映画「エリジウム」は、2013年の映画。
超富裕層と超貧困層に二分化された2159年。超富裕層は「エリジウム」というスペースコロニーで優雅な暮らしを営み、超貧困層は荒廃した地球で超富裕層のために働くディストピアSF。
超富裕層と超貧困層が地理的にも離れている世界観はおもしろい。
超富裕層にとっては安心・安全な世界だ。
そんなユートピアに暮らしている超富裕層なのに、そのバカすぎる行動は、たっぷりとした皮肉が込められていて、南アフリカに住むニール・プロンガンプ監督らしい映画だった。
でもちょっと物足りなさを感じる部分もあったので感想がてら紹介していく。
60点
「エリジウム」映画情報
タイトル | エリジウム |
公開年 | 2013.9.20 |
上映時間 | 109分 |
ジャンル | アクション、SF |
監督 | ニール・プロンカンプ |
「エリジウム」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
マックス・ダ・コスタ | マット・デイモン |
ジェシカ | ジョディ・フォスター |
M・クルーガー | シャールト・コプリー |
スパイダー | ヴァグネル・モウラ |
フレイ | アリシー・ブラガ |
フリオ | ディエゴ・ルナ |
ジョン・カーライル | ウィリアム・フィクナー |
映画「エリジウム」あらすじ
2154年、世界は完全に二分化されていた。ひと握りの富裕層が上空に浮かぶスペースコロニー「エリジウム」で極上の人生を謳歌する一方、人類の大多数は荒廃しきった地球で貧しい生活を強いられていた。スラムに暮らすマックス(マット・デイモン)は、ある日不慮の事故に遭い余命5日と宣告されてしまう。生き残るには医療ポッドのあるエリジウムに進入するしかない。レジスタンス軍に参加し、決死の覚悟でエリジウムへ挑む彼の前に、冷酷非情な女防衛長官デラコート(ジョディ・フォスター)が立ちはだかる…!
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映画「エリジウム」ネタバレ感想・解説
ディストピアとユートピアが二分する世界
超富裕層と、超貧困層という突出した隔たりは日本のような社会では想像つきにくいところもある。
スラム化した地球から富裕層はさっさと宇宙に逃げてコロニーを建設し、きれいな家と作られた美しい自然に囲まれて幸せそうな暮らしを満喫している。
そこには白人しかいなくて、有色人種は基本的に地球上に住んでいる。エリジウムは英語圏だけれど、地球ではスペイン語が結構使われているのも特徴。
一部の英語圏の人間かつ白人が牛耳る世界を超富裕層として描いておいて、そのわりに頭が悪い設定に皮肉が効いた映画だ。
地球にいる主人公のマットデイモンが白人なので人種問題を前面に押し出しているわけではないけれど、今日の世界のパワーバランスを見ている節はある。
ディストピアとなった地球では、富裕層の指揮のもとロボットを量産している。3Kの職場で働く貧困層は被爆の危険と隣り合わせで働き続ける。
現実の人類の未来は明るいのか暗いのか、ユートピアなのかディストピアなのかはまだ分からない。
けれども、少なくとも全ての人類がユートピアの世界に生きるという選択肢はなさそうだと、この映画を観ていると考えさせられる。
スペースコロニーの世界観は薄い
比喩的な要素として考えられる富裕層と貧困層の上下関係が、宇宙から見下ろすかたちで現実となる世界観はおもしろい。
だからこそ天上人のような立場の富裕層の出番はあまりなく、地球上でのいざこざに終始してしまったのはもったいなかった感はある。
地球上での危険人物を排除するために雇われたアウトロー同士の戦いは、アクションとしての迫力はあるけれど、もっとエリジウムの世界を観たかったし、そこに住む天上人の意識がどのようなものかも知りたかったというのが本音。
記憶を奪われたCEO、カーライルの態度からするに分かりやすい選民思想がある可能性は高いのだけれど、その描写は少ない。
どんな病気でも一瞬で治してしまう回復装置や、脳の記憶を奪い取る装置、神経と機械をつないで身体能力を上げる装置、小型通信機など、たくさんの魅力ある未来ガジェットが出てくるけれど、最先端と呼べるのはおそらくエリジウムの回復装置のみ。
その他は地球でも手に入るジャンク品のような代物なので、未来と言えど10年以上前のガジェットだろうしゴチャゴチャしている。
ときおり出てくるエリジウムの白を基調としたスッキリとした美しさと、洗練されたアイテムたちをもっと知りたかった。
監督のニールプロンガンプは、「第9地区」「チャッピー」のようにITというより機械、電気といいうより油というような泥にまみれたSFの世界が好きっぽいのは確かだ。
南アフリカという地で多くのスラムを見てきた監督が、多くの影響を受けている部分なのだろう。
頭の悪いエリジウムの住人
それにしても富裕層は頭が悪い。
攻撃能力を持っていない難民宇宙船の侵入も防げないし、ちょっと攻め込まれただけでパニックを起こして逃げまどう。
今の地球の紛争のようにまだ地続きなら分かるけど、地の利どころか宇宙を隔てて離れているのだから地政学的リスクとやらもかなり低いはず。
困ったら地球にいる「ならず者のヤベー奴」に頼るし、そんな危ない奴にSPもつけずに近づいて首を切られるというのはどれだけ危機感がないのだろう。
平和ボケしてるにしても、冒頭シーンのように難民船がエリジウムへの侵入を繰り返しているはず。密入国できるような場所でもないのだから、地球から撃ってないでエリジウムから攻撃を仕掛ければいいのでは?
CEOが地球からエリジウムへ帰還するときもかんたんに地上から狙われてしまう。襲われる危険性は考えられていないのか?
この映画の中でエリジウムにいる人たちは何もしてない。
ここまで無能だとエリジウムなる人類最高の叡智がつまったコロニーを、なぜ作ることができたのかも疑問が残る。
これは脚本が稚拙というよりは、社会風刺も含めてあえてそういう設定にしたのだろう。
富裕層をここまで滑稽にこき下ろした作品としてはなかなか秀逸だった。
脳の情報を抜き取られないようにするための自己防衛だけが唯一まとも策だったけれど、天上人がバカなおかげでフレイの娘の白血病は治ったし、これでよかったのだ。
少し物足りなさはあるけれど、100分程度でアクションも充実していて、世界観も魅力的なので観て損することはないだろう。
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