「アウシュヴィッツレポート」は2021年のスロバキアの映画。
アカデミー賞のスロバキア代表として選出されたが、ノミネートはされなかった。
前半はアウシュヴィッツ収容所からの脱走を図るまで、後半は脱走してから安全な場所まで逃げ込むまでの逃走を描く。
逃げた先で赤十字に提出したレポートは、ブダペストで移送を待っていた12万人のユダヤ人の命を救ったという事実に基づいたストーリー。
つまり、前半パートにすでにいた収容所の囚人たちは誰1人救ったという記述はない。
映画の見応えとしてはやはり「シンドラーのリスト」の方が良かったけれど、ちょっと冗長になりそうな脱出後からの逃走シーンは、よく考えられていて飽きることはなく、この恐ろしくて忌まわしき感情をそのまま見せつけてくれた。
「アウシュヴィッツレポート」
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「アウシュヴィッツレポート」映画情報
タイトル | アウシュヴィッツレポート |
公開年 | 2021.7.30 |
上映時間 | 94分 |
ジャンル | 戦争 |
監督 | ペテル・バビヤーク |
映画「アウシュヴィッツレポート」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
アルフレート・ヴェツラー | ノエル・ツツォル |
ヴァルター・ローゼンベルク | ペテル・オンドレイチカ |
ウォレン | ジョン・ハナー |
コズロフスキ | ボイチェフ・メツファルドフスキ |
ヘルシェク | ヤツェク・ベレル |
パヴェル | ヤン・ネドバル |
ラウスマン伍長 | フロリアン・パンツナー |
クヅク兵士 | ラース・ルドルフ |
映画「アウシュヴィッツレポート」あらすじ
1944年4月、アウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所。遺体の記録係をしているスロバキア人のアルフレートとヴァルターは、日々多くの人々が殺される過酷な収容所の実態を外部に伝えるため脱走を実行した。同じ収容棟の囚人らが何日も寒空の下で立たせられ、執拗な尋問に耐える中、仲間の想いを背負った二人は、なんとか収容所の外に脱走し、ひたすら山林を国境に向けて歩き続けた。奇跡的に救出された二人は、赤十字職員にアウシュヴィッツの信じられない実態を告白し、レポートにまとめた。果たして、彼らの訴えは世界に届き、ホロコーストを止めることができるのかー。
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映画「アウシュヴィッツレポート」ネタバレ感想・解説
オーケストラの意味
逃げ出す前に2人が見ていた能天気なオーケストラ。あれはホロコーストに対する隠蔽だったという。
強制労働所は今でこそナチスによる虐殺があったことで有名だけれども、当時はナチスによる超機密事項だった。その命令の全ては文書で行われず口頭で行われるほどに隠蔽されていた。
オーケストラもその一環で、強制収容所の現実を隠すためにカモフラージュとして利用していたのだという。
事実、映像を見ていればわかる通り、そんな希望は微塵もない。
今回の舞台となるのはアウシュヴィッツの第二強制収容所であるビルケナウ。広さとしては東京ドーム37個分という収容所という響きからは想像もできないほど広い居住区だ。
なんで雨も降ってないのにドロドロなんだと思ったが、湿地帯だし上下水道もないためらしい。
そういうわけで1人、2人脱走したところで大きな痛手になるはずがないわけだけど、統制をとるために、またその機密を外に漏らさないために徹底的に弾圧をしていた。
1人が裏切れば他のものが罰を受けるという現実になかなか抗えるものではないが、実際には脱走を図ったものがいたようだ。
「アウシュヴィッツレポート」でも、脱出を手引きした男が「もう俺たちは死んでる」と言っていたように、すでに死を覚悟している。
そしてこの極限の状況下でも食料の奪い合いみたいな状況は見られなかったらしい。
