ステップは、2020年の邦画。
監督は、虹色デイズを手がけた飯塚健。原作はとんびを執筆した重松清。音楽にはさよならくちびるの秦基博を起用。そして主演には等身大の父親を演じた山田孝之を加えて、シングルファーザーとなった父親の苦労や悲しみ、そして幸せを描いていく。
でもこの映画は単純に1人親って大変だよねという話ではない。すべての人が経験する「うまくいかないのが人生」を映画の中で伝えている。
大げさな表現も少なく、ドラマチックに涙を誘うわけでもない、突然妻を失った夫と娘の日常を、11年間の歳月をかけて描いた良作品だった。
70点
「ステップ」映画情報
タイトル | ステップ |
公開年 | 2020.7.17 |
上映時間 | 118分 |
ジャンル | 家族 |
監督 | 飯塚健 |
映画「ステップ」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
健一 | 山田孝之 |
美紀 | 田中里念 白鳥玉季 中野翠咲 |
保育士 | 伊藤沙莉 |
カフェ店員 | 川栄李奈 |
奈々恵 | 広末涼子 |
健一の義母 | 余貴美子 |
健一の義父 | 國村隼 |
映画「ステップ」あらすじ
健一はカレンダーに“再出発”と書き込んだ。始まったのは、2歳半になる娘・美紀の子育てと仕事の両立の生活だ。 結婚3年目、30歳という若さで妻を亡くした健一はトップセールスマンのプライドも捨て、時短勤務が許される部署へ異動。何もかも予定外の、うまくいかないことだらけの毎日に揉まれていた。そんな姿を見て、義理の父母が娘を引き取ろうかと提案してくれたが、男手一つで育てることを決める。妻と夢見た幸せな家庭を、きっと天国から見ていてくれる彼女と一緒に作っていきたいと心に誓い、前に進み始めるのだ。 保育園から小学校卒業までの10年間―――。子供の成長に、妻と死別してからの時間を噛みしめる健一。そんな時、誰よりも健一と美紀を見守り続けてくれていた義父が倒れたと連絡を受ける。誰もが「こんなはずじゃなかったのに」と思って生きてきた。いろんな経験をして、いろんな人に出会って、少しずつ一歩一歩前へと踏み出してきた。健一は成長を振り返りながら、美紀とともに義父の元に向かう。 そこには、妻が残してくれた「大切な絆」があった―――。
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映画「ステップ」ネタバレ感想・解説
「ステップ」の3つの意味
映画「ステップ」というタイトル。この意味は主に3つある。
- ステップファーザーとしての「ステップ」
- 少しずつ進んでいくの「ステップ」
- 段階ごとの「ステップ」
ステップファーザーの健一は、美希とともに少しずつ歩みを進めている。幼稚園、小学校、奈々恵の存在、そして祖父の死。11年の間、ちょっとずつ起きる問題を時には歩みを止めながらゆっくりと歩いていく。
苦しみや悲しみなんて誰しも味わいたくないし、ましてや自分の子どもにそれを背負わせたくない。でも生きていくというのは楽しいことだけじゃない。
悲しみを経験して、受け入れて、乗り越えたり、時には立ち止まったり、寄り添ったりして生きていくものだ。その過程を経て人はさらに成長するし、優しくもなれる。
日々はその繰り返しなのだと痛感させられる映画だ。
突然妻を失った夫とその娘。娘は当時1歳で物心もついてない年齢だ。たしかに不幸だ。もし自分が同じ立場だったら耐えられるのかと考えてしまう。
昇進も決まり、家族にも恵まれてこれからってときのこの境遇は想像を絶する。でも悲しみに暮れているだけでは生きていけない。娘を育てていかなければならない。
思春期を経るにつれ、時間的余裕は生まれても精神的に困難なことはたくさんある。
楽しくも苦しくもあるイベントを11年の中で描き出しているのが「ステップ」という映画だ。
でも例え同じ経験をしていなくても、気持ちはスッと入り込めるだろう。この映画で描かれているのはシングルファーザーだからしんどいとか、妻に急に先立たれた不幸を嘆いている話ではない。
シングルファーザーだから不幸なわけではない。この世に生きている人はすべからく、それぞれがいろいろな悲しみを経験している。不妊だったり、死産だったり、会社のゴタゴタだったり。
ありとあらゆることが取り巻く世の中では、「思い通りにいかないのが人生」は当然のことなのだ。発生することを客観的に大きいも小さいも計れない。それは本人にしか分からないし、本人だけが大きくしたり小さくしたりできる。
喉元過ぎ去ってみればということもあるし、ずっと頭の中に残り続けることだってある。
「ステップ」の中では美希が小学生を卒業するまでだけど、この先にはもちろん思春期が待っていて、まだまだいろいろなことが起きるだろう。
それでも少しずつステップを踏みながら人は生きていく。
昼飯に出てくるのは中川大志
営業時代の上司とランチに行く時、店先ののれんから出てくるのは中川大志。彼は虹色デイズで飯塚健監督作品に出演し、自ら撮影現場に乗り込んでいったという。
だからこの話の中には全く意味をなさないのだけれど、地味でユーモアも少ないストーリーのアクセントとしては、ちょうどいい要素になっている。
山田孝之の普通が見られるのは、20年ぶりぐらいじゃないか。30歳から40過ぎまでの微妙な年のとり方をいい塩梅で見せてくれて、健一の成長を感じられる映画だった。
過剰な演出も演技もなく、余計な涙を誘わせず、音楽で盛り上げるのも抑えめに、それでいて登場人物の優しさや悲しみがしっかりと伝わる良い作品だ。
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