「少年の君」は2021年に公開された香港の映画。日本以外ではすでに公開済で、2021年のアカデミー賞国際長編映画賞にノミネートもされている。
香港のスクール生活における受験戦争とイジメを取り上げた社会派の映画。
それだけでなく、エンタメとのバランスが非常にとれているのもまた評価が高い理由の1つ。
ティーンエイジャーが晒されているストレスフルな競争社会や、イジメの問題提起はきちんととりつつ、エモーショナルな音楽を使い、青春の痛々しくてむずがゆいストーリーも実によく仕上がっていて、全方位におすすめできる一作だ。
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「少年の君」映画情報
タイトル | 少年の君 |
公開年 | 2021.7.16 |
上映時間 | 135分 |
ジャンル | 青春、恋愛 |
監督 | デレク・ツァン |
映画「少年の君」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
チェン・ニェン | ラム・ウィンサム |
シャオベイ | イー・ヤンチェンシー |
ヂォン刑事 | 尹昉 |
ラオヤン | 黄覚 |
チェン・ニェンの母親 | 吳越 |
ウェイ・ライ | 周也 |
リー・シィァン | 張耀 |
フー・シァォディェ | 張芸凡 |
ダーカン | 趙潤南 |
出演するは、松坂桃李っぽい香港のアイドル、イー・ヤンチェンシーと、吉岡里帆っぽい雰囲気を持つ女優、チョウ・ドンユイ。
この若手俳優がいい味を出しているところに監督は「インファナル•アフェア」でマフィアのボスを務めたエリック•ツァンの息子。
映画「少年の君」あらすじ
進学校に通う高校3年生のチェン・ニェン。大学進学のための全国統一入学試験を控え殺伐とする校内で、ひたすら参考書に向かい息を潜めて卒業までの日々をやり過ごしていた。そんな日々の中、同級生の女子がクラスメイトのいじめを苦に、校舎から飛び降り自らの命を絶った。少女の死体に無遠慮に向けられる生徒たちのスマホのレンズ、その異様な光景に耐えきれなくなったチェン・ニェンは、遺体にそっと自分の上着をかけてやる。しかしそのことがきっかけで、激しいいじめの矛先はチェン・ニェンへと向かうようになってしまう。彼女の学費のためと犯罪スレスレの商売に手を出している母親以外に身寄りはなく、頼る者もないチェン・ニェン。同級生たちの悪意が日増しに激しくなる中、下校途中の彼女は集団暴行を受けている少年を目撃し、とっさの判断で彼シャオベイを窮地から救う。辛く孤独な日々を送る優等生の少女と、ストリートに生きるしかなかった不良少年。二人の孤独な魂は、いつしか互いに引き合ってゆくのだが…。
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映画「少年の君」ネタバレ感想・解説
「少年の君」は、香港のいじめと受験戦争の映画
エンタメに社会的なメッセージを入れると大体重苦しくて万人には受け入れ難くなる。
だからといって薄くしすぎると伝わりきらないことが多いのだけれど、「少年の君」についてはその中でも絶妙なバランスが取れた作品だった。
香港の受験戦争の異様さを切り取ったシーンが象徴的で、映像にも満足な見応えがある。
香港も日本もどこであろうと強者が弱者を集めて、集団を成し、孤立した弱者をなぶり殺す図式は変わらない。
集団行動の中にいる大多数の弱者たちはで、罪悪感が薄れるだけでなく、彼らにはある種の自己肯定感が生まれ始める。
それは恐怖によるものであったり、マジョリティであるがゆえの正義のようなものが働き、一斉に襲いかかってくるのだ。
だから、自殺した少女の次の標的がなんとなくチェンになり、そのあとが同じくイジメに加担していた少女に移っていったように、弱き者がマジョリティに属するか、マイノリティに属するかは運も多分に含まれる。
香港のイジメについては、ある程度警察が動くというのは少し特徴的。イジメで生徒が自殺してからでは遅いのだけれど、その後チェンに標的が移ってからの対処はとりあえずされていた。
警察が動いたからとは言え、抜本的な解決にはならず、結局閉鎖的な場所に人間が集まると問題は起こる。
それはもうどうすることできないかもしれないけど、少なくとも警察の介入で救われる命があるとは思いたい。
香港の大学事情
日本も大概、受験戦争だの詰め込み教育だの言われてきたけれど、アジアの他の地域を見ると、最近の日本はまだマシに思える。
その一つが香港だ。超学歴社会の香港では、中高一貫教育であるがゆえに、小学校から受験が始まる。香港は97年までイギリスの植民地だったことから、中国とも一線を画している。
チェンは北京大学を目指していたけど、2021年では大学ランキングでは今や日本の東大よりも上だ。そもそも香港という地では大学自体が乏しく競争率も激しい。進学率も日本のように高くない。
