「ウエスト・サイド・ストーリー」は2022年に公開されたアカデミー賞ノミネート作品。
ハリウッド界の巨匠、スティーブン・スピルバーグが手がけた1960年代に公開された同名タイトルのリメイク作品。
当時隆盛を極めた1960年代のニューヨークマンハッタンを舞台に移民や低所得者の若者たちの軋轢をミュージカルを用いて描く。
ミュージカルの明るさとは裏腹に対立するチームにいる男女が恋に落ちることで起きる悲惨な流れはシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」が元ネタになっている。
ミュージカルの完成度は高く、当時の街並みの再現度も高クオリティで、アカデミー賞にノミネートされるのも頷ける。
ミュージカルで流れる音楽が好きならそれだけで楽しめる。しかし、オリジナル版を知らず、当時の時代背景もあやふやだとイマイチ乗り切れないのは否めない。
今回は当時の時代背景や、オリジナル版との違いにふれながら、物語をもっと楽しめるようにしていきたい。
「ウェスト・サイド・ストーリー」
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「ウェスト・サイド・ストーリー」映画情報
タイトル | ウェスト・サイド・ストーリー |
公開年 | 2022.2.11 |
上映時間 | 157分 |
ジャンル | ミュージカル |
監督 | スティーブン・スピルバーグ |
映画「ウェスト・サイド・ストーリー」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
トニー | アンセル・エルゴート |
マリア | レイチェル・ゼグラー |
アニータ | アリアナ・デボーズ |
ベルナルド | デビッド・アルバレス |
チノ | ジョシュ・アンドレス |
シュランク警部補 | コリー・ストール |
バレンティーナ | リタ・モレノ |
リフ | マイク・ファイスト |
映画「ウェスト・サイド・ストーリー」あらすじ
ニューヨークのウエスト・サイドには、夢や自由を求めて世界中から多くの人々が集まっていた。しかし、差別や偏見による社会への不満を 抱えた若者たちは、やがて仲間と集団を作り激しく敵対し合っていく。ある日、“ジェッツ”と呼ばれるチームの元リーダーのトニーは、対立 する“シャークス”のリーダーの妹マリアと出会い、瞬く間に恋に落ちる。この禁断の愛は、多くの人々の運命を変える悲劇の始まりだった…。
filmarks
映画「ウェスト・サイド・ストーリー」ネタバレ感想・解説
1960年代ニューヨークの時代背景
(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
「ウェスト・サイド・ストーリー」の舞台は1960年代のニューヨーク。移民や低所得者たちがひしめき、再開発が進んでいた時代だ。
ニューヨークマンハッタンの、アッパー・ウエストサイドは、アフリカン・アメリカンや、プエルトリコの移民たちも多く居住していた。
この時期のニューヨークは好景気で、古い建物を壊して街を発展させている最中。だから主人公たちジェッツやシャークスのメンバーはガレキの山を舞台にダンスを繰り広げるのだ。
取り壊しが始まっているビルにボロボロの建屋、低所得者や移民たちが住むアパートの再現度は高く、めちゃくちゃ金のかかったセットでミュージカルの舞台を観ているような感覚に襲われる。
列車や駅は、古すぎることもなく近代的にもなってない見事な作りになっていて、当時のリアルなニューヨークを堪能できること間違いなしだ。
今でこそ多くの人種を抱えているアメリカで多様性が叫ばれているわけだが、分断と差別の歴史は日本より根深い。
同じ地区に違う人種が住む。人間は集団行動を好むからどうしても似通った境遇のものとコミュニティを形成することになり、そこには軋轢(あつれき)が生まれる。
キューバに近い島にあるプエルトリコは、スペインの植民地だったが、1900年にアメリカ合衆国連邦に属し、半独立状態の島となっている。
プエルトリコから新天地を求めてアメリカ大陸に多くの移民が流入し、コミュニティを形成したのがウェストサイド地区なのである。
その人数があまりに多いため、聖ヨハネ(サンフアン)島と呼ばれたプエルトリコの島にちなんで、サンフアン地区と呼ばれるほどだった。
オリジナルの「ウェスト・サイド・ストーリー」が公開された頃は公民権運動の真っ只中。
差別というものに対して意識の改革が起こり始めた頃である。
アフリカ系アメリカ人により、1950年代なかばから1960年代なかばにアメリカで展開された、差別の撤廃と法の下の平等、市民としての自由と権利を求める社会運動。
公民権運動とは
だから今でこそ一般化した異なる人種や宗教、イデオロギーの違いによる対立であるが、当時の状況を切り取ったという意味ではセンセーショナルな内容になっているのだ。
オリジナル版と2021年版との違い
(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
「ウェスト・サイド・ストーリー」は、1957年にミュージカルとして始まったのが最初。
ファンタジーの世界が当たり前だった今までのミュージカルの常識を覆した意味で画期的だったらしい。
1961年のオリジナル版はアカデミー賞では11部門中10部門を受賞という快挙。
そんな名作をリメイクしたのが10歳の頃にサントラと触れ合い、心の中に残っていたスティーブン・スピルバーグ。ずっとこの映画を作りたいと思っていたスピルバーグ監督は、70代になって夢を叶える。
しかし、今作は映画のリメイクというよりは57年のミュージカルをもとにしているという。
I was not remaking the 1961 film at all. Everybody knew from the outset that everything was based on the 1957 musical.
