「恋のいばら」は2023年に公開された城定秀夫監督による映画。
「アルプススタンドのはしの方」の城定監督が描く一風変わった恋愛映画。
元カノと今カノがひょんなことから出会い、彼氏に対する不信感に意気投合し、共犯関係になっていくという三角関係のようなそうでない話。
嫉妬や妬み、羨望から猜疑心まで、恋愛におけるあらゆる人間の感情を取り込み、人間のありのままを描く。
だんだんと真実に近づくにつれて物語の世界が深まっていくため、大きな盛り上がりどころがあるわけではないものの、楽しめる作品。
ドロドロしそうなストーリーだが、カラッと見やすい作品になっているのは、男女関係における愛憎を対立させないようにテイストを軽めにしているからだ。
誰かを完全悪に仕立て上げることなく、善と悪が入り混じった人間模様は、キャラクターをステレオタイプに固定せず、ありのままに表現したからである。
「恋人同士では観ないでください」なんていうキャッチコピーになっているが、このテイストなら観ても問題はないと感じた。
アートのように美しく撮られていて、演じる3人の男女も素のまま演じているため、嫌悪感を抱くほどにはならない。異性に対して変な偏見を植えつけられることもなく、むしろ、付き合いたてのカップルなら観た方が良いとさえ言える。
もちろん、すでにリベンジポルノになりうる素材を相手がすでに持っている場合を除けばであるが。
ここでは、あらすじから桃が莉子にキスをした理由、この映画の持つテーマについてを徹底的に解説していく。
恋のいばら
(2023)
3.0点
恋愛
城定秀夫
松本穂香、玉城ティナ
- 元カノと今カノが協力して彼氏の写真データを取り返す
- 嫉妬・妬み、羨望・猜疑心など人間のあらゆる業を描く
- ドロドロしそうなストーリーだが、テイストは軽くて観やすい
- 付き合いたての恋人同士が観るべき映画
定額で映画をレンタルするならゲオ
「ゲオ宅配レンタル」は無料トライアルに登録すると特典が2つ!
- VODよりも安く借りられる
- 家にいながらレンタル、返却はポストに入れるだけ
- 月額プランなら返却期限なし!
- 月額プランなら送料・延滞料金¥0
\ 35万本のDVDが見放題! /
映画「恋のいばら」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
桃 | 松本穂香 |
莉子 | 玉城ティナ |
健太朗 | 渡邉圭佑 |
映画「恋のいばら」ネタバレ考察・解説
「恋のいばら」は香港映画のリメイク
(C)2023「恋のいばら」製作委員会
「恋のいばら」は、パン・ホーチョン監督の2004年の香港映画「ビヨンド・アワ・ケン」をリメイクした作品。
ストーリーの流れは原作と基本的に同じ。
莉子と健太郎は恋愛関係に有り、2人は良い関係が続いていたが、「リベンジポルノをされた可能性がある」と元カノの桃が莉子の元を訪れるところから物語が動いていく。
桃は健太朗にフラれていたのだが、別れた理由もよく分からないという。
恋のジャマをしにやってきたのかというとそうでもなさそうで、莉子に対して嫌悪感を抱いている風でもない。
近づいた理由は、付き合っていた頃に撮られたイヤらしい写真を取り返したいというシンプルなものだった。
最初は、完全拒否していた莉子だったが「あなたも写真を撮られたことないの?」という一言で頭の中に疑念がよぎる。
その時脳裏に浮かんだのは、寝ている時に写真を撮っていた健太朗の姿だった。
疑心暗鬼になった莉子は、桃の提案にのり、健太朗の家に忍び込むための画策していくというのがあらすじ。
桃と莉子は元カノでも今カノでもない
(C)2023「恋のいばら」製作委員会
桃は合鍵を持っていたため、夜、健太朗がいないときを見計らって忍び込もうとした。莉子は合鍵は持っていなかった。「一年以上付き合っていたから」という桃に対して莉子は劣等感のようなものを感じていた。
しかし、すでに鍵が取り替えられていたようで入れない。そこで2人は健太朗の目を盗んだすきに合鍵を作り、ついに侵入に成功する。
そこで大量の女性の写真を発見する。健太朗はクロだった。2人以外にも多くの女性を写真に収めていた。
リベンジポルノ云々の前に他の女性に手を出していたことがわかり、莉子の気持ちは完全に冷めていく。
実は、桃と莉子の付き合っていた時期も被っていた。健太朗からすると、「付き合って」「はい」というやりとりがなかったため、2人は恋人関係にはなかったと言う主張であるが、女側からしたらそんな道理は通らない。
