「私の中のパズル」は2021年のNetflixオリジナル映画。
ハンガリーとカナダ合作のこの映画は、ヴェネツィア国際映画祭で主演のヴァネッサカービーが女優賞を受賞した。
日本ではそれほど注目を浴びてない作品だけれど、見ればわかる。賞をとるのも納得の演技である。
出産直後に死んでしまった赤ん坊。深い悲しみから彼女がどう向き合っていくのかを描いた作品。大げさな表現は使われず、淡々と描いているのに登場人物の感情は流れ込んでくる。
素晴らしい出来の映画だった。
90点
「私というパズル」映画情報
タイトル | 私というパズル |
公開年 | 2021.1.7 |
上映時間 | 126分 |
ジャンル | ヒューマンドラマ |
監督 | コーネル・ムンドルッツォ |
「私というパズル」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
マーサ | ヴァネッサ・カービー |
ショーン | シャイア・ラブーフ |
マーサの母 | エレン・バースティン |
マーサの妹 | モリー・パーカー |
スザンヌ | サラ・スヌーク |
アニータ | イライザ・シュレシンガー |
クリス | ペニー・サフディ |
マックス | ジミー・フェイルズ |
「私というパズル」あらすじ
マーサは出産を間近に控えており、自宅で出産する準備を整えていた。夫のショーンは不器用ながらも懸命にサポートしていたが、その甲斐もなく死産になってしまった。悲しみのどん底に突き落とされた2人だったが、その悲しみを思うように分かち合うことができず、夫婦の間に徐々に溝が生じ始めた。そんなマーサに追い打ちをかけたのが母親のエリザベスだった。エリザベスは「助産師(イヴ)を告訴して然るべき責任を取らせるべきだ」と強硬に主張し、マーサを強引に原告席に着かせたのである。
Wikipedia
「私というパズル」ネタバレ感想
出産
私は幸運にも2人の子どもに恵まれた。母子共に健康な状態で無事に産まれたのは、今の医療では当たり前のように感じるけれど、やはり1人の生命が誕生する瞬間は奇跡そのものだ。
「私の中のパズル」を観てたらふと思い出したことがある。映画のような絶望の事態にはなっていないけれど、2人目の子が産まれたとき、少しだけ不安になる出来事があった。
その日、破水した妻から病院に行くという連絡があった。2人目となるとそれなりに余裕が出てくるし、1人目のときのような緊張感はないけれど、それでもやっぱり期待と不安が入り交じりながら病院に向かった。
到着すると、陣痛の感覚は短くなっていて、すぐに分娩室に入ることになった。私も立会いのために一緒について行った。
出産は安産だった。それでも泣き声を聞く瞬間までは不安でいっぱいだったけれど、聞こえた瞬間にはホッと胸を撫で下ろした。
でもこの映画と同じようにその病院では別の出産も同時に始まっていた。そしてそちらは難産だったのだ。
生まれた後、赤ん坊はしばらく妻の体の上に乗せられていた。医師や看護師は難産の分娩室に応援に行ってしまい、しばらく家族のみの時間となった。赤ん坊は一向に保育器にも入らず、処置もされず放置されていた。時間にすると10分ほどだったと思う。
少し赤ちゃんが冷えていて気になっていると、その後看護師さんが来て赤ん坊を処置してくれた。
しばらくして保育器に入った赤ちゃんを見てみると、どうも呼吸がおかしいことに気づいた。「スースー」という呼吸ではなく、「スーズズー」という苦しそうな呼吸だった。そのことを看護師さんに伝えると、最初はなんでもないというふうに言っていたが、しばらくすると医師が診察し、それから保育器は奥に連れられて見えなくなった。
後で分かったことだけど、原因は余計なモノが口に入ったため、呼吸が苦しくなったそうだ。その後はなんともなく元気に回復した。
最初に放置されていたこととは関係ないのかもしれない。ただ、なんとなくモヤモヤした感情は残った。
助産師に落ち度はあるのか
あのとき、こちらが何も言わなかったとしたら病院側は気づいたのだろうか。もし万が一のことが赤ん坊に起きたとしたら、私は病院を訴えるのだろうか。
例えいち早く気づいて必死に助けようとしている医師を見ていても、「あなたたちは悪くない」と言えるのだろうか。
私たちは助産師ではないし、看護師でもない。だからどういう行為が適切で、どういう状況になったら危険が迫っているかなんて分からない。
無知は人を不安にする。
ちょっとした行動を気にしたり、言葉に敏感になったりもする。そもそも立ち会っていない母親が、急死した赤ん坊のことを聞いたら落ち度があったと憎悪の感情が生まれてもおかしくはない。
母親は助産師の手助けなく生まれ落ちたの子どもだから。
客観的に見れば、映画の中の助産師さんは一生懸命にやっているように見えた。何が当たり前で、適切な処置かはわからないけど、少なくとも雑な処置をしているようには見えなかった。
心音が聞こえない中ようやく生まれて泣き声が聞こえた後の安堵の顔はホンモノだった。
希望で終わる最後のシーン
それでも当事者になったらどう思うだろう。マーラの立場ならどう思うだろう。自宅出産を選んだ自分を責めるだろうか。我が子の死を受け入れられず必死に目を背けようとしているときに、夫に、母に、周囲に裁判のことなんて言われて正気を保てるのだろうか。
辛い辛い映画だった。それでもこの映画の素晴らしいところは、ラストでマーサが元気な子どもを授かったことがわかったときだ。
ショーンが夫かどうかはわからない。でも確かに元気に生まれていた。死を乗り越えて前に進んだマーサと、自らが嫌われ役になっても娘のために行動した母親を尊く思う。
助産師を魔女にするべきではない。何も知らない周囲の人間が正義を盾にで後ろ指を指すべきではない。
しかしあの現場を目の当たりにしたとき、私は正気を保てるのだろうか。
長回しによる臨場感と没入感
出産のシーン、そして母親の家で口論になるまでの一連のシーン。その場にまるでいるような生々しさからマーラに感情移入して場を盛り上げていく。
長回しだからこその臨場感。出産にまるで自分が立ち会っているかのような没入感。
だからこそ盛り上げる音楽もいらない。淡々と時が経過して、だんだんと家庭が崩壊していく。破壊と再生までの道筋で、マーラに、ショーンに、母親に、それぞれの登場人物の痛みに触れていく。
今妊娠している人におすすめはしづらい部分もあるけれど、決して絶望の映画ではない。素晴らしい作品だった。
「私というパズル」を観たならこれもおすすめ
2020年末に公開されたNetflixオリジナル映画「ミッドナイトスカイ」。ジョージ・クルーニー監督が製作した近未来SF。地球では生物が生きられなくなり、絶滅の危機に瀕している地球側の視点と宇宙探査ミッションから帰還しようとする宇宙飛行士の視点から描かれる。
Twitterの人気映画ハッシュタグ2020年映画ベスト10でも29位に入った「ハーフオブイット」。
アジア系アメリカ人監督、アリス・ウーが、思春期の孤独感や恋愛をコメディタッチで描いた作品。
文学的で初々しいこの映画から分かったことは、自由の国アメリカでも、集団生活の中に生きていて、日本人と感覚は大きく変わらないということだった。
アメリカのティーン世代向けに作られた映画だけれど、日本の映画にも雰囲気が通ずるものがあるし、親近感のわくシーンもいくつかある映画だった。
コメント