「花束みたいな恋をした」は2021年の邦画。
民放ドラマで数々のエモい脚本を生み出した坂本裕二が映画の脚本をした話題作だ。
主演に菅田将暉、有村架純を据えて、甘酸っぱい恋愛からだんだんと変わっていく恋人関係のすれ違いを描く。
映画でも坂本裕二らしい心の機微がふんだんに現れていて楽しくて、切なくて、懐かしんで鑑賞することができる。
地味だけど親近感が湧く理由はどこにでも存在する恋愛話だから。山場なんてない。でもこれだけエモい表現ができるのは細かいところまで具体的に書き表す坂本裕二だからこそだろう。
90点
「花束みたいな恋をした」映画情報
タイトル | 花束みたいな恋をした |
公開年 | 2021.1.29 |
上映時間 | 124分 |
ジャンル | 恋愛、青春 |
監督 | 土井裕泰 |
脚本 | 坂元裕二 |
映画「花束みたいな恋をした」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
山音麦 | 菅田将暉 |
八谷絹 | 有村架純 |
川岸菜那 | 韓英恵 |
羽田凜 | 清原果耶 |
麦の恋人 | 萩原みのり |
加持 | オダギリジョー |
押井守 | 押井守 |
絹の母 | 戸田恵子 |
絹の父 | 岩松了 |
麦の父 | 小林薫 |
映画「花束みたいな恋をした」あらすじ
東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った大学生の山音麦<やまねむぎ>(菅田将暉)と八谷絹<はちやきぬ>(有村架純)。 好きな音楽や映画がほとんど同じで、あっという間に恋に落ちた麦と絹は、大学を卒業してフリーターをしながら同棲を始める。拾った猫に二人で名前をつけて、渋谷パルコが閉店してもスマスマが最終回を迎えても、日々の現状維持を目標に二人は就職活動を続けるが──。
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映画「花束みたいな恋をした」ネタバレ感想・考察
「花束みたいな恋をした」というタイトルの意味
付き合いたての頃、麦が旅行先の静岡で撮った写真に写っていた花の名を絹に尋ねるシーンがある。
そのときに絹はこう言った。「恋人から花の名を教えてもらうと、今後その花を見た時に一生思い出す」と。
4年以上の交際の中で、楽しい時も辛い時も笑う時も泣く時もすべてを共有した2人だから、趣味も価値観も一緒の2人が過ごした時間は2人にとって忘れられない思い出がたくさんつまっている。
つまり、1つの花を見た時ではなく、花束のようにどんなものを見てもいつでも思い出すきっかけが詰まっているという意味が込められている。
ちなみにあの花の名前はマーガレットである。
麦と絹が別れた理由
3日間閉じこもって、気が向いたらエッチして、終わったら2人でダラダラテレビを見る。
2人で旅行に行ったり、一緒に暮らしたり、行きつけのパン屋さんを見つけたり。
映画を見て、本を読んで、一緒にゲームをする。
価値観がほぼ完全に一致したら別れる理由なんてないのではないか。
と思うだろう。
同じ坂本裕二脚本のドラマ「カルテット」では、価値観のすれ違いによって夫婦関係に亀裂が入った2人がいた。唐揚げにレモンをかけるとか、映画鑑賞に関する考え方とかそんな些細なことだ。
その時に誰かが言っていた。「価値観が合うか、心が広くないと結婚生活は続かない」と。
でも絹と麦は価値観がめちゃくちゃ合う。ではなぜ別れたのか。
それはお互いの置かれた環境で、ある一点の価値観にすれ違いが始まったからだ。
そう、恋愛感情だ。
カルテットも同じだった。1人は結婚して家族になることが夢だった。もう1人は結婚しても恋人同士のままでいたかった。
しかし麦は変わっていく。夢だったイラストレーターを諦めはじめ、就職した頃から。好きなことをやり続けることの難しさを知り、仕事はやらなければならないことを感じはじめ、次第に学生時代にもっていたピュアな心は消えはじめる。
ちなみに麦の勤め先に出てくる会社の先輩は、「桐島、部活やめるってよ」で、高校生活の最後までスカウトが来ることを夢見て野球を続けていた少年だ。この映画とはもちろん無関係だけど、彼もまた夢を諦め会社という現実に揉まれたのだと思うと感慨深い。
でも絹は変わらない。時間に余裕を持てていて、好きなことにも時間を使える。彼女の価値観は学生時代から変わっていないのだ。
そしてこの恋愛感情のズレこそが別れる原因の決定打となる。麦は家族になることを望み、絹は恋人のままでいることを望んでいたから。
彼女は恋愛ブログで読んでいた「終わりの始まり」という言葉に逆らうように生きていきたかったから。
結婚すれば数十年続くはずの共同生活の中で、付き合った頃と同じままの恋愛感情は持てないという意見は至極まともに聞こえる。
でも果たしてほんとうにそうなのだろうか。少なくとも歳をとっても仲のいい夫婦は存在するし、恋愛感情がそのままではないのかもしれないけれど、お互いに溝が生まれないほどに好きの度合いが一緒のこともある。
お互い好きではあるけれど、同じ時期に同じだけの価値観を持っていないとすれ違いが生まれてしまうのだ。
ラストで価値観の違う人と付き合う
物語の最初と最後で破局後の2人が再開する。左と右のイヤホンをそれぞれにつけて音楽を聴いているカップルを見て2人は思い出す。ふと思い出してしまうこと。このシーンに「花束みたい」というタイトルは冒頭から始まっている。
今は左右それぞれのイヤホンをつけていてもなんとも思わない恋人と一緒に過ごしていて、お互いそれを納得した上で、サヨナラを告げるのだった。
サブカルの細かい話
ここに登場するサブカルは、2010年代の若者のことなので、話に出てくるマンガやゲームにあまり馴染みがないのだけれど、この時代にも松本大洋を読み、アキラを入れてくるあたりが嬉しかった。
大人になると好きだったマンガや本を読まなくなるのはよくわかる。時間に追われていつも何かに疲れていて、好きだったものにエネルギーを割くことができなくなるんだ。
代わりに頭を空っぽにできるようなスマホゲームに興じてしまう気持ちが痛いほどわかる。「あれほど好きだったのになぜ」という気持ちを社会に出てから味わった。
もし自分がまだ学生時代の心をそのままに生きていたらこのサブカルネタにもついていけたに違いない。
「結構マニアックな映画見るよ」という人のおすすめが「ショーシャンクの空に」だったり、最近見た楽しい映画で挙げるのがアニメの実写化だったり、サブカル好きが若い頃に憤りを感じるに違いない人種との触れ合いはあるあるすぎて最高だった。
この2人は映画「何者」でも付き合っていた。「何者」では有村架純が現実を見ていて、菅田将暉は夢を追っていた。
この時の菅田将暉はなんでも器用にこなし、何をしててもそこそこうまく行ってしまう人物だった。この時も破局していたけれど、今回も残念ながら2人は幸せになれなかった。またいつかどこかで2人がうまくいくことを願う。
映画「花束みたいな恋をした」麦と絹の本棚にあったもの
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映画「何者」
「何者」は有村架純と菅田将暉が出演する映画。「桐島、部活やめるってよ」の大学生版といったところで、佐藤健を主演に迎え就職にまつわる鬱展開を見せつける。
映画「劇場」
「劇場」は、演劇の夢をもつ永田とそれを支える沙希の関係を描く。
キャラクターに嫌悪感を覚えると同時に自分にも向けられているようで苦しくもある。しかし愛おしくもある作品 松岡茉優はもちろんのこと、マンガではない人間を演じた山崎賢人の実力も評価されるべき映画
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