「誰も知らない」は、万引き家族の是枝裕和監督作品だ。
2004年に公開され、主演の柳楽優弥はカンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞した。
母親からネグレクトされ、子どもたちだけで生きていくという本作品は、万引き家族とはまた違う家族のあり方を見せてくれる。
万引き家族がネグレクトしている親から離れた子どもたちとすれば、こちらはネグレクトされている子どもたち生き方だ。
あらすじをふくめてネタバレ感想をしていく。
誰も知らない キャスト
- 福島明・・・柳楽優弥
- 福島けい子・YOU
- 福島京子・・北浦愛
- 福島ゆき・・清水萌々子
- 福島茂・・・木村飛影
- 水口紗季・・韓英恵
- コンビニ店員・・加瀬亮
- コンビニ店員・・タテタカコ
- 杉原・・・木村祐一
- 京橋・・・遠藤憲一
- 少年野球の監督・・寺島進
誰も知らない ネタバレあらすじ
兄弟の引越し
ある日、古びたアパートに2人の母子が越してきた。
名を福島京子と言い、息子の明は小学6年生だ。
大家に挨拶すると、このアパートでは小さな子どもを歓迎していないが、分別のつく小学6年生なら問題ないと安堵される。
引越しがはじまり、家財を運び入れる。
大きなスーツケースを2つ慎重に運びいれる。
下に置いた際、うめき声が漏れる。
そこから出てきたのは2人の幼い子どもだった。
夜、明は、駅で待つもう1人の少女を迎え、
- 総勢5人の家族がアパートに揃った。
皆家族であり、大家に見つからないように忍び込んだのだった。
家族でカップ麺で引っ越し蕎麦を食べ、母親も楽しそうに子供と会話し、
- お金はないが幸せ
そうに笑顔を見せていた。
帰らない母親
一見幸せそうに見える家族だが、どこかおかしかった。
明と次女のゆきは小学生にもかかわらず学校に行っていない。
- 家から出てはいけない
普通ではありえないルールが福島家にはあった。
そして母親。子どもを愛しているように見えて責任感はまるでなく、明に好きな人ができたと告げながら夜遊びをする。
ある日の朝、眠りにつく母親から涙がつたうのを明は見る。
夜、遅くに帰宅したけい子は、寝ている子どもたちを無理やり起こし、お土産の寿司を食べる。
次の日の朝、書き置きだけ残して家に帰らなくなった。
その間、留守番を任された明は、自分が遊ぶのを我慢して兄妹の面倒を見る。
少しばかりのお金を置いていく母親だが、1ヵ月も帰らないためお金に困り、父親に会いにいく。
最初はゆきの父親のタクシー運転手、次に茂の父親であるパチンコ店員。
どちらも父親としての責任を果たさず、手にしたのは
- 5,000円
ばかりのお金だった。
この兄妹は血の繋がりが曖昧で、少なくとも3人以上の父親がいた。
いなくなる前に、そのことを母親は隠すそぶりもなく子どもたちに話していた。
捨てられる子ども
数ヶ月ぶりに母親が帰ってきた。
しかし、またすぐにいなくなる。
「クリスマスには帰ってくるから」と言い残した。
明は母親に彼氏がいることを知っているため、問いただすと
- お母さんは幸せになっちゃいけないの?
