「ダーク・ウォーターズ」は2021年の映画。
PFOAという発がん性物質を河川に何十年も垂れ流していた企業を相手に戦うひとりの弁護士の話。
テフロンやフッ素加工という言葉を一度ぐらいは聞いたことがあると思うが、それに使われている化学物質の中に有害なものがあるという衝撃の実話。
そしてこの問題が正式に法で禁止されたのは2021年という事実。
今もなお身近に存在する問題を認識するために、大いに社会的意義のある映画だ。
一方で、映画としての盛り上がりには欠ける。淡々と訴訟が進むだけ。実話ベースなので仕方のないところもあるが、それにしても演出不足が否めない。
また、ある程度事前知識があった方がおもしろい類のドラマなので、鑑賞前に知識をつけておくことをおすすめする。
あと、アン・ハサウェイは相変わらず美しい。
ダーク・ウォーターズ
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「ダーク・ウォーターズ」映画情報
タイトル | ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男 |
公開年 | 2021.12.17 |
上映時間 | 126分 |
ジャンル | ヒューマンドラマ |
監督 | トッド・ヘインズ |
映画「ダーク・ウォーターズ」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
ロブ・ビロット | マーク・ラファロ |
サラ・ビロット | アン・ハサウェイ |
トム・タープ | ティム・ロビンス |
ウィルバー・テナント | ビル・キャンプ |
フィル・ドネリー | ヴィクター・ガーバー |
ハリー・ディーツラー | ビル・ブルマン |
映画「ダーク・ウォーターズ」あらすじ
1998年、オハイオ州の名門法律事務所で働く企業弁護士ロブ・ビロットが、思いがけない調査依頼を受ける。ウェストバージニア州パーカーズバーグで農場を営むウィルバー・テナントは、大手化学メーカー、デュポン社の工場からの廃棄物によって土地を汚され、190頭もの牛を病死させられたというのだ。さしたる確信もなく、廃棄物に関する資料開示を裁判所に求めたロブは、“PFOA”という謎めいたワードを調べたことをきっかけに、事態の深刻さに気づき始める。デュポンは発ガン性のある有害物質の危険性を40年間も隠蔽し、その物質を大気中や土壌に垂れ流してきたのだ。やがてロブは7万人の住民を原告団とする一大集団訴訟に踏みきる。しかし強大な権力と資金力を誇る巨大企業との法廷闘争は、真実を追い求めるロブを窮地に陥れていくのだった……。
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映画「ダーク・ウォーターズ」ネタバレ感想・解説
「ダークウォーターズ」は実話なのか?
冒頭に伝えた通り、「ダークウォータズ」は実話に基づく話。
アメリカの化学会社大手のデュポン社が、有害な化学物質(PFOA)を河川に流出させたことで付近の住民が健康被害を受けた。
社会問題になり、集団訴訟に発展した事件だ。
主演のロブ・ビロットは実在する人物だし、映画の中で登場する目に先天性障害のあるバッキー・バリーという人物は本人役で出演している。
他にも原告代表のジョー・カイガーなども本人が主演していて、訴訟を行なったことで付近の住民から嫌がらせを受けていた行為も実際にあったことなのだろう。
本人を登場させることで、正義を前面に出したフェイクショーではなく、現実に起こっているリアルな問題として印象づける。
実際に3,000件以上の訴訟が発生しており、デュポン社は和解金として数百億円の支払いを命じられているのは、主演のロブによる働きが大きい。
しかし、恐ろしいのはこの有毒性を知りながらも製造を続けていたことで、それほど昔の話ではないという事実だ。
PFOAとは
PFOA(ピーフォア)とは、有害なフッ素化合物のこと。映画の中でも出てきたようにPFOSという似たような化学物質も存在し、これらは決して自然界に分解されないため、「フォーエバーケミカル」と呼ばれている。
生物の体内に蓄積されることで、
- 発がん性を高める
- 胎児への悪影響
- 呼吸器系の病気
など、他にも多数の危険が潜んでいる。
その化学物質を使っていたのがテフロン社ほか化学企業。テフロンはフッ素樹脂で、1938年にデュポン社のプランケット博士によって開発された化学物質のことだ。
元々は戦車の防水性を上げるために軍事目的で利用していたが、戦後には家庭のフライパンにも応用された。
フッ素加工とかテフロン加工とか聞いたことがあるだろう。
フッ素加工したフライパンは焦げつきにくく洗いやすい。それに耐熱性もある。