また、桃は合鍵をもらっていたのではなく、勝手に合鍵を作っていた。
その鍵を使って健太朗の元を訪れたとき、すでに莉子は健太朗と恋人関係にあった。
莉子はベッドの下に隠れていたせいで2人は鉢合うことなく、お互い顔は確認できなかったが、桃に出会ってからあの時の女性が桃だったと気づく。
桃は健太朗にキスをしていた。
気持ちが完全に冷めた莉子だったが、そのときの屈辱がよみがえり、とある行動に出る。
忍び込んでいる最中に健太朗が不意に帰ってきたとき、莉子は隠れるのではなく、サプライズと称して健太朗を出迎える。
そして今度は隠れている桃に行為をしている状況を見せつけるのだ。それは、桃への復讐心からであった。
そのとき桃が渡した写真集は、健太朗が図書館で探していた本。桃と出会うきっかけにもなった本だった。その後、冒頭の話に戻るが、大事にしまわれた本を捨て、莉子は代わりに自分が用意した本と差し替えている。
しかし、すでに莉子は桃に対して仲間意識を感じており、それほど敵対心を持っていなかった。行為に及んだあとの感情は空虚なものだった。
感情をむき出しにした後の彼女たちは、より仲間意識を強めていく。
キスシーンの意味
(C)2023「恋のいばら」製作委員会
健太朗の家でふいに桃が莉子にキスをするシーンがある。唐突な百合映画に見えるが、これには意味がある。
桃が冒頭に読み上げていたのはいばら姫というグリム童話。13人の魔法使いの女たちがいたにも関わらず、宴に出す皿が12枚しかないことに腹を立てた魔法使いが王国の娘を100年の眠りにかけてしまう話。
桃にとってのいばら姫は莉子として描かれる。健太朗の今カノである莉子の存在を知り、そこに自分のなりたかった姿を重ねる。
いばらのようにどれだけ切ってもうまく進めないことを恋愛に例え、それでももがき続けた頃に莉子に出会った。彼女の美しさは、桃にとってのお姫様だったのだ。
「いばら姫」ではキスして目を覚ます描写はないが、「いばら姫」はディズニー映画の「眠れる森の美女」の原題にあたる。眠れる森の美女では、王子様のキスによって姫は目を覚ましている。
莉子を100年の眠りから目を覚まさせたかった。憧れの女性がクズ男にもてあそばれるままの存在でいて欲しくなかった。真実を知り、目を覚ましてほしいという意味でキスを演出している。
これは恋愛感情というよりも、憧れに近いものだった。桃は莉子のように強くかっこいい女性になりたかったから。
「恋のいばら」の結末
(C)2023「恋のいばら」製作委員会
桃と莉子は健太朗の部屋をぐちゃぐちゃにして去っていった。元カノと今カノの間には信頼関係が築かれていた。
帰ってきた健太朗が莉子に問いただすと「私たちって付き合ってないでしょ?」とやり返すのがスカッとポイントである。
しかし、今回の話では明らかに男性側に問題はあるものの、男性が悪・女性が善と明確に区切られていない。
男は自分の欲望を満たすために女性の写真を撮る。それは絶対に見られたくない姿であっても、言葉巧みに誘導する。その反面、他人がそれを強要するときは女性の味方に代わる。
「付き合おう」と言うことなく既成事実を作り、なし崩し的に女性を利用しようとする様は、なかなかのクズっぷりではあるけれど、彼は罪悪感もなく素で行動している。
そうかと思えば、痴呆が少し入りつつある祖母と暮らす姿には、優しさも垣間見える。
他人との距離感が分からず、勝手に合鍵を作ってしまう桃は、フラれた原因すらわかっていなかった。「付き合っているから勝手に家に入るのも問題ない。」という桃の考え方は、世の男の大半が受け入れられないだろう。
そもそも健太朗からしたら付き合ってないわけだけれど、問題はそこではない。しかし、桃もまた悪気なく素で行動する。
莉子はクールな外観で強そうに見えるが、内面は心配性で占いにも頼る弱い一面を持っている。健太朗が他の女性と仲良くしていても「私が一番ならそれでいい」と強がるが、それは本心ではない。
これが人間の有り様だと城定監督は語る。3人は祖母に対する態度を見るに、本質的には良い人たちだ。人に優しくできる3人の姿を見ていると不思議と憎みきれないナニかがこみあげてくる。
良いところと悪いところがあるのが人間で、観客がそれぞれの人となりを知っていくと、憎みきれない部分があらわれる。
スカッとさせるような描写も薄く、恋愛における人間たちの悲喜交々をありのままに表現した本作は、物足りないといえばそうだけれど、嫌な気持ちにさせない優しい映画だった。
コメント