映画「前科者」は2022年に公開された邦画。
前科を持つものが仮釈放される際、保護観察対象者の社会生活への復帰を手助けしたり、助言や指導を行う人のことを保護司という。
なんとなくそういう存在がいることを知っている人は多いだろうが、実はボランティアだということを知っている人はそんなに多くないだろう。
「前科者」は、保護司とそれにまつわる前科者たちとの交流を通じて、犯罪者たちの境遇や心情を描いていく話。ドラマ版で何話か放映されているが、映画は保護司である阿川佳代の過去や、保護司という職業を選んだ理由についてもスポットを当てる。
仮釈放中の受刑者は森田剛ふんする工藤誠。「ヒメノアール」でその役者としての素質を存分に見せつけてくれたが、今回もしっかりと期待に応えてくれている。
元受刑者をサポートするのが保護司である有村架純。近年は「花束みたいな恋をした」ではかわいい系女子を演じ、「るろうに剣心」では影のある儚げを演じる。
今回はあまり女性らしくない一面を演じたり、イメージにとらわれずに演技の幅を広げている。監督は「あゝ荒野」「二重生活」の岸義幸。
大げさな表現はないが、しっかりと迫力が伝わる映画に仕上がっていた。テーマやラストまでの内容を伝えていく。
「前科者」
損しないサブスク動画配信の選び方
映画を観る機会が多い方のために、損しないサブスクの選び方を教えます。
「前科者」映画情報
タイトル | 前科者 |
公開年 | 2022.1.28 |
上映時間 | 133分 |
ジャンル | ヒューマンドラマ |
監督 | 岸義幸 |
映画「前科者」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
阿川佳代 | 有村架純 |
工藤誠 | 森田剛 |
滝本真司 | 磯村勇斗 |
実 | 若葉竜也 |
鈴木充 | マキタスポーツ |
斉藤みどり | 石橋静河 |
高松直治 | 北村有起哉 |
遠山史雄 | リリー・フランキー |
宮口エマ | 木村多江 |
映画「前科者」あらすじ
罪を犯した者、非行のある者の更生に寄り添う国家公務員、保護司。 保護司を始めて 3 年の阿川佳代(有村架純)は仕事にやりがいを感じ、様々な「前科者」のために奔走していた。 そんな中、佳代が担当している物静かな工藤誠(森田剛)は更生を絵に描いたような人物で、佳代は誠が社会人として自立する日は近いと楽しみにしていた。しかし、誠は忽然と姿を消し、再び警察に追われる身に。一方その頃、連続殺人事件が発生。捜査が進むにつれ佳代の壮絶な過去や、若くして保護司という仕事を選んだ理由も次第に明らかになっていき――。
filmarks
映画「前科者」ネタバレ感想・解説
原作はないオリジナルストーリー
(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会
「前科者」の原作はビッグコミックオリジナルで2018年より連載されている漫画。
ドラマ版がWOWOWで放映されている。しかし、映画版はドラマの数年後を描いた完全オリジナルストーリーだ。
世界観や佳代のキャラクターだったり、元受刑者で今は友人関係にあるみどりなどは登場するが、誠とその周囲に関する登場人物は原作には登場しない。
また、ドラマ版も登場人物の名前や大まかな設定は同じであるものの、ストーリーの流れは結構異なっている。
テーマは人の再生
「前科者」は罪を犯した人と社会がどう向き合っていくのかがテーマ。
森田剛が演ずる工藤誠の罪状は殺人だ。実は殺人は再犯率は低いというが、社会復帰のハードルはやはり高くなる。
森田自身も殺人に手を染めてしまったことを悔いているが、その時のことを覚えていないのだという。殺害した理由も勤め先でいじめに遭っていたのが発端。
家庭環境も色々複雑で、養父に実の母が目の前で刺し殺される現場に居合わせている。
また、養護施設では介護士に虐待も受けている。
情状酌量の余地はあるし、阿川佳代との接し方も丁寧だった。雇われ先の修理工場でもマジメに働き、再生しようとしていた。
誠には実という弟もいた。兄弟は同じ境遇を過ごしているが、兄は前を向こうとしていて、弟は過去に囚われたまま。2人は対照的に描かれる。
ある日、誠は実とラーメン屋で鉢合わせることになる。
弟は憎悪にまみれていた。彼は警察から銃を奪い、すでに2件も犯行を重ねていた。誠と同じ境遇で育った弟は復讐が生きる意味となっていた。
1人目は警察官。母が義父のDVを理由に相談した時、私用を優先し、正当な処置をとることなく追いかえしたため母親は殺された。
2人目は福祉施設に勤める女性社員。DV被害に親身になっていたものの、手続きのミスにより、義父に住所をバラしてしまった。
