「ソフト/クワイエット」は2023年の映画。
私が過去に見た作品の中で、印象に残っているセリフにこんなものがある。
「強い光が差すところには必ず濃い影も浮かぶもんだ。影に飲みこまれんなよ」
ドラマ「BORDER」より引用
正義と悪を相対して表現した一節であるが、正義をなそうとすると、そこにはより強い悪が生まれることを表現した言い回しだ。
「ソフト/クワイエット」はまさに濃い影を表した映画。
ダイバーシティだとか、「Black Lives Matter」とか、マイノリティを尊重するという流れが今は当たり前の時代。
白人が優勢だった前時代の闇に光を当てたことで、偏見に満ちた彼女たちの怒りは増幅し、ただのトラブルが最悪の事態に発展してしまう話である。
全編ワンショットにより、スリリングさが強調され、緊迫感のある展開が繰り広げられる。
90分間はあっという間だ。胸クソ描写もあるのでお腹いっぱいという気もするし、ここで終わるの!?という物足りなさも感じる。
「ゲット・アウト」のジェイソン・ブラムが制作総指揮にあたり、マイノリティへのヘイトを吐き出す胸クソ映画。
主役のステファニー・エステスは、無名の役者ではあるが、鬼気迫る演技力に、ワンカット表現もあいまって、おそろしくリアルに感じる完成度の高い作品だった。
ソフト/クワイエット
(2023)
3.6点
スリラー
ベス・デ・アラウージョ
ステファニー・エステス
- 白人と非白人の分断を描いた映画
- 緊迫感が伝わる90分間ワンショット撮影
- 暴力的な胸くそ映画
- 「ゲット・アウト」のジェイソン・ブラム制作総指揮
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映画「ソフト/クワイエット」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
エミリー | ステファニー・エステス |
レスリー | オリビア・ルッカルディ |
キム | ダナ・ミリキャン |
アン | メリッサ・パウロ |
マージョリー | エレノア・ピエンタ |
リリー | シシー・リー |
クレイグ | ジョン・ビーバーズ |
ブライアン | ジェイデン・リーヴィット |
ジェシカ | シャノン・マホニー |
アリス | レベカ・ウィギンス |
映画「ソフト/クワイエット」ネタバレ考察・解説
エミリーたちが教会で会合した目的は?
(C)2022 BLUMHOUSE PRODUCTIONS, LLC. All Rights Reserved.
物語の始まり、エミリーが森の奥を抜けた教会にやってくる。エミリーは妊娠を望んでいたものの、なかなか叶わずに落ち込んでいる状態だった。
道中で出会ったレズリーを連れて同行した先は、いわゆるレイシズム(差別主義)の考えを持つ白人女性たちの集まりだった。
彼女たちは、白人が非白人系の人種よりも優れていることを再確認することが目的だった。
ダイバーシティ政策のためにアジア人が優遇され昇進ができなかったと主張するマージョリーや、経営する店に来ては非合法に入国した移民たちが騒ぎ立てると主張するキム。
第三者から見ると言いがかりにしか見えない状況でも、白人が優遇されるべきだと信じているグループの中にいては、すべてが正当化されていた。
ホワイトボードに書かれていたDaughters for Aryan Unityとは、白人至上主義団体がアーリア人団結のために女性たちが結集することを呼びかける意味合いがあり、この会合では以下の目的を共有している。
- 未婚のメンバーに優れた白人男性を見つけること
- 白人の子供をたくさん生むこと
- 白人優勢の思想を広めること
また、幼稚園の先生であるエミリーは、幼稚園児がこの考えを植え付けるために最適な年代だと考えていた。
冒頭で、白人の子供にアジア系の清掃員に対して難癖をつけさせた行為は、白人が非白人よりも優れいていることを体感させるためだ。
また、白人の子供の前で黒人の両親を叱責することで、より深い分断を生ませるという意見も会合の中でなされていた。
このように、事実として定着することを目的とし、映画のタイトル通り、柔らかく静かに行うことを前提としていた。
最初から対立構造を煽ったり、あからさまなヘイトクライムをするつもりはなかった。
しかし、そういった類のマガジンを発行し、より多くの人にこの意見を浸透させようとしたのは、レイシズム的な主張を声高らかに公の場でいうことを今まで我慢していたエミリーたちが解放された瞬間でもあった。
どうしてエミリーたちは暴力的になってしまったのか?
