「FLEE フリー」は、2022年公開のデンマーク映画。アフガニスタン生まれで、戦争の影響で難民になってしまった男の半生をアニメ調で描くドキュメンタリー。
祖国脱出、難民生活の差別、亡命の過酷さ、現実に起きた悲劇をアニメーションでデフォルメしながらも、ところどころに実際の映像を映し出してリアリティを煽っていく。
アニメーションはあえてそうしているのだろうけど、コマ割りは少なめ。カクつきのある登場人物の動きが、移民にふりかかる災難の数々に対して恐怖感を増す。
デンマークで暮らしてからも、真実を語ることなかった男が、ついに話し始めたのは難民に対する恐ろしい実態だったという話。
すごくセンシティブな内容があるわけでもないけれど、生まれた場所がアフガニスタンだったというだけで、こんなにも理不尽な出来事が身に降りかかるのとの恐ろしさを感じる映画だった。
この映画の内容やタイトルの意味をネタバレ交えて語っていく。
「FLEE フリー」
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「FLEE フリー」映画情報
タイトル | FLEE フリー |
公開年 | 2022.6.10 |
上映時間 | 89分 |
ジャンル | アニメ |
監督 | ジョナス・ポエール・ラスムーセン |
映画「FLEE フリー」あらすじ
アフガニスタンで生まれ育ったアミンは、幼いある日、父がタリバンに連行されたまま戻らず、残った家族とともに命がけで祖国を脱出した。やがて家族とも離れ離れになり、数年後たった一人でデンマークへと亡命した彼は、30代半ばとなり研究者として成功を収め、恋人の男性と結婚を果たそうとしていた。だが、彼には恋人にも話していない、20年以上も抱え続けていた秘密があった。あまりに壮絶で心を揺さぶられずにはいられない過酷な半生を、親友である映画監督の前で、彼は静かに語り始める…。
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映画「FLEE フリー」ネタバレ感想・解説
タイトルの意味
(C)Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved
タイトルのFLEEは、逃げるという意味。日本では逃げるという単語の場合、Escape(エスケープ)が一般的だが、同じ意味でもニュアンスが異なる。
Escape が(自由になるために)という意味が込められているのに対して、FLEEは、(危険な状況から)という内容が込められているため、よりネガティブな状況として使われている。
主人公のアミンは自由になるためにというよりも、アフガニスタンの内戦による危機がせまっているわけなので、そこから逃げ出すという意味合いで使われている。
アフガニスタンだけでなく、ロシアではビザの切れた不法入国の状態で、スウェーデンへの密入国が失敗して収容された施設など、アミンはずっと危険な状況から逃げようとしている。
アフガニスタン難民の実話
(C)Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved
主人公のアミンはアフガニスタンで生まれ。父親がムジャヒディンという武装組織に連行され帰らぬ人となり、母親と兄弟のみで暮らしていた。
しかし、内戦により国を追われロシアで迫害を受け、家族は散り散りになっていく。「FLEE」という映画は、本人がインタビューを通して語っている。すべての出来事は真実に基づいているのだ。
アミンは、幼少期をアフガニスタンで暮らしていた。旧ソ連軍による侵攻が始まったのが1979年でソ連軍が撤退したのが1989年。
ソ連軍の侵攻に徹底抗戦していたムジャヒディンなる抵抗軍と、ソ連撤退後も援助を続けていた政府軍の内戦が始まる。そしてムジャヒディンが市民への迫害を始めようとすると、家族はモスクワへ逃亡することになる。
引用:worldvision
先にスウェーデンに逃亡していた一番上の兄のはからいでモスクワにあるアパートで暮らしはじめる。つい先日までソ連が駐留していたアフガニスタンにとっては、観光ビザが手に入るのはロシアしかないためだ。
