映画「悪人」がAmazonプライムで配信されているので再視聴。
パレードや怒りなど人間の暗い部分にスポットを当てて、内面をさらけ出すのが得意な吉田修一が原作。
イケメンもフツメンもダメンズもこなせるマルチな妻夫木聡や、今や有名女優として脚光を浴びている満島ひかり。
2018年に亡くなった大御所、樹木希林など、見ごたえのある俳優ぞろいの名作。
この映画は難解ではないのだけれど、「悪人」ってなにかね?を問う作品となっており、妻夫木聡演じる清水祐一だけが本当に悪人とも言い切れない内容となっている。
せっかくなので、原作者の意向に合わせて登場人物の悪人っぷりをいやらしく書き出して、本当の悪人を見つけてみようと思う。
映画「悪人」あらすじ
若い女性保険外交員の殺人事件。ある金持ちの大学生に疑いがかけられるが、捜査を進めるうちに土木作業員、清水祐一(妻夫木聡)が真犯人として浮上してくる。しかし、祐一はたまたま出会った光代(深津絵里)を車に乗せ、警察の目から逃れるように転々とする。そして、次第に二人は強く惹(ひ)かれ合うようになり……。
引用:シネマトゥデイ
映画「悪人」感想 ネタバレ登場人物紹介
清水祐一 / 妻夫木聡
この映画の発端となった石橋佳乃(満島ひかり)を殺した犯人。
人格否定や脅迫めいた佳乃の暴言により、勢いあまって殺してしまう。
馬込光代(深津絵里)がラストでつぶやいていたとおり、人を殺したのだから悪人なわけである。
同情の余地があるとすれば2つ。佳乃のレイプ犯に仕立て上げるという脅迫と、幼いころに母親が蒸発し、母の愛情を受けて育っていないこと。
佳乃自身もこのときは、見下している人間に対して、自分のみじめな姿を見られてかなり取り乱しているため、祐一のプライドをかなり傷つけているのは確かだ。
おそらく冷静になればそんなことはしないであろうが、このときの状況が二人の心理状態を悪化させたとみてとれる。
また、清水祐一は母親からの愛情を受けておらず、精神的にも不安定な状態で育っている様子だ。もちろん、愛情を受けていないからといって人を殺さない人などたくさんいるだろう。
映画「三度目の殺人」でもあったが、人間には「人を殺せる人と殺せない人」が存在しており、それは生まれつき決まっているという。
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遺伝子レベルでそれが決まっているとしたら、環境はそのフラグを立てていく要因となるのではないだろうか。
人を殺せる側の人間が、特定のフラグを立てたときに殺すという手段をとってしまうのだ。
清水祐一の場合、愛情を受けずに育ったこと、自身のプライドをひどく傷つけられたこと、そして夜の山中などいくつかのフラグが立ったため、人を殺してしまったのかもしれない。
馬込光代 / 深津絵里
光代は確かに不幸である。出会い系で本気で出会い、好きになった人間が人殺しだったのだから。
しかし、光代は被害者である、と同時に犯人隠匿罪の犯罪者でもあるのだ。
祐一の機転により、光代は罪を免れたようだが、自身の寂しさを埋めるために相手が殺人犯であっても逃避行をしてしまう。
それも、祐一は一度は自首しようとしていたのにも関わらずだ。
きちんと自首していれば罪は軽くなったのかもしれない。しかし、逃亡したことにより誘拐犯や、殺人未遂などの罪が上乗せされてしまったであろう。
非リア充の光代は、殺人犯を好きになってしまった被害者気取りであり、相手のことを考えずに罪を重くさせて、自分は一人助かっている。
悪人というのが、悪意の有無で決まるのであれば違うが、悪意のない人間もまた悪人と呼ぶべきなのかもしれない。
増尾圭吾 / 岡田将生
事件の元凶を作った人間であり、罪に問われない「悪人」である。
むしゃくしゃしているという理由だけで1人の女性を山の中から突然下ろし、暴力までふるう。
その女性が殺されたきっかけを作ったのにもかかわらず、直接の原因でないというだけで、自分は無関係だと堂々といいふらし、自身も被害者かのように笑い飛ばす。
裕福な実家に甘やかされて育ったあげくに、罪の意識が低く、人を人とも思わない。
ただしかし、増尾の場合は人を殺せない側の人間なのかもしれない。
