独特な作品を多く生み出している制作スタジオ「A24」。
この映画は2018年に日本で上映されたスリラー映画だ。
感染から逃れ、”それ”の侵入を防ぐために山奥でひっそりと暮らすポール一家に起きる恐怖を描く。
映画の評価はそれほど高くない。なんとなく評価が高くならない理由もわかる。
でも「つまらない」から評価が低いわけではない。
はっきり、「私はこの映画が好きだ」と断言できる。
当記事では「イット・カムズ・アット・ナイト」のネタバレ考察に関する記事を書いていく。
74点
イット・カムズ・アット・ナイト 予告
イット・カムズ・アット・ナイト あらすじ
夜やってくる“それ”の感染から逃れるため、森の奥でひっそりと暮らすポール一家。そこにウィルと名乗る男とその家族が助けを求めてやって来る。ポールは“それ”の侵入を防ぐため「夜入口の赤いドアは常にロックする」というこの家のルールに従うことを条件に彼らを受け入れる。うまく回り始めたかに思えた共同生活だったが、ある夜、赤いドアが開いていたことが発覚。誰かが感染したことを疑うも、今度はポール一家の犬が何者かによる外傷を負って発見され、さらにはある人物の不可解な発言…外から迫る、姿が見えない外部の恐怖に耐え続け、家の中には相互不信と狂気が渦巻く。彼らを追い詰める“それ”とは一体・・・。
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イット・カムズ・アット・ナイト 映画情報
監督 | トレイ・エドワード・シュルツ |
音楽 | ブライアン・マコンバー |
公開年 | 2018.11.23 |
上映時間 | 91分 |
製作国 | アメリカ |
イット・カムズ・アット・ナイト キャスト
ポール | ジョエル・エドガードン |
ウィル | クリストファー・アボット |
サラ | カルメン・イジョゴ |
トラヴィス | ケルヴィン・ハリソン |
キム | ライリー・キーオ |
アンドリュー | グリフィン・ロバート・フォークナー |
イット・カムズ・アット・ナイト ネタバレ考察
世界では何が起きているのか
この映画にはほとんど説明がない。ずっとポール達と同じ視点で話が展開し、最後まで何も言わずに終わる。
よって、人類が何かの感染症に侵されているということは分かるのだけれど、はっきりとしたことは分からない。
映画の中で拾うことができた情報は以下の通り。
- 感染すると身体中に水泡のようなぶつぶつが発生する
- 空気感染、接触感染するほど感染度は高い
- 感染は犬でもかかる
- 感染の潜伏期間は1日程度か長くて2、3日
- 致死率は不明だが、相当高い
- 文明は崩壊している可能性が高い
感染症にかかると何が起きるのか明確には示されていない。身体中に水泡や発疹のようなものができて、一目見れば感染したことが分かりそうだ。
冒頭で感染症にかかった義父を殺してしまうことからして、一度かかったら死ぬ可能性が非常に高い。
少なくとも医療の整っていない山奥では助ける術がないと言える。
また、ガスマスクを着用して手袋をつけていることから、空気感染と、接触感染を引き起こすほどに感染率の高いウィルスと言えよう。
そして感染症には人間だけでなく、犬もかかる。
感染症の潜伏期間は非常に短く、おそらく症状が1日で現れる。とは言え、念のため2,3日様子を見るシーンが出てくるのではっきりとした潜伏期間すらわかっていない状態だ。
義父にしたって助かる見込みがあるのであれば病院に連れていく選択肢もあるように思えるし、そのためのガソリンだってありそうだ。
しかし、その選択をしないことからみるにどこに行っても助かる見込みがない。あるいはすでに崩壊しているのではないか。
潜伏期間の情報すらまともにもっていないことから、文明は一瞬で消えてしまった可能性すらある。
少なくとも出歩いている最中、命を狙われるほどには治安は良くない。
赤い扉を開けたのは誰なのか
犬が感染症にかかったとき、普段開いているはずの赤いドアは開いたままだった。
では、誰が開けたのか。
そもそも犬が1つ目の扉を開けて部屋で倒れていることからして、誰かの手が入っているというのが妥当だろう。
ウィルが窓を割って侵入しているため、そこから入れた可能性もなくはないが、なんらかの補修はしているだろうし、仮にそのままであっても、あの重症で窓を乗り越えたとも考えにくい。
