人間に一貫性はない。どんな人間も良い面もあれば悪い面もある。
勧善懲悪の世界はおとぎ話や昔のマンガの世界にしかない。神様のような誰にでも愛される存在なんてものはなく、そういったイメージがついた人はメッキがはがれて炎上する。
いや、でもそもそもそういうものかもしれない。子連れのシングルマザーと結婚した息子の嫁を明らかに蔑視していたりする父親や、受け入れたつもりでも奥深くでは歓迎していない母親。
過去を引きずりつづける元カノに、前の夫が忘れられない嫁。人間の表と裏というには大げさであり、感情のブレがあるのは当然なのだ。
「LOVE LIFE」は誰に感情移入をしていいのかわからなくなる映画。ミュージシャンの矢野顕子が1991年に発表したアルバム「LOVE LIFE」に収録された同名楽曲をモチーフに、「愛」と「人生」に向き合う夫婦の物語を描く。
夫と6才の息子を持つ妙子に突然起きる悲劇。平穏無事に生きてきたと思っていたが、実はギリギリのところでバランスを保っていた人生だったことがわかる。2人の間には明らかな距離があった。その距離は孤独という形であらわれる。
悲しみに暮れている妙子の前に前の夫が現れ、人生の歯車が少しずつ噛み合わなくなっていく話。
ネタバレ含めてストーリーを解説・考察していく。
LOVE LIFE
(2022)
愛と人生、距離と孤独
3.4点
恋愛
深田晃司
木村文乃
- 突然おきた悲劇に起こる家族の話
- 矢野顕子「LOVE LIFE」の歌詞から作った映画
- カンヌ国際映画祭 審査員賞を受賞
定額で映画をレンタルするならゲオ
「ゲオ宅配レンタル」は無料トライアルに登録すると特典が2つ!
- VODよりも安く借りられる
- 家にいながらレンタル、返却はポストに入れるだけ
- 月額プランなら返却期限なし!
- 月額プランなら送料・延滞料金¥0
\ 35万本のDVDが見放題! /
映画「LOVE LIFE」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
大沢妙子 | 木村文乃 |
大沢二郎 | 永山絢斗 |
敬太 | 嶋田鉄太 |
パク・シンジ | 砂田アトム |
大沢誠 | 田口トモロヲ |
大沢明恵 | 神野三鈴 |
山崎理佐 | 山崎紘菜 |
映画「LOVE LIFE」ネタバレ考察・解説
LOVE LIFE のテーマとは
孤独と言い表したが、この映画は人との距離感を表した話である。映画のテーマにもなっている矢野顕子の「LOVE LIFE 」の歌詞「離れていても愛することができる」をベースにお互いの距離の違いと愛情を描く。
距離とは、物理的な距離もあれば精神的な問題もある。
例えば義両親との実家は団地を隔てた向こう側。大声で叫べば聞こえるぐらいの距離感。妙子の元夫は韓国人。地理的な問題だけでなく、心の距離もある。二郎と妙子はお互いが想い合っているようにも見えるが、ナニカに隔たりがあるため、目を合わせることが少ない。
そしてその隔たりはある出来事をきっかけに決定的なものになっていく。
離れては近づき、そしてまた離れる。それぞれの関係において埋まらない距離が物理的にも精神的にもあるのだ。
なぜ二郎の両親は妙子によそよそしいのか
妙子は夫の二郎と息子の敬太の3人暮らし。同じ団地の向かいには二郎の両親が暮らしていた。敬太がオセロの大会で優勝し、妙子の家にお祝いを持ってやってくるシーンがある。
どこかよそよそしく不機嫌な二郎は釣具の中古というキーワードに対して突然キレ始める。妙子が住んでいる団地は小さい頃から二郎と両親が住んでいた部屋だった。その部屋は息子が結婚したら譲る気だったのだが、嫁いできたのは妙子とその子どもだった。
敬太は前の夫との間にできた子どもだった。二郎の父親はそのことが気に入らず、結婚を認めていなかった。だから敬太は養子に入らず、戸籍上は二郎とは他人のままだったのだ。
二郎の母親は、空気を読まずに妙子を責める父親に謝るように言った。母親は妙子を気遣うような素振りを見せるものの心の奥底をら垣間見るセリフを吐く。
「でも次は本当の孫も抱かせてね」
この言葉は妙子の孤独感を強めるには充分だった。二郎の両親にとって、戸籍だけでなく感情的にも敬太は他人だった。本当の孫ができたら敬太はどうなるのか。
敬太の死
二郎は父親と同じ職場で働いていたようで、敬太のお祝いだけでなく、父親の誕生日祝いも兼ねて同僚も集まっていた。
そこで悲劇は起こる。風呂場で遊んでいた敬太は誤って頭を打ち、湯船に残ったお湯で溺死してしまう。この死をきっかけに、二郎たちと妙子の距離は深まっていく。
敬太を一度病院から家に連れ帰ることになったが、今度は母親のほうが気が動転する。思い出の詰まった家に他人の死体を置くことに抵抗感を示す。母親も妙子たちを心の奥では受け入れていないということが決定的になる。
まだこの時点では誰も涙を流していない。
葬式、敬太の本当の父親が現れる。数年前に失踪して行方が分からなかったが、敬太の死を聞きつけてやってきたのだ。そして、涙を流しながら妙子を叩き、そして自分も叩いた。
そのときはじめて妙子は泣いた。今まで全く泣くことができなかった妙子はここで堰(せき)を切ったように泣き始める。敬太がいなくなり、孤独を抱えていた妙子にとって、元夫の登場は明らかに理不尽な行為ではあるものの、心を緩めるには十分だった。
なぜ元夫は妙子の元を離れたのか?
