「暗黒女子」を鑑賞。
それなりに楽しめたが、それほど意外性もなく、まぁそうなるよねという展開で、特に可もなく不可もなくというような感想を持つ映画だった。
おそらくそれはターゲット層が、殺伐とした人間関係とエグみのある描写を求める多感な時期の中高生であり、
その世代を超えた大人たちには稚拙で安易に感じてしまう部分が含まれているからであろう。
そういう映画に矛盾点などを指摘するのは野暮なわけだが、いくつか疑問点もあるので感想ついでに書いてみる。
暗黒女子 映画情報
監督 | 耶雲哉治 |
原作 | 秋吉理香子 |
脚本 | 岡田麿里 |
製作年 | 2017年 |
上映時間 | 105分 |
暗黒女子 キャスト
澄川小百合 | 清水富美加 |
白石いつみ | 飯豊まりえ |
高岡志夜 | 清野菜名 |
デイアナ・デチェヴァ | 玉城ティナ |
小南あかね | 小島梨里杏 |
二谷美礼 | 平祐奈 |
北条 | 千葉雄大 |
暗黒女子 あらすじ
聖母マリア女子高等学院で、経営者の娘で人気者だった白石いつみ(飯豊まりえ)が校舎の屋上から落下して死亡した。彼女の手にはすずらんの花が握られており、自殺、事故、他殺と、その死をめぐってさまざまな憶測が飛び交う。そして、いつみ主宰の文学サークルの誰かによって殺されたといううわさが立つ。いつみに代わってサークルの会長となった澄川小百合(清水富美加)は、彼女の死をテーマにした自作の朗読会を開催。メンバー各自が、物語の中でいつみ殺害犯を告発していくが……。
引用:シネマトゥデイ
暗黒女子のネタバレ感想・考察
死の秘密を共有したもの同士が、なぜ敵対する必要があるのか
白石いつみ(飯豊まりえ)は、妊娠のことを父親に密告したのは部員たちの誰かだと考える。
部員たちの裏切り行為の真相は特に触れてはいないが、もし、裏切り行為が本当であるならば、彼女たちは敵対する者(白石いつみ)に対して一時的にせよ結束しているわけだ。
さらには狂言自殺の現場にも皆で立ち会っている。そんな彼女らが、なぜあえて誰かを貶めるような小説を書く必要があったのか。
考えられるのは2つある。
- 全員が疑われることで本当の秘密を隠す狙いがあった
- 仲の良いフリをしていた彼女たちは共通の敵がいなくなったことで仲違いした
白石いつみの朗読の中で、私が死ねば、彼女たちは自分たちの秘密を守ろうと結束し、それぞれを犯人にしたてあげるといっている。
木を隠すなら森のなかというわけであるが、本当に効果的なのだろうか。
澄川小百合(清水富美加)は、名目上真実を見つけるために朗読会を主催している。
全員が疑わしいままであるとして、なぜそれが彼女たちの秘密を守れるのかという疑問は拭いきれない。
そうなってくると表の顔とは裏腹に、嫌いな人間に犯人を押し付けたいという思惑も見え隠れするわけだ。
そもそも部員たちの仲が良いという描写もないし、そもそもこの部全体が裏の顔を持つドロドロとした人間関係なのだろう。
闇鍋の中身は、白石いつみなのか
あぁ、中高生向けだ!と思ってしまったのが唐突なエグみのあるシーン。
セレブの女学校の女子生徒とは対極にある惨殺死体の光景は異様であり、思春期って欲するよねこういうのと思わずにはいられなかった。
澄川小百合が、白石いつみに代わり主導権を握るため、秘密を共有させるための手段だったにせよ、強引に秘密を共有させる。
「皆さんいつみと一心同体になったのだから」
はっきりとしない終わりかたであるが、食後の器に指輪が残っていたことなどから嘘ではなさそうだ。
そもそも、切られた腕を見せつけていること自体、澄川小百合がサイコパスだということがよくわかる。
高岡志夜は白石いつみの父親と関係を持ったのか
二谷美礼の朗読の中では、白石いつみが父親と高岡志夜との関係を疑うシーンがある。
