「逆転のトライアングル」は2023年公開の映画。
アカデミー賞作品賞3部門にノミネートされ、注目を浴びるスウェーデンのリューベン監督による作品。
セレブを乗せた豪華客船が沈没し、無人島に漂着。そこで起こったのはヒエラルキーが逆転した清掃員のおばちゃんがトップに立つというブラックコメディ。
ジェンダー、人種、貧富、イデオロギーなど、現代で起きているさまざまな分断をブラックユーモアを交えて描いた作品。
ただし、「傲慢な金持ちが貧乏人を見下していたら、ある日突然落ちぶれて金持ちざまぁ」みたいな痛快ストーリーではない。
ス◯ッとジャパンみたいな展開を期待していると思ってたのと違うとなるだろう。
ステレオタイプのエンタメ映画とは一線を画し、人間の馬鹿さ加減を皮肉りつつ、金持ちほどいい人という現実も垣間見える本作。
貧富の差と性格の悪さが比例していないところもまた良き。
本筋に入るまでの時間が結構長いため、エンタメ重視で見ると肌に合わないだろう。
今回は、船が沈没した本当の意味から、ラストでカールがとった行動の意味まで、詳細に説明していく。
逆転のトライアングル
(2023)
3.4点
ブラックコメディ
リューベン・オストルンド
ハリス・ディキンソン
- 豪華客船が沈没。無人島生活でヒエラルキーの逆転劇が起こる
- 上流・中流・下流階級で構成される現代をブラックユーモアで皮肉った映画
- 単なる「金持ちザマァ」という映画ではない構成力はお見事
- アカデミー賞作品賞ノミネート
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映画「逆転のトライアングル」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
カール | ハリス・ディキンソン |
ヤヤ | チャールビ・ディーン |
ポーラ | ビッキ・ベルリン |
アビゲイル | ドリー・デ・レオン |
ヤルモ | ヘンリック・ドーシン |
ディミトリ | ズラッコ・ブリッチ |
船長 | ウッディ・ハレルソン |
映画「逆転のトライアングル」ネタバレ考察・解説
「逆転のトライアングル」が持つ映画のテーマ
Fredrik Wenzel (C) Plattform Produktion
「逆転のトライアングル」は3部構成となっている。
- カールとヤヤ
- 船の上
- 漂流
第一部では、カールとヤヤがレストランで喧嘩となる展開からはじまるが、ここで描かれるはジェンダーロールの話。
「男が奢って当たり前」の論調は、しばしば日本でも取り上げられ、SNS上では毎年恒例のように炎上している話題だ。
これは海外でも同じようで、カールはヤヤが当たり前かのように行動することが腑に落ちていない。
カールはお金の問題というよりも男が支払って当たり前で、サイフを出すそぶりさえ見せないヤヤに不満を募らせている。
お金の問題じゃないことをしきりに強調するが、ヤヤにとっては器量の小さい男にしか見えておらず、ケンカに発展する。
現代では女性の社会進出も珍しくはないわけで、この2人の場合、女性であるヤヤの方が多く稼いでいる。カールは中流階級の人間で、金持ちインスタグラマーのヤーヤーとは釣り合っていない。
男女間にも確実に貧富の差は広がっているのだ。
ジェンダーロールの話をしているが、この差がある以上、「お金があれば細かいことは言わないんだろうな」感は強い。
第二部ではヤヤとカールが豪華客船にのってバケーションを楽しむシーンに移る。ここでは3つの層に分かれる。
ヤヤたちをはじめ、武器製造や会社を経営している上流階級のグループ。上流階級を船の上でもてなす客室乗務員のポーラたち中流階級。カールもここに属するだろう。ちなみにここに属するはすべて白人である。
そして、最下層におさまるのが非白人系のブルーワーカーであるアビゲイルたち。彼女たちは上流階級の人間の目に触れないほどに格差がある。漂流したときに顔も知らない非白人の男が現れたため、海賊と疑われたほどだ。
まさにトライアングルの構図がここに現れる。この富豪たちに群がる中流の人間たち(カールもそこに含まれる)は、富豪からの資産を分け与えてもらい日々を暮らしているという事実を目の当たりにする。
しかし、この中流の人間たち、今回では船上にいる乗務員たちが富豪の言うことに逆らわず、要望に対してすべてYesで答えたせいで船は浸むことになる。
そして3部でこの構図が逆転する。船の清掃員だったアビゲイルは、魚を捕る能力と、火を起こす能力に長けていた。つまり、無人島で食料を確保する能力を有しているのだ。
無人島でお金は意味をなさないし、どれだけ高級な時計も食料には換金できない。少なくともこの島にいる限りは食料を手に入れられるアビゲイルはヒエラルキーの上にいくのだ。
ここでおもしろいのは中流階級にいる者たちの行動である。客室乗務員のポーラは、雇っていた側のアビゲイルに命令され、屈辱そうな表情を浮かべるものの、翌日には態度を変える。
だれが主人であり、誰に寄生すれば生きていけるのかをしっかり理解している。
カールも同じようにアビゲイルに気に入られ、身体の関係を結ぶことで恩恵を受ける。彼らは誰が上に位置する人物なのかを判断し、合理的に行動できるのだ。
船のエンジニアで同じく最底辺にいたネルソンの地位は変わらないのも興味深い。彼は船の上にいても船の底にいても同じ地位のままだった。
トライアングルは真逆になるわけではないのだ。
船はなぜ沈没したのか?