非粘着性も持っているため、調理後も水を使ってかんたんに洗い流せる。
その利便性から爆発的に普及しているし、調理器具だけでなく、半導体や自動車部品など、現代社会に深く根ざしている。
もはや人類にはなくてはならないものになっているが、だからこそ問題が長引いている。
映画の中で専門家が話していたように、類似の化学物質にPFOSというものも存在し、こちらは2009年には規制の対象となっている。
しかしPFOAの問題はもっと長い。
2000年初頭にこの問題が明るみになってからPFOAを自主的に使用廃止したのが2015年から、そして国際的に禁止する条約を締結したのが2019年、日本で施行されたのはなんと2021年10月からなのだ。
日本でも2018年に沖縄県の河川からPFOAが高濃度発見されていて、決して他国の出来事ではないことを知っておいた方が良いだろう。
ただし、誤解してはいけないのはフッ素=PFOAではないということ。PFOAというのはフッ素加工時に使用する物質であり、フッ素=毒という認識は間違っている。
また、2021年を待たずして国内のフッ素樹脂メーカーではPFOAを自主的に使用しない動きも出ているので、「フッ素加工のフライパンを使っている!捨てないと!」というわけではない。
正しく恐れることを心がけよう。
「ダークウォーターズ」はストーリーが地味
「ダークウォーターズ」のケースは、河川に流れ出てしまった汚染水を住民が飲料水として常用してしまっていた点にある。
そしてこのことをデュポン社は1962年には知っていたのである。にも関わらずテフロン加工を施したフライパンを何の警告もせずに世に送り出した。
さらに、胎児が奇形で生まれてくる可能性があることを知ったデュポン社は、テフロンのライン工として働いていた女性を何の理由も説明せずに外した。
その犠牲者のひとりがバッキー・バリーである。
PFOAは、人体にはっきりと有害であると分かったが、少量飲んだだけで即死するような劇薬ではない。
含有量は少ないのですぐに効果は出ないものの、時間をかけてじわりじわりと毒素を残していくものだ。
だからこそ有害認定されるまでに長い時間がかかったし、人々が気づくまでには恐ろしい時間が経過しているというわけだ。
ロブが事実を知り始めた時「もし、PFOAを飲んだら?」という質問に対する答えに専門家はありえないという回答を返す。
「お前はタイヤを食べると言っているようなものだ」と。
その危険性は子どもでもわかるだろう。
隠蔽せずにすぐに問題を明るみに出していれば被害は最小限に済んだはずだが、そうしなかったおかげで映画が作られるまでになっているというわけだ。
そういう意味で、この問題を映画として取り上げることには大変意味がある。
テフロン、フッ素化合物による利便性とその取り扱いの危険性は自己防衛のため身につけておくにはちょうどいい。
しかし、映画としての出来栄えはイマイチだというのが正直なところ。
企業の陰謀・隠蔽をテーマにした映画としては地味なのだ。
演者にPFOAの被害を受けた実在する人物を出演させたのは良かった。
この悲劇を対岸の火事として見るのではなく、リアルな現実として認識しやすいからだ。
過去の怖い出来事ではなく、すぐそばにある危険として認識できた。
しかし、他の演出は総じて悪い。
PFOAという化学物質による問題が発覚するまでは、牛の突然死や住民の健康被害などのスリラー要素を絡めてきたが、集団訴訟が発生してからは大きなドラマもない。
あくまで事実に基づいたストーリーの中での出来事なので、ちょっとした事件は起こるが、暗殺だの、露骨な隠蔽工作などがあるわけでもない。
巨大な陰謀が渦巻く事件を相手に孤独に戦い続けたロブの当時の焦りや恐怖は相当なものだっただろう。
その過剰なストレスは一度倒れていることからもわかるように尋常ではない負荷がかかっていたはずだ。その勇気を褒め称えたいとともに心中お察しするが、とはいえ劇的な何かが起きたわけではない。
不利な状況から一転する展開があるわけでもなく長い間の労力が10年以上かけて身を結んだという結果だ。それをたった2時間程度の映画の中で共感させるには、観客側がかける時間も少なすぎる。
年を経るにつれてなぜかだんだんと若返っていくアン・ハサウェイの美しさは堪能できたが、他の登場人物はほとんど初老なので画面に華も少ない。
退屈な映画という感想になってしまったのは、問題提起の内容の重要性を考えると非常にもったいない映画だ。
ケミカルな人工物は人類に多大な恩恵を与えているのと同時に、多大な被害を与えうる存在でもあるのだということは知っておきたい。
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