「コンパートメントNo.6」は2022年の映画。ドイツ、フィンランド、エストニア、ロシアによる欧州によくある合作映画。
モスクワから世界最北端の駅ムルマンスクまで向かう道中の列車で出会った男女2人を描くロードムービー。
コンパートメントとは、列車の客室を指していて、学生のラウラが乗り込んだ列車は2人乗りの相席部屋。考古学に興味を持ち、モスクワの大学に通っていたフィンランド出身のラウラは1997年に発見された岩絵・ペトログリフを見るために単身でムルマンスクに向かう。
列車の中で炭鉱で働くリョーハと出会い、段々と心惹かれ合っていく。
これといった盛り上がりどころもないし、展開はスローペースで進む。2人の関係性や心情も非常にわかりにくい。でも飽きずに最後まで見れたのは、丁寧な人物描写と退廃的だがどこか暖かみのある映像のおかげだ。
東欧っぽい洗練されたオシャレさがあるわけでもなければ、スラムのような汚い光景が広がっているわけでもない。
ただ列車に乗り続け、街並みは都会でも田舎でもない工業地帯が続く。ただ、世界最北端に向かう道中の旅は日本人にはあまりになじみがないため新鮮だ。
何日もかけて列車で移動するなんてことは考えられないし、白夜の逆で常に日が暮れているこの世界は、終末感がただよっていて、人間を孤独にいざなうところもこの映画が持つ大きな意味である。
外は極寒で常に暗いが、列車の中はほんのり暖かい光がラウラを包む。その対比はラウラの心情を表しているようで趣深い。
どこか懐かしき雰囲気とともに楽しめる映画だったが、人は選ぶだろう。
コンパートメントNo.6
(2022)
3.6点
ヒューマンドラマ
ユホ・クオスマネン
セイディ・ハーラ
- 列車で出会った男女2人を描くロードムービー
- ロシアにある世界最北端の駅へ向かう旅
- 盛り上がり所はなくスローペース
- 懐かしき雰囲気とともに楽しめる映画
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映画「コンパートメントNo.6」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
ラウラ | セイディ・ハーラ |
リョーハ | ユーリー・ボリゾフ |
イリーナ | ディナーラ・ドルカーロワ |
映画「コンパートメントNo.6」ネタバレ考察・解説
ムルマンスク駅とペトログリフとは
(C)2021 – AAMU FILM COMPANY, ACHTUNG PANDA!, AMRION PRODUCTION, CTB FILM PRODUCTION
ロードムービーのメインとなる列車は、アークティカ号と呼ばれる大陸横断鉄道。モスクワから世界最北端の駅、ムルマンスクを35時間で結ぶ。
ほとんど日が昇らないので何日経過していたのかわかりにくかったが、ペテルブルグで丸1日停車するので、実はそれほど時間がかかっているわけではない。
とは言っても2,000kmほどあるため、島国日本からすればかなりの長旅だ。
ラウラのコンパートメントは2名一室の2等寝室の部屋である。レストランに向かう途中、雑魚寝部屋の区画があったように、部屋が区切られていない車両も多い寝台列車だ。
本来は、恋人のイリーナと行くはずだったが、仕事の都合により1人で行くことになってしまったラウラ。そこで出会ったのが酔ってからんでくるリョーハ。高い金を払ったのに同室の客がこれでは最悪である。
また、ラウラが見に行ったペトログリフ、いわゆる壁画はカノゼロペトログリフと言われ、マルムンスクに位置する。これは5千年〜6千年前に掘られたものとされており、世界最古らしい。
原作はローザ・リクソムの同名小説
(C)2021 – AAMU FILM COMPANY, ACHTUNG PANDA!, AMRION PRODUCTION, CTB FILM PRODUCTION
「コンパートメントNo.6」は2011年に書かれたロサ・リクソムの同名小説が原作。原作はソビエト連邦末期時代を描いているが、映画ではソ連崩壊後の90年代後半と思われる。
明確な年代は示されていないが、ラウラが向かうペトログリフが発見されたのが1997年なので、それ以降の話である。また、リョーハが話していたタイタニックの公開も1997年なので2000年以降ではなさそうである。
酔っ払いのリョーハは初対面からラウラにセクハラをしかけてくる。出会いは最悪で、第1印象は「嫌い」でしかなかったはずのリョーハにだんだんと惹かれていく感じはどこか少女マンガを見ているような気分になる。
打ち解けるにしたがって、だんだんと表情が柔らかくなっていくラウラや、下心なしに優しさをふりまくリョーハの関係性は、明らかにツンデレラブストーリーなわけだけど、「コンパートメントNo.6」ではわかりやすい恋愛関係に発展することはない。
また、原作の場合はもっと年齢差があるらしいので、その要素が本来は薄いのもうなづける。
価値観の違う2人それぞれの抱える孤独
(C)2021 – AAMU FILM COMPANY, ACHTUNG PANDA!, AMRION PRODUCTION, CTB FILM PRODUCTION
「コンパートメントNo.6」は、ラウラとリョーハが抱える孤独を表現した映画だ。冒頭の大学生活のシーンでは、知的な会話が繰り広げられていたが、ラウラはあまりなじめていなかった。
同居人でありガールフレンドの関係性でもあったイリーナに連れられて、知り合いのパーティ参加していたものの疎外感を感じている節があった。
また、ラウラがもっていない幸せそうで華やかな生活に憧れると同時に劣等感も持っていた。
しかし、列車旅でイリーナと離れることで、新たな価値観が芽生え始める。彼女との関係性は、離れてみてそれほど恋しいとも思わなくなっていた。
その考え方を変えてくれたのが、同室のリョーハである。価値観も全く異なる彼に惹かれていくのがこの映画の醍醐味である。
ラウラ自身は、人間の生きてきた証や、存在理由など、過去の遺物から現在を考えたいという知的欲求があったのに対して、炭鉱で働くリョーハにとっては生きる理由など考えたこともなさそうだった。
この映画は恋愛ではなく人間同士のつながりを描いたヒューマンドラマだ。食堂で気まずい雰囲気になった後、ラウラはリョーハを求めたが、リョーハ自身はそれを拒否している。
遠く離れた異国の地でもう二度と会うこともない女性とワンナイトのようなものを楽しむタイプではないピュアな男だった。
しかし、彼のホスピタリティ精神はすごかった。
ペトログリフが冬の時期は見られないとわかり、現地の人間から、誰もがムリだと言われていたことをリョーハは助けてくれた。
いやらしい下心もなく、持てるコネクションを総動員してペトログリフのある場所まで連れてってくれる男はそうはいない。
遠い異国の地で孤独を抱えていたラウラにとってリョーハの存在は特別なものだったに違いない。
リョーハ自身もどこか謎めいていて、あまり身の上については話したくはなさそうだった。
途中の駅で連れてってくれた年配の女性との関係も不明なままだ。
住所も教えず、別れも告げず、どこか人と繋がることを拒否しているかのような彼の孤独は不透明なままだったが、1つだけ最後にわかったことがある。
リョーハがラウラに渡した似顔絵のともに書いた「愛している」のメッセージから。
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