「グリーンブック」。
2019年アカデミー賞で5部門にノミネートされ、
- 作品賞
- 脚本賞
- 助演男優賞
を獲得した話題の映画だが、日本ではそれほど取り上げられてはいない。
差別意識が強く残る1960年代のアメリカ南部を、黒人のピアニスト、シャーリーと、イタリア系白人の運転手、トニーが旅の中で友情を深めていく話だ。
史実をもとに製作されており、黒人が泊まれるホテルをまとめた旅行ブック「グリーンブック」をもとに旅をする2人を描く。
南部の差別問題を描くと同時に、2人がお互いを尊重して友情を深めていくドラマは見ごたえ抜群だ。
映画「グリーンブック」予告
映画「グリーンブック」映画情報
監督 | ピーター・ファレリー |
脚本 | ニック・ヴァレロンガ |
音楽 | ヒドゥル・グドナトッティル |
公開 | 2019年3月1日(日本) |
製作費 | 2300万ドル |
興行収入 | 3億1800万ドル |
受賞 | アカデミー賞(作品賞、脚本賞、助演男優賞) |
ゴールデングローブ賞 作品賞 | |
トロント国際映画祭 |
映画「グリーンブック」キャスト
トニー・リップ・ヴァレロンガ | ヴィゴ・モーテンセン |
ドナルド・シャーリー | マハーラシャ・アリ |
ドロレス・ヴァレロンガ | リンダ・カーデリーニ |
ヴィゴ・モーテンセンは、ロードオブザリングで脚光を浴びた俳優。
アカデミー賞助演男優賞を受賞したマハーラシャ・アリは、「ムーンライト」でも助演男優賞を受賞。
スパイダーマン:スパイダーバースにもアーロン・デイビスとして声の出演をしている。
映画「グリーンブック」評価
映画「グリーンブック」の評価は高い。
アカデミー賞を受賞し、映画好きが決める2019年映画ベストでもTOP10に入るほどの実力だ。
ただし、その差別描写はに対しては事実と異なる表現があるなど、一定の批判もあるようだ。
映画「グリーンブック」ネタバレあらすじ
黒人ピアニストと白人ドライバーの旅
1962年ニューヨーク。イタリア系白人のトニー・ヴァレロンガは、妻のドロレスと息子2人で暮らしていた。
南部ほどではないが、ニューヨークでも黒人に対する差別意識がまだ残っていて、それはトニーも同じだった。
ドロレスが家の修理で来た黒人に、水を飲ませたコップをトニーはゴミ箱に捨ててしまうぐらいには偏見があった。
トニーはバーのボディガードをしていたが、バーが改装となるため一時閉店となってしまう。
そんなとき、ピアニストのシャーリーがツアーに回るためのボディガードを探しているとして、面接を受けることになる。
シャーリーは黒人に対する差別意識が強く残るディープサウス(深南部)に行くという。
期間は8週間。
給料の条件を承諾し、トニーは仕事を受けることになる。
1960年代の南部では黒人専用の宿が存在していた。
黒人用の旅行ガイド「グリーンブック」を持って、8週間の旅行に出る。
ツアーのはじまり
トニーは運転手としてシャーリーを最初の目的地、ピッツバーグに向かっていた。
裕福なシャーリーと貧乏暮らしのトニーは、人種だけでなく価値観が大きく違っていた。
下品でがさつなトニーに対し、礼儀正しくおとなしいシャーリーはしばしば衝突した。
タバコを吸い、食べ物は手でつかんで食べ、路上で立ち小便をする男だった。
価値観の違いからしばしば衝突するものの、トニーもシャーリーのピアノの腕は評価していた。
シャーリーは常に1人だった。
トリオのメンバーが一緒に談笑しているときも、群れなかった。
シャーリーは、いわゆる黒人社会にも疎かった。
それは彼が富裕層にいたからだ。
南部に向かうにつれて、差別を強く感じられるようになった。
インディアナ州のハノーヴァーではピアノが整備されずゴミが溜まっているような場所だった。
ケンタッキーに着くころには、黒人専用ホテルに変わった。
黒人同士でコミュニケーションをとる中、ここでもシャーリーは群れることはなかった。
黒人は貧困層におり、立派なスーツを身にまとったシャーリーは好奇の目を向けるものもいた。
服屋でも試着をすることを断られている。
さらに、白人が経営するバーに行くと、白人から暴力を受けた。