(1961年の映画をリメイクしているわけではない。1957年のミュージカルがベースになっている)
goggler.my
というわけだが基本的な流れはオリジナル版と同じだ。
今回は細かい違いについてまとめていく
ミュージカル部分の変化点
- 曲の順番
- 新曲の追加
- ダンスの振り付け
- “America”の歌詞
- リフは”Gee Officer Krupke”で歌っていない
- “Somewhere”はマリアではなくバレンティーナが歌う
ミュージカル部分についてはほとんど同じ曲が使われているが、その順番は異なっている。
Evelina Zaragoza Medina/BuzzFeed
大きくは一緒だが、例えば”Cool”は乱闘シーンの前に挿入されたりする。
1曲追加されたのが「La Borinquena」という曲。これはプエルトリコの国歌である。
多様性にともない、プエルトリコにもフォーカスが当たっているのが特徴だ。
また、ダンスの振り付けも新しくなっていたりするので、すでにオリジナル版を見たものも十分に新しいミュージカルとして楽しめるだろう。
演出の変化点
- チームのコスチュームはオリジナル版は控えめ
- “America”を歌うアニータの衣装は黄色
- バレンティーナはオリジナル版でアニータを演じた俳優
- プエルトリコの文化にもフォーカスが当たっている
- プエルトリコの役者は全員ラテン系の俳優
- レイシズムや人種差別の問題提起をしている
- 乱闘シーンはより暴力的になっている
- アニータのレイプシーンはわかりやすい
演出についても随所に変化が見られる。例えばオリジナル版のコスチュームはシャークスは赤や黒、ジェッツは青や黄を多用した衣装だったが、今作はお互い地味で見分けがつきにくい。
また、乱闘シーンはより暴力的になっていたり、アニータをレイプしようとしたシーンは、よりはっきりとわかりやすくなっている。
当時の状況をよりリアルに表すために、プエルトリコ側の会話ではスペイン語が多用される(字幕も無し)。
オリジナル版の場合、白人がラテン系のメイクをして演じていたが、今回は全員ラテン系の役者を起用するなど人種問題にも配慮されている。
ストーリーの変化点
- ストーリーはほとんど同じが、会話は全く異なる
- トニーとマリアの2ショットシーンが長くなっている
- トニーの過去について掘り下げられている
- ジェッツとシャークの関係性について深く掘り下げられている
- チーノの役割は大きくなっている
ストーリーに関しては大きな流れは全く一緒。
しかし、細かい点で違っている。トニーとマリアのシーンは増えているし、トニーがジェッツを離れてから刑務所にいた時期の描写は、オリジナル版にはない。
ジェッツとシャークの関係性やマリアとアニータの会話など、ミュージカル以外の時間も割いていて、話に深みを持たせようとしているのが特徴だ。
参考:21 Important Changes Steven Spielberg Made To His Adaptation Of “West Side Story”
ストーリーは目新しくない
深みをもたせようとしているが、ストーリーは至ってシンプルだ。対立し合っているグループにいる男女が恋をすることで、対立を激化させ、悲惨な結末へと向かっていく。
トニーとマリアの関係性もそれほど深くはない。ダンスパーティでたまたま出会った2人が同じタイミングで一目惚れ。敵対するチームだと分かっていてもその情熱を止められない。
その点においてはあまりに軽薄だ。一目惚れを否定するつもりはないが、イケないとわかっても止められない恋に落ち、様々な葛藤を経た上の悲劇ではなく、思慮の浅い軽率な行動が生んだ当然の結果である。
もちろん、男女の恋が周りの状況によって阻害されるなんてあってはならないことでもあり、ロミオとジュリエットのような階級とは異なる新しい分断を産んだ現代の悲劇ではある。
ただ、メインがミュージカルとは言え、現代にそのままこのストーリーをぶつけてくるのはチープさが残るのは否めなかった。
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