元夫のパクは、生まれも育ちも韓国で、耳が聞こえなかった。妙子と出会い、結婚して敬太が生まれるものの、急に妙子の前から姿を消す。
理由を尋ねると、「うまく説明できない」とパクは言う。パクは家なしのホームレスとなり、生活保護を申請しようとしていた。
自分で生活できないどうしようもない男だったが、憎めない男。生活支援センターで働く妙子の母性をくすぐった。
実は、失踪後数年経過したとき、妙子はパクを公園で見つけていた。しかし、二郎と結婚直前だったため、声をかけることはしなかった。
二郎との関係を重視していたときだったため、関係をそのまま断つつもりだった。
でも今回は、二郎の働きかけもあって、パクの生活の手助けをすることになる。それをきっかけにパクの生活能力のなさを見て入れられず、色々と世話を焼くようになっていく。
しかし、妙子の心の中はそれだけではなかった。
二郎の孤独
二郎は、敬太の父親だった。血は繋がっていなかったけど、そんなことは関係なかった。
と思っていたが、敬太が死んだことで、妙子との違いが決定的になる。敬太の葬式で彼が考えていたことは、
「はやく妙子との子供を作らないと」
である。
激しい自己嫌悪に陥るとともに、でも妙子と一緒に泣くことはできなかった。自分の子ではないという事実は、やはり妙子の悲しみとは違っていた。
パクがやってきたとき、大泣きした妙子を見て、その孤独はいっそう深まっていく。2人の間にはどうしようもない温度差があり、それは心の距離に現れていた。
また、パクの面倒を見てあげるように言ったのは二郎だったが、2人だけにわかる手話を見て隔たりを感じることになる。
三角関係にもう一つ何か緊張感のある設定を入れられないかと考えるうち、妙子とシンジの間に、二郎にはわからない共通言語みたいなものを持たせられないか、と思いついたんです。
CREA
二郎は妙子のことを好きだったことは事実だし、それは今も変わらない。しかし、そうした孤独感から前の交際相手と会ったときにキスをしてしまう。
二郎は、妙子がパクを探している頃から近くにいた。付き合っていた人が他にいたのに、浮気して別れてしまうほどに本気で好きだった。そんな妙子を見ていたからずっと孤独感を感じていたのだ。
ラストの意味
パクの父親が危篤状態だと聞いて、急遽韓国へ帰ることになる。船まで送って行くが、妙子はパクについていってしまう。パクは放っておけないタイプの人間であったが、どちらかというと敬太がいなくなった今、妙子の支えはパクだった。
敬太が死んだ浴槽に、今後も使わなければならない。しかし、二郎を頼ることはできなかった。頼ることができたのはパクだった。
二郎の制止を振り解いて無理やり韓国までついていく妙子。だが、実は父の危篤ではなく、パクの前妻との間にもうけた息子の結婚式だった。
前妻も耳が聞こえなかったため、息子も手話を扱うことができた。20年間会っていなかったパクのことを前妻は許さないようだったが、息子は出会えたことを喜んでいた。パクにはもう一つの家庭があり、手話で会話ができた。
韓国手話という共通言語で会話していた2人の関係は特別ではなくなった。妙子は再び孤独を感じる。
妙子は二郎のところに戻った。2人は孤独を感じたまま寄り添っていく。お互いの距離感は変わらない。
撮影が始まる前、監督から言われていたのは、「主人公の夫婦には、少し距離ができている」ということでした。だから冒頭、ふたりは目を見て会話をしていないんです。
GQ
拠り所を求めてキリスト教に入信した二郎の母親は、妙子に「お義父さんがいるじゃない」と言われたときにこう言っていた。
「一緒に死ねるわけではない」
人は誰と一緒にいようとも孤独を感じる生き物で、それが解消さらることはない。ここに出てくるキャラクターは皆悪い人ではない。しかし、善いひとでもない。ときに感情が抑えられず、孤独から人を裏切る。
そんなありのままを描いたのがLOVE LIFE なのだ。
コメント