「パッセンジャーズ」は2019年に公開された映画
「プラダを着た悪魔」のアン・ハサウェイ主演のミステリー映画である。
墜落した飛行機事故から生き残った5人の男女のセラピストになったクレアが、生存者とともにトラウマを乗り越えようとするストーリー。結末までのミスリードの仕方は分かりやすい気もしたが、それでも十分意外性があり、伏線もよく練られていたのでおすすめの作品。
映画「パッセンジャーズ」あらすじ
突然の電話で起こされたセラピストのクレア(アン・ハサウェイ)は、墜落した旅客機事故から奇跡的に生き残った5人の男女が抱えるトラウマ的なストレスを治療するため、担当のセラピストに命じられる。クレアは大任にやる気を見せるが、生存者の一人、エリック(パトリック・ウィルソン)は彼女のカウンセリングを拒否し……。(引用:シネマトゥデイ)
映画「パッセンジャーズ」ネタバレ考察・解説
パッセンジャーズは死後の世界を描いた作品
冒頭は、クレアが飛行機事故のセラピストとして登場する。
映画が進むにつれてだんだんと矛盾が生じはじめ、実は主人公のクレア(アン・ハサウェイ)は飛行機事故の被害者を救うためのセラピストではなく、自身も飛行機事故で亡くなった犠牲者だったということが判明する。それがこの映画の一番の肝である。
同じような映画では、「シックスセンス」が有名だが、「シックスセンス」は現実世界に残される死者の話であるのに対して、パッセンジャーズの世界に生きている者は登場しない。
そう、ここには死者しか存在しない。自分の死に納得できていない人達が一時的にとどまる世界。
飛行機事故には100名以上乗っていたが、その中の数名が自分の死を受け入れられず、さまよっている。
なぜパッセンジャーズ(乗客)は突然消えてしまうのか
死者の世界から消えるには条件がある。真実(自分が死んでいること)を知ること、そしてそれを受け入れる準備をすることだ。
その死に気づかせるために、先に亡くなった近しい人達がやってきて、それとなく導いてくれるとても優しい世界。
そう、あらすじや事前情報から受ける世界とは全く異なる流れなのだ。それが観るものを良い意味で裏切っている。
彼らはそれぞれの方法で死んでいることを理解し、死を受け入れていく。
グループミーティングで最初の方に消えたディーンとノーマンは、彼らは真実(飛行機のエンジントラブル)のことを知ったうえで自分がすでに死んでいることを悟り、消えた。
シャノンは、先に死んでしまった両親のことがずっと残っていたが、クレアに自分の思いを伝えたうえで消えた。
機長のアーキンは、エンジントラブルがあったときに席を離れていたことを後悔し、エンジントラブルを認められずにさまよっていた。彼も最初は自分のことを理解できていなかったようだが、最後にクレアと話したときにはすべての記憶が戻り、消えた。
みな、自分が死んでいることを理解し、そして受け入れると消える。思い残したことをできる限り納得する形でやらせてくれるわけだ。なんて優しい世界だろう。
クレアの後悔は恋愛をしなかったこと
真実を知るだけでなく、死を受け入れるための準備として生前の世界でやり残していたことを行動するのも、この世界から消えるための条件になっている。
クレアが生前の世界でやり残したことを後悔していると思われるのは3つある。
- 姉に連絡をとらなかったこと
- セラピストとして仕事をすること
- 真剣に恋をすること
クレアは姉のエマに臆病で人生を無駄にしていると指摘されている通り、行動力のない性格のようだ。
エマとケンカ別れしたままだということをとても後悔しており、その証拠に何度もエマに電話し、家にまで足を運んでいる。
仕事についても消極的だったことがわかる。映画の冒頭で、セラピストとして仕事をすることを任されることになるが、博士号を取るほどの実力はあるのにもかかわらず、実務経験はないようだった。
恋愛に対しても臆病なところがあらわれている。エリックのことが気になっているのに、死者の世界であってもなお、仕事上のルールといって行動(恋愛)を避けている。これについてもエリックと話していたときに真剣な恋愛をしてこなかったことを悔いている。
そしてそれらすべてをすでに亡くなったクレアの近しい者たちのアドバイスによって、一歩前を踏み出し、生前の世界での後悔を1つ1つ解消している。セラピストは小学生の先生、ペリーの力、恋愛は叔母、姉との関係はエリックのように。
いつ死んでも後悔はないという人は、すべてにおいて行動し続けられる人なのだろう。多くの人は頭では考えていても行動に移せる人は少ない。
行動することは、それほど難しくはないのに。
エリックの未練
