「ドント・ルック・アップ」は、2021年の映画。隕石が地球に衝突すると知った科学者がアメリカの大統領に進言するものの、なかなか聞き入れられずに奮闘するブラックコメディ。
一癖も二癖もあるキャラクターが、チョケているのが最高に楽しい。時の為政者たちをオマージュにしてオーバーリアクションかつバカっぽく描く姿は、日本が漫才を通じて社会風刺をするのと同様に痛快である。
フェイクニュースに踊らされ、SNSに依存する私たち一般市民もあざけ笑う。たがら笑っていられないのだが、笑っていられないからこそ笑い飛ばしたい一作。
ブラックコメディ調で作られているけど、エモーショナルな音楽とシリアスなムードで進むところもあり、見応えも申し分ない。
アカデミー賞候補も納得のエンタメ、社会風刺映画である。
「ドント・ルック・アップ」
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「ドント・ルック・アップ」映画情報
タイトル | ドント・ルック・アップ |
公開年 | 2021.12.10 |
上映時間 | 145分 |
ジャンル | コメディ |
監督 | アダム・マッケイ |
映画「ドント・ルック・アップ」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
ランドール・ミンディ | レオナルド・ディカプリオ |
ケイト・ディビアスキー | ジェニファー・ローレンス |
テディ | ロブ・モーガン |
ジェイソン | ジョナ・ヒル |
ピーター | マーク・ライランス |
ジャック | タイラー・ベリー |
ユール | ティモシー・シャラメ |
ベネディクト | ロン・パールマン |
ライリー | アリアナ・グランデ |
DJチェロ | キッド・カディ |
映画「ドント・ルック・アップ」あらすじ
天文学専攻のランドール・ミンディ博士(演:レオナルド・ディカプリオ)は、落ちこぼれ気味の天文学者。ある日、教え子の大学院生ケイト(演:ジェニファー・ローレンス)とともに地球衝突の恐れがある巨大彗星の存在を発見し、世界中の人々に迫りくる危機を知らせるべく奔走することに。仲間の協力も得て、オーリアン大統領(演:メリル・ストリープ)と、彼女の息子であり補佐官のジェイソン(演:ジョナ・ヒル)と対面したり、陽気な司会者ブリー(演:ケイト・ブランシェット)によるテレビ番組出演のチャンスにも恵まれ、熱心に訴えかけますが、相手にしてもらえないばかりか、事態は思わぬ方向へー。果たして2人は手遅れになる前に彗星衝突の危機から地球を救うことが出来るのでしょうか!?
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映画「ドント・ルック・アップ」ネタバレ感想・解説
「ドント・ルック・アップ」で落ちてくる彗星の大きさは?
©️Netflix映画「ドント・ルック・アップ」
「ドント・ルック・アップ」で衝突しようとしている隕石の大きさは5キロから10キロほど。恐竜を絶滅させたものより大きいといえば、その規模感がわかるだろう。
発見された時点で6ヶ月ほどで地球に到達すると予測されている。
余裕があるわけではないが、いろいろ対策を検討できる期間はあったはず。
さまざまな人間の思惑や構造上の問題で、人類は目的を達成するための最短の道を進めないということを痛烈に皮肉っている。
手続きをたくさん踏まないと何もできない日本政府の構造を皮肉った「シン・ゴジラ」にも通ずるところがある。民主主義であるがゆえの欠点といってもいいだろう。
ちなみに映画「アルマゲドン」は1,000kmほどの小惑星で、発見されてから18日後に衝突するという設定。その間に宇宙未経験の掘削業者たちを育てて見事に回避したのだから奇跡としかいいようがない。
「君の名は」の隕石は40mで、「グリーンランド」は14.5km。
防いだのは「アルマゲドン」だけなので、もし現実に隕石が落ちるようなことがあれば、ランドール博士のように家族で最後の時を過ごすのが正解なのかもしれない。
気候変動の問題と正常時バイアス
「ドント・ルック・アップ」は今まさに人類を絶滅の危機にいるのに、正常時バイアスのせいで皆が危機感を持って行動しない。
