ファーストラヴは2021年の映画。
北川景子扮する公認心理士が、父親を殺した女子大生の殺人動機に迫るミステリー。
「動機はそちらで見つけてください」という謎に満ち満ちた言葉がどんな展開がされるのかと期待感を高揚させるのに対して、最終的なオチはわりと平凡。
激しい展開があるわけでもなく、想像を超えるようなどんでん返しが待っているわけでもない。
過去のトラウマが、その後の人格形成にどのような影響を与えるのかを描いた作品は、犯罪性があるような悪意に満ち満ちたものでなくても時として大きな影響を与える。
ドラマとしてはなかなか有益だっただけにミステリーとしてのハードルを上げすぎてしまったことが残念だった。
ファーストラヴ
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「ファーストラヴ」映画情報
タイトル | ファーストラヴ |
公開年 | 2021.2.11 |
上映時間 | 119分 |
ジャンル | ミステリー |
監督 | 堤幸彦 |
映画「ファーストラヴ」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
真壁由紀 | 北川景子 |
庵野迦葉 | 中村倫也 |
聖山環菜 | 芳根京子 |
聖山那雄人 | 板尾創路 |
小泉裕二 | 石田法嗣 |
賀川洋一 | 清原翔 |
真壁早苗 | 高岡早紀 |
聖山昭菜 | 木村佳乃 |
真壁我聞 | 窪塚洋介 |
映画「ファーストラヴ」あらすじ
川沿いを血まみれで歩く女子大生が逮捕された。殺されたのは彼女の父親。 「動機はそちらで見つけてください。」 容疑者・聖山環菜の挑発的な言葉が世間を騒がせていた。 事件を取材する公認心理師・真壁由紀は、夫・真壁我聞の弟で弁護士の庵野迦葉とともに彼女の本当の動機を探るため、面会を重ねるー 二転三転する供述に翻弄され、真実が歪められる中で、由紀は環菜にどこか過去の自分と似た「何か」を感じ始めていた。 そして自分の過去を知る迦葉の存在と、環菜の過去に触れたことをきっかけに、由紀は心の奥底に隠したはずの「ある記憶」と向き合うことになるのだが…。
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映画「ファーストラヴ」ネタバレ考察・解説
ファーストラヴのタイトルの意味
ファーストラヴでは、タイトルにあるように初恋について描いた作品。
登場人物それぞれの初恋のことを描いていて、真壁由紀は迦葉に対して、聖山環奈はコンビニ店員の裕二だ。
他にも迦葉の初恋についても書かれているらしいが、映画では省略されている。
なぜ環奈は父親を殺したのか?
聖山環奈が父親を殺した理由は、ズバリ過失だった。
しかし、殺意そのものはなかったものの、刺してしまった時に救急車を呼んでなかったことから有罪の判決は免れない。
救急車を呼ぶことをしなかったのは、父親の呪縛から解放されるという安堵が頭によぎったからだ。
環奈は父親のデッサンに強制的に参加させられていた。男の裸体と一緒に複数の芸大生に囲まれながらモデルをさせられていたことがたまらなくイヤだった。
飲み会の席では男たちに関係を誘われたり、身体を触られることもあった。
そんな日々に激しいストレスを抱えていたのだが、父も母も助けてくれることはなかった。
誰も助けてくれない孤独がゆえに環奈は自傷行為を繰り返し、愛を求めて身体を委ねる。
好きな人が離れていくのが耐えられなくて、したくもない身体の関係を守ってでも繋ぎ止めようとする。
「ファーストラヴ」は、血のつながりのない父親が環奈にら対して手を出したとか、芸大生に強姦されたとか、ドラマあるあるのような胸くそ悪い展開はない。
だから冒頭のミステリー調の進め方からするとある意味肩すかしというかパンチが弱いような気もしてしまう。
けれどもこの話で言いたいのは、性的暴力でできたトラウマのことではない。
幼少期の子どもたちにとって本当に恐怖なのは、両親が味方だと感じることができないことなのだ。
自分の味方がどこにもいないという感覚を味わうことなのだ。
だからこの話にヘドが出るようなレイプも虐待も必要ない。
子どもの心を壊してトラウマを植えつけるのは、親の手にかかればかんたんなことなのだから。
だからこそ、ミステリー調に持っていきすぎたのは非常にもったいないと感じた。
もう少しドキュメンタリーのような描き方で、淡々と進めていった方がリアリティが増して、親による支配の恐怖が印象づけられたように思う。
少し感動話にしすぎたのも残念だった。
由紀のトラウマはなんだったのか?