また、香港では公立学校が普通らしいけれど、日本のように人類皆平等精神ではないらしく、学校によって内容は異なるらしい。それにより小学校も近くの場所を選ぶのではなく抽選方式なのだそう。
つまり、幼稚園の頃から受験を意識して動かないといけないわけになる。なんだかわからないけれどその状況を当たり前に受け入れるしかない子どもと、競争に負けて子供を不幸にしてはいけないと強迫観念のように考える親が苦しまなければならない。
日本でもお受験なんて言葉はあるけれど、ほとんど多くの家庭は近くの公立小学校に通わせるだろう。その時期から将来を考えて動かないといけないのは実に頭が痛い。
日本も受験戦争なんて言われてきたけど、最近はあまり聞かない。日本の中での戦争は、少子化やゆとり教育以来鳴りを潜めている気もする。
グローバル社会における競争の激化は、日本のような島国にいると、世界各国にいる有象無象のライバルを意識することがあまりないのは、良い点なのかもしれない。それゆえに大学ランキングは年々落ちているという実態があるけれど、こういうの見ると何が幸せなのかはわからないなと。
進学校の学費も高いらしく、チェンの母親は詐欺まがいの商売をしながらお金を稼いでいる。
そもそもその程度で通わせられるようだろうか?という謎は残るものの、親は子のために身を粉にして働き、子はその期待と自身の成功のために勉強をし続ける。
そのストレスがやがてイジメへと繋がっていく。
まぁ、、親としてはそこまでして通わせた高校をイジメのせいで全て台無しにされては、殴りたくなるのも仕方がないことかもしれない。例え、子供に頼まれたわけではないにしても。
「少年の君」のラスト
お互いがお互いを庇い合うみたいなところとは青臭いけれど、ザ・青春という感じで良いのではないか。
大学に行く理由が、良い暮らしをするとか、成功者になりたいとか、こういう勉強がしたいとかではなく、「世界を救う」ことが目的というチェンに共感性羞恥のようなものを感じてしまうのは、私自身が、歳をとるとともに、純粋な何かをどこかに置き忘れてきたからなのかもしれない。
誰かを救うために罪を被るとか、捕まる前のキスシーンとか、30代を超えてくるとちょっとむずがゆい描写もあるのだけれど、それを差し引いても良い映画だった。
良き映画だったが、気になった点もいくつかあった。いつも思うが、ドラマや映画で殺すつもりなく押したら打ちどころ悪くて死んでしまったみたいな事って、現実にもありうるのだろうか。殺意を持ってことを犯した方がまだリアリティがあったのではないだろうか。
それに、イジメの首謀犯ウェイ・ライ。こういう輩は日本でも大体が決まって美人なのだけれど、それは香港でも同じらしく美しきサイコパス。
まぁそれはいいのだけど、イジメがエスカレートさせてレイプまがいの行為まで行う。
しかし、最初から最後まで悪人を貫き通すかと思えば、一転してチェンに謝りにくるところはちょっと不可解だった。
1年も口を聞いてくれない父親という供述から家庭内での彼女の居場所がなくなりつつあると思われるが、あそこまでしたあげく、急に平謝りからの金で解決しようとする姿勢は殺されるフラグを立てにきたとしか思えなかった。
せめてあれはNo.2あたりにいた女でやって欲しかったところ。
ラストシーンも若干気になった。後ろを歩くシャオペイにはやましいことは何もなく、フードを被らなくてもいいはずだ。
街中に張り巡らされた監視カメラにも堂々と目を向けるのだった。いや、それなら一緒に歩こうよと。並んで歩けるようになったのだから。
ちょっとした話の流れには腑に落ちない点はあったものの、香港の貧困が蔓延する街並みや、受験という異常な競争社会を背景にそこからこぼれ落ちた若者の嘆きや、こぼれ落ちまいと必死にすがっている少年、少女の苦しみがよく伝わってくる良き映画だった。
「少年の君」はパクリなのか
「少年の君」にはパクリ疑惑なるものがあるらしい。東野圭吾の中でも名作と名高い「白夜行」と「容疑者Xの献身」だ。
私も東野圭吾の白夜行は原作も映画もドラマも見ている。同じように「容疑者Xの献身」も原作、映画共に鑑賞するほど大好きな作品だ。
確かに白夜行想起させる部分はあった。「白夜行」では、女性と男性のそれぞれの視点が展開されるが、お互いが接触した事実は一切描かれない。しかし、物語の端々で女性の陰で動く男性の存在を仄めかしている。
同じように「少年の君」も男は監視カメラにはっきりと映らぬように影に隠れてチェンを守る。その存在に気づくも確たる証拠が掴めない刑事の存在も同じだ。
たしかに似ている部分はある。「少年の君」では実際のレイプ行為には及ばなかったが、白夜行にも同じような記述は確かにあった。
ただ、パクリと呼べるほどではない。
もしかすると原作者は東野圭吾見ていて、それをベースに描いた可能性はなくはないが、話の流れは別物なので、さすがにパクリだというのはあまりにつらい。
映画としての出来栄えは上々なので普通に楽しんでほしい。
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