そうすると可能性があるのは4つ。
- アンドリュー
- 外にいる”それ”
- 家族の誰か
- トラヴィス
アンドリューが開けたという話になっていたが、夢遊病者だとしても、赤い扉を開けて、犬を迎え入れて、義父の部屋で寝るという行為を何も覚えていないというには無理がある。
そもそも、トラヴィスが聞いた物音はアンドリューを寝室に連れて行ったあとだ。
“それ”が連れてきた説もありうるが、外の扉を開けて入り、赤い扉の鍵だけ開けて帰ることも考えづらい。
他の家族の誰かが開けるかといったら、アンドリューやトラヴィスなど、自分の子どもを守る立場の親が危険な行動をすることはありえない。
そうなると消去法からしてトラヴィスしかいない。
トラヴィスは夢の中で幾度も赤い扉を開けて外に出ているし、悪夢で眠れないということがたくさんあった。
犬が扉を開けて入ってきたことも納得できる。
以上のことから、トラヴィス自身が夢遊病者であり、本人が無意識のうちに開けた可能性が最も高い。
感染順は、犬→トラヴィス→アンドリューの順番が妥当だろう。
“それ”は何なのか
ポール達は、森の奥で”それ”の侵入を防ぎながら暮らしていた。
しかし、”それ”が何なのかに対する描写はないままエンドロールを迎える。
それが物理的な何かだとしたら、3つの推測がされる。
- ウィルス
- 化け物
- 感染生物
まずは、ウィルス。
感染の元となるのはウィルス性の何かだろうけどその描写はない。
タイトルにあるように「It comes at night」(それは夜にやってくる)とあるので、夜にしかいないウィルスというのも現実感がない。
次に化け物説。
“それ”という描写からして、化け物がいるように見せかけているが、これはミスリーディングだ。
化け物について触れている描写もないためこの説は薄い。
では、感染した生物はどうだろう。
犬はどこからか感染して戻ってきた。つまり、犬を襲って感染させたナニカがいるということだ。
しかし、あの森の中で近くにいる人間を襲いに来なかったということは、相手が人間である可能性も低い。
そうなると、感染した犬もしくは他の獣であるけれど、“それ”は夜にやってくるとあるし、夜行性だとしてもしっくりこない。
人間なら夜寝ているときに襲いかかってくる思考能力はあるだろうけれど、日中にトラックを走らせていても襲われるのだから、夜を待って寝込みを襲う必要もなく、隙をついていつでも襲いに来るだろう。
では”それ”とは何か。
物理的な何かではなく、人間の内からくる感情のことではないだろうか。
- 恐怖だ
夜になったりすると、なんとなく不安になったり、感情が敏感になったりするアレ。
本能的に人間は暗闇を恐れる。
常に感染に怯えて、その日暮らしの生活をしていれば、不安に駆られるのも無理はない。
その結果が崩壊に繋がり、最悪の結果を招いたのだ。
現にトラヴィスは、夜何度も悪夢にうなされていて、自分が感染する恐怖を感じている。
他人のちょっとした言動に疑念が生まれる。特に夜はその傾向が強くなる。
昼間であれば笑い飛ばせるような疑念は恐怖に変わり、愛情は差別に変わる。
“恐怖”は夜にやってきて、人の心を蝕んでいく。
それがこの映画の結末だ。
人間の生存本能である恐怖や疑念、愛情という感情は極限の状態では全て悪い方に動いてしまうのだ。
「イットカムズアットナイト」の最後
最終的に、トラヴィスは病気に侵されて死に、ポールとサラが残される。
しかし、2人もすぐに病気に侵されて死んでいくのだろう。
人を疑い、罪もなき人を恐怖にかられて殺す。
すべては息子を守るためであり、家族を守るべき行動は絶望だけ残して最期を迎えるというのはなんと皮肉な結果であろう。
しかし、これは誰にでも起きうることである。
いついかなる時も感情に支配されずに冷静に行動できる人間はほとんどいない。
結局、人間は自滅していく生き物なのだ。
しかし「ア・ゴースト・ストーリー」で、ある人物が言っていたように人間の90%が死滅しても、残りの10%がまた繁栄を気づいていくのかもしれない。
この世界に10%の希望があるかどうかは分からないが。
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