これは、二谷美礼の創作なわけであるが、高岡志夜の朗読でも父親とは仲が良かったと言っていることから、良い関係を築いていたことは分かる。
これ以外のシーンで、特に父親との関係に触れることはない。しかし、これは高岡志夜が言っていたように仲が良いだけ説が濃厚だろう。
白石いつみは、高岡志夜の秘密を握っていたが、それは盗作に関することだった。
あれだけ人の秘密を暴くのが上手な白石いつみが、そばにいる父親と高岡志夜との関係に気づいていないなどありえないだろう。
香水を娘の友達にプレゼントするなど、父親が密かに好意を持っていた可能性はあるが、関係を持ったということはないと考えられる。
白石いつみの高い情報収集能力
この類の映画にあまり矛盾点を指摘するのは良くないと感じつつもいくつか設定に無理があるなと感じるところがあったので気になった点をいくつか指摘する。
どうしても強引だなと感じてしまうのは、白石いつみ高い情報収集能力。
現実世界にはありえない「完璧な人間」という設定だが、それにしても実力だけではありえない運が必要だ。
- フランスにある姉妹校のメールフレンドから君影草のオリジナル作品を見つける
- 放火した現場に居合わせる
- 売春の現場に居合わせる
- 傷害の事実を白状させる
ディアナ(玉木ティナ)は可能だが、これ以外の情報を収集するのは余程の運と実力がない限り無理だろう。
しかも、これに至っては親友の澄川小百合の協力は得ていない。
話の目的のための材料の集めかたに強引さが目立つ。
他にも、店を継げないからといって店を放火するとか、いくら思春期といえどもむちゃくちゃである。
先生と白石いつみの関係性もまた、中高生に共感されるような作り方だ。
お腹に子どもができたと知って、うろたえることなく結婚を申し出る教師。
まともに考えれば、教師と生徒の関係。18才未満。妊娠の事実を父親が簡単に許してくれるわけがないのは容易に想像つくだろう。
恋愛に興味を持ち始めた頃の純粋な気持ちに対してあからさまな父親の激昂など、反抗心が高まっている子どもへの共感狙いが見えすぎて、30過ぎたおっさんには若干引いてしまう部分もあった。
あとがき
粗が目立つとはいえ、映像を含めてクオリティは高いので退屈することはないだろう。
清野菜名の純粋かつ少女漫画的な演技や、清水富美加のうまくはないが心地よく響く声など魅力な部分もたくさんあった。
ターゲット層は中高生であるが、若い女優のなど、男性が見ても楽しめる部分もあるので、矛盾する部分はあまり見ずに純粋に楽しむことをおすすめする。
暗黒女子を見たならこれもおすすめ
暗黒女子とは、女性同士のどろどろとした関係をクローズアップさせているわけだけど、同じく学生生活のヒエラルキーを突きつける映画としては「桐島、部活やめるってよ」がおすすめ。
中学や高校時代に感じた、リア充と非リア、無理してリア充に属している者、リア充の中でもさらにある格差や閉塞感。
リア充であるがゆえの孤独など、日本で学生生活を経験したものなら登場人物の誰かに感情移入し、心をしめつけること間違いなしだ。
「桐島、部活やめるってよ」と同じ原作者(朝井リョウ)による映画「何者」。
「桐島~」が学生生活なら、「何者」は就職活動。
「内定をもらうということは、自分自身を丸ごと肯定された気分になる」というのは日本の大学生が一斉に就職活動をするうえで避けては通れない道であり、それゆえに心をしめつける。
就職活動前には決して見てはいけない作品だ。
「暗黒女子」が重すぎるので、もっと軽くてノリの良い学生生活が見たいなら「ちはやふる」
かるた部で全国大会を目指すエンタメ青春バトルムービーだ。
何も考えずに楽しめる一方、ストーリー、キャラクター、音楽、演出のどれをとっても一級品でそのクオリティには圧倒されるだろう。
全3部作となっているが、これほどまでに完璧な三部作はいまだかつて見たことがない。