由紀のトラウマは、父親が児童買春をやっていたことだ。
環奈と同様に由紀自身が父親になにかされたわけでもないし、迦葉との関係もそれほど珍しいことでもない。
胸くそ映画をたくさん見ている私からすると、それほど大きなことではないように見えてしまう。
だがしかし、こちらも環奈と同様に少しイメージを膨らませて考えるとリアリティのある恐怖が伝わるだろう。
父親に強姦なんていうのはどこか別の世界の出来事に感じる人が大半だ。
しかし、児童買春はなくても父親の性癖を想像しただけで不快感が込み上げてくる人は多いはず。
そんな父親が由紀を見る目に、何とも言いようもない気持ち悪さと恐怖を感じているのは現実と創作のギリギリの点をついていて上手いと感じた。
さらに母親は、そんな出来事を世間話のように語る。その価値観についていけない由紀は孤独感を味わっているのだ。
ここでも父と母が子どもの味方になっておらずにトラウマになっている。
その点で、由紀は環奈に対して通じるものを感じて、一生懸命に助けようとしているわけだ。
なぜ、ダッシュボードにわかりやすく写真を大量に入れておくのか謎すぎるのだけれど、トラウマを植え付けるのは非常に簡単なのだ。
由紀、迦葉、我聞の関係性は?
こちらも含みをもたせたわりにはそれほど大きな展開がなかった。
最初に名前を聞いたときから匂わせすぎていて、過去に交際関係があったんだろうと思ったらやっぱりあった。
由紀と迦葉は大学3年の頃に出会っていて、別れた後に我聞と由紀が付き合っている。
由紀は迦葉から我聞の写真ことを聞いていたため、兄だとわかって近づいた。
我聞の方はそれを知らずに交際をスタートさせている。
由紀の初恋と初体験は迦葉であるが、父親のことで男に対して不信感を持っていた由紀と母親の愛情を受けてこなかった迦葉の二人はうまくいかずに破局。
我聞のような男のイヤな部分を封じて父親の匂いは全くしない優しくて寛大な男に惹かれたのは必然だったのかもしれない。
我聞の裏の顔が暴かれるというどんでん返しがないかと頭をよぎりもしたけど、何も起こらなかったし、三角関係のようなことも特に起こらず。
窪塚洋介の狂気じみた演技を見たかったのも正直なところ。
優しくて懐の深い人物像はがいつ壊れるのかと思ったが、そのまま懐は深くて、素晴らしい人間だった。
映画「ファーストラヴ」ネタバレ感想
「ファーストラヴ」を支えた功労者は窪塚洋介と木村佳乃だ。
窪塚洋介は愛情深く、ただただ優しい人柄が滲み出ていたし、木村佳乃は毒親で、精神的に不安定な演技が非常に板についていた。
それに対してちょっとオーバーワーク気味な演出は気になった。
例えば由紀と迦葉のベッドシーンで失敗した後の由紀の一言。
何人もの女性を経験した迦葉と自分の父親を重ねてしまい、気持ち悪いものが込み上げて吐き捨てるような言い方をしたのはわからなくもない。
ただ、あの殺意のこもった言い方は少しおおげさに感じるし、男としての尊厳と母親を侮辱された言い方に怒りを感じたのはわかるが、首を絞めて殺そうとするというのは、ちょっと意味がわからない。
つい先ほどまで抱き合っていたとは思えない憎悪だ。
環奈の父親が娘を取り戻しにきたシーンも少し気になった。
父親に一緒の布団で寝ているところを見られ、男は布団から飛び出して震えて目も合わさないまま。
急に人が入ってきた驚きよりも前に、来ることがわかっていたと言わんばかりの動き方に何やら違和感を感じてしまった。
役者がどうのこうのというよりも演出の問題のように感じる。
それに、トラックで轢かれそうになるシーンは、必要だったのだろうか。
原作未読なのでわからないけれど、なにやら前時代な演出だし、父親のことを告白する上で必要だったようにも思えない。
全体的に劇画調の雰囲気は、やっぱり作品の持つ本来の良さを引き出し切れていなかったのではないだろうか。
映画「Red」の原作者は、劇画調なタイプの作家にも見えるが、派手で突飛なストーリーがウリではない。
地味だけど、人間の内面にフォーカスを当ててリアリティを感じるようなタイプの作家だ。
ミステリーとしての作品性よりも、人間の内面にフォーカスしていればもっと良い作品になったのではないだろうか。
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