「フロリダプロジェクト」は2018年に公開されたA24が関わる映画。ディズニーワールドの外側にある安モーテルに住む親娘のリアルを描く。
夢の国のそばにあって、その残り香がまだ漂っていそうな地区に潜む貧困が1つの問題となっている。
欧米らしい色彩豊かな映像と、貧困のギャップが観る者の心を惹きつけて離さない。
78点
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「フロリダプロジェクト」映画情報
タイトル | フロリダプロジェクト |
公開年 | 2018.5.12 |
上映時間 | 112分 |
ジャンル | 家族 |
監督 | ショーン・ベイカー |
映画「フロリダプロジェクト」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
ムーニー | ブルックリン・プリンス |
ヘイリー | ブリア・ヴィネット |
ボビー | ウィリアム・デフォー |
ジャンシー | ヴァレリア・コット |
スクーティ | クリストファー・リヴェラ |
ジョン | ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ |
映画「フロリダプロジェクト」あらすじ
6歳のムーニーと母親のヘイリーは定住する家を失い、フロリダ・ディズニー・ワールドのすぐ外側にある安モーテルでその日暮らしの生活を送っている。周りの大人たちは厳しい現実に苦しむも、ムーニーはモーテルに住む子供たちと冒険に満ちた毎日を過ごし、そんな子供たちをモーテルの管理人ボビーはいつも厳しくも優しく見守っている。しかし、ある出来事がきっかけとなり、いつまでも続くと思っていたムーニーの夢のような日々に現実が影を落としていく—
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映画「フロリダプロジェクト」ネタバレ感想・解説
ディズニーのそばにある貧困
ディズニー・ワールドへと続くハイウェイ192号線沿いの安モーテル。実は軒並み、低所得層の住みかになっている。
サブプライムローンの煽りをいまだに受けていて、家に住むことができない人たちが集まる場所。だからと言ってめちゃくちゃ安いわけではない。
映画の撮影地になっている場所は、一泊35ドル。単純計算しても月10万近くかかる計算だ。
それならアパート借りれるでしょ?という話なんだけど、家具を揃えるのも大変だし、保証人だっている。クレジットカードなんかを延滞しているとなかなか信用して貸してもらえない現状があるらしい。
まとまったお金を用意できない人達は、割高なモーテルに住むことで、より生活を苦しめることになる。
その日暮らしの仕事はどうしても都市部に仕事を求めることになる。でも都市部は地価の高騰が激しすぎて家を借りることができないという悪循環に陥っているわけだ。
華やかな夢の国「ディズニーワールド」からすぐ近くにあるモーテルにこういう世帯がたくさんいるという。
本作の舞台となるモーテルも実在していて、なんだかドキュメンタリーを見ているようなリアリティ感があるのも頷ける。
この現実を赤裸々に描いたのが「フロリダプロジェクト」という映画なのだ。
「フロリダプロジェクト」というのは、ディズニーランドの建設計画の名称のことを言っていて、そこから皮肉めいたタイトルがつけられている。
ちなみにスクーティは実際にモーテル住まいをしたことのある子役だそうだ。
ヘリコプターは見下ろしているのは現実世界
その貧困と対比するかのように存在するのがヘリコプター。毎日空を駆け巡るヘリコプターはディズニーの目玉ツアーの1つ。
日本のディズニーの122倍もあるフロリダのディズニーをヘリコプターで周遊できるまさに夢のような世界なんだけれど、その夢の真下には現実を暮らすムーニーとヘイリーがいるわけだ。
そんなヘリコプターに中指を立てて見送るヘイリーとムーニー。
ただ、ムーニーにとっては世界は夢の国であり、アトラクションなのだ。
ヘリコプターが見下ろしているのは、夢の国ではなく現実世界なのだ。
でっかいオレンジのような建物や、魔法使いの顔をした建物。ちょっと離れると廃墟が立ち並ぶ秘密基地に、倒れても成長を続ける大木。サファリパークのような牧場だっている。
どんな場所だってムーニーたちにかかれば最高の遊び場所なわけなのだ。
夢の国の残り香のある地域に、貧困という現実が広がっている。
なぜヘイリーは嘔吐したのか?
