「パワー・オブ・ザ・ドッグ」は2021年のNetflixオリジナル映画。周りに恐れられる存在である牧場の経営主のフィルが、弟の嫁の連れ子であるピーターと出会い関係を深めていく1920年代の西部劇。
アメリカンウェスタンの情景が美しく、壮大な荒野を撮影できるアメリカの国土の広さがうらやましくなる作品。
使われる音楽もフィルの持つ精神的に人を追いつめるパワーを想起させるような邪悪で不快な階調。しかし、その不気味さが映画の雰囲気にマッチしている。
しかし、あまりに説明が少ないのと聖書から引用している部分もあり、初見では少し理解しがたい内容になっている。
この記事では、タイトルの意味や、フィルとピーターの関係について掘り下げていく。
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
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「パワー・オブ・ザ・ドッグ」映画情報
タイトル | パワー・オブ・ザ・ドッグ |
公開年 | 2021.11.19 |
上映時間 | 125分 |
ジャンル | ヒューマンドラマ |
監督 | ジェーン・カンピオン |
映画「パワー・オブ・ザ・ドッグ」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
フィル | ベネディクト・カンバーバッチ |
ローズ | キルスティン・ダンスト |
ジョージ | ジェシー・プレモンス |
ピーター | コディ・スミット=マクフィー |
ローラ | トーマシン・マッケンジー |
映画「パワー・オブ・ザ・ドッグ」あらすじ
カリスマ的存在で周囲から恐れられる牧場主フィル・バーバンク (ベネディクト・カンバーバッチ) 。ある⽇、弟が妻だという⼥性 (キルステン・ダンスト) とその息⼦ (コディ・スミット=マクフィー) を家に連れてくる。2⼈に対し酷い仕打ちを重ねるフィルだったが、やがて⾃分の中にある愛が何なのかを突き付けられる。
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映画「パワー・オブ・ザ・ドッグ」ネタバレ感想・解説
パワー・オブ・ザ・ドッグの原作
©️Netflix映画「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
原作は、トーマス・サベージの同名小説。アメリカ西部での経験をもとにした西部小説をたくさん書いていて、その中でも1967年に出版した「パワー・オブ・ザ・ドッグ」は批評家からの評価が高い。
優しい弟と冷たい兄を対比させ、弟の妻、ローズに辛辣に当たる姿を描くのは、映画の中での話もほぼ同じ。しかし、映画では弟の存在感が薄い分、兄の傍若無人ぶりが際立ち、分かりづらさを感じる部分もある。
フィルはなぜ炭疽症で死んだのか?
フィルの死因となった炭疽症は、ピーターが引き起こしている。慣れない馬で炭疽症にかかって死んだ牛を探し、その皮を剥ぐシーンがある。ピーターは最初からフィルを殺す気でいたのだ。
そのためにフィルに取り入り、炭疽症で死ぬ牛の情報を得ながら密かに計画を進めていた。
人間が感染する通常の原因は皮膚接触ですが、炭疽菌の芽胞を吸い込んだり、汚染された肉を食べたりしても感染します。
感染症とは
正しい治療を受ければ死に至る病ではないけれど、放置した場合20%ほどの致死率があるという。
フィルが牛の皮を使ってロープを作っているのを知り、ちょうど母親が皮をインディアンに渡してしまったタイミングで手渡した。
ピーターはグローブをはめていたが、フィルは素手で皮を触ったため炭疽症にかかったのだ。
炭疽症の牛には決して近づかなかったフィルが感染したことに弟は疑惑を感じていたが、その証拠はピーターの持つロープにしかない。
母親はおそらく何も知らない。ただ単にフィルに対する当てつけで行動したものだと言えよう。
なぜピーターはフィルを殺したのか?