共産主義が崩壊しようとしていたロシアでは、食べ物がなく、ルーブルの価値は下落。治安は悪化し警察さえ信用できない状態だった。観光ビザで入国していたアミンたちはすぐに滞在可能な期限は切れ、正式な入国者ではなくなっていた。
ロシアの警察に見つかれば強制送還になるはずだったが、国情が不安定なロシアでは警察も取り締まる気なんてまるでなく、アミンたちのような弱い者から金銭を奪っていくだけのならず者になっていた。
腐敗した公権のせいでアフガニスタンへ戻されることこそなかったが、ほとんどアパートから出られず、若いアミンにとって苦痛の日々を過ごすことになる。
難民の受け入れ先であるスウェーデン
(C)Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved
一足先にスウェーデンで暮らす兄は、稼ぎは良い状態ではなかったが、なんとか妹2人の妹をスウェーデンに密入国させた。しかし、格安の密入国は過酷を極めた。
狭いコンテナに何日も閉じ込められ、水も食糧もなく、出ることさえかなわない状態で生きられたのは奇跡としか言いようがない。たまにニュースでも出るが、粗悪な密入国業者により、死人が出る事態も発生している。
避難先のスウェーデンは当時、移民に寛容な国だった。多くのアフガニスタンや他国の難民を受け入れた結果、その数は国民の4人に1人が外国人となっていた。
スウェーデンは戦火や専制支配から逃れてきた人々を大量に受け入れた。ドイツのように過去の罪を償うためではない。人類共通の道義的責務を果たすためだ。
引用:プレジデントオンライン
しかし、言葉の通じない国で仕事にありつくのはなかなか難しく、実際に失業者の50%以上が他国から来た移民だという実態もあり、問題になっている。
密入国業者にお金を渡し、家族を助けようとしてくれた兄も清掃業で仕事をしていると告白していたが、稼ぎは良くないようだ。
事実、最近のスウェーデンでは、治安の悪化により移民の受け入れを制限し始めている。
アミンは別の密入国でデンマークにいくこととなったが、ヨーロッパ全土にわたる難民たちによりさまざまな軋轢が生まれているのも事実である。
また、密入国をするために家族はすべて死んだということにしていた。だからこの事実を話すのに20年以上の月日が流れたのである。
ゲイの存在しない国
(C)Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved
インタビューを受けているアミンという男はゲイであるということが物語の複雑性を増している。アフガニスタンではゲイは存在しない。実際には存在しないということではなく、イスラム社会では同性愛嫌悪が強いからだ。
一般にイスラム社会における同性愛嫌悪は非常に強い。イスラム教の聖典コーランに同性愛者が神によって罰せられたという章句があり、同性愛行為は神の秩序に反逆する不道徳で禁じられた行為だとイスラム法に定められているためだ
引用:NEWSWEEK
物心ついたときから女性に興味がなく、男性が好きだと認識していたアミンはそのことをカミングアウトするのが怖かった。唯一のよりどころである家族に見放されるかもしれないという恐怖は心中察するに余りある。
しかし、それを兄に話したところ予想外に受け入れられる。すでにスウェーデンの地に暮らしていた兄は、LGBTに対する考え方が変わってきていたからであろう。
アミンは避難先のデンマークで恋人を見つけたようだったが、「人を信じる」ことの難しさを感じていた。
物心ついた頃から難民として生活し、家族以外の誰も信用できなかったからだ。恋人に家族のことを打ち明けると最初は同情してくれたものの、衝突を生み、真実をバラされないかと恐怖に怯えることとなる。
センシティブな表現があるわけではないけれど、家族は近くにいないのに真実を打ち明けられない苦しみや、人を信じられない苦悩は想像を絶する。
生まれた地を追われ、言葉の通じない国で隠れながら生活し、警察に見つかると金銭を巻き上げられる。密入国しようとするにも数日間のまず食わずで狭いコンテナに入れられる。
密入国が見つかれば収容所に連れてかれ、明日の命の保証はない。
日本のような海に守られた地に暮らすことがいかに幸せなことなのかがわかる映画だった。
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