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過激な発言をしていたことで、教会の牧師によって教会を追い出されたエミリーたちは、キムの店に寄ったあと、再びエミリーの家で集まることにした。
この場面以降、彼女たちの行動は過激になっていく。
エミリーたちは、アジア人など有色人種と呼ばれる人たちが原因で、肩身の狭い思いをしなければならないと本気でそう思っている。
自分の人生がうまくいかない原因を非白人のせいにすることで責任転嫁をするタイプの人間たちだ。
しかし、常日頃に頭の中で考えていることであっても、世間に向けて声高らかに言えることではない。
ダイバーシティなどの言葉があふれかえる現代で、白人至上主義なんて前時代的なことは言えない程度の頭は持ち合わせている。
そして、この教会には抑圧されたマイノリティたちが集まり、思想を同じにする同士と憎しみを共有し、一気に攻撃的になってしまったのが「ソフト/クワイエット」で描かれていることである。
会合では過激なやり方ではなく、ソフトに静かに人間の心理に浸透させていくことを考えていたエミリーだが、アジア人がキムの店にきたことで一触即発の空気になる。
そして差別的行為を受けたアジア人のアンが、エミリーの兄をレイプ犯だと侮辱したことで、違いの分断は決定的なものになってしまった。
エミリーたちは、復讐のために家に侵入し、パスポートを奪ってやろうと考えたのだ。
もし、これがエミリー1人だったらここまで凄惨なことにはならなかっただろう。
しかし、同じ思想を持った集団が存在し、思想と相対する立場にいる人間と対峙してしまったとき、人間は残酷にも暴力的になっていく。
このシーン以降は胸クソシーンの連続である。
ワンショットで撮影されることで、リアルタイムに経過する時間軸を共有し、観客自身もヘイトを撒き散らす悪意に満ちたグループに強制参加させられる。
家に侵入し、パスポートを奪うことに成功したタイミングで、家に帰ってきたアンとリリーにより、部屋に侵入したことがバレることになる。
2人を縛りつけ暴力行為で脅そうとさらに過激になっていく。過度に暴力をあおるレズリーやアルコールの力を借りたマージョリーによる集団心理により、エミリーたちも暴力的行為に巻き込まれていく。
そして、無理やり食事を食べさせられた物の中にピーナッツが入っていたリリーは、アレルギー反応により死んでしまう。
殺人までは考えていなかったエミリーたちだが、彼女たちの日頃の憎悪はすべての責任を転嫁するパワーを持っていた。
それは、おぞましいことに、アンも殺して証拠を消すという方法をとったのだ。
アンは生きていたのか?
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一番積極的だったレズリーが、アンを窒息死させる。そして死体を車の中に入れ、近くの湖に沈めた。
しかし、沈めた直後、アンだけは湖から這い上がる姿が映し出され、映画は終了する。
この胸クソが連続するシーンの中で、アンが生き残ることによりエミリーたちの犯罪が明るみになり、逮捕される希望の未来が見えてくる。
犯罪行為を加担させられていた気分になっていた私たち観客にとって、それは救済行為でもある。
「ソフト/クワイエット」というタイトルのように過激的な行為に走ることなく静かに思想を浸透させるという予定だったがは、目的が同じ同士が集まったことで一気に爆発してしまった。
「陰に光を当てるとより濃い陰が生まれる」という言葉通り、ダイバーシティのような希望の光があたったことで、より深い憎悪が生み出された結果である。
また、現時点ではマジョリティに属する白人だが、多くの移民を受け入れているアメリカでは、2050年にマイノリティになることが予想されている。
人種/民族 | 2020年の割合 | 2050年の予測割合 |
---|---|---|
白人 (Non-Hispanic) | 60.1% | 44.3% |
ヒスパニック (Any Race) | 18.5% | 24.6% |
黒人 | 13.4% | 13.1% |
アジア人 | 5.9% | 9.7% |
アメリカ先住民・ネイティブハワイアン・その他の太平洋諸島民 | 1.3% | 1.5% |
2つ以上の人種/民族 | 2.7% | 6.8% |
SNSが世界を1つにすることを加速させている一方で、人種や民族、思想などによりグループを形成した者たちの分断は激しさを増している。
「ソフト/クワイエット」はそんな分断の最中に観客自身も巻き込まれ、目を背けたい現実を強制的に見させられる映画である。
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