Fredrik Wenzel (C) Plattform Produktion
船が沈没した理由は、海賊が襲ってきたからに他ならない。しかし、これはあくまで直接的な原因の1つであり、根本原因ではない。
船が沈没した本当の理由は、金持ちの純粋な行動によるもの。傲慢な態度をとるものは船の中にはいない。
むしろ、彼女であるヤヤの稼ぎを頼りにしているカールのような中途半端な男は労働者のことを見下しがちだが、本物の金持ちたちはそんなことはしない。
彼らの中には世界は美しく、人間はすべてにおいて平等だという美しい理念がある。優雅の船の中で日中に酒を飲み、プールにはいりながら、労働者たちに語るのだ。
人類皆平等だと。
そして、現実を理解していない能天気な金持ちは、従業員が働くことを憂い、仕事を中断してプールに入ろうとエゴをおしつける。お客様の要望にはYesしかない客室乗務員は泳ぎ出す。
しかし、調理場の人間にも行動させたことで、食材が悪くなってしまう。
それを口にした客たちは次第に気分が悪くなり、腹をくだす。さらに悪天候が拍車をかけて船酔いになり、ところかまわず嘔吐し始める。
これが船が沈没した真因だ。海賊が襲ってきたのは船が混乱をきわめていたからである。
アビゲイルは、ヤヤを殺したのか?
Fredrik Wenzel (C) Plattform Produktion
アビゲイルとヤヤは、島の反対側で、エレベーターを見つけた。それはすなわち、この島がリゾート地であることを意味していた。
それを知ったアビゲイルは、焦った。ヒエラルキーの最下層から最上層まで一気に駆け上がったアビゲイルにとって、救助は転落を意味していた。
文明の利器はなく、その日暮らしの生活をするような環境であってもヒエラルキーの頂点から見る景色はアビゲイルにとって特別だった。
だから、アビゲイルはこの事実を隠すためにヤヤを殺そうとしたのだ。
しかし、ヤヤは助かった後にアビゲイルを雇いたいと言っていた。ヤヤは彼氏であるカールを寝取られたにも関わらず、大きな広い心で器量を見せたのだ。
アビゲイルが行動に移したのかはエンディングまで触れられていない。しかし、根っからの悪人なわけではないため、ヤヤの提案を聞いて踏みとどまった可能性は高いだろう。
ラスト、エンディングでカールはなぜ森の中を走っていたのか?
Fredrik Wenzel (C) Plattform Produktion
アビゲイルが今の地位を守るため、ヤヤを殺そうとした場面の後、カールが森の中を駆け抜けるシーンが映る。
それを最後にエンディングへ進むのだが、これは一体何を指しているのだろうか。
ヤヤとアビゲイルが山の向こう側に行っている頃、現地人が物売りに訪れている。病気の後遺症で言葉を話せなくなってしまったテレサが見つけたが、意思疎通ができていなかったシーンがあった。
おそらく、カールはそれを目撃し、ここにリゾート地があることを知ったのだ。現実世界に戻れる期待とともに、それを知ったアビゲイルがヤヤに対して何かをするのではないかという不安から必死で追いかけたのだ。
これはルーベン監督の意図するエンディングであるが、もう1つ別の解釈をした観客がいた。
その観客は「カールが男性としてのアイデンティティを取り戻そうとしている行為だ」と捉えたらしく、それを監督も気に入ったらしい。
この映画は単純な貧富の格差を表しているだけでなく、男と女の役割の変化もテーマに含まれている。昔は男が外に出て働き、女性は夫の帰りを家でまち、家庭を支えるスタイルだった。
しかし、今や女性の社会進出は当たり前になりつつあり、男女平等は特に叫ばれるようになった。フェミニストという言葉も登場し、男女間の分断も深まりつつある。
ここで登場するカールは、地位の低い男として登場し、力のある女性に取り入る立場として描かれる。
船に乗る前は、彼よりも稼ぎの良いインフルエンサーであるヤヤと行動し、無人島に漂流してからは、生活力のあるアビゲイルにとりいった。
カールなりに葛藤はありつつも、実際に力のある者に取り入る処世術を学んでいる。誤解を恐れずに言えば、少し前までは女性がその役割を描かれることが多かったように思う。
男としてのプライドや尊厳を失った現代の象徴として描かれたカールは、失ったものを取り戻すために森の中を駆け抜けたのだ。
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