エリックも同様に生前の世界でやり残したことがある。
- 絵を描くこと
- クレアとの関係
株のブローカーとして仕事に追われる日々を過ごしていたため、絵を描くというような自分の時間を持てなかったこと。
そしてクレアと飛行機の中で出会い、また会う約束までとりつけていながら飛行機事故により死んでしまったためだ。
クレアが死後の世界にいることで起きる矛盾
すでにクレアが死んでいることを連想させる伏線がいくつかある。
- クレアの顔に新聞紙が飛んできたときの異常な怖がり方
- クレアは極度の高所恐怖症(PTSD)になっている
- 車にひかれないエリック
- 連絡がつかない姉
- ノーヘルで乗るバイク
- 他人の船に乗るエリック
クレアがエリックの家を訪ねたとき、ふいに風で新聞紙が顔に飛んできて、異様なほど驚くシーンがある。
ツッコミたくなりそうなオーバーリアクションであったが、これは飛行機が空中で爆発し、モノが散乱したときの恐怖が残っていたからである。
また、エリックに高いところに連れていかれて、怖がるシーンも同様、飛行機事故の恐怖を思い出したからだ。このときも危ない場所ではないのにかなり怖がっていた。
また、エリックが車にひかれないのは、死者の世界でさらに死ぬということがありえないからだ。それを暗示するかのようにエリックがクレアとバイクに乗るときにヘルメットをつけようとするところを一笑に付している。
このときエリックはまだ自分が死んでいることに気づいてはいなかったはずだが(うすうすは気づいていたかもしれないが)、死なないためのヘルメットをつけることを嘲笑している。
連絡がつかない姉もそう。姉が実は亡くなっているのではと思わせるようにミスリードしていたが、実は姉が生きているため、死者の世界で会えるわけないのだ。
映画「パッセンジャーズ」のラスト・結末について
事故の原因はエンジントラブル
この事故はエンジントラブルによるもので間違いないだろう。
複数の乗客証言もあるし、そもそもクレア自身が第一発見者となっているためだ。
機長のアーキンは、クレアに対して飛行機事故は人的ミスだと発言していたが、エンジントラブル時に操縦席を離れていたアーキンはそのことをずっと後悔していたため、自らを責め人的ミスだと言い続けていたのだ。
アーキンは、離婚問題で疲れていなければ、胴体着陸する自信さえあったのかもしれない。
エリックと犬の関係性
確信したのは、クレアの家に犬が来たときになるだろう。車にも列車にもひかれない自分に気づき、死を確認する。
しかし、エリックはうすうすは気づいていたように思う。
エリックは、犬が吠えることをとても嫌った。このときはまだ気づいていないが、頭の片隅で何かを思い出しかけ、それをむりやり封じ込めようとしていたのだろう。
絵を描くことでも、なにかを思い出しかけていく。それは飛行機の絵のようにも見える。だんだんと生きていることに矛盾が生じてくるが、それをうちけすかのように事故現場におもむき、生を実感しようとする。
自分はまだ死んでいないのだと一生懸命考える。
そして、クレアの家でとうとう気づいてしまうのだ。いるはずのない犬のことを。
やり残して後悔した絵を描くこと、クレアとの関係を結ぶことで死を受け入れる準備が整ったといえる。
ペリー先生の言う、嘘の中にある真実とは
クレアが航空会社の陰謀説をペリー先生に訴えるシーンで、「嘘には真実の一部がまぎれ込んでいる」と言われる。
航空会社の陰謀説に、クレアがこだわる理由があるはずだと。
真実とは、クレアがすでに死んでいること
嘘とは、航空会社の陰謀説だ。
クレア自身も最初は航空会社の陰謀説は全く信じていないが、次第に信じるようになっていく。それはエリックと同じように自分自身が真実に近づいていくのを認めたくないがためであろう。
損しないサブスク動画配信の選び方
映画を観る機会が多い方のために、損しないサブスクの選び方を教えます。
あとがき
ミステリー映画と思わせておいて、最後はなかなか感動する作品だった。航空会社の陰謀というミスリードを仕掛けているけども、どうも真相は別のところにありそうだというのは、多くの人が気づいたであろう。
しかし、主人公を含めすべて死者しかいないということまで気づくのは難しいようにミスリードされていたと思う。
主人公の言動というより、飛行機事故の被害者の言動に謎が深まっていくからだ。
当時あまり有名でない作品のように思うが良作。
もう一度見返してみるとおもしろい。Amazonプライムで見ることができるのでおすすめ。
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