友人を殴った後にヘイリーは嘔吐している。あまりヘイリーの胸の内は語られない映画だけれど、端々に確かな心の内が丁寧に映されている。
ヘイリーはあまり仕事をしていなさそうな感じだったけれど、そうではない。
彼女はムーニーと暮らすために彼女なりに一生懸命だった。役所の相談所っぽいところで、裏で風俗まがいのことをさせられそうになり、断ったらクビになったと話しているし、たくさんの職場を探しても断られ、働き口が見つからなかったと言っている。
そのあとはニセモノの香水をゴルフ場に来る客に売りながら生活をしていたけれど、それもゴルフ場の管理者に目をつけられてダメになってしまう。
それでも毎日35ドルの宿泊料を払わなければならない。仕方なしに選んだのが出会い系だった。ムーニーをお風呂入れて大きな音で音楽を流すショットは最初なんのことか分からないけれど、だんだんとその実態に気づき、観るものにショックを与える。
ヘイリーを一切映さなかったのは、彼女自身がこの仕事に屈辱を持っていたからだ。
しかし、その働き口もついには奪われる。
ボビーに禁止されたからだった。ボビーと口論になったあと、ナプキンを窓に貼り付ける嫌がらせは笑えたけれど、実際には笑える話でない。
そこで切羽詰まったヘイリーは、とうとう絶交中の友人の家にお金を借りようとするも断られ、買春のことを罵られたヘイリーは友人を殴りつけ、家に帰って嘔吐した。
ヘイリーにとって売春という行為は屈辱的だったからだ。好きでやってたわけではなく、ムーニーと生きていくためにやっていたから。
水着での撮影や、ムーニーのお風呂のシーン、ボビーがヘイリーの家から他人が出てくるところを見つけるシーン。そしてマジックバンドを盗られたと怒る男性など、いろんな場面でヘイリーが売春行為に手を染めていると示唆しているけれど、その現実をつきつけたのは、友人のシーンのみである。
その行為を見て福祉が親子を引き剥がそうとするのは本当に正しいことなのだろうか。大局的に見ればムーニーにとってはいいのかもしれない。犯罪行為に対しては甘く、倫理観が育たない可能性があるから。
是枝裕和監督の「万引き家族」ではこの倫理観に悩まされていたし、親の愛情と同様に大事なことであることは間違いない。
でも2つの映画に共通するのは、どちらも子に対する愛情があるということ。普通に暮らす我々にとっては逸脱しているように見えても、彼らにとっては生きてく術なのだ。
貧困から抜け出せないのは、果たしてヘイリーの努力不足によるものなのだろうか。他にもこのモーテルにはたくさんの家族がいて、友人のように飲食店で働いている人もいるけれど、この生活から抜け出せないのはやはり社会に歪みがあるからではないだろうか。
そしてそこから救うという名目で、母親から子を奪うという行為は果たして解決になるのだろうか。
同じフロリダでも「ムーンライト」とはまた異なる。「フロリダプロジェクト」では一生懸命育てようとした母親に対して、「ムーンライト」は育児を放棄していた。明らかにネグレクト行為なのにそこには福祉は来ない。
夢の国に来る変質者
ムーニーたちが遊んでいるところに突如やってくるスキンヘッドのおじさん。
ボビーがたまたま見ていて助けてくれたからいいものの、もし誰も見ていなかったら何が起きていたかは分からない。
モーテルは一時的な宿泊者を泊める場所であって、家族のように見守ってくれる場所でもない。厳しい部分もあるけれど、なんだかんだ見守ってくれるのがボビーという管理人なのだ。
その証拠にヘンリーたちが近くのモーテルに移動しようとすると、他のモーテルでは値上げを決めた。ヘンリーたちのような住処を持たない貧困層を疎ましく思うための値上げだ。
たまに来る配給車や自転車をモーテルの前に置くことの規約違反にも目をつむり、住人たちの現実に理解を示している。
フロリダプロジェクツのラストシーンの意味
ラスト。
ムーニーは母親と引き離される現実を知り逃げ出そうとする。彼女がディズニーワールドの残り香とともにいた夢の国は残酷な現実を突きつけてくる苦しい社会だったのだ。
仲の良い友達のところへ駆け込むと、一緒にディズニーワールドへ入り、シンデレラ城へ向かったところでエンディングになる。
今まで残り香としての夢の国にしかいなかったムーニーに、もう一度夢の世界を見せるためだ。
なぜムーニーは楽しく生きてはいけないのか。夢の国を追われることになってしまうのか。
貧困なんてムーニーにとっては関係なかったはずなのに。どんな場所でもムーニーにとっては夢の国にできたのに。
この映画は貧困を善悪なくありのままに描いた傑作だ。
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