「ボイリング・ポイント」は2022年公開の映画。
ロンドンの人気レストランでオーナーシェフを務めるアンディが、1年で1番忙しいクリスマス前に起きた数々のトラブルを描いた映画。
プライベートでは妻子と別居の問題を抱えているアンディが、かき入れどきのレストランで起きる飲食店ならではの衛生問題や人間関係、金銭トラブルに直面する。
「ボイリング・ポイント」はほぼ全編にわたってレストラン内の出来事を描くが、特徴的なのはそれをワンショットですべて再現している点。映画「1917」では第一次世界大戦をワンショットで撮ったように見せていたが、あれはカメラワークを巧みに利用して数回に分けている。
しかし「ボイリング・ポイント」はガチのワンショット。レストランでの出来事は観客と同じタイムラインで共有される。
非常に難しい撮影となっただろう「ボイリング・ポイント」が、大きな評価を得ている理由だ。
今回は、なぜ「ボイリング・ポイント」はワンショットで撮る必要があったのか。ボイリング・ポイント(沸騰)に達した要因はなんだったのかを含めて解説していく。
「ボイリング・ポイント/沸騰」
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「ボイリング・ポイント/沸騰」映画情報
タイトル | ボイリング・ポイント/沸騰 |
公開年 | 2022.7.15 |
上映時間 | 94分 |
ジャンル | ヒューマンドラマ |
監督 | フィリップ・バランティーニ |
映画「ボイリング・ポイント/沸騰」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
アンディ | スティーブン・グレアム |
アリステア | ジェイソン・フレミング |
フリーマン | レイ・バンサキ |
エミリー | ハンナ・ウォルターズ |
映画「ボイリング・ポイント/沸騰」あらすじ
一年で最も賑わうクリスマス前の金曜日、ロンドンの人気高級レストラン。その日、オーナーシェフのアンディは妻子と別居し疲れきっていた。運悪く衛生管理検査があり評価を下げられ、次々とトラブルに見舞われるアンディ。気を取り直して開店するが、予約過多でスタッフたちは一触即発状態。そんな中、アンディのライバルシェフが有名なグルメ評論家を連れてサプライズ来店する。さらに、脅迫まがいの取引を持ちかけてきて…。
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映画「ボイリング・ポイント/沸騰」ネタバレ感想・解説
「ボイリング・ポイント」というタイトルの意味とは
(C)MMXX Ascendant Films Limited
「ボイリング・ポイント/ 沸騰」は、邦題もついているように日本語で沸騰を指している。このタイトルはレストランの料理にではなく、主人公アンディの精神的な限界という意味で使われている。
アンディは妻子と別居状態にあることでストレスを抱えていた。さらに忙しいクリスマス前にさまざまなトラブルが巻き起こることでじわりじわりとアンディ自身も限界へ近づいていく。
上昇を始めてから臨界に達するまでの流れを脅威のワンショットで描いたのがこの作品だ。
沸騰するまでの経過をワンショットで描ききることで、アンディのストレスの上昇具合が観ている側にも伝わるようになっている。連続のトラブルでも編集点を作ってしまうと観ている側はリセットされてしまう。だからこそこの映画はワンショットで撮りきることに意味があるのだ。
フィリップ監督もそのリアルを表現するためにワンショットにしたと話している。
when you’re in a busy service, it is one take(リアルで忙しいときはいつもワンテイクだろう)
引用:theskinny
ちなみにこの映画は2020年にイギリスで初のロックダウンが起きる直前に撮られており、スケジュールにも余裕がなかったため、普段と違う次元でのプレッシャーもあったという。
The film was shot just days before the first national lockdown in 2020, with Graham’s co-star Ray Panthaki said filming the whole movie in one take added an extra level of pressure to the shoot.(イギリス発のロックダウンの数日前に撮られている。そのためさらに強いプレッシャーの中で撮影されることとなった)
引用:ladbible
実際に飲食店で働いたものや、アルバイトでも経験したことあるならわかる人も多いだろうが、メニューの品切れ、客のクレーム、アレルギー対応にホールと厨房の確執など、忙しければ忙しいほどに問題があふれ出てくる。
常にその場で判断を求められるし、それでも客の前では忙しさを出しすぎてはいけないのだ。
そういった慌ただしさを再現しながらも、人間の臨界点がどこにあるのかも含めて描いたのが「ボイリング・ポイント」である。
ワンショットで再現したアンディのボイリング・ポイント
(C)MMXX Ascendant Films Limited
「ボイリング・ポイント」の中でアンディが臨界を迎えるまでのポイントはいくつもあるが、それを順に紹介していく。
まず、そもそも導入の時点でかなり高い温度設定になっている。アンディは妻子と別居状態にあることで、プライベートがうまくいっていない。
きちんとした理由は伝えられていないが、これはアンディのドラッグやアルコールへの依存問題が関わっているものと思われる。
そのため、家族は不仲というよりも、アンディ自身の問題により家族が離ればなれになっている可能性が高い。なのでスタート時点でアンディの様子がすでにおかしいところから始まっているのだ。。
そして店に到着すると衛星管理の職員が来ていて、管理状態の評価を大きく下げられる。新人が食材を洗う場所で手を洗っていたこと、食材を切る料理人がゴム手袋をしていなかったことなどを理由に衛星管理面の是正を求められる。
また、シェフのカーリーからは賃金アップを要求されているが、共同経営者の娘は取り合ってくれず板挟みに合っている。
クリスマス前の超多忙シーズンだというのに、遅刻したり、ろくに働かない者の管理もせねばならない。
シェフとして厨房内のスタッフを教育したり、味見などを行うために裏へ回るとホール側からはどこにいるかわからないと注意を受ける。
そこへ、ライバルレストランのシェフが有名なグルメ評論家を連れてやってきて、借金を引き合いに出し、自分を共同経営者に迎え入れろと脅迫まがいの取引を持ちかけてくる。
満身創痍のアンディだったが、ナッツアレルギーの客に誤ってココナッツオイルのサラダを提供してしまい、呼吸困難により救急車を呼ぶ事態に発展してしまう。
畳みかけるように、カーリーには店を辞める決意を宣言され、店の先行きは前途多難な状態に陥っていた。
息子と寝る前に電話をするという約束をしたのに忙しすぎてそれもできない。
重度のストレスによりアルコールとドラッグを服用し自暴自棄に走るのだが、すんでのところで妻と会話し思いとどまる。しかし、時すでに遅しで、アンディの体は臨界点を迎え倒れてしまうのだ。
これ以外にもレイシストが、黒人のホールスタッフを露骨に差別したり、インフルエンサーがフォロワーを後ろ盾に無理な注文をしてきたり、客層の悪さによる飲食業界の負担も映し出す。
というわけで「ボイリング・ポイント」は、この一連の流れを編集点なしに描ききることで、過度なストレスを受けた状態を観客と共有できるシステムになっている。
しかし、それを共有するためにどれだけの負担があったのだろうかと思うと、ひたすら尊敬の念が湧いてくる映画だった。
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