石橋佳乃 / 満島ひかり
殺人事件の被害者。
同情される位置にいるはずだが、性格に難点がある。
女友達には増尾と付き合っているとうそぶき、出会い系サイトで出会った祐一と体の関係だけを重ねる。
祐一を見下しており、わざわざ呼び出しておいて平気で約束をすっぽかす。
口も悪く、祐一と増尾の2人を怒らせるきっかけを作ったのは佳乃自身だ。
事件の夜も、山中で増尾に蹴っ飛ばされ、それを祐一にみられるというみじめな自分に取り乱して暴言を吐いたため、逆上した祐一に殺されてしまう。
殺されるほどのことをしたとは思わないが、殺されるきっかけは彼女自身が作っている。
石橋佳男 / 柄本明
佳乃の父親。
佳乃が殺されたことを恨み、山中に捨てた増尾のことをつけまわす。
増尾がどうしようもないクズだということが分かると、増尾を殺そうとするが、佳男は殺せない側の人間であるため殺すことをあきらめる。
仮に殺してしまったとして、娘を殺された父親がその復讐をするため(増尾は加害者ではないが)に、人を殺した場合、それは悪人なのだろうか。
同じ憎悪という理由で人を殺した雄一は悪人で、父親は悪人にはならないのか。
清水依子 / 余貴美子
祐一の母親で、祐一を捨てて蒸発している。
その後会いに来た祐一にお金をせびられ逆恨みしているどうしようもない人間。
祐一が殺人を犯してしまうフラグを立てた要因と考えられる。
清水房枝 / 樹木希林
祐一の祖母。
祐一を守るために、警察官が来たことを伝えてしまう。
孫が悪いことをしても、かばってしまい責任をとらせようとしない甘い保護者。
母親が自分の子を捨てたため、不憫に思い甘やかしてしまう行動が見受けられる。
結果的にこの行動によって祐一の立場は悪化してしまう。
映画「悪人」では、結局誰が悪人なのか?
上で紹介した人物以外にも、祐一の祖母をだました詐欺師はもちろん、光代のことを見下している姉妹など、うがった目をすれば悪人と呼べる人間はたくさんいる。
浄土真宗の教義の中に「悪人正機」という言葉がある。
「“悪人”こそが阿弥陀仏の本願(他力本願)による救済の主正の根機である」
引用:Wikipedia”悪人正機”
浄土真宗の中では、すべての人の本当の姿は悪であり、善人は真実の姿が分からず善行を完遂できない身である事に気づくことのできていない「悪人」であると定義されている。
我々の行為は下記のように、本質的には「悪」でしかない。
自分のやった善行によって往生しようと思うのは、阿弥陀仏の誓願のはたらきを疑いの心による。
何を行うにしろ我々には常に欲望(煩悩)があり、その計らいによる行為はすべて悪(煩悩濁)でしかない。
善いことをしようにも、実際には自らの善悪の基準でしかなく、本質的な善悪の判断基準がない。引用:Wikipedia”悪人正機”
「法律」は、人間たちが秩序を守るために作ったルールだ。その「法律」は時代によって変わっていく。
現代の「法律」に違反したものを悪人としてレッテルを貼りがちであるが、善悪の判断は人によって異なるわけで、安易に人殺しを悪人に当てはめて糾弾するのは矛盾に満ちているのである。
悪人と呼べる人間はたくさんいると述べたが、世の中には私自身も含めて悪人しかいないといわれているような気になる作品だった。
映画「悪人」 祐一 その後は
祐一は、殺人罪だけでなく、誘拐罪や殺人未遂罪まで罪状が追加される可能性が高い。
すぐに自主していれば、刑期はだいぶ違っていただろう。
しかし、光代と出会ったことで、祐一も少しは救われたかもしれない。
最後に光代を守るために、自らを犠牲にすることで。
あのまま自主をしていたら、出所できたとしても苦しい人生を送り続けただろう。
あとがき
満島ひかりが女優としてぐんぐん伸びていた時期でもあり、岡田将生をはじめ素晴らしい演技をする役者がそろっている映画でした。
そしてやっぱり樹木希林さんという惜しい女優さんをなくしてしまったなと改めて思います。
映画「悪人」は、アマゾンプライムで観られるようになっています。
同じ吉田修一原作に「怒り」「パレード」もあります。
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