正常性バイアスとは、予期しない事態にあったとき、「そんなことはありえない」といった先入観や偏見を働かせて、「事態は正常の範囲」だと自動的に認識する心のメカニズムのこと 。
引用:カオナビ
ランドール博士たちだけでなく、証言の裏付けを検証した科学者が他にもいるのに誰も見向きもしない。
インターネットとSNSの普及によって、情報を正しく処理しきれない人類は、隕石墜落という本当に大事なニュースは取りこぼす。
さすがにありえないように感じるが、実際に気候変動に対するあらゆる科学者の警笛を無視している実態がある。
The film is clearly meant to be a parable about humanity’s inability to face the hard truths of the existential threat posed by climate change in the last 40 years
(この映画は人類が40年間続く気候変動の厳しい現実と向き合う能力がないことをはっきりと示している。)
引用:Den of Geek
タイトルが「Don’t Look Up(見上げるな)」は、現実から目を逸らそうとする意図がある。日本語タイトルは「臭いモノにはフタをする」がちょうどいいのではないか。
今日の世界は情報があふれていて、結果的に私たちは見たいものしか見ない。というか見る時間がない。SNSで消耗し、ロケットが打ち上がればローンチチャレンジと称してバカ騒ぎ。
隕石よりも日々の暮らしが重要な大統領のサポーター。権力者たちだけでなく、人類全体の問題である。
アメリカでは大規模な火災が何回も起きていて、2020年のはじめにオーストラリアで起きた火災も記憶に新しい。世界的な温暖化による影響は世界各地で起きていて、日本でも何年も前から水による災害が頻発している。
でも私たちは真剣に取り組まない。気候変動の問題があることは理解していてもSNSでは今日も誰かをイジったり、ハッシュタグで騒ぐ程度。為政者や影響力のあるインフルエンサー、テック企業も気にしているフリをするだけ。そして私たち一般市民だって同じだ。
それを誇張して皮肉たっぷりに描いたのが「ドント・ルック・アップ」。選挙のために行動し、彗星落下も選挙に利用できるか否か。レアアースでさらなる繁栄をつかもうと、彗星破壊を延期する。
「リッチな連中を吐くほど金持ちにする計画よ」とケイトがいったのは、トランプ大統領などの富豪や、GAFAや他のテック企業をイジったセリフだ。
しかし、これはそれらを欲して消費する一般市民も同じなのだ。
大統領のオマージュ
©️Netflix映画「ドント・ルック・アップ」
気候変動とともに現実に起きている問題をブラックユーモアを交えて描いているので、登場するキャラクターは誰かを想起させる。
メリル・ストリープ扮するオーリアン大統領。
女性の大統領として思い浮かぶのは民主党のヒラリークリントンだけども、見た目ではなく行動のイメージのもとになっているのはトランプ大統領だ。
大統領が科学者であるランドールとケイトの訴えを軽視するくだりは、トランプ大統領の気候変動に対する以下の回答がもとになっている。
トランプ氏は「次第に涼しくなる。見ていろ」と否定。「科学が分かっているとは思えない」と続けた。
引用:朝日新聞デジタル
キャップをかぶって労働者階級の票を取り込み、党大会で大衆の人気を得る。身内を政権内部に入れた組織運営などは、まさにトランプ政権そのものだろう。
一方で、喫煙問題を取り上げていたり、セレブたちと写真を共にするなどの行動はオバマ大統領を匂わせている。
former President Barack Obama’s worst kept dirty little secret.(オバマ前大統領の最悪な秘密)
引用:朝日新聞デジタル
ヒラリーの夫である前大統領のビルクリントンの写真を立てかけていたりと、近年の大統領および大統領候補の集合体がオーリアン大統領である。
バッシュCEOのオマージュ
©️Netflix映画「ドント・ルック・アップ」
GAFAっぽい感じのCEOは、スティーブ・ジョブズを想起させる。
iPhoneのかわりにバッシュフォンなるスマホを開発し、その中にはSiriらしきAIが搭載。落ち込みや鬱症状などのネガティブ感情を読み取り、AIがサポートしてくれる。
