「ボーンズ・アンド・オールは2023年の映画。人を喰らう人間たちを描いたカニバリズムムービー。
ホラー、スリラージャンルに入るかと思いきや、想像以上にエモーショナルな描き方がされていて、私たちが肉や魚を欲するように人肉を欲してしまう人間たちの葛藤と苦悩を描いたヒューマンドラマに仕上がっていた。
カニバリズムという異常でおぞましい設定を生かしきれていない部分は残念な気もするが、そこには監督の狙いが見え隠れしている。
ストーリー展開は、思春期を迎えたものたちが悩みがちな社会に馴染めない、溶け込めないところをフィーチャーした青春xロードムービー。
ここでは、ボーンズ・アンド・オールという映画のタイトルの意味やラストの結末について考察をふまえてネタバレ解説していく。
ボーンズ アンド オール
(2023)
3点
恋愛、ホラー
ルカ・グァダーニノ
ティモシー・シャラメ、テイラー・ラッセル
- 人を喰らう人間のいる世界
- 若者たちの苦悩や葛藤を描いたエモーショナルな恋愛映画
- 「君の名前で僕を呼んで」の監督作品
- ホラーやグロテスクなシーンはほとんどなし
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映画「ボーンズ アンド オール」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
リー | ティモシー・シャラメ |
マレン | テイラー・ラッセル |
映画「ボーンズ アンド オール」ネタバレ考察・解説
ホラーではなく青春恋愛映画
(C)2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.
冒頭で説明したように、ボーンズ・アンド・オールは、カニバリズム映画でありながら、青春x恋愛がつまった若者向けの映画だ。
カニバリズム体質として生まれたマレンが、その体質がゆえに社会に馴染めず、事件を起こしては引っ越しを繰り返す。自分のルーツを探るべく、母親探しに出かけた先で同じ体質のリーと出会い、関係を深めていくという内容である。
カニバリズムというグロテスクで不快な描写は、ホラー映画のジャンルに位置するのが一般的だが、これは違う。
特異体質のせいで社会に溶け込むことができない人間たちの苦悩や葛藤を描いた、居場所のない人間たちの物語なのである。
数ヶ月にわたり、アメリカの州をまたがったロードトリップ的要素もたくさん詰め込まれているが、この要素も差別が依然として多いアメリカ中西部を中心にするという監督の意図が隠されている。
なぜ仲間を見つけられるのか?
(C)2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.
カニバリズムの性質を持った者たちは、その匂いで仲間がわかるという。だからサリーは1km先からマレンの匂いを嗅ぎとったし、マレンとリーが出会ったときも、すぐに同じ仲間だということを理解しあった。
途中で出会った男たちも同じように仲間を見分ける力があった。個人差があるので、その範囲は差があるようだ。
人間ではない可能性もあるが、特に映画の中では言及はない。レベルEというマンガでも人を喰べる宇宙人の話が出てきたが、ルーツは謎のままだし、少なくともマレンとその母親はそのことで気を病んでいる。
だからこそ、マレンは旅の途中で出会った警察官がカニバリズムでもないことに憤りを感じていた。彼は人を喰べる必要などなく、ただの興味で3人もの人を殺したのだ。
それは食べなければならないマレンにとっては、全く別物の人種と言っても良かった。
なぜ母親はマレンを襲ったのか?
(C)2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.
母親は施設に入っていた。自らの意思で。
夫も自分の娘のことも愛していたが、喰べないという保証はなかった。夫にバレたとき、喰べてしまうことを恐れて自ら身を引いた。そして、これ以上、人を喰べないように自ら施設に入ることにした。
母親は娘のことを愛していたゆえに自分の血を引いた娘のことを気に病んだ。自分を訪ねてくるということは、父親は秘密を破り、特異体質のことを知っていて、娘もまたそのことに悩まされているはずだとわかっていた。
だから母親は娘を自らの手で殺そうとした。母親は人を喰べるという行為を受け入れられずに世界をさまよっているのである。
リーが言っていたように、人を喰べるという行為が、マレンが生きていく上で必要としてしまう以上、わりきって動くしかない。もしくは母親のように、自由になれない場所に閉じこもるしかない。
どちらも受け入れがたく、良心と本能の葛藤の中で、マレンはリーの元からも逃げ出したのだ。
リーの父親はどうなったのか?
(C)2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.
リーは、暴力を振るっていた父が妹に手を出したため、妹に警察を呼ぶように伝えた。妹が警察を呼んでいる間に、父親を殴り気絶させて誰にも見つからない場所に隠した。
失踪したことにしたリーは、疑いが晴れた後、父親を喰べた。自分に暴力を振るっていた父親を喰べることで、彼と一体化し、強くなった気分になったと言っている。
そしてそれは、エンディングでマレンがリーに行った行為へと繋がっていく。
ボーンズ・アンド・オールのタイトルの意味とラスト
(C)2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.
「ボーンズアンドオール」は骨まで食べ尽くすという意味で使われている。マレンとリーが途中で出会った2人の男が言っていたように、カニバリズムであっても全てを食べ尽くすのは難しい。
このタイトルの意味を理解するのはラスト。サリーがマレンをストーキングした挙句、リーが怪我を負って死ぬことになる。リーは、マレンに自分を喰べるように言った。
このタイトルは、ウォーツアンドオールと非常に語呂が似ている。ウォーツアンドオールとは、長所も短所も含めてありのままをさらけ出すという意味がある。
つまり、マレンはリーを骨の髄まで食べ尽くすことで、悪いところも良いところも含めて同化したのである。リーが父親を喰べたのと同じように二人は一心同体となったのだ。
ラストシーンの丘で、リーが生きているように見えたのは、マレンの体の中に生きているからだ。
なぜカニバリズムにしたのか?
(C)2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.
監督のルカ・グァダニーノは、「君の名前で僕を呼んで」でLGBTQの作品を扱っている。今でこそ、LGBTQへの認知度は広がっているが、「ボーンズアンドオール」を観た私たちがカニバリズムに対する嫌悪感や不快感は、少し前まではLGBTQの人々にも向けられていた。
黒人差別もいまだ根深い中西部のアメリカを舞台にするのに意味があったのだとこの記事では伝えている。
マイノリティなアイデンティティを持つ人間たちの中でもそうではない他人が絶対に受け入れられないであろうカニバリズム(実際には存在しないことを願うばかりだが)に置き換えて、集団生活ができず、社会に溶け込めない弱者を浮き彫りにする狙いがあったのだ。
カニバリズムの異常性を描きたかったのではないため、ホラーでグロテスクな展開を期待していると少しもったいない。
また、この監督の意図を知れば深みも増してくるが、話題性だけで観てしまうと少しもったいない気がした。
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