Farewell は2020年に公開された映画。
アカデミー賞候補と噂されていたけれど、ノミネートされなかった作品。
監督のルルワンの実体験に基づいて描かれていて、末期ガンにかかった祖母に告知をするのか否かについて中国とアメリカの価値観から文化の違いを伝えている。
東洋と西洋の文化の違いを、どちらも否定することないけれど、中国生まれアメリカ育ちのビリーが抱える葛藤を炙り出す。
日本はどちらの文化も影響を受けているので、なんとなく主人公の気持ちが理解できるところもあり、ぜひ見て欲しい作品の1つだ。
70点
映画「フェアウェル」予告
映画「フェアウェル」あらすじ
NYに暮らすビリーと家族は、ガンで余命3ヶ月と宣告された祖母ナイナイに最後に会うために中国へ帰郷する。家族は、病のことを本人に悟られないように、集まる口実として、いとこの結婚式をでっちあげる。ちゃんと真実を伝えるべきだと訴えるビリーと、悲しませたくないと反対する家族。葛藤の中で過ごす数日間、うまくいかない人生に悩んでいたビリーは、逆にナイナイから生きる力を受け取っていく。
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思いつめたビリーは、母に中国に残ってナイナイの世話をしたいと相談するが、「誰も喜ばないわ」と止められる。様々な感情が爆発したビリーは、幼い頃、ナイナイと離れて知らない土地へ渡り、いかに寂しく不安だったかを涙ながらに母に訴えるのだった。
家族でぶつかったり、慰め合ったりしながら、とうとう結婚式の日を迎える。果たして、一世一代の嘘がばれることなく、無事に式を終えることはできるのか?だが、いくつものハプニングがまだ、彼らを待ち受けていた──。
帰国の朝、彼女たちが選んだ答えとは?
映画「フェアウェル」映画情報
監督 | ルル・ワン |
脚本 | ルル・ワン |
音楽 | アレックス・ウェストン |
公開日 | 2020/4/10 |
上映時間 | 100分 |
製作国 | アメリカ |
製作費 | 300万ドル |
興行収入 | 1954万ドル |
映画「フェアウェル」キャスト
ビリー・ワン | オークワフィナ |
ハイヤン・ワン | ツィ・マー |
ルー・チアン | ダイアナ・リン |
ナイナイ | チャオ・シューチェン |
映画「フェアウェル」ネタバレ考察・感想
西洋と東洋の文化の違い
アメリカでは家族の誰かが癌になったとき告知をする。むしろ告知をしないことは違法らしい。
けれども中国では告知をしない文化だ。
ガンだと知ってなにになるのか。本人に深いショックをもたらし、生きる希望を失わせる。という考え方があるからだ。
言わないことは責任を負うということだ。この苦しみを家族全員で負担することなのだ。
中国の文化では、むしろ告知することは無責任にすらとらえられる。
主人公のビリーは幼い頃からアメリカ暮らしなので、中国の価値観が理解できずに苦悩する。
同じ東洋に住む日本人感覚ではどうだろう。今は日本も告知が一般的になっている。私の親族もガンにかかっていたがみんな告知されていたはずだ。
でも20年ぐらい前はまだまだ告知する、しないの議論はあった。
ある日急に余命を言い渡され、知った頃にはすでに満足に動ける体ではない状態だったとしたらどうだろうか。
死の直前に余命を言い渡されるのと、残り少なくても心の準備のために、そしてやり残したことを行うために知りたいだろうか。
けれども、事前に知ったところで残りの余命を満足できる形で過ごせるのだろうか。できる限り余命を長くするために、もしくはより良い治療をする方法を探して、精神がすり減るのかもしれない。
これはあくまで価値観の違いであって正しいこと、間違っていることを議論するものでもない。
だからこそビリーは苦悩する。
国のアイデンティティに苦悩するビリー
告知は自分が楽になるためなのか、本人を楽にするためなのか、答えのない問題にビリーは苦しみ続ける。
西洋と東洋の考え方の違いとして、個人を尊重するのか、個人は家族の中の1人と考えるのかによっても変わってくる。
中国人でありながら、アメリカの文化で生きてきたビリーにとって、アイデンティティーに大きな隔たりが生じている。
アメリカでは、裕福でない家庭に自由にピアノを使わせてくれるようなフランクな面がある一方で、銃社会やヘルスケアの問題は山積みだ。
中国にはアメリカへ渡った後、再び北京に戻って裕福に暮らしている人がたくさんいるという。
以前、ちょっとした縁で北京に住む家庭の結婚式に出たが、やはり日本人のように円卓で囲んで披露宴が行われる。まさに「フェアウェル」の結婚式が行われていた。
中国はもう立派な先進国で、特に北京のような都会は高層ビルが立ち並び、QR決済が当たり前で技術も発達している。
政府の力が強大なのか、個人情報という意味では不安は残るものの、街の治安という意味ではとても平和だと感じた。
改めてこの映画は何が正しいかの話ではないのだ。
日本人俳優 水原碧衣
左に写っている女性。中国人との国際結婚という形でやってきた中国語を全く話せないフィアンセ。
これは日本人俳優の水原碧衣。
この映画を見るまで知らなかったのだけれど、中国で活躍する日本人で上位2%のIQを持つメンサの会員の1人らしい。
このフィアンセの存在が中国とアメリカの間にたつ中立的な立場に存在する。
パンデミック前までは中国から日本にやってくる人たちが多かったように、日本と中国は密接に繋がっている。
そしてアメリカと日本も繋がることは多い。
日本人は東洋の文化でありながら、西洋の文化を多く取り入れている珍しい国だ。集団に重きをおきながらも、西洋の文化にも馴染んでいる。
集団の悪い部分が露呈するたびに個を重んじる西洋の思想に憧れたりもする。
でも結局のところどちらに良い悪いがあるわけではない。
自分の価値観に合うもの合わないものがあるだけだ。
「A24」が手掛ける作品にはこういう人間の内面やアイデンティティをくすぐる作品が多い。
「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」では、地価の高騰によりそこに住めなくなってしまった黒人の寂しさを、「ムーンライト」では、LGBTに悩み、自分自身をさらけ出すことのできない苦悩を。
そして「フェアウェル」では、カルチャーの違いに違和感を感じる中国人女性を描いている。
いろいろな価値観を提示して、多様性の未来を提示する。
理解できなくてもいい。知ることが大事なのだ。知るだけで人は優しくなれる。
改めて米アカデミー賞にノミネートされて欲しかったエモーショナルな作品である。
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