アメリカのホラー映画は数あれど、日本と違い悪魔が根底にあるために、幽霊的な怖さとはまた違う。
悪魔にかると肉体に乗り移ることが多いけど、日本は幽霊が単体で活躍することの方が多い。
映画「ヘレディタリー継承」も、日本とは感覚が違う。だからホラーとして純粋に怖さを求めるだけなら少し足りない。
ただ、まとわりつくような不快感と気持ち悪さが残る映画で、単純なホラーではない人間的な恐怖が多分に含まれているので、典型的なホラー映画を期待して見なければ見応えのある映画には違いない。
含みを持たせるような終わり方なので、なにが起きたのか、そしてこれは本当に悪魔の話なのか、一から解説する。
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映画「ヘレディタリー継承」予告
映画「ヘレディタリー継承」あらすじ
グラハム家の祖母・エレンが亡くなった。娘のアニーは、過去の出来事がきっかけで母に愛憎入り交じる感情を抱いていたが、家族とともに粛々と葬儀を行う。エレンの遺品が入った箱には、「私を憎まないで」というメモが挟んであった。アニーと夫・スティーヴン、高校生の息子・ピーター、そして人付き合いが苦手な娘・チャーリーは家族を亡くした喪失感を乗り越えようとするが、奇妙な出来事がグラハム家に頻発。不思議な光が部屋を走る、誰かの話し声がする、暗闇に誰かの気配がする・・・。やがて最悪な出来事が起こり、一家は修復不能なまでに崩壊。そして想像を絶する恐怖が彼女たちを襲う。一体なぜ?グラハム家に隠された秘密とは?
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映画「ヘレディタリー継承」映画情報
監督 | アリ・アスター |
脚本 | アリ・アスター |
音楽 | コリン・ステットソン |
公開日 | 2018/11/30 |
上映時間 | 127分 |
製作国 | アメリカ |
製作費 | 1000万ドル |
興行収入 | 7000万ドル |
映画「ヘレディタリー継承」キャスト
アニー・グラハム | トニ・コレット |
スティーブ・グラハム | ガブリエル・バーン |
ピーター・グラハム | アレックス・ウルフ |
チャーリー・グラハム | ミリー・シャピロ |
ジョーン | アン・ダウド |
映画「ヘレディタリー継承 」解説・考察
継承とはなんなのか?
まず、タイトルにある継承とはなんなのか。
祖母は
- チャーリーの魂を
- ピーターの器に入れて
- ペイモンを召喚し
- 王を継承させることを
と目的としていた。
葬儀のとき、アニーが「祖母は自分だけの知り合い」がいたと言っていた。
それが、ペイモンという地獄の王を崇拝している者たちの集まりだ。
- 葬儀のとき協会にいた金髪の男性
- チャーリーの学校前で手を振る中年女性
- アニーに交霊儀式を教えた女性
- 部屋でマリファナを吸うピーターを監視する何者か
複数の人間が、祖母の目的を果たすために動いている。
悪魔ペイモンを崇拝する者たちの集まりで、祖母はその女王の座にいた人物だ。
なぜ、ピーターが選ばれたのか
ペイモンの王が継承するための器は
- 男の体でなければならない
と、祖母の残した本に書いてあった。
まず祖母は自分の息子をペイモンの器にしようとしている。
しかし、息子は自分の母親に恐怖し、自殺をしてしまったため失敗している。
その後、娘のアニーに無理やり子どもを産ませて、ピーターが誕生する。
この危険性をアニーの夫は感じ取り、祖母はピーターが生まれたときに近寄らせてもらえなかったと、アニーが集会で告白している。
しかし、娘が生まれたときにチャーリーは祖母に近寄らせてしまう。
そして、祖母はチャーリーをペイモンの生まれ変わりとして洗脳し、ピーターへ乗り移らせようと考えたのだ。
犬はチャーリーを殺すために仕掛けられた
チャーリーの魂をピーターに乗り移らせるためには、
- チャーリーは死ななければならなかった
そのため、悪魔崇拝のメンバーによって仕組まれた可能性は高い。