ピーターがフィルを殺した理由は2つある。
1つ目は母のローズを守るため。
ローズはフィルに意地の悪い仕打ちをされていた。それは直接的ではないものの、精神的に追い詰める陰湿なものであるに違いなかった。
ピーターがフィルに取り入り始めたとき、母親は焦りを感じていたがこれはミスリード。
フィルも「母親は邪魔な存在」だと話し、よりローズを孤立させるように仕向けようとしていた。
ピーターはフィルに対して従順であるかのように振る舞っていたため、軟弱な男の処世術として行動しているかのように見えた。しかし、実際はフィルを騙すために従順であるかのように振る舞っていた。
2つ目はピータ自身の私怨。
ピーターは冒頭から為政者であるフィルを嫌っていた。ここに登場するキャラクターはフィルだけでなく、多くのカウボーイが「ザ・男」を匂わすのに対して、ピーターは中性的だ。
紙でフラワーを作ったり、怒りをフラフープを踊ることで解消したり、ここに出てくる男たちとは明らかに違っていた。
出会いも最悪で、屈辱的な言葉も浴びせられ、殺意を抱く同期は揃っていた。
彼は母を守るため、また自分自身も守るためにフィルという巨悪を殺すことを決意したのだ。
ただ、ローズはフィルから受けるストレスだけでなく、牧場主の妻としてのストレスも感じていたようだ。
ジョージのピアノの無茶振りもあり、上流階級との付き合いには慣れないようだった。
結果的にアルコール依存症になってしまったので、フィルが死んだだけでは解決しないのでは?という不安は残る。
しかし、ジョージとローズが幸せそうなラストを見るに、フィルが死んだことで2人は幸せになったのだと信じたい。
フィルはゲイだったのか?
©️Netflix映画「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
「パワーオフザドッグ」は登場人物の感情や行動に対する理由づけについて、いちいち説明がされないので非常に分かりづらい。
そのうちのひとつが、フィルがゲイなのかどうかだ。
そう考えたあなたは正しい。フィルはたしかにゲイである。フィルだけでなく、伝説のカウボーイ、ブロンコヘンリーなる男も同じくゲイである。
Yes, many sequences in the film suggest that Phil is a closeted homosexual,
(そうだ。いくつかのシーンでフィルがホモセクシャルだということを示唆している。)
引用:HITC
いくつかのシーンでそれは散見される。
- フィルは誰にも知られたくない秘密の場所がある
- 秘密の場所に男性の裸体が写った写真が隠されている
- その写真にはブロンコ・ヘンリーの名前が載せられている
- ブロンコ・ヘンリーと裸で抱き合ったこと示唆している
以上のように複数の点でフィルはゲイであると仄めかされている。フィルはそのことを周囲に悟られないように隠していて、気づいたのはピーターただ1人。
精神を保つためには、誰にも見られない場所で己を解放する必要があったのだ。ピーターがその場所を見つけた時に激怒したのも頷ける。
また、フィルはピーターとブロンコ・ヘンリーを重ねるところがあった。ブロンコ・ヘンリーを引き合いに出し、関係を深めようとしている。
ラストで、ピーターがフィルに「裸で抱き合ったのか?」と聞いたあたりの含みを持たせた顔やピーターの吸ったタバコを口に咥えるシーンには、彼の隠されていた感情が垣間見える。
パワーオブザドッグ タイトルの意味は聖書の一節
©️Netflix映画「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」のタイトルは聖書からきている。日本人には馴染みが薄いので映画のオチ自体が腑に落ちづらい。
この言葉は、ラストシーンでようやく登場する。ピーターが自分の部屋で聖書を読むくだりがあるが、そこに登場する詩にはこう書かれている。
Deliver my soul from the sword; my darling from the power of the dog.
わが魂を剣から解き放ちたまえ。わが愛を犬の力から解き放ちたまえ
剣と犬という2つのワードが登場するが、ここでは両方とも悪い意味で使われている。
この言葉は、旧約聖書の詩篇二十二章二十節から来ていて,その二十二章は、苦難と敵意にさいなまれる民がその窮地からの解放を神に願うくだりで、“剣”も“犬”も、民を苦しめ、いたぶる悪の象徴という意味合いで使われている。
引用:Wind Socks
つまり、この映画ではフィルは犬であり悪を象徴している。強大な権力を振りかざす悪より救うために死に至らしめたのである。
Phil is the dog and that the rest of the characters are saved from his power by his death
(フィルは犬であり、他の登場人物は彼の死によって救われたのだ。)
SCREEN RANT
フィル役のベネディクト・カンバーバッチとピーター役のコディ・スミット=マクフィーの演技は見応えがあった。
不安を掻き立てる音楽と美しく壮大な荒野も世界観は素晴らしかった。
ただ、兄弟の対比という原作から必要な演出を取り除いてしまった感もあり、脚本が少し残念な映画だった。
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