「ベルファスト」は2022年の北アイルランドが舞台の映画。
俳優兼監督のケネス・ブラナーが生まれ育ったベルファストでの幼少期の経験をもとに描いた自伝的作品。1969年から30年以上にわたり続いた異なるキリスト教宗派による北アイルランド紛争を9歳の少年目線で描く。
ほとんど全てのシーンがモノクロで描かれることで、ノスタルジーを感じられる構図となっている。少年の視点に徹したことで、世界で何が起こっているのかがあいまいにぼやけている作りはさすが。
ほんの少し前まで仲が良かった家族はいなくなり、街の人の怒りや母親の泣く姿に、子供ながらに不安や焦燥感を覚えたのだろうということがありありと浮かぶ。
北アイルランド紛争を知らなければしらないほど、大人の身勝手な紛争に巻き込まれたバディの気持ちがわかるだろう。
一方で、子どもメインの視点で描かれるために、歴史的背景を知らない人は話についていけない部分も。モノクロの景色が眠たさを助長させる可能性があるので、もしまだ見ていないなら最低限の知識をつけてから見ることをおすすめする。
「ベルファスト」
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「ベルファスト」映画情報
タイトル | ベルファスト |
公開年 | 2022.3.25 |
上映時間 | 98分 |
ジャンル | ヒューマンドラマ |
監督 | ケネス・ブラナー |
映画「ベルファスト」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
母 | カトリーナ・バルフ |
祖母 | ジュディ・デンチ |
父 | ジェイミー・ドーナン |
祖父 | キアラン・ハインズ |
コリン・モーガン | |
バディ | ジュード・ヒル |
映画「ベルファスト」あらすじ
ベルファストで生まれ育ったバディ(ジュード・ヒル)は家族と友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、充実 した毎日を過ごす9歳の少年。笑顔にあふれ、たくさんの愛に包まれる日常は彼にとって完璧な世界だっ た。しかし、1969年8月15日、バディの穏やかな世界は突然の暴動により悪夢へと変わってしまう。プ ロテスタントの武装集団が、街のカトリック住民への攻撃を始めたのだ。住民すべてが顔なじみで、まるで 一つの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断されていく。暴力と隣り合わせの日々のなか、 バディと家族たちは故郷を離れるか否かの決断に迫られる――。
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映画「ベルファスト」ネタバレ感想・解説
イギリスとアイルランドの関係
(C)2021 Focus Features, LLC.
「ベルファスト」の舞台は北アイルランドにある最大の都市ベルファストでの。イギリスの連合国である北アイルランドでの紛争を描いている。
実はイギリスとは、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドで構成される連合国であり、1つの国ではない。
イギリスという言葉自体が世界では通じない。これは、ポルトガル語でイングランドをさす言葉”イングレス”が日本語なまりになった言葉。正式名称は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」という非常に長ったらしい名前である。
“および”とされているように、北アイルランドは、イングランドがあるグレートブリテン島ではなく隣に位置するアイルランド島の北部にある地方を指す。
アイルランド島は、アイルランドと北アイルランドに分けられている。ちなみに映画「シング・ストリート」の舞台はダブリンなので、こちらはイギリスではなくアイルランド王国が舞台だ。
主人公のコナーは海を渡ってイギリスに向かったけど、北アイルランドにいけばイギリス領には入ることになる。
もともとイギリスがアイルランド島を統治していたが、1920年にアイルランドが独立。そのときにアイルランドを北と南に分けたため、いまのようないびつな国家を形成することになっている。
プロテスタントとカトリックの違い
(C)2021 Focus Features, LLC.