映画の中でユダヤ人の1人がパンを仲間に分け与えるシーンがあるが、食事も水も与えずに、寒空の中で立たせ続けられているという極限の状況下で他人にパンを渡せるのだ。
どんな状況でも人のために動ける素晴らしい人たちだと簡単に言っていいのか分からないけれど、本当に恐ろしいものを見させられているようだった。
アウシュヴィッツレポートはR15指定
「アウシュヴィッツレポート」はR15指定になっている。
R18ではないから、直接的な描写は少ない。それほど目を覆うようなあからさまなシーンはあまりない。
ただ、人間を生き埋めにしたり、馬で踏み潰したり、頭を叩き割ったり、サイコパス並の狂気の表現はある。
巧みに見えないように撮影されているだけで、その不快な行動は私たち頭の中で脳内再生される。
囚人を人だと思っていないSSの静かな行動の一挙一投足にビビりながら見ることになるだろう。
さらに「アウシュヴィッツレポート」は脱走の話なので、中盤以降は基本的に収容所にはいない。
森の中を何日も駆けずりまわる少し地味になりがちな描写になる。
しかし、脱走したからと言っても水も食料もほぼ飲んでいない状況だ。しかも健康な体でもしんどいと言われる山中を仲間のために急いで抜けなければならない。
その危うさを表現するために、カメラワークの技巧が光る。主観的なカメラワークに切り替えると、そこに見えるのは2人が必死に逃げている山の中。
定点が固定されず、時にフラッシュバックされる。周囲の音すらほとんど聞こえず、たまに倒れては心臓の音が鳴り響く。常に死と隣り合わせにいるわけだが、仲間を助けるという使命だけで彼らは動き続ける。
それは冗長なシーンを防ぐだけでなく、脱走した先もまだ地獄が続いているのだということを観るものに示している。
赤十字社の役割とは
命からがら逃げてきた2人が助けを求めた先は赤十字職員。赤十字とは世界の紛争地域へ介入することを目的とした国際機関だ。本部はスイスのジュネーブにあり、ドイツにも組織されている。
赤十字社は世界中に広がっているが、映画の中でも話があったようにドイツ赤十字社はナチスの息がかかっていて、非人道的な扱いに対してまともな救済処置ができていない。
事実、赤十字社が送る数々の救援物資は囚人の元に届くことはほとんどなかったようだ。
赤十字職員のウォレンが、2人が死にかけながら必死にたどり着いたことも知らずに、呑気に遅れてきて、救援物資を見せつけてドヤァしているシーンは見せ場である。
現地・現認をしていない人間による手助けは、結果的にただの自己満足に成り下がってしまっているわけだ。なんならドイツに物資を渡している時点で収容所にいる被収容者たちにとってはさらに不幸な結果を招いてしまうことにもなる。
今では極東の日本に住む私でさえホロコーストについては認知している。もちろんこの映画を含めて歴史的事実が明るみに出ているから知っているわけだが、この時代は徹底的な機密管理が行われ、世に出ることはなかった。
ドイツによる非人道的な行為は、ソ連がドイツに侵攻し始めてきた時にようやく気づかれ始めた。しかし、その結果、その事実を隠蔽しようとして更なる被害者を生み出している。
彼らの必死な行動は12万人のまだ収容所に行っていない人たちを助けることはできたけれど、すでに収容所にいた人たちは助けられたという記述はない。
ラストシーンでは、まだ働けるものと見込みがないのでガス室送りにするものを左右に振り分けている。
命を賭して脱出してきた彼らの願いは届かなかった。
12万人の命は救えたかもしれないが、決して感動するような話ではなく後味は悪い。
日本も毎年太平洋戦争を描いた映画が毎年とは言わないまでも数年に一度は話題に上がる。
戦争映画は毎年あるので、舞台を変えても毎年映画を見る人には同じような内容もあるかもしれない。でもある人にとっては初めての経験なのかもしれない。この問題を風化させては絶対いけないという思いで話を紡いでいくことが大事なのだろう。
ユダヤ人収容所を描いた話では「ビューティフルライフ」は、残酷な表現は一切なしで禍々しさを伝えた映画としては一番凄かった。
笑いと恐怖の緩急がすごい映画なので是非見てほしい
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