毎年ナンバリングされるiPhoneのように14.3などという中途半端な数字がソフトウェアっぽくもあり、おもしろい。
熱狂的なアップル信者を前に登壇し、拍手をかっさらうのもジョブズのやり口そっくりである。
ライランスも大統領と同じように特定の誰かを模しているわけではない。大量の個人情報を集めて死因を予測するあたりはたびたび問題となるFacebook。
GAFAだけでなく、テスラのスペースXのように宇宙事業を手がけたり火星に国家を建国しようとしているイーロンマスクもかなり意識されている。
私はそのほうがおそらく良いと思う。というのも、間接民主制と直接民主制を比べると腐敗政治が起きる可能性は直接民主制のほうが非常に小さくなるからだ。
引用:GIZMODO(イーロンマスクのインタビュー)
テレビキャスターのオマージュ
テレビキャスターとして登場するブリーとジャックのタッグはアメリカのモーニングショーで見られる過度に明るさを強調した番組をイメージしている。
日本でいうワイドショー。有名アーティストが誰と別れたとか、愛の告白とかどうでもいいニュースを彗星衝突の前に扱うことで、現代の報道の低俗性とチープさを表している。
ライリーのオマージュはアリアナ・グランデ
©️Netflix映画「ドント・ルック・アップ」
ライリーのオマージュは、もちろんアリアナ・グランデ本人だ。
ワイドショーの餌食となるスターやインフルエンサーの対象として登場する。
世界的なスターは下世話なワイドショーの餌食にされている。アーティストなのに歌はナシで元カレの話に終始。
誰と浮気したとか、何回ヤッたなどの性的な話を持ち出して視聴者の興味を惹きつける。
日本もアメリカも人間のもつ低俗性は健在なのだ。
アリアナ・グランデが、劇中で熱唱する歌は最高にクールでエモいのだけれど、ヨリを戻したボーイフレンドのラップといい、低俗なエンタメという皮肉を彷彿とさせていて、複雑な気分になるのだがそれがいい。
物語の結末とエンドロールのラストで生き残った人物
物語の結末は、なんの奇跡も起きることなく科学者の予測通り隕石は落ちて人間は滅亡する。
まさかこのシュールなノリで人類が滅亡するとは思わなかった。コメディ要素は残しつつも、ランドールたちが最後は家族や好きな人と日常を過ごしながら死ぬシーンはなかなかに切ない。
アルマゲドンと同じように隕石を真っ二つにしようと最新の技術を使おうとするも見事に失敗。
月で気が触れたスティーブ・ブシェミのように人類たちがふざけ倒した結果、人類が滅亡してしまったというブラックジョーク。
でも人間なんて案外こんなものかもしれない。核戦争が起きるというと恐怖を感じるが、隕石が衝突するよと、言われても実感はわかない。
グリーンランドのようにパニックで逃げまどうようなことはなく、Twitterでハッシュタグつけたり、YouTubeに動画を上げる。
少し規模は小さいが「サイレント・トーキョー」でも爆発予告があった場所に見物人が押し寄せた。平和に暮らしているとスリルを求めてしまうのかもしれない。
あと少しで全ての命が失われると分かっていようと何も変わらない。どこかでいがみあい、笑い合あい、死ぬ人もいれば、新しい命は誕生する。
宇宙という途方もなく壮大で畏敬な存在に対しては、人類は愚かでちっぽけで何も変えられない存在だということが浮き彫りになる。
また、「ドント・ルック・アップ」はアメリカ映画には珍しく、エンドロールが流れた後に続きが存在する。
1つは宇宙船で逃げたオルレアン大統領たちのその後。
2万年という途方もない期間を、仮死状態で宇宙をさまよい新天地に到着する。
AIがオルレアン大統領の死因を言い当てていたブロンテックなる怪物のいる惑星だ。
もう1つは、隕石落下直後の地球。
オルレアン大統領の息子が地球最後の生き残りとしてYoutubeに動画を投稿して「チャンネル登録をよろしく」なんて言いながら終了する。
愉快な映画だったのに、なぜか背筋がゾッとするような感覚を味わうのは、現実にこういうことが起きてもおかしくないほどに世界は狂っているからかもしれない。
アカデミー賞にふさわしい、エンタメ性あり、社会性ありの良き映画だった。
コメント
コメント一覧 (2件)
偏ってる上に浅い知識で主語もでかい
コメントありがとうございます。私なりに調べた結果ですが、さまざまな意見は当然ありますので、ぜひご意見をお聞かせいただければと思います。