「ファースト・カウ」はA24が手がけたドラマで製作年は2019年。日本では2023年に公開された映画。監督はケリー・ライカート。アメリカのインディペンデント映画で有名な映画作家だ。
西武開拓時代。アメリカンドリームを目指してオレゴン州の未開の地へやってきた料理人クッキーと、中国人移民のキング・ルー。
2人は意気投合し、一緒に暮らし始める。ある日キング・ルーはドーナツをつくって売るという商売を思いつく。まだこの地には牛が一頭しかおらず、富の象徴とされていた状況で、牛のミルクを盗みドーナツを作り始める。という話。
とても物静かな映画で家族でも恋人でもなければ友人というわけでもない2人が、未開の地で一攫千金を求めて、ただドーナツを作って売るだけの話。
それだけなのに妙な魅力があるのは、2人の間に流れる空気感がとても心地よく、なぜか飽きることはなく、ぐいぐい引き込まれるからだ。
穏やかなのだけれど、牛のミルクを盗むという話の展開が緊張感もほどほどにもたせるため、つい見入ってしまう。
冒頭に出てくる白骨死体により、なんとなく物語の最後を知りながら進んでいくため、ラストに向かうにつれて決して幸せにはなれないだろう結末に向かっていくところも心をざわつかせる。
ラストもムダを省いた演出で、物語の締めくくり方も秀逸だ。
西武開拓時代の大自然も見ていて心地良しの映画「ファースト・カウ」
あらすじから、ラストの結末まで解説・考察していく。
西武開拓時代のアメリカで一攫千金を夢見る2人
ファースト・カウ
(2023)
4.4点
ドラマ
ケリー・ライカート
ジョン・マガロ、オリオン・リー
- アメリカンドリームを求めた男2人の友情を描く
- 穏やかでスローだが、ほどほどに緊張感もあり飽きない120分間
- 始まりから締めくくり方まで秀逸なケリー・ライカート作品
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映画「ファースト・カウ」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
クッキー | ジョン・マガロ |
キング・ルー | オリオン・リー |
仲介商 | トビー・ジョーンズ |
ロイド | ユエン・ブレムナー |
隊長 | スコット・シェパード |
トティリカム | ゲイリー・ファーマー |
仲介商の妻 | リリー・グラッドストーン |
映画「ファースト・カウ」ネタバレ考察・解説
「ファースト・カウ」あらすじ
クッキーは料理人として暮らしていたが、一攫千金を求めてオレゴンへやってくる。毛皮を取る猟師たちのグループに入っていたが、使いぱしりをさせられていた。
孤立していたクッキーは、中国からやってきた移民のルーと意気投合。しかし、資本も持たない2人は、未開の地でどうすることもできなかった。
ある日、**白人の村長が牛を連れてくる。それを知ったルーは料理人のクッキーに「牛から搾ったミルクでドーナツを作ろう」**と計画をもちかける。
夜、村長の土地に忍び込み、ひっそりとミルクを絞るクッキーたち。まだ未開の地でとれたミルクで作ったドーナツは評判が高く大人気に。
しかし、そこへ村長たちの一団が現れ、、
そこから物語は展開していく。スローテンポで流れる映画で、現代の感覚からするとまどろっこしさを感じる人も多いかもしれないが、ムダなシーンは一切なくすべてがいとおしい。
1つ1つの行動にクッキーの優しい性格が表現される。そして、集団の中ではうとまれていたクッキーのすべてを受け入れるキング・ルー。
2人の間に流れる空気感は、私たち現代社会の人間が抱える孤独を埋めてくれる何かがある。多くの集団の中にいることが孤独を埋める手段ではない。
ただ理解してくれる少しばかりの人がいれば幸せで満たされるのだと再確認させられる。
牛の乳を搾り取るときに優しく語りかけ、キング・ルーの家に招待されたときは、もてなされることに居心地の悪さをあり、掃除をしたりする優しいクッキー。
どう考えても住みにくく生活しやすいと感じられるシーンはないのだが、どこか牧歌的だと感じてしまうのは、クッキーとキング・ルーの2人の間に作られる静かで落ち着いた空気感があるからこそだろう。
西武開拓時代とは
西武開拓時代とは一般的には1845年のテキサス併合によるフロンティアの拡大に伴い、人々が新天地を求めて西武に移住を行なった時代から1890年にフロンティアの消滅が発表されるまでの期間を指す。
「ファースト・カウ」の舞台は1820年代のオレゴン州。まだ大規模な開拓団もなく、いわゆるゴールドラッシュがはじまっているわけでもない。
「未開拓の地にはお宝が眠っているぞ」ぐらい曖昧な目的で来ているので、一攫千金を求める人たちの暮らしは原始的。
仮想通貨でいえば、マウント・ゴックス事件ぐらいの聡明期感。
首都のあるワシントン州とLAやサン・フランシスコといった巨大都市のあるカリフォルニア州の間に挟まれたこの州に住む人々は、開拓時代につちかわれたフロンティアスピリットが旺盛で自主性を重んじる。
また、映画の中でもビーバーの話が出ていたが、毛皮のために乱獲されたことで絶滅が危ぶまれたほど希少な動物である。
クッキーやキング・ルーの住まいはテントや木で簡素につくられた小屋。高い資本をもつ富豪ですら簡易的なロッジなのだから、いかに不便な時代なのかが垣間見える。
その地にはまだ牛ですら一頭しかおらず貴重だった。
ラストの結末
村でドーナツの話を聞きつけ、村の村長であるファクターがやってくる。盗まれたミルクで作られたドーナツをとても気に入り、クラフティ(フランスのデザート)を作ってくれと依頼される。
危険を感じるものの、牛が貴重な時代はすぐに終わりを告げることを知っていたキング・ルーは、せっかくつかんだ一攫千金の夢を諦めきれず、牛のミルクを盗み続けた。
しかし、ある夜、盗みに入っていることがバレて追われる身に。
2 人は一度はバラバラになったものの、家の付近に隠してあったお金を取りに戻ったところで落ち合う。一緒に逃げようとするが、ひそかに追手も2人の後をつけていた。
逃げる途中、頭にケガをしたクッキーは体調が悪く、林のとある場所で休むことに。そこで一緒に休むキング・ルー。2人はそのまま眠りに落ちてエンドロール。
この後どうなったのかは、冒頭のシーンを見ていればおのずと想像がつくだろう。100年以上後に、その地を散歩していた女性が白骨死体を見つけている。その形は、クッキーとキング・ルーが眠りに落ちたときとほぼ同じ格好だった。
殺されたシーンは見せずとも2人がどうなったのかは想像がついてしまう締めくくり方が秀逸で、余計なシーンを加えることなく、物語は完結する。
2人の夢は道半ばに終わってしまったが、クッキーの料理人としての腕前がなければ、人気のドーナツはできなかったし、キング・ルーの商才がなければお金を稼ぐことはできなかった。
お互いがお互いを補完し合える関係というのは、いつの時代もどの地でも美しく、私たちはそこにあこがれを抱く。
登場人物の動き、音、美しいとは言いがたいが、なぜか心に響く原風景。そっとよりそう音楽。すべてがドキュメンタリーのように撮られたかのようでいて、緻密に計算され尽くしたかのようにも感じるケリー・ライカートの演出。
どれをとっても満点に近い出来栄えで、大満足できる作品だ。
決してエンタメ性はないけれど、心地よい空気感により不思議と飽きない作品。芸術としての映画を観たいけど、どれを観れば良いかよくわからない人におすすめできる良作だった。
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