「あの頃」は2021年の今泉力哉監督の映画。
大学生活を楽しめずに落ち込んでいた男が、松浦亜弥の音楽に触れてハロヲタになり、ヲタ仲間と関係を深めていく話。
私も一時期ハロプロにハマった時期があった。ハロヲタ仲間がいるわけでもなく、一人でCDを聞いたり、写真集を集めたりするぐらいだったから、劔(つるぎ)がとても羨ましく思えた。
この映画の1番の魅力は、「今が1番楽しい」とはっきり言える劔のカッコ良さだ。
オタクでもなんでもないバンドマンがハロヲタでいることを誇りに持ち、周りの人の評価を気にせず行動し、仲間を作ることができる彼の人格に魅力が詰まっている。
ただ、終始、ハロヲタの気持ち悪くておもしろいノリがゆるーく続いていく映画なので、この世代の特定の層以外には引っかからないのでは?という映画だった。
あの頃。
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「あの頃。」映画情報
タイトル | あの頃。 |
公開年 | 2021.2.19 |
上映時間 | 117分 |
ジャンル | 青春 |
監督 | 今泉力哉 |
映画「あの頃。」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
剱 | 松坂桃李 |
コズミン | 仲野大賀 |
ロビ | 山中崇 |
西野 | 若葉竜也 |
ナカウチ | 芹澤興人 |
イトウ | コカドケンタロウ |
アール | 大下ヒロト |
靖子 | 中田青渚 |
松浦亜弥 | 山﨑夢羽 |
映画「あの頃。」あらすじ
大学院受験に失敗し、彼女なし、お金なし、楽しいことなど何もなく、どん底の生活を送っていた劔(つるぎ)。ある日、松浦亜弥の「♡桃色片想い♡」のMVを見たことをきっかけに、劔は一気にハロー!プロジェクトのアイドルたちにドハマりし、オタ活にのめり込んでいく。 藤本美貴の魅力を熱く語るプライドが高くてひねくれ者のコズミンをはじめ個性的なオタク仲間と共に、「恋愛研究会。」を結成した劔。トークイベントや学園祭でのアイドルの啓蒙活動、ライブを開催したりと、くだらなくも愛おしい青春の日々を謳歌する。しかし、時は流れ、仲間たちはアイドルよりも大切なものを見つけて、次第に離れ離れになり…。
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映画「あの頃。」ネタバレ感想・解説
「あの頃。」は嘘のような実話
こんな話あるのかよと思わなくもないが、これは原作者劔氏の実体験に基づいた実話だ。
だからこそステレオタイプにならない生々しいヲタクがそこにある。
中心となる2004年あたりは、まだAKBが登場するちょっと前。安倍なつみが卒業したちょっと後ぐらいの時期で、一般的にはモーニング娘。の全盛期ではない。
1997年から活動しているモーニング娘の全盛期(一般層まで浸透していたという意味で)は、後藤真希が加入した1999年から辻加護が登場した2000年にかけて。
それから、ハロー!プロジェクトという名の下に多数のグループが活躍した。
モーニング娘をはじめ、松浦亜弥やBerryz工房など、数々のハロプロアイドルが登場した時代だ。
2004年以降はハロプロの歴史からしてもかなり黄金時代と呼べる。この時期を取り扱った作品だからこそ私の琴線に触れることになった。
モーニング娘では、6期メンバーの田中れいなや、道重さゆみ、亀井絵里あたりが頭角を表してきた時期で、楽曲もマジでいいのがたくさんあった。「愛の第6感」や「レインボー7」あたりは名アルバムの1つだ。
世間的にはなっちも卒業し、1期メンバーがいなくなった中で、注目度も下がっていた頃だった。
ただ、曲の完成度は高かった。
メンバーの雰囲気は注目度が下がってきたのもあるかもしれないが、余計な大人がまとわりつきすぎずに、のびのびやれていて自由な感じはあった。
Berryz工房や°C-uteなど小学生メンバーが多数在籍していたグループも、個性豊かでルックスもいいメンバーがいた。
AV大好き西野がBerryz工房のことを熱く語る姿を見て、ロリコンの危険性に関してコズミンも毒づいていたが、確かにその時代、一般層には受け入れられないブームがあった気がする。
しかし、それほどに魅力があったグループなのは間違いない。
ちなみにハロプロで1番ハマったのはBerryz工房と°C-uteのメンバーからなるBuono!のアルバムだった。
前置きは長くなったが、そんな時期を描いたのが「あの頃」。
まだSNSも発達しておらず、ネット=ヲタクのようなイメージがあった時代。
