値観の差が現代にも受け継がれていることを映画で表現している。

ラストで起きたことの意味

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同じ顔の男たちという副題が混乱させる原因だが、この映画は”MEN”、つまり男性の幼児性や暴力性に苦しめられる女性を描いた映画だ。

映画のラストで植物をまとった男のヴァギナから同じ顔をした男たち次々と生まれてくる。そして最後に口から出てきたのがジェームス。

ハーパーは冷静に、ジェームスの望みを確認する。彼は愛が欲しいと伝える。男にとって妻という存在は無償の愛をくれる母親と同列に扱われる。

それが男女間の衝突である原因の1つにもなりがちなのだが、これが男たちの望みであり、神に与えられた男に支配されるという罪でもある。

エンディングでは、ライリーが、微笑むハーパーを見つける。

ハーパーは、ケンカ別れしたまま死に別れしてしまったジェームスと向き合って話すことで、ずっと抱えていた「夫を殺したのは私」という責め苦から解放されたのだ。

ジェームスはただ、無垢に、純粋にハーパーから愛を欲しがっていただけだった。ハーパーの気持ちは関係なく、ただ、赤子が母に求めるように、男は女から無償の愛を受けたいだけなのだ。

ジェームスと再び向き合って話せたことで、ハーパーは自分を取り戻すことができたのだ。

男女平等という意見が当たり前になってきた世の中、旧約聖書の頃から続く、男女間の原罪は現代にもそっくり当てはまる。

その矛盾を切り取って類まれなる表現力で描かれたのが「MEN 同じ顔の男たち」である。

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