トニーは「この場所では、1人で行動するな」というが、
シャーリーは
例えトニーの近所だったとしても同じ扱いを受けている
と話す。
各地のコンサートで富裕層とそのイベンターには歓迎されたが、当たり前のように差別が存在していた。
コンサートは歓迎されるもののトイレは白人と同じ場所を使わせてもらえなかった。
トニーは、ドロレスにたびたび手紙を書いていた。しかし、文才はなく、字も間違いが多いためシャーリーは気の利いた手紙を書くように文言を考えた。
シャーリーの苦悩
ある夜、トニーは警察から呼ばれた。
現場に到着すると裸のシャーリーと裸の白人男性がいた。
警察に逮捕されそうになると、トニーは警察を買収し、釈放する
見られたくない姿を見られたシャーリーは、トニーに当たってしまうが、翌日謝り、感謝していることを伝える
そして2人の中は少しづつ深まっていく。
夜、ミシシッピ州で道に迷っていると、トニーの車が警官に止められる。
警察はシャーリーが乗っていることを確認すると、黒人の外出禁止令だと言われた。
シャーリーはIDを確認されるが、トニーは、自身も侮辱を受けて警官を殴ってしまい、拘束されてしまう。
同行しているシャーリーまでもが捕らえられ、不当な扱いを受けたシャーリーはケネディに連絡をとり、釈放してもらう。
シャーリーはトニーに
私は毎日同じ侮辱を受けている。一日ぐらい耐えろ。
という。
シャーリーは苦しんでいた。
彼は
白人社会を独りで生き
貧困層の黒人社会と馴染めず
男性を好む
ことで、孤独を感じていた。
トニーはシャーリーに長年会っていない兄弟に手紙を書くように勧める。
シャーリーは、向こうは住所を知っているというが、
- さみしいときは自分から手を打たなきゃ
と伝える。
ツアーの目的
ツアーの最後にアラバマ州を訪れる。
シャーリーは、支配人に何の悪びれもなく倉庫を控室として案内される。
また、規則により同じレストランには入れないという。
シャーリーはここで食べられないなら演奏を断るといってもめる。
最後のツアーをもって、契約を破棄することを決意する。
レストランで、トニーは食事をしているとトリオのメンバーがやってきて、なぜこんなツアーをやっているかを答えた。
彼は北部でコンサートをすれば3倍の金を稼ぐことはできたが、あえて南部を回っているという。
- 人の心を変えるには
- 天才なだけでなく
- 勇気が必要だと
少しでも南部の人の黒人に対する偏見が変わることを信じて、あえてこのつらいツアーにのぞんでいた。
だからシャーリーはこの旅を選んだのだと、トニーに伝える。
演奏を中止し、黒人の集まるレストランにきた。
そこで、いつも弾いていたスタインウェイのピアノではなく、古いピアノを弾くよう勧められる。
ピアノ演奏は盛り上がり、他の黒人とも一緒に演奏する。
彼は黒人たちと打ち解けていた。
ツアーも終わり、クリスマスの夜にトニーは家に帰る。
トニーはシャーリーに家に寄るように勧めるが、シャーリーは一度断る。
シャーリーは自宅に着くと1人になった。
トニーが家に帰ると親戚中が集まってクリスマスパーティーを開いていた。
その席で「ニガー」との旅はどうだったかと聞かれる。
旅に出る前は冗談を飛ばしていた黒人差別の会話をいつしか不快に思うようになっていた。
そこにシャーリーが現れる。
シャーリーはトニーに歓迎を受け、ドロレスにも手紙を手伝ってくれたことへの感謝を伝えられる。
シャーリーは寂しいから自ら動いたのだ。
映画「グリーンブック」ネタバレ感想
この映画は大きく3つ。
- 南部での黒人差別
- シャーリーの孤独
- トニーとシャーリーの友情
について描かれている。
人間社会における差別
アメリカの有色人種への差別意識というのは、肌感覚としては理解できないが、人間社会にいる以上は大なり小なり差別は目の当たりにする。
その多くは、
- 偏見による差別
がほとんどだ。
黒人に何かされたわけではないのに過去の歴史や周囲の影響を受けて差別的な感情をいだくのだ。
もしくはちょっとした出来事を批判的に捉えて敵意を持つことも多い。