チャーリーが頭をぶつけた電柱には召喚文字が書かれていた。
ナッツを入れたケーキを食べさせ、アレルギーで息が苦しく窓から顔を外に出し、そこに犬の死体を置いておくことで電柱に頭をぶつけさせようとしたのだ。
狙いは少し難しいが、それでいて自然死に見せかけることができている。
ここでゾッとするのは、そこかしこに仲間がいるということ。それこそピーターのクラスメイトでさえも。
謎多き超常現象 なぜスティーブは燃えたのか
ホラー映画としてのフィクションだから「悪魔」の復活について、こういう世界観なのだと理解できるけど、本当に「悪魔」の話なのだろうか。
実は全ては統合失調症患者たちによる妄想で、「悪魔」なんてものは存在せず、世にも奇妙な儀式をしているだけの集団の可能性もあるのではないか。
異常行動はいくつもあるが、そのほとんどはやってできないことでもないからだ。
説明できないのは3つあった。
- 本を捨てたとたんに、夫のカラダが燃える
- 屋根裏への天井にしがみつき頭を打ち付けるアニー
- 離れの小屋に飛んで入るアニーを見るピーター
これらの行動は確かに現実的に不可能に思える。
そこで考えられるのは、「妄想」というキーワードだ。
アニーの夢遊病は、灯油をかけてピーターを殺そうとしたり、蟻にまみれたピーターが見えたり、ベッドでピーターを引っ張ったり、妄想の塊のようなものだ。
おそらくアニーは2重人格の症状がある。
墓を掘り起こし祖母を屋根裏に寝かせたのもアニーだろう。
統合失調症には、しばしば「妄想」という症状が発生する。
そう考えると、これらの不可解な出来事は「妄想」である可能性がある。
観客は妄想を見せられているのだ。
そう考えると夫のカラダを燃やしたのもアニーで、被害者面しているけど、同じように灯油をかけて燃やした可能性は否定できない。
それではピーターはどうだろう。
ピーターは屋根裏から落ちたタイミングで光がピーターの中に入っていた。
だが、本当にピーターは乗り移られたのだろうか。
屋根裏の下は花壇になっていて、即死するような場所でもない。
おそらく恐怖ののちに正気を失ってしまい、統合失調症のような症状が出ていると考えられる。
離れの小屋に飛んで入っていくように見えただけの話だ。
天井にくっついて頭を打ちつけているのも、ピーターが恐怖のなかで考えているだけで、実は本当でないのかもしれない。
ピーターは自分で鼻を打ちつけているが、光の輪のせいでもなく、おばさんの行動によって気が狂ってしまった果ての自傷行為かもしれない。
しかし、事実は分からない。
統合失調症も、医学的に解明されているわけでもない。
「妄想」の中で起きていることが、現実ではないと誰が言えるだろうか。
この映画は現実の危うさを不気味に伝えてくる。
映画「ヘレディタリー継承 」ネタバレ感想
悪魔の存在がショッキングというよりも、チャーリーの事故死の方がよほどショッキングだった。
柱にぶつけた後、ピーターの車中での行動はなかなかに怖かったし、朝、母親の出かける声を聞いた瞬間も背筋が凍った。
ピーターの「大丈夫だ」という言葉を信じたかったし、現実を直視できないピーターと同じ気持ちに誰しもがなっただろう。
ただ、ここが最大の見せ所で、あとはしりすぼみしていく感は否めない。
なぜならこれ以降は笑わない少女という不気味さを活かしたホラー要素はまったくないからだ。
祖母の手紙から察するに、チャーリーの事故死も悪魔の王が肉体に魂を宿すための犠牲なわけなのだけれど、
ピーターに乗り移るかのような行動を見せるも、笑顔も見せず、ハトの頭をちょん切り、不気味な絵を描くという思わせぶりな行動を取らせておいて、これといった恐怖演出はないのは肩すかしポイントだろう。
説明したように、この映画はホラーとしてではなく、人間的な怖さを感じる映画として見る方をおすすめする。
見方を変えると、ずいぶん不気味に見えないだろうか。
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