今でこそかんたんにTwitterやYouTubeなどでコミュニケーションができるが、当時はまだ2ちゃんねるなどの掲示板を使ったりチャットができる程度。
後半にようやくミクシィが登場するが、それまではソーシャルメディアなんて言葉はなかった。
そんな彼らはスタジオを借りて、同じハロヲタを集めて好きなハロプロメンバーについて語らう。
ヲタクの中のリア充的存在である。
そこに飛び込んでいって仲間になったのが劔だ。この行動力があるからこそ、あんなに楽しい生活を送れているし、「今が1番楽しい」と言えるのだ。
こういうヲタクに憧れるかどうかは別として、心底羨ましい彼の持ち味である。
映画の中に出てくる仲間たちが、バンダナにロン毛、チェックシャツをインしたジーパンみたいな露骨なステレオタイプの衣装でないところも良かった。
松坂桃李のツラは良いけど、いい感じにうっとうしい髪形も良い。
ダサい。間違いなくダサいがそれがとてもリアルであり、ロビ先輩のようなやつもいたりして、ヲタクとひとくくりにはできない個性のある持ち主が集まる。
CDを飾るナイロンのウォールポケットあったなぁとか、同世代の若者なら懐かしめるポイントもいくつかあった。
今やデジタルの中で完結することが、当時はアナログ的に家の中を装飾するのだ。
彼らはそれぞれの推しメンバーがいて、でもハロプロ全部が好きで、コンサートに行ったり、握手会に行ったりする。
「会いに行けるアイドル」という距離感になったのは、AKBが登場した2005年頃以降なので、まだまだアイドルは高嶺の花の存在であり、カリスマ性すらあった。
握手会の抽選に当たった劔があんなにも緊張し震えていたのは、ハロヲタでも滅多にない機会だからなのだ。
握手会のシーンにこだわったと監督も言っていたが、あの瞬間は劔の人生の中でもマックスに近い快感と緊張を得たことだろう。
ちなみに握手会で登場する松浦亜弥は、同じハロプロ出身の「BEYOOOOONDS」のメンバーの山﨑。原作者が雰囲気が似ているというように確かにちょっと似ていた。
「あの頃」のタイトルの意味とラスト
ずっとゆるい感じで続いていくが、みんなの動きやセリフの間なんかがおもしろく、コズミンが土下座するシーンで普通に笑えるのは仲野大賀の力が光る見どころの一つ。
相手を見下したり、仲間の濃い人を奪おうとするような最低なコズミンだけど、彼の持つ可愛げのある人格により、上手いこといじられながらも関係は続いていく。
しかし、「あの頃」というタイトルにもあるように、時は移り変わり、だんだんみんなの生活も変わっていく。
ずっーとこんな調子で続く映画なのかと思ったら、コズミンがまさかの肺がんに。
またここで見どころなのが骨にまでガンが転移したと分かった時の大賀のリアクションがまた良い。出てくるメンバーにはみんな拍手を送りたいシーンはたくさんあるが、彼はやはりキーマンである。
そうは言っても、シリアスな展開になることもなく大きな山場も作らずに淡々といつものノリが続いていく。
末期ガンのコズミンに生前葬をしたり、故人となった彼の風俗の秘密を暴露して笑ったりと、ブラックジョークが満載だが、それが許される仲間たちとの関係性がわかるようになっている。
この時期、彼らにとってもかなり苦しい時期だったことには違いないはずだ。だが、ほとんどのシーンでそれらは触れられずに淡々とゆるく進む。
彼らはコズミンの前では常に今まで通りに振る舞う。例え抗がん剤で髪の毛は抜け落ち、話もできない状態であってもだ。
劔が歌をうたっている時に不意に「あの頃」を思い出して泣いてしまう。多くの人に、人生の中でも特別に印象に残っている時期がある、「あの頃」の持つ力は果てしない。
「あの頃は良かった」という後ろ向きなワードではなく、あくまで「今が1番楽しい」を前提とし、劔という人物を形成するのに重要だった「あの頃」を思い出して泣く。
それはノスタルジックでもあり、劔が自信を取り戻す時間でもあった大事な場所だからだ。
どのスペースに生きていても「今が1番楽しい」と言えるのは、彼がいつも前向きに生きていてるからだ。
そう生きるのが難しい人もいるけれど、やはりそう言えたら人生も充実するのだろうなと思う。
にしてもハロヲタのノリがずっと続くので、共感できる人はそれほど多くはないようなニッチな映画だ。
このコメディ感をおもしろいと思える人はそれほど多くないかもしれない。しかし伝わる人には伝わる。
その生々しさを、完璧に演じきった役者たちの素晴らしさを感じられる映画でもあった。
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