映画「グリーンブック」でも、トニーは黒人に対して負の感情を持っていた。途中まではあからさまな差別的行動を行っている。
しかし、シャーリーとの関係を深めるにつれ、その意識は変わっていく。
結局のところ、肌の色が違っていようと、誰を好きであろうと、どこの国の出身であろうと、
- 同じ人間同士、
- 分かり合える者は分かり合えるし、
- 分かり合えない者もいる
それは、コミュニケーションをいかに深くとるかによって、大きく変わる。
しかし、それは
- 新たな差別を生む危険性
もはらんでいる。
例えばトニーたちを逮捕した警官の若い方は、黒人のシャーリーも丁重に扱おうとしていた。
しかし、トニーには
- シャーリーに不当な扱いをした
警官として映るだろう。
南部にいる人間すべてが差別を働くわけでもないし、法律やルールを守っているだけで差別行為だとすら思っていない人間もいる。
その是非は別としても
- 南部にいる人間は差別的だ
という差別を生む可能性があるのだ。
これは、何かにつけて黒人でくくったり、出自でくくったりしようとするトニーに対して
- すべての黒人がそうではない
と忠告していたように、人それぞれ考え方は違うし、慣習も貧富の差も、礼儀正しさも人種ではなく人間によってバラバラなのだ。
差別をなくそうといたるところで抗議活動が起きている現代であれば黒人への差別がいかに滑稽なものかは理解できる。
しかし、あからさまな差別はないにせよ、差別自体はなくならない。
ではなぜ差別は起こるのかというと、私は「ヴィンランド・サガ」という漫画の一説でなるほどと納得がいった。
詳しい経緯は省くが、その作品の中で神父が話した言葉。
- 愛は差別だ
これにつきるのではないか。
人は人を愛する。友情をはぐぐむ。
しかし、愛するがゆえにそれらを守るために他人を敵としてみなしてしまうのだ。
それこそが差別であり、人が人を愛する以上なくなることもない。
差別はできればなくなって欲しい。同じ土地に住んでいながら黒人だけトイレが違う、宿泊先も違うなどあってはならないだろう。
しかし、人が人と群れる以上、そこには愛が生まれ、何らかの差別はこれからも続いていくのだろう。
シャーリーの孤独とトニーとの友情
当時の黒人はその扱いから貧困層に多かった。
シャーリーのような富裕層と関係を持つような者はほとんどいなかったのだ。
白人からはピアニストとしての彼は評価するものの、人間としては対等に扱いを受けていなかった。
かといって、黒人社会に馴染めずにもいた。
彼はまた同性愛者であった。
今でこそアメリカはLGBTにもオープンだったが、当時はまだ差別意識が強く残っていた。
兄とも疎遠になり、妻とも別れ、どの部類ともくくられず、孤独を感じていた彼を救ったのはトニーだった。
トニーもまたシャーリーによって変わった。
差別意識はなくなり、教養のない彼に手紙の書き方を教えて、ガマンすることを学んだ。
映画「グリーンブック」を見たならこれもおすすめ
2019年のTwitter上で人気が高かった映画「グリーンブック」
同年に人気の高い映画は抑えておこう。
アメリカの差別は現代においても大きな社会問題の1つだ。
それは、映画「クラッシュ」でも現れている。
黒人だけでなく、さまざまな人種が取り上げられる。
その根底には、単純な侮蔑としての差別だけでなく、恐れから来る潜在的な差別も表現されており、問題の根深さがよくわかる。
助演男優賞を受賞したマハラーシャ・アリは、映画「ムーンライト」でも助演男優賞を獲得している。
マイアミの貧困を描いたこの映画は、アメリカ現代社会の問題をまた描き出す。
日本ではアメリカほど人種が多いわけでもないため、大きく騒がれないが、差別は確かに存在する。
社会からの差別という意味では、邦画「楽園」でもみれる。
社会に適合できない人間は疎外され、疑われる。
人は集団行動できない人間に、本能的な恐怖を覚え攻撃するのだ。
誰からも必要とされないことの苦しみをら描く上では日本も世界も本質的に違いはないことが見てとれる。
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