映画「罪の声」は、2020年のミステリー映画。
小栗旬と星野源が主演で、35年前に日本中を震撼させた劇場型犯罪の真犯人を追うミステリー。数多くの人物が登場するので混乱するかと思いきや、丁寧な描写と時系列的に徐々に謎が明らかになっていく構成がシンプルなので置いてけぼりにならずに楽しめる。
実際に起きた事件の元となっていて、諸説ある事件だけれど概ね史実通りに再現されている。
音楽も数多くの音楽賞を受賞した佐藤直樹により、緊迫感のある映画になっていて良質ミステリー作品として十分楽しめる映画。
76点
「罪の声」映画情報
タイトル | 罪の声 |
公開年 | 2020.10.30 |
上映時間 | 142分 |
ジャンル | ミステリー |
監督 | 土井裕泰 |
映画「罪の声」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
阿久津 | 小栗旬 |
曽根俊也 | 星野源 |
曽根亜美 | 市川実日子 |
水島洋介 | 松重豊 |
鳥居雅夫 | 古舘寛治 |
生嶋聡一郎 | 宇野翔平 |
生島秀樹 | 阿部亮平 |
生島千代子 | 篠原ゆき子 |
生島望 | 原菜乃華 |
津村克己 | 若葉竜也 |
曽根達雄 | 宇崎竜童 |
映画「罪の声」あらすじ
35年前、日本中を巻き込み震撼させた驚愕の大事件。 食品会社を標的とした一連の企業脅迫事件は、誘拐や身代金要求、そして毒物混入など数々の犯罪を繰り返す凶悪さと同時に、警察やマスコミまでも挑発し、世間の関心を引き続けた挙句に忽然と姿を消した謎の犯人グループによる、日本の犯罪史上類を見ない劇場型犯罪-。京都でテーラーを営む曽根俊也(星野源)は、家族3人で幸せに暮らしていたが、ある日、父の遺品の中に古いカセットテープを見つける。 「俺の声だ―」 それは、あの日本中を震撼させた未解決事件で犯人グループが身代金の受け渡しに使用した脅迫テープと全く同じ声だった!
filmarks
映画「罪の声」ネタバレ解説
罪の声の元ネタは実話
「罪の声」は実際に起きた劇場型犯罪を元に書かれたフィクションだ。事件が発生したのは1983年。グリコ・森永事件が発端となっており、これを映画内ではギンガ・満堂事件と名前を変えて作られている。
この映画では事件から30年以上経った後に、事件が解決することとなったが、実際には未解決事件のままだ。
映画では、株価操作が目的だったという説を採用していたけれど諸説出ている。
- 元グリコ関係者説
- 株価操作説
- 被差別部落説
- 宮崎学説
- 北朝鮮工作員グループ説
- 元暴力団組長グループ説
今回の株価操作説はもちろん警察も動機の1つとして調べてはいたけれど、目ぼしい人物は浮上せずに今日まで至っている。警察の公式発表では犯人側は金銭を得ないままとなっているが、その真実も明らかになっていない。
犯人は1年半の間に映画内でも使われた子どもの音声を含めた脅迫状などを含めて計144通出している。
私もこの時何が起きていたのか実際に経験したわけではないので、よく知らないのだけれど、キツネ目の男の顔は時効となる2,000年ぐらいまではたびたびテレビで見かける顔だったように思う。
この不気味な事件を取り扱うにあたり、「罪の声」では子どもの声に焦点を当てて描いている。
罪の声の相関図は複雑だがわかりやすい
「罪の声」は非常に登場人物が多い映画だ。長編小説を2時間強の映画にまとめるとどうしても1人1人の背景が薄まりがちだし、混乱しがちになる。
でもこの映画では俊也と阿久津の双方から事件の関係者アプローチし、順序立てて物事が明るみになっていくため、頭が混乱して誰が誰だかわからなくなることはない。
曽根俊也の叔父・達雄がギンガ・満堂事件の犯人グループの1人であり、このグループには
- 元警察官の生島
- ヤクザの青木
- キツネ目の金田
- 産廃業者の山下
- 電電公社職員の谷
- 資金源の上東
- 仕手捜査の吉高
などがいた。
達雄はオランダで起きた誘拐事件を元に、最初は株価操作で儲けを出そうとしていたもののそれがうまくいかないことがわかると青木が生島を殺してしまう。
生島の妻・千代子とその子ども、望と聡一郎は一度は匿われるものの、望は口封じのためにキツネ目の男に殺され、聡一郎は一緒に働いていた津村と一緒に事務所に火をつけて逃げ出すことになり、一家は離散した。
望と聡一郎も俊也と同じで声を利用された人物だ。そして何もしらなかった俊也とは違い、生島の家族は不遇な人生を過ごしている。
その他にも青木と繋がっていた料亭の女将など、多くの人物が連ねているけれど、「あれ?これ誰だっけ?」みたいになることはなく、エンディングを迎えられる。
正義とは何か?
「罪の声」で発端となった学生運動。70年代は学生による反体制に対する暴動が盛んだった。この時代は若者が政治に対しての憤りが強く、その発散はしばしば暴力という形で表現されていた。
そのあまりの過激な暴動と、当時傾倒していた共産主義社会は、日本よりも遅れていることをが段々と明るみになったことから次第に下火になっていった。
その学生運動に関わっていたのが、曽根達雄と俊也の母・真由美の2人。
実行犯は曽根達雄のみだけれど、息子の声を利用して犯行に手を貸したのが母・千代子だった。
達雄と真由美は真実を話したとき「奮い立った」と言っていた。「奮い立つ」という意味は心が勇み立つという意味。この前向きな言葉を使い彼らの正義を行使した。
2人は警察に、権力に自分の親を殺されている。身近な人間を、訳もわからない権力をもとに殺されたその恨みは確かに計り知れない。
でも、その恨み晴らすのに子どもを利用することは正しいことなのだろうか。彼らは直接的に警察に恨みはない。親の悪意や憎悪の片棒を担がせることは本当に正義と呼べるのだろうか。
その時に一瞬でも考えたのだろうか。自分の息子が犯罪の片棒を担ぐことになることを。
映画「罪の声」ネタバレ感想
というわけで非常に構成がしっかりしている映画だった。それもこれも「アンナチュラル」や「逃げ恥」など、野木亜紀子氏の脚本の旨さにある。
この映画、ただただ淡々と人に会って次の情報を得て、またその証言から次の人へと、延々と繰り返して真実にたどり着く流れだ。
ついつい冗長になりがちな話を飽きさせないようにしながら、新しい情報を次々に与えてくる。そのことを考えているうちにまた新たな情報を、と続くのであっという間に時間が過ぎていく。
事件のことを知らなくても説明がちょこちょこ入るので、話にスッと入れるようになっている。
音楽も緊迫感を常に煽ってくるのもまたいい。
ただ、だからこそドラマでやるのがいいのではないか。海外がロケ地の一つになることからNetflixのような予算をかけられるのであれば、「今際の国のアリス」のように盛り上がるドラマになっていたに違いない。
映画としても完成度の高い作品だけど、尺の長さも考慮するとドラマ仕立てにしてほしかったというのが正直な感想である。
映画「罪の声」を観たならこれもおすすめ
木村拓哉と二宮和也の主演映画を「関ヶ原」や「日本の一番長い日」の原田眞人が映像化。原作は王道ミステリーなのに対して、映画ではもっと大きな現政治の体制や思想色が強い。所詮、正義なんてものは愛と情による差別でしかないよねって話。
関連:映画「検察側の罪人」正義なんてものは結局差別でしかない ネタバレ感想
コメント