「ベルファスト」では冒頭でいきなり暴徒化した人々が襲ってくる。
子どもにとっては何のことだかわからないだろうが、キリスト教の宗派の違いによる争いだ。
日本ではキリスト教としてひとくくりにしてしまいがちだが、キリスト教は世界中で信仰される宗教の1つだということもあり、実にたくさんの宗派が存在する。
代表される派閥がカトリックとプロテスタントだ。16世紀、腐敗していたカトリックに嫌気がさしたルターが宗教改革によってカトリックからプロテスタントを生み出したのがきっかけだ。
それ以外にももっと昔にローマ時代にカトリック系の西方教会(カトリックとプロテスタント)と東方教会(現 正教会)に分かれていて、主にこの3つがキリスト教の最大宗派となっている。
その宗派が対立し、30年続く紛争となったきっかけを描いたのが「ベルファスト」である。
また、ローマ教皇というのはカトリックのトップであり、プロテスタントからすると特別な存在ではない。これもルターが階級社会となっていたカトリックから脱却したため、神の前では皆平等という精神に基づいているためだ。
プロテスタントは神様が一番上にいるだけで、人間を崇めることはしない。同じ理由でイエスキリストを産んだ聖母マリアも、プロテスタントからすると神聖視されているわけではない。
また、聖職者の呼び名もカトリックでは「神父」「司祭」と呼ぶのに対して、プロテスタントは「牧師」と呼ぶ。
ステンドグラスを多用し、外観がゴージャスな教会はカトリックで、質素ならプロテスタントとなる。見分け方として覚えておくと今後の映画の中でもどちらの宗派かわかるようになるだろう。
そして今回映画の冒頭で暴徒化したのがプロテスタントだ。
そして、主人公のバディはプロテスタントの立場にいるので、露骨な暴力にさらされているわけではない。だから知らない人にとっては紛争の苦しみや恐怖が伝わりにくい。
だからこそ知らない人にはバディと同じで何が起きているのかよくわからないことだろう。
参考:https://diamond.jp/articles/-/245156
北アイルランド紛争とは
(C)2021 Focus Features, LLC.
映画の中で「北アイルランド紛争」についての説明はほとんどない。
あくまで9歳の男の子の目線で物語が進むからだ。バディは、時折流れてくるニュースや人々の争い声、昨日まで仲が良かった人たちがいなくなり、母親が泣いている姿に子どもながらに不安や恐怖を感じている。
先に書いたように北アイルランドで対立したのは、宗教の宗派の違いによるもの。北アイルランドにはイングランドやスコットランドからのプロテスタント移民が多いため、イギリスから独立するよりも併合されたままでいることを望んでいる人の方が多かった。
独立をのぞむ少数派のカトリック系住民と連合をのぞむプロテスタント系の住民の対立からはじまったのが北アイルランド紛争である。
映画は1969年であるが、それから30年後の1998年までこの紛争は続く。プロテスタントの方がマジョリティではあるがあくまで3分の2。
「ベルファスト」の中ではカトリック教徒への一方的な攻撃が描かれがちだが、カトリックが極少数というわけではないので、非常に長い紛争が続いたのだ。
映画の中で作られたバリケードや分断する壁は今もなお残っている。また、たまにイギリスでのテロ行為で名前があがるIRAというのはカトリックの武装組織である。
バディの両親はプロテスタントだったが、ベルファストでの紛争を忌み嫌ったように、宗派が違うからといって考え方は千差万別だ。
映画の中ではさまざまな人々の想いや怒りが交差する。
子どもを守るため故郷を離れる決意をするバディの両親、ずっと育ってきた町を今更離れる選択肢のない祖父と祖母。
強硬派のプロテスタントとして迫害行為に加わる人たちや、それを取り押さえる警察。
いとこや友達、近所の仲良い人や祖父、祖母から離れることの不安に苦しむバディを主軸に、紛争の辛さを表現する。
しかし、歴史的背景をあまり把握しないで見てしまった私にとっては少し退屈だったのは正直なところ。
「ベルファスト」はあくまで子どもの視点からしか描かれないので、実際にどのような紛争があったかについては、時折テレビから流れるニュースや、大人たちの話に聞き耳を立てるしかわからない。
モノクロ映像が話のわかりにくさに拍車をかけて睡魔を助長する。
しかし、子供がどのようにして物事を見ているのかという意味で興味深い。知識を入れてから改めてじっくりと見ると楽しめる一作だ。
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