そして3人目は誠の目の前で実行された。それは養護施設の職員で、誠と実を虐待していた男だった。
そしてもう1人は元凶となる義父だった。
誠はなぜ弟の犯行を手伝ったのか
(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会
誠は、マジメに更生しようとしていた。過去のトラウマにとらわれてはいたものの、生きようという努力をしていた。
そんな誠はなぜ実の犯行を助けたのだろうか。
誠は弟を施設に置いてきてしまったことを後悔していた。そして自分の代わりに実を犠牲にしてしまったことも。
誠も同じように憎悪は抱いていたはすだが、彼はそれでも前を向いて生きていくことにした。しかし、そこに弟が現れ、犯行を目撃した彼はすべての罪を被ろうとしたのだ。
その証拠に第3の犯行を目撃した際、自分の皮膚を現場に残している。
誠は母親を守れなかったことがトラウマになっていた。
殺人を犯した際も母親に謝っていることから、過度のストレスがかかることで当時のことがフラッシュバックしているようだ。
さらに実も守れなかったことへの贖罪から自分の人生を棒にふって弟のために行動したのだ。
実は養父をなぜ殺さなかったのか
(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会
実が養父の家に突撃したとき、一瞬のスキをついて養父の殺害が可能だった。しかし、彼は養父の顔を見たときにためらった。
他の人間は迷うことなく殺したのに、あれだけ憎んでいたはずの父親を殺せなかったのは、昔の思い出が蘇ったからだ。
養父が実に気づいたとき、なにかを諦めたような表情になった。母親を目の前で奪ったことをずっと悔いていたのか、根っこのところでは悪人ではなかったのかもしれない。
動物園に行ったときのビデオには小さい頃の誠と実がはしゃいでいる映像が映っていた。少なくとも、常に暴力に怯えていたわけではなく、楽しい時間を共有することもあったのだろう。その記憶が蘇ることで殺害するのを躊躇してしまったのだ。
ラスト
(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会
養父の他に養父を弁護した法律士も実の殺害リストに入っていた。そのことを知っていた誠は、目的を達成できずに死んだ弟に代わり殺害しようとする。
弟になにもしてやれずに、再び目の前で大切な人が死んでしまった苦しみは計り知れない。すべてを飲み込み我慢してきた誠にとって、なにかが崩れ落ちた結果の行動だろう。
しかし、阿川佳代の力によりすんでのところでおもいとどまるのだった。
「人間に戻れなくなってしまう」という言葉とともに、誠は自身を取り戻す。
阿川佳代が誠の行動を変えたのは、彼女自身がヒーローのような存在ではないからだ。当たり前のことを強制してくる人生がうまくいっている人間たちの言葉ではなく、過去のトラブルを悔いていて、自分に自信がなく、それでも人を救おうともがいている弱い人間だから心に響いたのだ。
佳代自身にも癒えない傷があり、劣等感があり、だからこそ自分の存在意義を探し続けている。
被害者側も対照的に描かれる
(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会
阿川佳代と真司も被害者側として対照的に描かれる。
真司とは中学時代の同級生で恋仲の状態にあった。しかし、暴漢に襲われた佳代を守るために、真司の父親が身代わりとなって殺されてしまっていた。
そこから2人は疎遠になってしまったのだが、ここで2人の行動は対照的に食い違う。1人は殺人を憎み、罪を犯した者を追う刑事となった。
しかし、阿川佳代は罪を起こした者を救う方を選んだのだ。人を憎むのか罪を憎むのか、2人とも憎しみに折り合いをつけて前を向いているが、価値観は全く異なっていた。
人殺しは重罪だ。しかし、誠のような人間をただ、断罪するだけでは何の解決にもならない。いずれは出所してそこで生活をしていかなければならないのだから。
そのことを知った真司もまた変わっていくのだった。
ラブシーンについて
阿川佳代の家に真司がやってきて、話すシーンがある。その際昔のキスを、思い出して唐突なラブシーンに突入するのだが、ものすごい中途半端で終わる。
ストーリー的には、公私混同しそうになったことを恥じての中断なのだけど、そもそも急すぎる展開は否めない。全然そんな雰囲気になっていないのにあのタイミングでキスに向かうのも無理やり感が強い。
もう少し、尺をとるかそもそもカットするかしないと違和感を感じるシーンであった。
コメント