映画「ナイチンゲール」は2019年のオーストラリア映画。
19世紀のオーストラリア南にあるタスマニアを舞台に、夫と子供を目の前で殺された女が復讐のためにイギリス人将校を殺しに行く話。
あらすじを聞くだけで胸くそであるのは覚悟していたけれど、期待を裏切らずに前半は胸くそオブ胸くそだった。
でもだんだんと、ただの胸くそ映画とは思えない流れに変わり、いつの間にか複雑な胸中にさせられ、モヤモヤするわけではないけれど、単に憎悪を燃やしていればいいだけの映画ではなくなっていった。
74点
「ナイチンゲール」映画情報
タイトル | ナイチンゲール |
公開年 | 2020.3.20 |
上映時間 | 136分 |
ジャンル | ヒューマンドラマ |
監督 | ジェニファー・ケント |
映画「ナイチンゲール」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
クレア | アイスリング・フランシオシ |
ホーキンス | サム・クラフリン |
ビリー | バイカリ・ガナンバル |
映画「ナイチンゲール」あらすじ
19世紀、オーストラリアのタスマニア地方。けちな盗みを働き流刑囚となったアイルランド人のクレアは、その美しい容姿と歌声から、一帯を支配する英国軍将校ホーキンスに囲われていた。クレアの夫エイデンは、彼女が刑期を終えた後も釈放されることなく、拘束されていることについて不満を持ち、ホーキンスに交渉を試みる。しかし、逆上したホーキンスはクレアを仲間達とレイプした挙句、彼女の目の前でエイデンと子供を殺害してしまう。尊厳を踏みにじられ、愛する者達を奪われたクレアは復讐を決意する
映画「ナイチンゲール」公式
映画「ナイチンゲール」ネタバレ感想・解説
18世紀植民地時代の恐怖
映画「ナイチンゲール」は18世紀の話。舞台はオーストラリアの南にある小島、タスマニア。
映画を観れば分かる通り、広大で険しい自然が特徴の島だ。島とはいえ、北海道より小さいぐらいの大きさはあるので原野を歩いて縦断するような場所ではないことが分かる。
この時代、イギリスから来た入植者たちは先住民(アボリジニ)に対してひどい仕打ちをしていた。
それは差別というには生易しいただの虐殺。同じ人間という立場ですらない扱いだ。
黒人はすべて「ボーイ」と呼ばれ、白人が彼らの名前を呼ぶことはない。当たり前のようにこき使い、当たり前のようにレイプし、当たり前のように殺す。
人間扱いしないのにレイプはする。一体どういう心境で生きているのだろうか。
人間とはこうも残虐な生き物なのかと辟易する。
けれどもこの時代の人間たちにはそれが普通だった。肌の色も違う未開の地にいる人間は同じ人間として映っていない。
人食いと恐れられ、その恐怖や無関心さから、黒人を殺すことは悪ではないという認知を植え付けられているからだ。
ネットもテレビもない時代、遠い国の情報は入らない。私が同じ時代に、同じ立場として存在したら、当然の権利として残虐な行為に及ぶのだろうか。
子どもがアリを殺すのと同じように、死を弄ぶのだろうか。
だって、そこにいる人達は、それを残虐な行為だと思っていないのだから。
流刑の地・オーストラリア
そして、主人公のクレア。
彼女は白人だけどアイルランドから来た囚人だ。この時代、本国イギリスなどでは囚人が多く、いわゆる島流しをして囚人をオーストラリア地方に送り込んでいたという。
臭いモノに蓋をする。なんとまぁ都合の良い時代だろう。
その1人がクレアで、彼女は貧困で盗みを働いていたときに捕まり、この地に流されたという。
そういう白人が何人もいて、どうやらこの世界では「イギリス人>囚人>アボリジニ」というヒエラルキーで成り立っているようだった。
刑務作業として、イギリス人将校への奉公という形で働いていたクレアだったけれど、自由の身にはなれないばかりか、夫の前でレイプされ、夫を殺され、赤ん坊の子どもまで殺される。
聞いただけで吐き気がする。実際に凄惨なシーンがあるわけではないけれど、胸くそ加減はすさまじい。
赤ん坊の泣き声が大きくなるにつれて目を背けた人も多いだろう。
ややこしき関係性
でも「ナイチンゲール」は一味違う。
どう考えても悲惨で同情の余地しかないクレアが、黒人を当たり前に差別するのだ。
夫と子供を殺されたこの女性に100%感情移入して、殺意を通じてクレアと通じ合いたいのにそうさせてはくれない。
だってクレアはシンプルにレイシストなのだから。
彼女もまた黒人をボーイと呼び、人食いと罵り、触られることすらも忌み嫌う。
それがこの映画のすごいところであり、価値観の違いの恐ろしさである。
誰か特定の人種に感情移入させず、そこにあるのは人間同士の憎悪だけがはびこる。
娘を殺した男にも母親がいて、黒人に食事を提供し、同じ食卓で差別なく老夫婦だって、入植者の1人なのだ。
差別が当たり前の世界に生まれ、そこで成長した人間たちが黒人を人間とも思わないのは、ある意味では仕方のないことなのかもしれない。
そんなクレアも、黒人のビリーと何日も共に行動することによって、自分との間に違いがないことを理解しはじめる。
祖国から離れた遠いタスマニアの地で孤独となったクレアは、ビリーの気持ちを理解して共感し、安心する。
他者に対して共感のない時代。そしてそれはまだまだ健在していて、今もどこかで暴動が起きている。
「Black Lives Matter」の意味が少しだけ分かった気がした。
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