アンテベルムは2021年の映画。
奴隷制度を舞台にしたスリラームービー。
戦前と現代を交差させ、タイムパラドックス的に進んでいく。
アンテベルムというタイトルの意味は「戦前」を指しているのだけれど、アメリカでいうと南北戦争の前のことを指している。
物語の始まりは奴隷として送られてきた黒人たちの苦しくも虐げられた日々を描き出す。
その非人道的な行いを見た後に、途中から場面が変わり、現代へ。21世紀の黒人の生活を対比させるように進行させる。
130年前と現代の違いを、不気味なスリラーに仕立て上げた様は圧巻。
ジョーダンピールが作り上げた新ジャンル、黒人差別を皮肉に扱う映画の1つである。
遠い国の昔話にしか感じられなかった物語が、ものすごく身近に感じられるだろう。
アンテベラム
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「アンテベラム」映画情報
タイトル | アンテベラム |
公開年 | 2021.11.5 |
上映時間 | 106分 |
ジャンル | スリラー |
監督 | ジェラルド・ブッシュ |
映画「アンテベラム」キャスト
登場人物 | キャスト |
---|---|
ヴェロニカ/エデン | ジャネール・モネイ |
ブレイク・デントン | エリック・ラング |
エリザベス | ジェナ・マローン |
ジャスパー | ジャック・ヒューストン |
ジュリア | カーシー・クレモンず |
ドーン | カボレイ・シディべ |
ニック | マリク・リチャードソン |
イーライ/タラサイ教授 | トンガイ・キリサ |
ダニエル | ロバート・アラマヨ |
サラ | リリー・カウルズ |
ケネディ | ロンドン・ボイス |
映画「アンテベラム」あらすじ
博士号を持つ社会学者で人気作家でもあるヴェロニカは、優しい夫、愛くるしい幼い娘との幸せな家庭を築き上げていた。ある日、ニューオーリンズでの講演会に招かれた彼女は、力強いスピーチで拍手喝采を浴びる。しかし、友人たちとのディナーを楽しんだ直後、ヴェロニカの輝きに満ちた日常は突然崩壊し、究極の矛盾をはらんだ悪夢へと反転するのだった…。一方、アメリカ南部のプランテーションで囚われの身となり、過酷な労働を強いられているエデン。ある悲劇をきっかけに、奴隷仲間とともに脱走計画を実行するが―
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映画「アンテベラム」ネタバレ感想・解説
アンテベルムは奴隷制度がもし現代に存在したら
アメリカの奴隷制度の歴史はなかなか根深く、今もなお黒人差別が問題に上がる。
毎年黒人差別を扱った映画はユダヤ人排斥と同じくらい公開されるし、そのいくつかはアカデミー賞を受賞している。
今回のアンテベルムもそれと同じで今回の舞台は南北戦争前と現代が交差する。
物語の中では「戦前」である1800年代から2020年の現代への場面転換をする。その登場人物は同一人物なのだが名前が違う。
エデンという奴隷の黒人は、現代ではヴェロニカとして存在する。
この時点ではタイムパラドックス的によくわからぬまま進行していく。
しかし、いくつかの不可解な点において、時間軸のズレていない両世界は全く同じ現代の話だということが判明する。
- プランテーションにいたエリザベスが、同じ名前で電話をかけてくる
- エリザベスの娘がヴェロニカのホテルにいる
- ボーイが「ようこそ」のメッセージとともに花を渡す
つまり、数週間前にヴェロニカはエリザベスによって誘拐されていて、南部のプランテーションにやってきたのだ。
そして名前をエデンと変えられて奴隷として生活させられていたのだ。
他の黒人もおそらく同じで、だからこそ妊娠した黒人女性は、流産とともに希望を絶たれて自殺した。
現代に置き換えるとどれだけおぞましいことが起きていたのかわかるだろう。
アンテベルムは、「奴隷制度の恐怖を現代人にもわからせること」が目的だ。
今までいろんな映画の中で奴隷制度や、黒人差別についてさまざまな映画がその歴史を表現してきた。
当事者たる黒人にとっては、不快に感じることもあるだろう。
でも、遠い島国で黒人の歴史もあまり知らない日本人にとってはイメージしにくいところもあるはず。
ましてや奴隷制度のあった1800年代なんて言えば日本で明治維新前後。教科書で習う「歴史」の1つでしかない。
るろうに剣心の生きていた時代だ。
当然ながら「歴史」を学ぶ上で感情は入りにくくなり、良くも悪くも客観視されてしまう。
ひどい話しだと頭では理解してもどこか歴史の1つという感覚じゃないだろうか。
「アンテベルム」では、どこかの国の人類史の他人事というイメージを一気に身近に置き換える。
これは戦前の話ではなく、現代で起きている出来事だからだ。
冒頭はてっきり19世紀のアメリカの話かと思っていた。
黒人がどこかから連れてこられ、プランテーションで綿花を摘む仕事を続けている。
白人にこき使われ、命を気分で搾取され、当然のようにレイプされる。
南軍側の旗がたなびくこの場所に黒人に人権はない。
家族も名前も奪われて一生をおえる。
2021年では最悪な犯罪の1つである。
アンテベラムのラスト
逃げ出す準備を周到に重ねて、ついに脱出に成功する。
最終的に家族の元に戻れたのかは分からないけれど、おそらくギリギリハッピーエンディングを迎えることになる。
しかし、多くのレイシストたる白人たちを殺し、自身もまた常に身の危険と隣り合わせになりながらレイプされ、今後普段の生活に戻れるかどうかは難しいところだ。
そしてこの地は更地にされるのだった。
南軍の国旗が掲げられたこの地では、国の復活を信じていて、現代のどこかの地に国を建設していた。
スマホのような機器は使うものの、かなり山奥のようで電波もままならない。
家も仕事も服装も当時の状況を再現していて、パッと見どこなのか不明だ。
連合国軍兵士が「私たちはどこにもいないが、どこにでもいる」と言っていたように、この組織は1つとは限らない。
まるでナチスの復活を願うシンパのように、彼らは奴隷制度の復活を望んでいる。
ここが現代だと知った時、当時アフリカなどの大陸からどのような形で黒人が捉えられ、家族を散り散りにされ、虐げられてきたのか。
現代に置き換えるだけで、悲惨な歴史から一気に身近な恐怖に変わるのではないか。
工業化に成功し、奴隷そのものの価値が落ちていた北軍と、プランテーションなどの農業が中心で、安い労働力なしには経済が成り立たなかった南軍。
1861-1865年まで続いた戦いは双方に大きな犠牲者を出しながらも北軍の勝利に終わった。
しかし国を分断したこの問題は、禍根を残すのもまた事実。
アメリカの人種に関する根深い問題の一端を知れるという意味で大いに意味のある映画だった。
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