と言い、また出ていく。そして年を越しても帰ってこなかった。
最初は一生懸命にめんどうを見ていた明だが、自分が遊びたい気持ちを抑えられなくなる。
そこで見つけた悪友に誘われて家にも入り浸るようになる。
妹、弟よりも友だちを優先しようとする。
ある日、悪友は万引き行為をする。
- 万引き行為を明にも強要するが、明は行わなかった。
それをきっかけに悪友も離れていった。
だんだんとお金が底をつき、コンビニ店員に廃棄食品を譲ってもらうようになる。
そんなとき、高校生の紗季と出会う。
紗季は学校でいじめをうけ、その現場を明はみかけたこともあった。
紗季は妹や弟とも打ち解けて、家に遊びに来るようになった。
紗季は明たちがお金に困っていることを助けようと援助交際に手を染める。
- しかし、明は受け取らなかった。
電気は止められ、水もガスも止められて、近くの公園で水や用を足すようになる。
春になり、明は中学生になる。
しかし、彼は学校に行くことはなかった。
死、そして生へ
明が同じ年代の子たちが野球をするのを見ていたところ、ちょうど欠員が出て、困った監督が明に声をかける。
明はずっと欲しいと思っていたが買えなかったグローブをはめて始めて野球をする。
学校生活を経験していない明にはそれがとても新鮮な経験で、ひさびさに笑みを見せるのだった。
- 家に帰ると一番年下のゆきが動かなくなっていた。
高いところのモノをとろうとして椅子から落ちて頭をうったのだ。
親がおらず、救急車を呼べない明は急いで薬局に行くがお金もない、
そこで初めて、どんなにお金がなくて食べるものにも困っていたがやらなかった
- 万引きに手を染める
しかし、ゆきは助からなかった。
明は紗季にお金を借りて、いつか一緒に行こうと言っていた空港にゆきを連れ、飛行機が見える場所にゆきを埋める。
- 母親からお金が届いた。
のんきなメッセージとともに。
明たちは今日も廃棄食品をもらいながら生きていく。
家族がバラバラにならないために、この事実は誰も知らないように生きていく。
誰も知らない ネタバレ感想と考察
なぜ明は犯罪を犯さないのか
明はお金に困っていた。
しかし、それを理由に万引き行為を行うことはなかった。
母親に捨てられたという事実が、犯罪行為に手を染める1つの理由になることもあるはずだ。
自分が友だちと遊びたいという気持ちを抑えきれず、家族を放って遊びにいってしまうこともあった。
しかし、彼はゆりを助けなければならないという状況になるまで犯罪を犯さなかった。
万引きもしないし、紗季が援助交際で作ったお金にさえ手をつけなかった。
明はなぜ、正しい人格を持ち合わせていたのだろうか。
考えうるに母親からきちんとしたしつけと愛情を受けていたからではないだろうか。
12歳までの明と母親の関係は分からない。
ただ、母親と子供たちの暮らしぶりは貧乏だけれど幸せそうではあった。
学校には行けない、外には出られないなどの異常な状態ではあるが、子どもにとっては今いる世界が全てだから。
帰らなくなるまでは、ネグレクトするわけではなさそうだった。もちろん虐待するわけでもない。
- 一定の愛情を注いでいたと思われる。
その行為は前半のシーンにも見てとれる。
問題は、母親が
- 恋愛にだらしなく
- 母親としての責任感が欠如
していたため、このような悲劇が起こったといえよう。
これらのことから、明も犯罪には手を染めるようなことをしない立派な人間に育っていたのだろう。
誰も知らないの結末はハッピーエンドなのか
ゆきは亡くなってしまった。
その1点においてはバッドエンドだ。
しかし、明たちは妹、弟と一緒に暮らしている。
いつしか、明が言っていた。
- このことがばれると家族が離されてしまう
これをバッドエンドとするとすれば、
いつもと変わらず、コンビニの廃棄食品をもらいながら、万引きに手を染めることもなく生きていく結末は、
- 家族と一緒に暮らしている
という1点のみではハッピーエンドなのかもしれない。
今いる境遇と照らし合わせるとハッピーエンドとは到底呼べるものではないが、幸せという基準は人それぞれであり、周囲の環境や境遇によって変わっていく。
お金があっても幸せとは限らないし、お金がなくても幸せとは限らない。
母親がいても幸せとは限らないし、いなくても不幸とは限らないのだ。
映画のモチーフとなった事件はあるが、是枝裕和監督はあくまで「家族の絆」を主題に書いているため、重く苦しいテーマだが、BGMの使い方や演出方法に配慮もあり、凄惨な雰囲気にはなっていないことも評価できる点であった。
「誰も知らない」はプライムビデオでも見られる
「誰も知らない」は、プライムビデオで視聴できます。